前回の勉強会で紹介した債務不履行の3分類。 今回の勉強会からは、この債務不履行の3類型を、一つ一つ見ていくことにするわね。 今日の勉強会では、履行遅滞を学ぶわ。 先ず、中心となる条文の確認からね。 民法412条を見てくれる? |
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民法第412条 (履行期と履行遅滞) 『1項 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。 2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。 3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。』 |
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履行遅滞の定義について説明するわね。 履行遅滞とは、履行が可能なのに、履行期までに履行がされず、ために債務者に対して不履行が問える状態をいうわ。 債務不履行(本旨不履行)の典型的な場合といえるわね。 |
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ふむふむ。 |
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この履行遅滞の要件は、次の3つといえるわ。 @履行が可能なこと A履行期の徒過 (=履行遅延)(民法412条) B履行遅延に違法性阻却事由がないこと (=履行しないことが違法であること) の3要件ね。 要件を、一つ一つ見ていくことにするわね。 先ず、@履行が可能なこと。 これは、履行が可能なのに、履行をしないことをいうわ。 |
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成る程、出来ない(=不可能)んだったら、ソレは履行遅滞やなくって、履行不能ってことになるわけか。 | ||
そうですね。 ちょっと細かい論点として、履行遅滞後に、履行不能となった場合、履行遅滞、履行不能のいずれと見るべきか? という論点があるのですが、通説的理解は、不能となった時点以降は、履行不能となる、と解していますね。 |
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出来るのに履行せんうちに、ホントに出来なくなったとしたら、その出来なくなった時からは、履行不能ってことね。 OKOK、了解! |
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次の要件A履行期の徒過についてね。 これは、履行期の経過があったにも関わらず、履行していない(=弁済の提供すらしていない)ということね。 民法412条は、確定期限付き債務(412条1項)、不確定期限付き債務(412条2項)、期限の定めのない債務(412条3項)の、それぞれについて、履行期の徒過したことが、どの時点なのかを定めているわ。 最初にナカちゃんが読んでくれた条文を、再度しっかり見ておいてね。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
最後に要件B履行遅延に違法性阻却事由がないこと、ね。 これは、履行障害事由がないことをいうわ。 具体的には、各種の抗弁権(例えば、同時履行の抗弁権、留置権の抗弁等)がないことよね。 履行期が徒過したのに、履行しないことに正当な理由があれば、履行しないことが違法とは言えないわけだけど、そのような理由なく履行しないのであれば違法ということね。 同時履行の抗弁権についての勉強は、まだだけれど、留置権の勉強についてはしたはずだから、不安があるのなら戻って再度復習しておくべきね。 |
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ハイです! | ||
次は、履行遅滞の効果について、まとめるわね。 履行遅滞の効果には、大別すると次の3つがあるわ。 1)履行の請求 2)損害賠償 3)契約の解除 ね。 先ず、1)履行の請求だけれど、これは本来的給付の請求ってことよね。 債務者が履行遅滞に陥ると、債権者は、債務者に対して、まず本来的給付の請求をすることができるわ。 この履行請求に関しては、債務者の帰責事由は必要とはされないわ。つまり、債務者に帰責事由がなくとも、債権者としては、履行障害事由がない限り、履行を請求することができるってことね。 |
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遅れてんだから、はよしてよ、ってことやね。 | ||
まぁ、そういうことね。 そして次に、2)損害賠償ね。 債務者に帰責事由があれば、1)履行の請求と併せて、損害賠償請求(遅延賠償)をすることができるわ。 条文を確認しておきましょうか。 民法414条4項を見てくれる? |
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民法第414条 (履行の強制) 『1項 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 2項 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。 3項 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。 4項 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。』 |
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この損害賠償なんだけれど、次の2つがあるわ。 @遅延賠償 A填補賠償 ね。 @遅延賠償は「履行の遅延によって生じた損害」。 つまり、積極的利益(=履行利益)ってことになるわ。 この損害は通常損害に該当するわね。 |
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通常損害? | ||
あ、通常損害と特別損害とがあるんだけれど、この点についてはまた後の勉強会で詳しく説明するわ。 ザックリとした説明をするなら、通常損害というのは、読んで字のごとく「通常生じうる損害」ってことね。 もう少しだけ説明を加えるなら、相当因果関係の範囲内の損害ってことになるわ。 今日の勉強会では、これくらいの認識でいいからね。 |
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だったら最初っから、そのザックリの方の言葉で言えばええんだお。 ナニを格好つけてイミフな言葉をつかってんだお! |
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法律の勉強会なんだから、正しい法律の語句を使うのは大前提でしょうが! まぁ、いいわ。 次はA填補賠償ね。 填補賠償とは「本来的給付に代わる損害賠償」をいうわ(民法415条後段)。 条文を確認しておきましょうか。 民法415条を見てくれる? |
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民法第415条 (債務不履行による損害賠償) 『債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。』 |
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填補賠償が、履行遅滞の場合に認められる理由だけれど、定期行為が典型例になるんだけれど、履行期を過ぎた履行(本来的給付)は、債権者にとっては意味が失われた(=本旨弁済にならない)ものといえるからよね。 | ||
て、定期行為って、なんですか? | ||
あ、定期行為については説明していなかったかしら? ゴメンね。 「定期行為」というのは、一定の時までに履行しなければ契約目的を達することができない行為をいうわ。 この具体例としては、以前の勉強会で話したサル精肉店に、私がパーティー用の牛ヒレ肉を買い求めた事案があったじゃない。 アレは、定期行為といえるわ。 だって、パーティーが終わってから、パーティーに来客されるお客様用のお肉を届けてもらったって、債権者の私としては、それは『債務の本旨』に従った履行とは言えないわけですものね。 |
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1キロ程度の肉なんて、別にいつだって食べれるやないの! ちょっと遅れたぐらいで、ガタガタ言うんじゃないお! |
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みんながサルみたいなお腹しているわけじゃないからね。 そうそう。 この填補賠償が認められる場合に、契約解除を前提とするのか? という論点もあるわね。 もう少しかみ砕いて言うなら、本来的給付の受領を拒絶し、それに代わる填補賠償を請求できるかどうかって問題ね。 この点、契約解除をすることなく、填補賠償を請求できる、と解されているわ。 ただし、その填補賠償の請求には「一定期間の催告」を必要とする、というのが通説・判例の立場ね。 (大判昭和8年6月13日) この填補賠償について、整理しておくと。 債権者は、契約を解除して填補賠償を請求することも(この場合には、債権者は自己の債務を免れる)、契約を解除せずに「一定期間の催告」をした上で、填補賠償を請求することもできる(この場合には、債権者は自己の債務を免れない)わ。 |
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・・・コレ、ドッチが債権者からしたら、お得なの? | ||
ナニ、その質問は。 民法は「公平」を志向する法律だから、いずれかの手段を選択することで大きな得に繋がるようなことには、なりにくいわ。 債権者が契約を解除して填補賠償を請求するならば、債権者は免れた自己の債務を精算して請求することになるわけだし、契約を解除せずに「一定期間の催告」の後に、填補賠償請求するならば、自己の債務との相殺がされることになるわけだから、賠償額の算定には、実質違いは出ないってことになるんじゃないのかしら。 |
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へぇ〜。 | ||
まぁ、気のない返事だこと。 履行遅滞の効果の最後は、3)契約の解除ね。 債権者は、履行遅滞があった場合には、契約を解除することもできるわ。 ただし、解除するには、相当の期間を定めて履行を催告(=催告:期限きれてるから、早く履行してよーって伝えること)し、その期間内に履行がないことが必要となるわ(民法541条)。 まぁ、このあたりは解除の勉強で、再度学ぶところになるから、今は「へぇ、そうなんだ」程度でいいけどね。 |
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そうですね。 「解除」については、また改めて債権各論の勉強会で学びますからね。 因みにですが、履行遅滞に限らず一般的な話になりますが、解除によって損害賠償請求権が発生し、しかも、それは填補賠償を含む債務不履行による損害賠償ってことになりますね。 もっとも、さっきの光ちゃんの説明にあったように、履行期を徒過した後、一定の場合には、解除を要せずに填補賠償請求が出来るってことでしたよね。 |
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うんうん。 その代わり「一定期間の催告」は必要って話だよね! |
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そういうことね。 それじゃ、履行遅滞の最後の論点を話して、終わりにしましょうか。 金銭債権の特則ね。 もっとも、この特則については、金銭債権の勉強会で学んでいるわけだから、復習ってことになっちゃうけどね。 金銭債務の履行遅滞については、今日の勉強会で見てきたような一般原則は当てはまらないわ。 金銭債務においては「履行期の徒過」が絶対的な意味をもつんだったわよね? |
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あ、そうです! 熊本地震のような場合であっても、遅れた場合は免責されないって話だったです! |
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そうよね。 金銭債権には、次のような大きな特徴があるんだったわよね。 ・債権者は、損害賠償請求において、「損害」の証明をする必要がない(民法419条2項後段)。 ・債務者は、不可抗力をもっても、抗弁とすることはできない(=絶対的無過失責任主義)。 という特徴よね。 |
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うんうん。 金銭債権の場合は、お金は価値そのものなんだから、損害の証明は不要なんだよね。 あと、債務者に故意・過失がなかったとしても、その日(=弁済期)に支払うことが出来なければダメ(=免責されない)ってことなんだよね。 |
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そういうことね。 金銭債権についての理解が不十分なら、この機会に戻って復習しておくといいと思うわ。 (債権総論12回、13回勉強会) |
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戻って復習ぅ!? 『わが拳にあるのはただ制圧前進のみ!!』 そんな機会などあるはずもないわぁっ!! |
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・・・。 (藤先輩は、何気にサウザーが好きみたいです・・・。 なんだか妙に出目が多いです・・・。 個人的には「アミバ」とか「ジャギ」の方が、シックリ来る気がするです。) |