今日の勉強会では、種類債権の特定について学ぶわね。 前回の勉強で説明したように、種類債権の債務者には、非常に重たい「調達義務」という責任があったわよね。 この「調達義務」から、種類債権の債務者を解放する制度が『特定』ってことだったわけよね。 その『特定』の方法について、今日の勉強会では学ぶことにするわ。 |
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説明乙。 |
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前回の勉強会からの展開について、いつもきちんと話してくれる光おねーちゃんは優しいよね。 | ||
チイちゃん、ありがとうね。 チイちゃんは、ナニかあったら、これ幸いとばかりに難癖を吹っ掛けてくるオネーさんみたいになっちゃ駄目だからね? |
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チイは大丈夫だよぉ。 | ||
そうよね。 チイちゃんなら心配ないわよね。 |
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だおだお。 こんな色気の欠片もない食べるしか能のない田舎娘が、あたしみたいな大人の女性になれるはずないじゃないの。 |
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・・・。 (とんでもなく自分に都合のいい解釈をしているです。) |
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・・・まぁ、いいわ。 さて、それじゃ種類債権の特定の定義から話すわ。 種類債権では、先ず、その種類に属する物の中から、具体的に給付されるべき個物を選定しなければならないわ。 例えば、他の物から目的物を分離する、標し(シルシ)を付ける等の識別可能な状態に置くことが求められるわ。 コレを『種類債権の特定』というのね。 |
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ふむふむ。 ワカルようにするってことだね。 |
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そうね。 問題は、法的な『特定』と言えるためには、この選定の作業、すなわち事実上の分別だけで、法的な『特定』となるのか、ってことよね。 今日の勉強会では、この種類債権の『特定』の方法と、その時期について学ぶことにするわね。 『特定』の方法だけれど、当事者の合意(特約)があれば、ソレによることになるわ。 コレは、私的自治の原則から当然に認められることよね。 この場合には、事実上の特定(指定)が、法的な『特定』になるわ。 |
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メモメモです! | ||
さて。 問題は、そのような合意(特約)がないときよね。 その場合については、先ず条文を見てくれるかしら。 民法401条2項ね。 |
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民法第401条 (種類債権) 『1項 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。 2項 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。』 |
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401条2項によれば、合意(特約)がないときは、次の2つの方式によることとなるわ。 @指定による特定 A『債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し』たとき(401条2項前段) の2つね。 |
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@指定による特定 というのは、当事者間の特約によって、債権者、債務者または第三者のいずれかを指定権者と定めた場合において、その者(指定権者)が指定したときということになりますね。 特約等によって、債務者が指定権者となったときは、債務者が、この指定権を行使して『特定』することができるということです(民法401条2項後段) 。 |
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そうね。 @については、さして問題はないと思うんだけど、大変なのはA『債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し』たとき(401条2項前段)の場合ね。 大変って言ったのは、ここは押さえることが多いからなのよね。 |
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さて。 帰る準備、帰る準備っと。 |
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はい、ソコ! 逃げないのっ! A『債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し』たとき(401条2項前段) とは、どのような行為をすれば『必要な行為を完了』したことになるのか、ってことが問題になるわけ。 少し長くなるんだけれど、分けて説明するとかえって混乱しちゃいそうだから、今日の勉強会で、まとめて一挙に説明するから、そのつもりで頑張りましょうね! この、どのような行為をすれば『必要な行為を完了』したか、は、給付がされる場所により異なるわ。 具体的には、次の3つの場合を分けて考えることになるわ。 1)持参債務の場合 2)取立債務の場合 3)送付債務の場合 の3つね。 |
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・・・3つは最低来るわけか。 コレは軽く死ねるお。 |
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1)持参債務の場合から、いくわね。 先ず、持参債務とは、どのような債務をいうのか、ってことからよね。 『持参債務』とは、債務者が、債権者の住所に、目的物を持参して履行する債務をいうわ(運送費は債務者の負担)。 この持参債務の場合には、債務者が、種類物の中から、特定の個物を選定した上で(分別=事実上の特定)、債権者の住所に持参し、『現実の提供』をしたときに『特定』が生じることになるわ。 |
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ここにいう『現実の提供』とは「受け取れる状態にしたとき」ということですね。 持参債務を、種類債権@の勉強会の事案のチイちゃんと竹中さんで図にして示しますと、こんな感じでしょうか。 |
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あ、お米屋さんのチイの話だね。 うんうん。 そうだよね。 持参債務だと、債権者の住所において、受け取れる状態にしないと『特定』が生じないんだから、債務者のチイは、債権者のナカちゃんの家まで、お米10kgを持っていかないといけないもんね。 |
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つかさちゃん、ナイスフォローありがとうね。 さて、お次は2)取立債務の場合ね。 『取立債務』とは、債権者が、債務者の住所にやって来て、取立てて履行を受ける債務をいうわ(運送費は債権者の負担)。 この取立債務の場合、いつの時点で特定が生じるのかってことよね。 判例・旧通説は、次のように捉えているわ。 すなわち、債務者が、自分の住所地で「目的物を分離し、引渡の準備を整えてこれを債権者に通知する、ことによって特定する」とね。 (最判昭和30年10月18日) |
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これも、お米屋さんの事案を例に図にすると、次のようになりますね。 | ||
ふむふむ。 取立債務の場合は @分離 A準備 B通知 をすることで『特定』が生じるんだよね。 ということは、お米屋のチイは、米俵から、ナカちゃんに頼まれた10kgを@分離して、米袋に詰めてA引き渡せるように準備して、Bそのことをナカちゃんに知らせたときに、その米袋10kgに『特定』したことになるわけだよね。 |
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そうですね。 『特定』が生じた以降は、その特定された米袋10kgが、チイちゃんとナカちゃんとの間の契約の目的物(特定物)になるってことですね。 |
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えーっと、持参債務だと、チイちゃんが私の家まで持ってきてくれたわけですが、取立債務の場合は、私がチイちゃんのお店まで取りに行くことになるわけですよね? | ||
そうね。 持参債務は、債務者が、債権者のもとまで持参してくれる債務。 取立債務は、債権者が、債務者のところまで取りに行く債務だからね。 じゃあ、取立債務について、判例・旧通説の考え方を知ったところで、次の取立債務の場合の問題を考えてみることにしましょうか。 |
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質問形式? わわわ! なんか楽しみだねぇ。 |
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補講での危険負担の話が絡んできちゃうから、ちょっと難しいかも知れないけれど、頑張ってみましょうか。 ソレじゃ、質問! 私(光)は、精肉屋を営むサルに電話を入れて 「明日の夜、自宅でパーティーをするので、特上の牛ヒレ肉の塊1sを、取りに行くので用意しておいて欲しい」 って注文したの。 ところが翌日の正午。サルの精肉屋は隣家の火事の延焼で、火災被害に遭ってしまったのよね。 その火事のせいで、私が取りに行く筈だった、特上牛ヒレ肉は真っ黒焦げに。 とてもパーティーでお出しすることの出来ない代物になってしまったの。 さて、この場合の私は、特上牛ヒレ肉の代金を、精肉屋の主人のサルに支払う義務があるでしょうか? |
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サラっと「特上牛ヒレ肉」なんて、ぶちこんでくるあたりが金満だお。 ナニナニ!? 自宅でパーティーだぁ? 特上牛ヒレ肉だぁ? いいもんばっか喰ってんじゃねぇお! クロ焦げマヂざまぁっ!! って思うから、代金は支払ってもらうお! |
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・・・法律的な回答をしてもらえないものかしら。 | ||
えーっと、明智先輩は「取りに行くので用意しておいて」と言っているのですから、この事案の藤先輩の債務は、取立債務ってことになるです。 ということは、債務者が、自分の住所地で「目的物を分離し、引渡の準備を整えてこれを債権者に通知する、ことによって特定する」わけですから・・・。 債務者である精肉屋の藤先輩が、特上牛ヒレ肉1kgを切り分けて(分離)、それを包装して(準備)、お客さんの明智先輩に連絡(通知)することで「特定」が生じるといえるです。 えーっと、特定物の場合は・・・えーっと、えーっと、代金請求権は、えーっと・・・。 |
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ナカちゃん! 続きはチイが頑張るよぉ! |
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あうあうあうあう。 御願いしたいです・・・。 |
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精肉屋のオネーちゃんの取立債務の目的物は、ナカちゃんが言ってくれたような分離、準備、通知をなしていれば、その時点で『必要な行為が完了し』たといえるから「特定」が生じていることになるよぉ(401条2項前段)。 そうなると、オネーちゃんと光おねーちゃんの契約の目的物は特定物になっているんだから、その目的物が火事のせいで滅失・損傷してしまったときには、危険負担の問題になるよぉ。 条文は、民法534条だよね。 |
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民法第534条 (債権者の危険負担) 『1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。』 です! |
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ナカちゃん、ありがとうだよぉ。 えーっと、この事案のオネーちゃんは、隣の家の人の火事のせいで特定物のお肉がクロ焦げになっちゃったんだから 『その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したとき』 にあたるよね。 ということは、 『その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する』 ってことだから、特定後に火事が起きた場合は、精肉屋のオネーちゃんは光おねーちゃんに、お肉の代金を請求できるってことになると思うよぉ。 |
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そうね。 判例・旧通説による「特定」時に危険が移転する、とする特定時説の考え方からは、その結論が導かれるわけよね。 |
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うんうん。 あたしは納得だお。 さぁ、とっとと特上牛ヒレ肉のお代を、あたしに支払うんだお!! |
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ん? ちょっと待ちなさいよ。 サルは、この特定時説の結論には納得してなかったじゃないのよ! |
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ほげ? | ||
あ、言われてみれば、確かに藤先輩は、あのとき 『なんも受け取れないのに、金だけ払えってのかお!! と、と、とんでもない話だお!! 何のための法律なんだおぉぉぉぉ!!』 って騒いでいたです。 明智先輩は、お肉を受け取れなくなったのに、代金だけ支払うことになるわけですから、藤先輩にとっては納得できない話になっているです! |
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・・・むむむ。 言われてみれば、そんなことも言ったような言わなかったような。 |
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ちょっと、しっかりしてよ! あの補講では、もう一つの考え方も紹介したじゃないのよ。 危険負担について「特定時」に危険が移転する(特定時説)と考えるのではなく、債権者に目的物が「引き渡された時」に危険が移転する(引渡し時説または現実支配説・有力説)って考え方もあったわよね。 この引渡し時説に立てば、危険負担については、その危険は、目的物が引き渡された時(=現実の支配が移転した時)に、債権者(買主)に移転するって考えるんだったわよね。 そうであれば、この事案においては、精肉屋のサルは、私にまだ特上牛ヒレ肉を「引渡し」ていないわけなんだから、危険は移転していない・・・つまり、お肉代金の支払いを請求できないってことになるんじゃなくって? |
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おぉぉぉぉぉぉぉおいっ!! と、と、とんでもない話だお!! 何のための法律なんだおぉぉぉぉ!! |
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あんたこそ、結局ドッチなのよって話じゃないの。 | ||
特定時説は、特定と危険の移転とが結合しているんですよね。 これに対して、引渡し時説は、特定と危険の移転とが切り離されているんですよね。 危険の移転が伴わない引渡し時説における『特定』の意義は、調達義務からの解放(=同一種類に属する他の個物を引き渡す義務を負わない)ということになりますね。 |
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そういう整理になるわね。 危険負担が各論の問題だけに、ちょっと難しい質問だったとは思うんだけど、どうせ話すのなら、ここまで話しておきたいって思ってね。 |
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何度も聞いたせいか、少し危険負担というものが、どのようなものかワカッてきたような気がするです。 | ||
そう言ってくれると、ここで踏み込んだ甲斐があったかなって、私も思えるわ。 ソレじゃ、最後に3)送付債務ね。 |
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ま、ま、まだあるってか・・・。 | ||
前回、サルとつかさちゃんが余計なことしなければ、私も2回に分けるつもりだったんだけどね! | ||
やれやれ。 過ぎたことをグダグダと・・・。 |
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・・・こ、このサルは。 まぁ、いいわ。 サルの相手してると、勉強会が進まないからね! 3)送付債務とは、債権者・債務者の住所地以外の第三の場所に、目的物を送付すべき債務をいうわ(運送費用は、債権者の負担)。 この送付債務には、次の2つの場合があるわね。 @当初から、第三の場所が定められていた場合 A債権者(買主)の要請を受けた債務者が、好意で、第三の場所に送付することを承諾した場合 の2つね。 正直、前の2つの債務( 1)持参債務、2)取立債務)と比較すると、この3)送付債務は出目の少ないところだから、説明も簡単なものにしておくわね。 @当初から、第三の場所が定められていた場合 この場合は、債務者が、その場所で「現実の提供」をすることで特定するわ。 運送費用は、債務者の負担ね。 この場合は持参債務と同様の処理をすることになるわ。 A債権者(買主)の要請を受けた債務者が、好意で、第三の場所に送付することを承諾した場合 この場合は、債務者が、目的物を分別して、第三の場所宛に発送した時点で特定するわ。 この場合の運送費用については、個別事案毎に異なるんだけれど、基本的には債権者負担となることが多いわね。 |
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せっかくですから、これもお米屋さんのチイちゃんの事案で図にすると、こうなりますね。 送付債務には、債務者が第三地で履行することが義務となっている場合(@)と、債務者が債権者の要請によって好意で第三地で引き渡すこととした場合(A)の2つの場合がありますので、それぞれ図にしておきました。 どの時点で特定が生じているのかが明確になるようピンク色の破線で「特定」が生じる段階を示すことにしました。 |
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債務ごとに、特定が生じる段階が違うんですね。 しっかり整理して抑えておきたいです。 |
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持参債務、取立債務、送付債務かを、一番手っ取り早く判別するのは、給付される場所が何処か?(履行地が何処か?)って点に着目するといいですよ。 よく持参債務と送付債務とを混同してしまうことがありますが、ソレは給付の方法に目がいってしまっているからです。 履行地に気をつければ間違えることはないはずですよ。 履行地が、債権者の住所なら、持参債務。 履行地が、債務者の住所なら、取立債務。 履行地が、それ以外の住所なら、送付債務。 そして、この判別で、いずれの債務かを明確にしたら、どのような行為をすれば『必要な行為が完了し』た(=特定が生じる)といえるのか、を次に考えればいいわけですね。 |
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判り易く整理してくれて、ありがとうね、つかさちゃん。 今回は、ちょっとボリューミーな勉強会になってしまったから、次回の勉強会では復習がてら、質問形式で理解の確認もしちゃおうかな。 |
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是非、御願いしたいです! | ||
質問は、ワクワクドキドキするから、チイは大好きだよぉ。 | ||
・・・(マンドクセ)。 | ||
そこの方。 例によって、目が死んでますわよ? |
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・・・。 (どの目して、言ってんだお。 自分の顔、鏡で見てから言ってくれお。) |