罪刑法定主義 | ||
刑法には、罪刑法定主義って言葉があるの。 これは、犯罪と刑罰は、法律により予め定めておかなければならないとする考え方なのね。 |
||
うんうん。 大丈夫、今日は予習してきたから、罪刑法定主義はわかるよ。 |
||
じゃあ、罪刑専断主義って言葉もあるんだけど、知ってる? 例えば、すっごい優秀な王様が居て、その王様が犯罪と刑罰を1人で決めちゃう、みたいな。 もし、そうなったら、どんなことが問題になると思う? |
||
うーん・・・ なんか、やな感じになる・・・ |
||
サルの気持ちの問題は聞いてないわよ! ちゃんと考えて答えてっ! |
||
えっーっと。 あたしだったら、どんなことしたら犯罪になるかワカラナイと、すっごい不安になっちゃうかなぁ・・・ あと、いくらすっごい王様だからって、勝手に1人で決められちゃうのはイヤだよー。 |
||
そう! 今、サルが言ったことが罪刑専断主義の問題なの。 犯罪や刑罰が定まっていないと、不安感から萎縮効果が生じることになる。 それは、自由主義に反することよね。 そして、1人の専横によって犯罪や刑罰が定まるということは、そこには国民の意思が反映されていないことになる。 それは、民主主義に反することになるのよ。 つまり、罪刑専断主義は、自由主義、民主主義に反するものと言える。 逆に、罪刑法定主義の根拠は、その自由主義と民主主義にあるの。 |
||
ウキっ! なんか今日のあたしイケてる? |
||
うん。なんか今日は調子よさげよ。 罪刑法定主義から導き出される考え方(派生原理)としては、次のものがあげられるの。 ・法律主義(慣習刑法の禁止、絶対的不定期刑の禁止) ・遡及処罰の禁止(事後法の禁止) ・類推解釈の否定 ・明確性の原則(過度に広範な処罰規定の禁止) ・内容適正の原則(罪刑均衡の要請) 幾つかの内容については、少し丁寧に説明するわね。 |
||
さぁ、来いっ! | ||
法律主義(慣習刑法の禁止、絶対的不定期刑の禁止)は、罰則は法律で定めなければならないという考え方よ。 但し、例外があるから注意してね。 例外の1つ目は、基本事項を法律で定め、細かい点は命令に委ねることは認められているの。 コレは、憲法でも勉強するんだけど、特定委任はOK、包括委任(白紙委任)はNGってことね。大枠は民意(国民)によって定められているから認められるって理解ね。 例外の2つ目は、条例には一定限度で罰則を設けていいってことね。 |
||
ん? 罰則は「法律で」定めなければならないって言ってるのに、条例に罰則なんて設けちゃっていいの? |
||
サルのくせに鋭い指摘するじゃない。 確かに、この例外については、条例を定める地方議会には、国会ほどの歯止めをかける機能がないから認めるべきではない、とする批判や、条例に罰則を設けることを認めることは包括委任になるのではないか、といった批判があるわ。 但し、判例は条例は地方議会の自治立法であるため、民主主義の基盤はあること、そして、罰則の範囲は定められていることの2点から認めているの。 |
||
ヤバいっ! やっぱ今日のあたしイケてる? |
||
うんうん。 それじゃ次は、遡及処罰の禁止(事後法の禁止)ね。 これは、憲法の39条を見て。 |
||
刑法じゃなくって、憲法の39条なんだ・・・。 『第39条【遡及処罰の禁止・一事不再理】 何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任は問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。』 成程ぉ。 行為後の法律で処罰することは禁止されてるね。 これは、罪刑法定主義が『予め』ってしてることとの関連だね。 |
||
サル、今日は冴えてるっ! もうドンドンいっちゃうわね。 次は、類推解釈の否定よ。 |
||
ウキキっ! バッチこぉーい! |
||
じゃあ、刑法で罪刑法定主義の派生原理である類推解釈の否定を説明する際に、定番の質問があるから、サルに出しちゃうね。 かつて電気窃盗の事案があった際に問題となったんだけどね。 さぁ。 果たして電気は窃盗罪の対象となる「財物」といえるか? 判例の立場を答えてね。 あ、この質問は、今じゃ刑法245条で『電気は財物とみなす。』ってされているんで、この条文が加わる前の議論って前提でお願いね。 |
||
光ちゃん・・・いやさ光ぅ。 「今じゃ245条がある」って言ったのは失言だったね。 その条文が新たに加わったということは、取りも直さず、その条文が必要だったということ。 つまり、罪刑法定主義に従えば、犯罪と刑罰は予め定められておかなければならないわけであって、その条文がなかった時には、電気は財物とはならない、即ち、電気は財物ではないから窃盗罪は成立しない! どだっ! |
||
なに教えてもらってるくせに呼び捨てしてくれちゃってんのよ! しかも、えらいドヤ顔してくれてるとこ悪いんだけど、答え間違えてるわよ! あんた、ちゃんと教科書読んできたの? この議論については説明ちゃんとあったでしょ? 当時の裁判所、大審院は『物とは物理的管理可能性を備えたものである』として、電気は財物であるとする拡張解釈によって処罰を肯定したのよ。 たしかに民法と違って、刑法においては類推解釈は否定されているわ。 民法の民事紛争解決には、類推解釈は必要とされている反面、刑法は、サルのいうように罪刑法定主義から、法律によって定められていなければ無罪とすることとなっているからね。 ただし、刑法においては類推解釈は否定されているけれど、拡張解釈は認められているの。 |
||
ちょ、ちょ、ちょ・・・ 光ちゃん、いや、光さまっ! 類推解釈と拡張解釈の違いについて説明してください! |
||
ったくぅ。 説明いるなら最初っから聞いてよね! 類推解釈っていうのは、直接あてはまらないことを認めつつ、事柄の共通性を理由に、処罰を肯定するという解釈方法。 拡張解釈っていうのは、言葉の可能な意味の範囲内で、言葉の日常用語的意味よりも広く解釈して処罰を肯定するという解釈方法よ。 |
||
なんか、よくワカリマセン。 | ||
例えば、「この橋を馬は渡るべからず」ってあったら、キリンは渡ってもいいか、という問いに対して、キリンは馬ではないけれども、馬同様、橋に負荷をかける重さを備えた物であるという共通性があるからダメよねって解釈をとるのが類推解釈。 同じ問いに対して、「馬」とあるんだから、馬を広く捉えてウマ科のロバやシマウマ等はダメだけど、キリンはキリン科で、馬とは属する科目が違うんだからいいよねって解釈をとるのが拡張解釈ってことよ。 |
||
・・・・。 (例えにキリン出したのは、ウマくないって思ったけど、黙ってよっと。馬なのにウマくない。ぷぷぷっ) |
||
・・・なんか今、失礼なこと考えてたでしょ? | ||
やだなぁ。光ちゃん。 いつも御世話になっている、あたしが光ちゃんのこと、こいつセンスねぇーなぁーなんて思ってるわけがないじゃないの。 |
||
・・・・そこまで言われるなんて私も想定外だったわよ! なに、シレっとブチ込んできてくれちゃってんのよ! 類推解釈と拡張解釈を説明してあげたんだから、確認の意味で質問したげるんで、とっとと答えなさいよ! まずは、事案を説明したげるわ。 昭和14年、三重県で、ある私鉄の機関手が、ガソリンカーの運転を誤って、脱線・転覆しちゃって乗客に多数の死傷者が出てしまったの。 この時、この機関手が、刑法129条の過失往来危険罪によって起訴されたのね。 はい、ここで刑法129条を見るんだけど。 『第129条第1項(過失往来危険) 過失により、汽車、電車若しくは艦船の往来の危険を生じさせ、又は汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、若しくは艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者は、三十万円以下の罰金に処する。』 ほら、ガソリンカーは過失往来危険罪の条文にはあげられていないのよね。 ここで、ようやく質問。 ガソリンカーは、刑法129条にいう「汽車」か? 判例の立場で答えてみなさいよ! |
||
いつもは条文は、あたしにひかせてくれるのに・・・ コイツ・・・余裕なくしてるよ・・・ 大体、ガソリンカーってなに? 投げっぱなしかい! |
||
はぁやぁく答えてくぅだぁさぁいぃ〜 | ||
あ、ガソリンカーって、こういうヤツか・・・。 もったいぶった名前で言わずに、チンチン電車って言ってくれれば、すぐにピンときたのに。 チンチンって言うのが、イヤだったんだ。 そういうとこ、光ちゃんって変に敏感なんだよなぁ。 |
||
・・・はい。時間切れ。 大審院は、『汽車のみを本罪の客体とし、汽車代用の『ガソリンカー』を除外する理由はない。両者は、単に動力の種類を異にする点において差異があるに過ぎず、共に鉄道線路士を運転士、多数の貨客を迅速安全かつ容易に運輸する陸上交通手段なる点において、全くその軌を一にする。』として、刑法129条の「汽車」には、「ガソリンカー」も含まれるとする拡張解釈によって、過失往来危険罪を適用したのよ。 ただ、この判決に対しては許されない解釈、すなわち類推解釈ではないか、とする批判もあるわ。類推解釈と拡張解釈の限界は微妙な問題だからね。 |
||
ちんちん電車・・・ あ、カタカナを平仮名にしちゃうとヤバいかも・・・ |
||
ちょっと真面目に聞いてるの!? そんな卑猥なことばっか言ってるなら、もう私帰るわよ!? |
||
ち、ち、違うよ(いや、全然違わないんだけど)。 せっかく光ちゃんが、判例を色々教えてくれるのは嬉しいんだけど、せっかく買った判例百選の出番がないのが寂しかったんだよ・・・(嘘八百) それで、寂しいなぁ・・・って、つい他事考えちゃってたんだよね・・・(嘘八百万円) |
||
え? 判例百選使いたい? サルぅ。やる気になってるじゃない。 見直しちゃった。 じゃあ、拡張解釈の事案の判例が百選にあるから、それ読んでみましょうか。 (最高裁平成8年2月8日 刑法百選T 1事件) |
||
なんで被告人役があたしだったんだろ・・・ いくら、あたしがお金に困っているからってカルガモを殺して食べたりはしないよ・・・ |
||
どっちかって言うと・・・ってことだったから、他意はないわよ。 最後に、明確性の原則について説明して終わりにするわね。 この原則の要件は、何が処罰されるのか、通常の判断能力を有する一般人が判断できること、が求められるのよ。 つまり、一般人が判断し得ないものであるならば、それは憲法31条に違反して無効ってことね。 |
||
ここも刑法じゃなくって、憲法の31条なんだ・・・。 『第31条【法定の手続の保障】 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。』 ふむふむ。 |
||
憲法31条違反かが争われた事件として、有名な判例は、徳島市公安条例事件、福岡県青少年保護育成条例事件なんかがあるわね。ドッチも重要判例よ。 憲法や行政法でも扱う判例だから、そういう意味でも要チェックよ。 刑法判例百選には、後者が掲載されているわ。 早速、読んでみましょ。 (最高裁昭和60年10月23日 刑法百選T 2事件) |
||
流石に、15歳に手ぇ出す男役は、あたしにはハードル高かったよ・・・ 男役やってくれそうな子と仲良くしておかないと判例再現できないよねー。 |
||
別に、そこまでして判例を再現する必要なんてないんだから、そんな15歳に手を出すような男役に相応しい彼氏なんて、私いらないんだけどなぁ。 | ||
・・・。 (誰も「彼氏」なんて言ってませんがな) |