通謀虚偽表示B 権利外観法理 94条2項類推適用

それじゃ「通謀虚偽表示」の最終回ね。
今日は、94条2項の類推適用について学ぶことにするわ。

それじゃ、勉強に先立って、おさらいしておくわね?
六法で、民法94条を確認して、その後で、94条2項趣旨(=制度趣旨)について言ってくれる?
民法第94条

『(虚偽表示) 第94条
1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


そして、94条2項趣旨(=制度趣旨)は、外観法理でした。
  ん?
外観法理ってなんだったけ?
外観法理については、軽くとは言え説明したんだから、その質問はどうなのよ?

外観法理は、権利外観法理、権利外観保護の法理、表権法理と、様々な呼ばれ方がなされるものだけど、その意味するところは同じね。

様々な場面で適用される考え方だから、ここで再度、外観法理については説明することにするわね。

外観法理とは、作出された虚偽の外観を信頼した善意の第三者を保護しよう、という考え方なの。

民法94条2項制度趣旨には、この外観法理が働いているのよ。
だから、通謀虚偽表示により作出された虚偽の外観を信じた善意の第三者には、表意者は、通謀虚偽表示の無効は主張できないということになるわけ。
  「騙される方が悪いんだよ」って、トンパさんなら言うけどね!
藤先輩は、クラピカに、トンパと一緒に蹴飛ばされてこればいいんです!
「騙す方が悪いに決まっている」って、クラピカは言っています。私も、そう思うです!
トンパ?
クラピカ?
外国の哲学者の方でしょうか?
いずれにせよ議論において暴力を振るうという姿勢を肯定されるというのは、いかがなものでしょうか? 
あ、すみません。
トンパもクラピカも、『HUNTER×HUNTER』っていう漫画の話です。
ナカたん。
勉強会なんだから、漫画の話題はどうかと思うよ?
TPOは、心掛けようね?
  ひどいです!
ひどいです!
先に言い出したのは、藤先輩です! 
見てたわよ、ナカちゃん・・・
ホント、サルは、ヒドいよねぇ。

ところで、ナカちゃん。
私が、心裡留保の勉強会の際にした質問を憶えている?
はい。憶えています。

明智先輩が、1000万円相当の土地を、「100万円で売ってあげる」って、藤先輩に話を持ちかけた、という事案でした。

ただ、明智先輩には、そんな気は、さらさら無いのに、この取引を持ちかけられたということで、心裡留保民法93条)にあたるって話でしたよね。

この明智先輩の申し出に対して、藤先輩は、「100万円なら買うよ」って言われて、この土地を買うのですが、実は藤先輩は、明智先輩に、その気がないことを知っていたということで、悪意だったのですよね。

ところが、その後、藤先輩は、この明智先輩から買った土地を、私に売却されるんです。
私は、明智先輩の真意については知らない善意の第三者という事案だったと記憶しています。

もちろん、このような場合、明智先輩は、藤先輩が悪意である以上、本件取引の無効を主張できることになります(民法93条但書き)が、この無効を、善意の第三者である私に対しても主張できるかが質問でした。
よく、そんなに憶えているね。
答えが気になっていたのですが、なかなか答えを教えて下さらないので、ひょっとして、今日までの勉強会の中で、答えがあったのかなぁ、って気にしていたもので。
ナカちゃんは、ホント真面目ね。
実は、このような場面でとられる考え方が、今日学ぶ94条2項類推適用なのよね。 

あの時、ナカちゃんは、この質問に対して

私は、藤先輩から、何にも知らされずに、その土地を買ったわけですよね?
この質問では、明智先輩がデタラメなことを言われて土地を売りに出されて、藤先輩が、それをデタラメだと知りつつ買ったわけで・・・私は、そのお2人の真意については知らなかったわけですよね。
それなら、私は保護されるべきだと思います。 』

って答えて、私は、それに対して

このような場合において、善意の第三者であるナカちゃんの犠牲の下に、デタラメな売買をした私やサルを保護すべきと考えることは妥当とは言えないわよね。

って返したわよね。
その点については、私も同意です。
嘘をついた明智先輩や、ソレを知っていて取引をした藤先輩のせいで、私が買った家(ないしは土地)の取引が、無効にされるというのでは、納得いかないです!
でも、別に、光ちゃんと、あたしは『通謀』したわけじゃないんだから、善意の第三者を保護する94条2項は使えないよ?

94条通謀虚偽表示要件

@意思表示が存在すること
A内心の効果意思(真意)と表示が一致しないこと
B表意者自ら不一致のあることを知っていること


っていう心裡留保要件に、

C相手方との通謀があること

ってあるんだから、『通謀がないって言うんじゃ、そもそも通謀虚偽表示とは言えないかんね!
マヂ、ザマァっ!!!
  なんで、そんな言い方するんですか!
  ウキっ!
騙される方が悪いんだよ!
  藤さん・・・
藤さん・・・
よくない流れになっていますよ?
  え?
ナニが?
そうね・・・
確かに、サルが言ってくれたように、民法94条2項通謀虚偽表示の場面で適用される条文である以上、『通謀をなすことが必要よね。


でも、通謀意思表示や、通謀の事実がなかったとしても、民法94条2項制度趣旨から、外観法理が妥当する場面と言えるのであれば、そのような第三者を保護すべきと考えるべきじゃないかしら?

実際、判例は、このような考えに基づき、民法94条2項類推適用という考え方をとっている(最判昭和45年9月22日 百選T 21事件等)し、学説もこの判例の考え方には賛同していると言えるわ。

そして、民法94条2項類推適用可否にあたっては、同条同項制度趣旨である権利外観法理から検討されるべきよね。

したがって、『通謀がなく、通謀虚偽表示と言えない場面であったとしても

@虚偽の外観が存在し(虚偽の外観)
Aその外観の作出につき、本人に帰責性があり(本人の帰責性)
B相手方が、その外観を信頼した場合(相手方の信頼)


という要件を満たす場合には、虚偽の外観を信頼した第三者を保護し、取引の安全を図るという、民法94条2項制度趣旨である外観法理が妥当すると言えるため、同条同項類推適用し、その第三者の保護を図るべき、って考えるわけ。
じゃあ、質問の事案では、明智先輩と藤先輩との間に通謀はなかったわけですが、藤先輩のところに不動産があるという外観(@虚偽の外観)が、明智先輩の心裡留保による虚偽の取引(A本人の帰責性)によるものである以上、その外観を信頼(B相手方の信頼)した私は、この民法94条2項類推適用によって保護されるってことですね?
流石、万年ハンター試験浪人の
トンパさん・・・
鮮やかにやられとるお。
トンパに「さん」付けなんかしているからです!
やっぱり、正しい人が泣くような社会は駄目なんです!
だって、あたし、トンパさん好きなんだもん。
仕方ないじゃない。
藤先輩は、法律の勉強以前に学ぶことがあると思うです!

でも、権利外観法理って、素敵な考え方ですね!
私は、この要件はしっかり憶えて使いこなせるようにします!

@虚偽の外観
A外観作出の帰責性
B相手方の信頼


3要件ですね!
そうね。
でも、A外観作出の帰責性については、どの程度の帰責性が求められるのか、っていう視点は大事なのよね。

なんでもかんでも、外観作出しているんだから責任があるんだよ、ってわけじゃないの。
この帰責性には、静的安全を害してもよいと言えるだけの帰責性が求められるわ。

少しザックリとした言い方をするならば、虚偽の外観について、本人が積極的に関与したかどうか、という視点から帰責性を検討することが大事ってことになるわね。
質問の事案では、明智先輩は嘘だって思っていながら、虚偽の取引をしているのですから、十分、積極的に虚偽の外観作出に関与したと思うです!
うんうん。
質問』の私ね。
聞く人がいたら誤解しちゃうから、あんまり私の名前で悪いことしたみたいな言い方は  何回も言わないでね?

この本人の関与の対応・度合いから、94条2項類推適用の場面は、つの類型があるとされるの。

いわゆる
意思・外形対応型と、意思・外形非対応型ね。

ここからは、少し難しい話になるから、そのつもりで聞いていてね。

意思・外形対応型っていうのは、その名前の通り、本人の意思と、その虚偽の外形とが対応している場合ね。
当然、この場合、本人は外観作出への関与が大きいだけに、帰責性も高いと言えるわよね。

因みに、この意思・外形対応型には、その行為内容等から、さらにつの類型があるわ。
外形自己作出型と、外形他人作出型類型ね。

外観を本人自身が作出しているのが外形自己作出型で。
外形自体は他人が作出したものなんだけれど、真の権利者(本人)が、後になって、その外形を承認したと認められるのが外形他人作出型ね。
  ひぃぃぃい。
急激に難易度上げないでよぉ!
ついていけないよぉ!
  ぷぷぷっ!
 表彰モンの能なしだぜ
 テメーはよ
』です! 
ナ、ナ、ナカちゃん?!   
あ、違うです、違うです!
コレは、『HUNTER×HUNTERの中で、トンパ一味が、二コルっていう試験を脱落する子に言った言葉なんです。
藤先輩は、そんな悪いトンパが好きだって言うので、こんな事を言う人なんだって、藤先輩に分かって欲しくって言っただけなんです!
ソレ言ったのアモリ三兄弟じゃん。
トンパが言ったわけじゃないから、ノーカウントだよ。
ソレは違うです!
あれは、トンパが主導なんだから、トンパにも責任があるはずです!
外形作出の帰責性と言うのであれば、トンパは積極的に関与していたです!
うんうん。その話題は、そのへんにしてくれる?
私も、つかさちゃんもついていけないからね。

今説明した意思・外形対応型の具体的な事案としては、こんな事案があるわね。
じゃあ、ちょっと次の事案が、外形自己作出型か、外形他人作出型の、ドッチか考えてみてくれる?

質問

ある男が、自分の持っている不動産を、便宜上、息子の名義にしておいたところ、息子が自分名義になっているのをいいことに、その不動産を第三者に売却しちゃった・・・っていう事案ね。
最判昭和45年7月24日の事案)

コレは、外形自己作出型
それとも、外形他人作出型
  ソレは、外形自己作出型の事案ですね。
新人つぶしの光さん? 
(あ、二コルの真似してるです。)
私、そのネタには付き合わないからね!

うん、でも、そうね。答えは正解よ。
今の質問の事案は、外形自己作出型の事案に該当するわね。
あとナカちゃんが今日まで考えててくれた、あの質問の事案も同じく外形自己作出型の事案になるわね。

外形自己作出型外形他人作出型
このいずれの場合も、権利者自身の帰責性が高いものであると認められることから、94条2項類推適用が認められるわ。

因みに百選T・21事件は、外形他人作出型の事案のものなんだけど、最高裁は、次のような判断の下、94条2項類推適用を認めているわね。

不実の所有権移転登記の経由が、所有者の不知の間に、人の専断によってなされた場合でも、所有者が右不実の登記のされていることを知りながら、これを存続せしめることを、明示または黙示に承認していたときは、右94条2項類推適用し、所有者は、前記の場合と同じく、その後、当該不動産について法律上利害関係を有するに至った善意の第三者に対して、登記名義人が所有権を取得していないことをもって、対抗することをえないものと解するのが相当である。
最判昭和45年9月22日 百選T 21事件
  権利外観法理が、そのまま適用される場面だと言えますからね。
そうね。
意思・外形対応型の事案では、94条2項類推適用で処理ができるから、そこまで問題はないのよね。

問題は、次の類型。
意思・外形非対応型の事案の場合なのよね。

外観法理は、@虚偽の外観、A外観作出の本人の帰責性、B相手方の信頼要件とするところ、意思・外形非対応型の場合は、本人の意思と外形とが対応していない以上、本人だって、そこまでは意図していないと言えるのだから、帰責性が弱いわけよね。 

それでも、外観を信頼した第三者を保護するのであれば、善意だけではなく、無過失を必要とすることで、権利者の被る不利益との比較衡量を図ることとしているの。

この意思・外形非対応型の事案の具体例としては、そうね・・・

私とサルとが、虚偽の仮登記をすることについては通謀をしたんだけど、実際には、サルが勝手に本登記をしてしまって、第三者に売却してしまった・・・というような事案がそうなのね。
最判昭和47年11月28日の事案)

この事案の私は、仮登記の意図だったのに、サルが仮登記じゃなくって、本登記をしてしまっているわけ。
そうなると、私の意図と、虚偽の外観とが異なるのだけれど、外観作出の仮定においては、私の意思的関与が強かったとは言えるわよね。

それで、このような意思・外形非対応型の事案における法的処理については、判例は、94条2項類推適用+民法110条の法意の併用という考え方をとっているのよね。

ちょっと、ここで、民法110条を見てくれる?
民法第110条

『(権限外の行為の表見代理)  第110条
 前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
  ん?
コレ、参照条文合ってるの?
意味不明なんだけど。
この条文は、総則代理の論点のところで勉強する条文だからね。
ちょっと、今見ても、「え?」ってなるのはワカルわ。

ちょっと条文だけ見ても、ワカラナイかなぁ、とは思ったんだけど、代理のところまで行ってから、この94条2項の話に戻るのもなぁ、って思って、今条文だけ先に見ちゃうことにしたわけ。

民法110条にいう『前条本文の規定』というのは、民法109条の『第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。』を受けての条文なんだけど・・・

大事なのは、110条にいう『代理人がその権限外の行為をした場合』というところと、『第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき』という部分なのね。

意思・外形非対応型においては、権利者の意図以上のことが行われてしまっているわけよね。
つまり、これは代理人権限逸脱行為と類似と言えるわ。
また、110条では、『第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき』として、第三者に対して、善意だけじゃなくって、その権限があると信じるにつき正当な理由があったこと、つまり、無過失まで求めているわ。

意思・外形非対応型において、94条2項類推適用だけじゃなくって、110条の法意まで必要とするのは、この行為の類似性と、帰責性意思・外形対応型と比較して弱い意志・外形非対応型においても、外観を信頼した第三者を保護するのであれば、善意だけではなく、無過失まで必要とするためなの。
  ・・・。
うん!
まったくワカラン、ということが、よくワカッタお!
ザックリ説明してしまいますと・・・

事案を読んで、意思・外形対応型なのか、それとも、意思・外形非対応型なのかを、まず判断してください。

意思・外形対応型であれば、権利外観法理という94条2項趣旨を述べて、権利者本人の帰責性が強いという評価を加えて、第三者保護の必要性があるとして、94条2項類推適用で、その第三者を保護って感じで。

意思・外形非対応型であれば、94条2項類推適用だけでは、帰責性意思・外形対応型と比較して弱いといえる権利者本人の被る不利益と、保護される第三者との利益との比較衡量から、第三者善意のみで保護されるとするのは妥当ではない、として、意思・外形非対応型の行為態様の類似性と、両者の比較衡量から第三者には、無過失まで求められるとして、94条2項類推適用110条の法意の併用という処理で、第三者の保護を図るって感じで。
・・・クロちゃん?
・・・その説明で、ザックリなの?
もっともっとザックリな説明は無理なの?
定期試験も近いことですから、あまりにザックリな説明だと、答案作成の際に困られるのではないかと思いまして・・・。
・・・。
(よし!
 ココは、この論点はザックリ諦めよう!
 流石、あたし!)
・・・。
(試験当日に、試験教室から藤先輩の悲鳴が聞こえてきそうな一言です・・・)
言っとくけど、判例百選掲載の22事件最判平成18年2月23日)は、今、説明した意思・外形対応型意思・外形非対応型とは、また違ったものなのよ?

まぁ、見る限り今日は、完全にサルのオーバースペックになっている感があるから、自重しておくことにするけど・・・。

また、いずれの機会にやっておいた方がいいかなぁとは思っているから、総則の復習をする機会があれば・・・ってことにしとくわね。
必要ならば加筆・補足しますので掲示板等にて。)
藤先輩のためにも、意思・外形非対応型が試験の問題に出ないことを祈るです。
そう言えば、ナカたん、妙に勘がいいから、試験前にヤマ張ってくれない?
なんか当たりそうな気がするし。
個人的には、ヤマを張ることには賛同し兼ねますが、藤さんが必要なのでしたら、私もヤマ張りのお手伝いしますよ?
あ、じゃあ、クロちゃんにも頼むお。
(・・・このメガネ、頭はいいけど、やたら読みとか勘は悪いからなぁ。
 チビっ子の読みを本命、メガネの読みは裏目って使い方すれば、100%的中すんじゃね?
 マヂあたし天才っ!!)
・・・。
(どうして、こう腹黒いことばかり思いつくのでしょう。
 リアル・トンパじゃないですか!)

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