前回は、物権変動とは、どのようなものか、ということについて学んだわよね。 今回は、この物権変動における公示の原則と、公信の原則という考え方について学ぶことにするわ。 |
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アレ? 公示の原則・・・だっけ? ソレは、物権法の一番最初の勉強会で、やったよね? |
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嬉しい指摘してくれるじゃない。 そうね、確かに軽く触れたけれど、あの時も、ちゃんと言っていると思うわ。後の勉強会で、しっかり勉強するってね。 ソレが、今回ってことになるわ。 物権変動について学んだ今だからこそ、よく理解できると思うの。 おさらいすると、取引安全の見地から、登記という公示のない限り、物権の排他性の主張を認めないという考え方を、公示の原則と呼ぶってことだったわよね。 どうして、このような原則がとられるのか、ということを今日は幾つかの具体例を検討する中で、理解することにしましょう。 |
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よーし、ガンバルぞぉっ! | ||
それじゃ、おさらいがてら、今から言う事案を考えてみてくれる? サルは、A土地を持っていたの。 でも、お金が必要になって、このA土地をナカちゃんに売ることにしたのね。 サルとナカちゃんとの間で、契約が交わされて、契約時にA土地の代金の3分の1を支払い、その1ヵ月後に、A土地を引き渡し、その際にサルからナカちゃんにA土地の移転登記、ナカちゃんからサルに、残代金の支払いをするってことにしたわけ。 ところが、この移転登記が済んでいない、A土地の売買契約から1ヶ月の間に、A土地を欲しいと思った、つかさちゃんが登記簿を調べて、登記名義人であるサルのところにやって来て、A土地を売ってくれないか、って持ち掛けてきたのね。 この申し出に対して、サルはA土地は既にナカちゃんに売却しているにもかかわらず、そのことは言わずに、つかさちゃんにA土地を売るって言って、契約をしてしまったの。 さあ、この場合どうなるかを、下の図を見て考えてくれる? |
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・・・配役への悪意は感じるところだけど、確かに、おさらいだね。 うんうん、コレはやったよね。 民法第176条 『(物権の設定及び移転) 第176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。』 は意思主義を定めているから、物権変動は、意思表示だけで生じるんだったよね。 だから、登記はもちろん、引渡しもせんでも、売買契約の時点で、当事者の意思表示がなされた以上、土地の所有権は、ナカたんに移転しているだよね。 でも、意思主義の下、所有権移転があったとしても、所有権自体は目に見えるものじゃないから、取引安全の見地から所有権が誰にあるかということを、誰が見てもわかるようにする必要があるって話だったよね。 だから、ナカたんは自分に所有権が移転しているというのなら、それが外部から、つまり、あたしとナカたんっていう所有権移転の当事者以外からも、目に見える状態にしておかないとダメだってことになるんじゃね? |
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177条の対抗要件の勉強がまだだから、今の理解だと、そうなるわね。 うんうん、しっかり理解してくれているわね。 サル、物権法は得意かもよ? サルの結んだ売買契約自体は、両方とも有効に成立するのね。 まず、コレが原則。 だから、ナカちゃんも、つかさちゃんも、契約から生じているA土地を引き渡せっていう債権を、サルに対して有することになるわ。 コレは、債権は排他性を有するものではないことから、認められることよね。 でも問題はA土地の所有権を、どちらが取得するか、ってことよね。 物権である所有権の帰属は、物権の有する排他性から、両者に属することはできないわ。 となると、いずれかに決めなければならないわよね。 それを定めるのが民法177条なの。 民法177条は、登記をしなければ第三者に対抗できない、ってしているわ。 登記については、また後の勉強会で、しっかり学ぶ予定だけど、所有権の移転という物権変動については、そのことが登記簿上にあらわされない限り、第三者に対しては、買主はA土地の所有権を取得したということを主張できないということになるわ。 |
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主張できない・・・っていうのは、どういうことなんだお? 今の、光ちゃんの事案だと、ナカたんは、クロちゃんより先に、あたしと売買契約を結んでいるよね。 しかも、既にお金も、3分の1だけど支払い済みだよね。 そういうことは考慮してもらえないの? |
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177条の勉強は、登記と共に、しっかりやるつもりだから、今は、ちょっとザックリした説明になっちゃうけれど、結論から言うと、ナカちゃんとつかさちゃんの2人の買主のうち、先に所有権の移転について登記をとった方のみが、所有権を有する者として認められるということになるわ。 今、サルが挙げてくれた事実は、その限りでは考慮されない事実といえるわね。 このように、物権変動があったときは、例えば、この事案の場合なら、登記という形で公示されなければ、物権変動による権利の取得を、売買の当事者以外の者には主張できない、という考え方が公示の原則なの。 |
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マヂでか・・・。 チビっ子も可哀想だお。 |
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チイは、もう18歳だからチビっ子じゃないよ! ソレに、なんでいきなりチイの話になるの? チイ、別に可哀想じゃないもん! |
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ん? なんでチイが騒いどるんだお? ・・・あぁ。違う、違う。 今、あたしが言ったチビっ子は、ソコの緑髪のチビっ子のことだお。 |
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ナカちゃんは、チイよりおねーさんなんだからチビっ子じゃないよ! | ||
バカだなぁ、チイは。 チイも、ナカたんも、ドッチもあたしよりも年下なわけでしょ? だから、あたしからしたら、2人共チビっ子ってことになるんだよ。 |
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絶対、背が低いからチビっ子呼ばわりしているくせに、そんな、もっともらしい言い訳は許されないです! | ||
ナカちゃん、今度2人で、サルがすっごい嫌がるようなあだ名を考えましょうよ! まぁ、それは置いといて。 今のおさらいを経て、もう少し話を進めるわね。 次は、こんな事案を考えてみてくれる? 今度の事案では、ナカちゃんがA土地の所有者ってことにしてね。 ナカちゃんは、A土地を所有していて、A土地はナカちゃんの名義で登記されていたの。 ところが、ある日、ナカちゃんの知らないうちに、サルが勝手に偽造書類を登記所に出して、A土地のナカちゃんの所有名義をサルに書き換えて、さらに、この偽造のサルの登記名義を利用して、A土地を、つかさちゃんに売却して、A土地の登記を、つかさちゃん名義に移してしまったの。 つかさちゃんは、サル名義のA土地の登記が、偽造登記であることについては知らず、A土地は、サルの所有だと思い込んでいたのよね。 さぁ、この場合、ナカちゃんはA土地を、つかさちゃんから取り返すことができるかを下の図を見て考えてくれる? |
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ハイハイ・・・また、こういう役回りなわけね。 ネガキャン半端ないなぁ、ホント・・・。 |
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他に適当な人がいないんだから、仕方ないじゃない。 登記上所有者とされている人と、実質的な所有者とが異なるというのは有り得ることなのよね。 登記名義という形式と、実質的な所有権の帰属とは分離されることがあるってことなの。 ソレが、この事案のような場合よね。 問題となるのは、登記上所有者として表示されている者が、常に所有者として扱われるか、どうか、ってことよね。 |
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チビっ子呼ばわりした上に、偽造登記までっ!! 藤先輩は、私をイジめてばかりいるですっ!! |
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ナカちゃん、心配しないでっ! ナカちゃんは、A土地の所有者なんだから、不実の登記名義人であるオネーちゃんに対して、その不実の登記名義を抹消して、真実の登記名義にするように請求することができるよ! これは、所有権に基づく権利、つまり物権的請求権だよね! |
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竹中さんから、藤さんに対しては、その請求は認められますけれど、私に対してはどうでしょうか。 竹中さんは、物権的請求権を行使して、私に対して、登記名義を、真実の所有者である自分に戻すように言うことは果たしてできると言えるでしょうか? |
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原則論から考えてみましょうか。 まず、A土地の所有権が誰にあるのか、ってことを考えて欲しいんだけど、サルの偽造登記によっては所有権は移転しない以上、A土地の所有権は、依然ナカちゃんにあるのよね。 そして、確かに、つかさちゃんはサルからA土地を買っているんだけど、無権利者から権利取得を目的とした取引を行ったとしても、権利を取得することができないのが原則である以上、サルに所有権がない以上、サルにないA土地の所有権を、サルから、つかさちゃんが取得できるはずがない、と考えるべきよね。 但し、論理的にはそうであっても、取引安全保護の見地から、この無権利者からの権利取得を可能とする考え方があるのよね。 この考え方については、既に学習済みなんだけど・・・。 |
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つかさおねーちゃんは、オネーちゃんの登記を信じて、真実の所有者だと思ったんでしょ? でも、日本の民法は、不動産については公信の原則はとっていないよね。 それなら、原則どおり無権利者であるオネーちゃんから、A土地は取得できない、って考えるべきじゃないかな? |
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公示を信じて取引した者を保護する・・・。 もう少し厳密に言うと、ある権利が、ある権利主体の元に存在しないにもかかわらず、その権利が存在するかのような公示がなされている場合に、その公示に対応する権利が、その主体の元に存在していることを信頼して取引に入った者は、その権利を取得することを認め、真実の所有者は、その権利を失う、という制度を公信の原則といいますよね。 確かに、指摘されたように日本の民法は、不動産については公信の原則を採用していません。 公信の原則が採用されているのは、動産についてですからね。 ただ、このような事案においては、94条2項類推適用(民法総論32回勉強会参照)によって、広く不動産取引の安全が図られてはいますよね。 事案の私が、果たして94条2項類推適用によって保護されるかは、もう少し事実を検討しないといけないところですが、少なくとも私は善意であることから、竹中さんの帰責性次第(偽造登記の事実を知った後も、黙認・放置していた等の事実の存在)では保護されうるという結論もありえると思いますね。 |
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あらら・・・。 チビっ子、(´・ω・) カワイソス。 |
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完全にバカにしているです! なんですか、そのAAは! |
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考えてもらいたいっていう位置づけでの事案だったから、細かい事実についてまでは、ちょっと考えていなかったわね。ゴメンね。 じゃあ、せっかく公信の原則の話が出たから、最後に、公信の原則を考える事案を出してみるわね。 ちょっと、この事案の検討は、今の段階では勉強会の予習になってしまうんだけれど、答案勉強会で、この論点の予習はしたはずだから、公信の原則を考える上での素材という位置づけで聴いてくれるかしら。 私にはお母様から形見としてもらった宝石があることは話したわよね。 その宝石を、サルがパーティーに行くので貸して欲しいって言うから、一晩貸してあげた、という話を考えてみて? ところが、サルときたら、その宝石をパーティーの後、つかさちゃんに売り飛ばしてしまったの。 つかさちゃんは、サルが着けていた宝石を、サルの物だと思い込んでいた、ということにしてね。 さぁ、この場合、私は、つかさちゃんに私のお母様の形見の宝石を返してくれって言うことができると思う? 図にすると、下のようになるわ。 |
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最後の事案まで、あたしは悪さばっかかいっ! いいお、いいお。 そうやって、無辜(ムコ)のあたしを悪人に仕立てていればいいんだお! |
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オネーちゃんが、文句言ってて、答えを言わないのなら、チイが言っちゃうよ! 宝石は動産だよね。 そして、動産については、民法は公信の原則を採用しているんだよね! 民法上の条文をいうと、192条がそれだよね! 民法第192条 『(即時取得) 第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。』 事案の、つかさおねーちゃんは、オネーちゃんが宝石を占有しているという事実から、宝石がオネーちゃんの所有物だと信じていたんだよね。 もし、つかさおねーちゃんが、注意を払っても、その宝石がオネーちゃんの所有物ではないということを知り得なかったというのであれば、信じ込んだことには過失がなかったということになるよ! それなら192条の即時取得(善意取得)が成立するから、つかさおねーちゃんは、宝石の所有権を取得することになるよね! そうすると、宝石がつかさおねーちゃんの物であって、同時に、光おねーちゃんの物でもあるということはできないから(物権の排他性)、光おねーちゃんは宝石の所有権を失うことになるよ! つまり、事案の場合、つかさおねーちゃんに過失がなければ、光おねーちゃんは、宝石を返すよう言うことはできないってことだよね! |
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そうなるかな。 肝心の即時取得についての勉強をしていないから、今の段階では、予習ってことになっちゃうわけなんだけど、即時取得については、動産の物権変動のところで、しっかりやるつもりだから、今日は、軽く聴いていてくれればいいからね。 即時取得を規定した民法192条は、動産取引にあたり、相手方の占有をみて、この相手方が権利者だと信頼して、その動産を取引によって取得した者については、その信頼に過失がなければ、事案のように、例え、相手方が無権利者であったとしても、その動産についての権利(所有権)を取得することを認めているのね。 つまり、不動産と異なり、動産については、公信の原則が採用されているわけよね。 どうして、不動産取引では採用されていない公信の原則が、動産取引においては認められているのか、という理由だけど、動産取引は、私達の生活の中でも、頻繁かつ迅速に行われているものよね。 このような取引にあたって、取引の相手方が、その動産の真実の権利者かどうかを厳密に確認することを求めてしまうと、現実問題として動産の取引が立ち行かなくなるという弊害が生じることとなるわ。 だから、取引の相手方の「占有」という事実状態(動産の物権変動の対抗要件は、引渡しなので。後に改めて勉強します)を判断材料として、その占有から相手方が権利者であると信頼した者は保護することとしているわけ。 |
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藤先輩みたいな人が、宝石を持っていたら、ソレは盗んだ物に違いないです! それなのに、安易に、その宝石を藤先輩の物だなんて思うなんて、黒田先輩には過失があったというべきです! |
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えらい言われようじゃまいか。 流石に、あたしも涙目だお・・・。 |
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ああぁっぁぁぁっ!! 藤さん、おいたわしいっ!! |
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ソレもコレも全て、光ちゃんが、あたしを事案を利用して、悪者に仕立てあげたせいだお! よって、あたしの精神的苦痛の慰謝料として、ネージュ・ブロンシュでのゴチを請求するお! |
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ナカちゃんが、サルを、そういう目で見ているのは普段の言動と相俟ってのことでしょ? 私の事案の配役だけを原因だって言われるのは心外だわ。 |
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な、な、なんとっ!! 謝らないどころか、責任逃れまでっ!! むぅぁ〜ったく謝罪の誠意というものが感じられないお! コレは、最早、ネージュ・ブロンシュのゴチだけではなく、焼肉ゴチまで請求せんとならん危険領域だお!! |
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え? え? 焼肉? お肉が食べれるの? |
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あら・・・チイちゃんも焼肉大好きなんだ。 ソレじゃ、焼肉を食べに行くっていうのもいいかもね。 でも、今日の服はお気に入りだから、また改めてってことにさせて欲しいけど。 そんなことより、公示の原則と公信の原則について、しっかり復習しておいてね。 |
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チイ、聞いたかお!? オネーちゃんは、焼肉ゴチの権利を勝ち取ったぞ!! |
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や、や、焼肉なんて、ぶち久し振りだよ!! チイ、焼肉屋さんのメニューを一度でいいから全制覇してみたいって、ずっと思っていたんだよね!! |
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あ・・・。 チイちゃんが、腹ペコモンスターだってことを失念しちゃっていたわ。 |
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・・・・。 (藤先輩だけでも焼肉では、尋常じゃない食事をされることは御存知なのに、安易に、藤先輩よりも食べるチイちゃんまで焼肉御招待なんて、明智先輩には申し訳ないですけど、過失があったというべきです・・・ ) |