前回学んだ意思表示には、内心の効果意思と、外部に現れる表示行為とに不一致がある場合のあることを勉強したわよね。 今回からは、前回のガイドラインに沿って、それぞれの不一致の類型ごとに条文と一緒に、その内容、要件、効果を抑えていくことにするわ。 これから学ぶ内容については、これから先、ずっとお世話になる機会が多いから、しっかり抑えることが大事よ? それじゃ、まずは開幕投手を務める「心裡留保」ね。 あ、因みに、コレは「シンリリュウホ」って読むからね。 「裡」の字が、ちょっと難しいから間違えないで、「心理」じゃないからね。 六法で、民法93条を見てくれる? |
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民法第93条。 『(心裡留保) 第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。』 |
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う・・・なんかワカルようなワカラナイ条文だね。 | ||
心裡留保っていうのは、表意者が、内心の効果意思と表示行為との不一致を知りながら、故意になす意思表示をいうの。 ザックリ言ってしまうと、デタラメを言ってるってことね。 |
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藤先輩が、いつも、その気もないのに、勉強頑張る、頑張るって、明智先輩に言う行為が、心裡留保ってことですか? | ||
ちょっ! コラ、チビッ子っ!! おまっ、なんて例えをするんだお! |
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そうね・・・。 意思表示は、私法上一定の法律効果を意図してなされる表現的行為だから、サルの「勉強する」って表示行為には、なんらの法律効果もない以上、ちょっと例としては不適切になっちゃうんだけど。 仮に、その「勉強する」って表示行為に、何かしらの法律効果があるとするならば、表意者であるサル本人が、その意思がないのに、その事実を知りながら、「勉強頑張る」っていう表示行為をしている以上、その行為は、心裡留保になるわね。 |
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ナニも、そんな藤さんを責めるような無理矢理な例えをされなくってもいいんじゃないでしょうか? 心裡留保の例えですよね? 例えば、光ちゃんが、本当は売る気もないのに、パソコンを欲しがっている私に、100万円相当のパソコンを、「10万円で売ってあげるわ」って言ったとして、それを真に受けた私が、「10万円なら買います」って返したのであれば、コレは、民法93条の心裡留保にあたりますから、光ちゃんが、その気がなかったとしても、売買契約は有効に成立するってことになるわけです。 民法93条にいう『効力は妨げられない』というのは、心裡留保を理由に、成立した契約を無効には出来ないということなんです。 |
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いつも口からデタラメばかり言っている藤先輩には、大騒ぎな条文です。 | ||
・・・。 (このチビッ子、やたら今日は、あたしに噛み付いてくるなぁ。コレは、大人の女の恐ろしさってヤツを、ガキんちょに教えてやらないといけないかな?) |
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それじゃ、心裡留保の要件と、その効果について抑えるわね。 まず、要件。 この要件は、全て民法93条の条文から導けるものだから、難しいものではないわ。 @意思表示が存在すること A内心の効果意思(真意)と表示が一致しないこと B表意者自ら不一致のあることを知っていること このBの要件は、心裡留保(民法93条)と錯誤(民法95条)とを分かつものだから、要件には、しっかり挙げないと駄目だからね。 そして、次は効果ね。 効果は、原則として、心裡留保は有効になるわ(民法93条本文)。 但し、原則には付き物の例外が、ここでもあるわ。 例外として、相手方が、表意者の真意を知っていたか(=悪意)、または知ることができた場合(=有過失)には、その意思表示は無効になるわけ(民法93条但書き)。 つまり、保護されるのは、善意かつ無過失の相手方に限られるってことね。 |
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先程の、私の例えでは、私は、光ちゃんがパソコンを10万円で売る、という話を『真に受けて』いますよね。 つまり、相手方である光ちゃんの真意を知らないわけです(=善意)。 そして、明智財閥の御令嬢でもある光ちゃんなら、高額のパソコンであっても、市場価格とはかけ離れた値段での売却だって、おかしくないわよね、っていう思いから取引に応じているわけです(=無過失)。 したがって、光ちゃんは、心裡留保を理由に、このパソコンの売買契約を無効とすることは出来ない、ということになるわけですね。 |
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ってか、ぶっちゃけ金満女は、パソコンくらい、あたし達に無償配布して回れって思うんだけどなぁ。 あと、PSvitaと、PS4もくれお! |
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私のお金は、私の稼いだお金じゃなくって、お父様やお兄様の日々のお仕事から得たお金を頂いているモノなのよ! ソレを、なんで、あんたの欲望を満たすために使わないといけないのよ! |
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畜生に服買う金あんなら、あたしに服買ったらどうだって言ってんだお! | ||
まさかとは思うけれど、一応確認させてもらうわね? その「畜生」って言うのは、ウチの左馬之助のことじゃないでしょうね? |
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・・・ガクガクブルブル (やべぇお。言い過ぎたお。) |
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え・・・っと・・・・。 まぁ、一般に仏教用語では、神や人間以外に生まれた生物のことは、みな「畜生」って呼びますからね。 けっして他意があったわけではなくって、猫は、仏教用語としては「畜生」という呼称を受けるということで、言われたものだと私は思っていますよ? |
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うんうんうん!! マヂ、その通り!! 流石クロちゃん、あたしの真意が、よく分かっている! (ナイス、ナイス! ナイスメガネ! あとから、なんか御褒美やんよ!) |
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・・・う・・・大の猫好きのつかさちゃんが、そう言うなら、そういうことにしてもいいわ・・・。 あんまり納得できないけれど・・・。 それじゃ、少し踏み込んだところで、立証責任の所在についても話しておくわね。 立証責任って言うのは、例えば、さっきのつかさちゃんと、私との間のパソコン売買契約が、当事者間で揉め事になってしまって、裁判となったような場合において、いずれの当事者が、証明責任を負うのか、って問題ね。 この場合、立証責任は、表意者、このパソコン売買契約の場合なら、私にあるってことになるわ。 何故なら、心裡留保は、原則として有効なのだから、この原則を例外とするためには、無効という例外を求める私の方が、つかさちゃんは、悪意もしくは有過失であったことを証明しないといけないってことになるわけ。 因みに、あまり大きな論点ではないけれど、相手方においても無効の主張ができるか? という論点もあるわね。 |
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相手方・・・ということは、黒田先輩の方から、売買契約を無効だって主張されるということですか? | ||
せっかく安くパソコン買っておいて、無効だって言う人なんて、いるの? | ||
つかさちゃんの問題の事案が、パソコンを低廉な価格での購入だから、そういう気持ちになるのはワカルけれど、違う場合もあるでしょ? 例えば、私が、お母様の形見の品だから、本当は売るつもりなんて無かったのに、時価数万円相当の宝石を、「100万円なら売ってもいい」って言って、ソレをサルが、私がお母様の形見の品だから、本気ではないだろう、後から返して欲しいって言うだろうってことを見越して、「100万円なら買う」って言うような場合だってあるじゃないの。 この場合のサルは、悪意なわけなんだから、私が、サルの悪意を立証すれば、売買契約の無効を主張できるわけよね? でも、その私が、しないでいる場合に、サルからの無効主張を認めてもよいのか? っていう問題よ。 |
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あまり考えたことのない論点ですね・・・。 心裡留保制度は、相手方保護のための制度なのですから、その相手方が無効を主張するというのであれば認めてもいいように思えます。 |
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相手方からの無効主張については、できるという説、と、できないという説の両方があるわね。 できるという説としては、つかさちゃんが今、言ってくれたように考えることで、できるという結論になるわけなの。 因みに、できないという説は、無効主張の利益は、表意者側にあり、相手方を保護する必要もないから、相手方からの無効主張は否定すべきであると考え、出来ないという結論をとるわね。 判例があるわけではないし、争いのあるところだから、自分の考えにしっくりくる方でいいと思うわ。 |
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こくこく(相槌) |
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それじゃ、少し難しい論点にいくわよ? ちょっと、動産(パソコン)だと、説明が面倒になっちゃうから、パソコン事案は離れて、不動産(土地・建物)を例にして質問をするわね? 私が、1000万円相当の土地を、「100万円で売ってあげる」って、サルに話を持ちかけたの。 勿論、私には、そんな気は、さらさら無かったってことにしてね? サルは、「100万円なら買うよ」って言って、この土地を買うんだけど、実はサルは、私に、その気がないことを知っていたのよね(=悪意)。 ところが、サルは、この私から買った土地を、ナカちゃんに売却しちゃったわけ。 ナカちゃんは、私の真意については知らない(=善意の第三者)というような場合を考えてみてくれる? このような場合、私はサルが悪意である以上、本件取引の無効を主張できるんだけど(民法93条但書き)、この無効を、善意の第三者であるナカちゃんに対しても主張できると思う? |
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私は、藤先輩から、何にも知らされずに、その土地を買ったわけですよね? この質問では、明智先輩がデタラメなことを言われて土地を売りに出されて、藤先輩が、それをデタラメだと知りつつ買ったわけで・・・私は、そのお2人の真意については知らなかったわけですよね。 それなら、私は保護されるべきだと思います。 |
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そうね。 このような場合において、善意の第三者であるナカちゃんの犠牲の下に、デタラメな売買をした私やサルを保護すべきと考えることは妥当とは言えないわよね。 このような場合の法的処理については、今は、答えを控えることにするわ。次の論点の勉強の際に、一緒に回答を伝えた方が、よりワカリヤスイって思うからね。 ただ、今のナカちゃんの検討は覚えておいてね? |
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なんだお・・・ 答えを出し惜しみするなら、質問も後回しにしとけば、ええんだお。 |
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良かれと思ってしているんだから、そういう文句は言って欲しくないわね。 関連して、民法93条の適用範囲について説明するわね。 民法93条が、身分行為にも適用されるのか? って論点もあるわ。 この問題に対しては、身分行為には民法93条の適用はないとされるの。 身分行為・・・まぁ、代表的な例を挙げるなら、「結婚」よね。 「結婚」のような行為には、当事者の真意が必要とされるわ。 だから、表示行為よりも、内心の効果意思の方を大事にして、93条の適用はないものと考えるわけ。 |
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結婚には、両性の合意が大原則ですものね。 | ||
そうよね。 やっぱり、素敵な彼と、愛し、愛されて・・・って結婚じゃないとね。 |
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彼氏もおらんくせに、よく結婚の話題で盛り上がれるなぁ。 お金のない、あたしが、三ツ星レストランの食事の話題で盛り上がるくらい空しいよ・・・。 |
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女を捨ててるような、あんたにはワカラナイかもね! | ||
ちょっ、ちょっ! いつ、あたしが女を捨てたって言うの? 捨ててません! って言うか、捨てる気すら無いからっ!! |
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この前、あんた、講義で先生に「木下君」って呼ばれていたじゃないのよ。 男と間違われているからよ? |
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言わせてもらうけど、あの先生は、生徒はみんな「君」付けで呼んでいるからね・・・。 別に、あたしだけってわけじゃないからね・・・。 |
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私は「明智さん」って呼ばれましたけど? | ||
じゃあ、あの爺さんがボケてんじゃないの? | ||
まぁ! お世話になっている先生に、その発言っ! 今の暴言は、試験終わりの打ち上げ懇親会で、先生に、しっかりお伝えしますね! |
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光ちゃん・・・ そんな言葉尻とらえて言質捕まえるようなことされなくっても・・・。 今のは、売り言葉に買い言葉ってことで、藤さんに、そんなつもりはなかったですよ? |
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もぉっ! つかさちゃんは、なんかあると、すぐサルの味方するんだから! でも確かに、今のは、私もちょっとやり過ぎたなぁ、って思うけど。 まぁ、それじゃ、勉強会に話を戻すわね。 民法93条の適用範囲の問題として、代理権・代理権濫用の事案においても、民法93条が適用されることがあるの。 ちょっと、下の図を見てみて? |
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質問の形で聴くことにするわね。 サルが、会社Aの代表者又は代理人として、その権限を濫用して、会社Aは、そのつもりなんてなかったのに、勝手にA所有の不動産を、相手方であるナカちゃんに売却しちゃった・・・というような場合を考えてみてくれるかな? この場合、ナカちゃんが、悪意または有過失だった場合に、民法93条但書きは適用されると思う? |
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民法第93条。 『(心裡留保) 第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。』 藤先輩は、会社Aの不動産を売却していますよね。 会社Aは、本当は、不動産を売るつもりはなかったわけですが、藤先輩が権限を濫用・・・つまり、勝手に売ってしまったということですよね。 私は、藤先輩が、権限を濫用して、勝手に不動産を売ろうとしているという事実を知っていた悪意者と言えますが、表意者は会社Aではなくって、藤先輩ですよね? この条文を読む限り、会社Aは表意者とは言えないので、民法93条但書きは適用できないのではないかと思います。 |
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うんうん、いい検討だと思うわ。 ただ・・・民法と刑法の大きな違いを忘れてやいないかしら? 刑法では、類推解釈は否定されたわ。 でも、民法では、類推解釈が可能だったわよね? 「類推解釈」というのは・・・まぁ、詳しい説明は、刑法での、類推解釈の否定のリンク先で確認して欲しいんだけど、簡単に説明しちゃうと、条文をそのまま適用することはできないのだけれど、その立法趣旨から解釈して、よく似ている場面と言えるので、その条文を類推して適用することを認める解釈を言うのよね。 この解釈を、類推解釈。この解釈に則り、当該条文の適用を認めることを類推適用って言うんだったよね。 つまり、ここでは、この類推解釈及び類推適用はできないかしら? っていう視点も必要になるわけ。 判例は、A会社(法人)の代表者又は代理人が、代表権・代理権を濫用し、取引を行ったような事案において、相手方が、その代表者又は代理人の濫用を知り、または知ることができた場合(=悪意又は有過失)には、民法93条但書を類推適用し、代理行為・代表行為を無効とするとしているわ。 (最判昭和38年9月5日)(最判昭和44年4月3日)等 この判断枠組みは、しっかり抑えておいて欲しいわね。 代理権については、この総則の法律行為の後ろの方で、勉強することになるから、そのときに改めて勉強することにしましょ。 |
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条文の類推適用については、失念していました。 でも、実際、判例を知らないと類推適用できるかどうかなんて視点は出てきませんよね? |
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まぁ、それはそうよね。 判例の理解があればこそ、その判例の射程から、この事案においても、判例の判断枠組みを用いることができるから類推適用が認められるんだっていう検討になっちゃいますからね。 |
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そうね・・・。 そういう意味では、私の言い方は不適切だったかも知れないわね。 ちょっと、表現に問題があったかも、って謝らせてもらうわね。 うーん・・・ 最後に、学説にいう「自然債務」って概念について説明しようかと思ったんだけど・・・この概念は、今はあまり問われることないから、いいかなぁ。 聞きたい? |
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・・・私は不勉強なので、その概念は知りませんでした。 光ちゃんさえ、よろしければ是非。 |
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こくこく(相槌) | ||
あのね!! あたしは別に、女を捨てているわけじゃないからね! ただ、経済的な理由から、お洒落とかの優先順位が低いっていうだけなんだからね!! |
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な、な、なによ? 一体、どっからそういう話が出てきたのよ? |
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藤さん・・・ さっきから議論に参加されないと思ったら、そんなことを気にされてみえたのですか? 藤さんは、そのままで十分魅力的ですから、心配御無用ですよ? |
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あんたでも、気にしてたんだ・・・ 知らなかったわ・・・正直、ちょっと意外・・・。 |
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そりゃ、するよぉ〜。 あたしだって女の子だもん。 |
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ゴメンね? 私、サルは、そんなことは気にしていないとばっかり思っていたから、つい・・・。 |
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あたしだって、お金に余裕があれば、光ちゃんみたいに綺麗になりたいなぁ、って気持ちはあるんだよ? | ||
うんうん。 そうだよね・・・ホント、ゴメンね? |
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でも・・・ お金がないから、光ちゃんみたいに整形も出来ないし、豊胸手術も、脂肪吸引も出来ないんだよね・・・ |
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はっ!? | ||
えっ!? | ||
ええっ!? | ||
あ・・・ゴメン・・・。 コレは、2人だけの内緒の話だったね・・・ |
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ちょっとっ!! ナニ、サラっとありもしないことを言ってんのよ!! 今すぐに訂正しなさいよ!! |
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ゴメン、ゴメン。 思わず口走っちゃって、ゴメン。 てへぺろ。 |
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ひ、ひ、光ちゃん・・・ 別に、私は整形も、自分が自信をもてるためって言うなら、いいと思いますよ? |
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違うからっ!! なんで、整形前提の肯定になってんのよ!! してないからっ!! ちょっと、サルっ!! あんた、いい加減にしなさいよ! |
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ウキっ!! (バカめっ!! あたしのことを男呼ばわりした罰だお!! しばらくは、この整形疑惑話でイジリ倒してくれるわぁ! 反省しろ、反省っ!!) |
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・・・。 (自然債務の話が完全に、どこかに行ってしまったです。 藤先輩こそ、いつも反省して欲しいです・・・。) ※需要がないと思うので割愛しました。 |