えーっと、今日の勉強会なんだけど、前回勉強会の末尾で告知した通り、補講という位置づけにさせてもらうわね。 その理由については、先の告知の通りだから、ここでは割愛させて貰うけどね。 |
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・・・だったら、来なくても良かったんじゃないだろうか、常識的に考えて。 | ||
藤さんは、既に民法の体系そのものを深く熟知されておみえですからね。 勉強会の必要性自体がないわけですものね。 |
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・・・お、お、おう!! |
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・・・。 (「おう」という言葉とは裏腹に、全く自信を感じさせられない返事です。) |
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はいはい。 補講とは言え、債権各論の勉強を既に終えてみえる方にとっては、通常の勉強会と同じってことになるわけだからね。 サクサク進めるわよ? さて、債務者が履行期に、特定物を引き渡すことができなかったとき(例えば、契約成立後の履行不能)は、債権者は、債務者に対し、引渡しに代えて、損害賠償(填補賠償)を請求することができるわ。 このとき、債務者が損害賠償義務を免れるための免責事由として、ナニを主張することができるのか? ってことが今日の議論の出発点になるわ。 |
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免責事由って、つまり、履行不能の責任を免れるための理由ってことでしょ? それなら「ちゃんとやってました!」 って言えれば、ええんやない? |
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そのサルの考えは、伝統的な見解である『無過失の抗弁』という考え方ね。 この考え方は、債務者は、債務の目的物である特定物の保管につき、善良な管理者としての注意(400条)を尽くしたことを主張・立証すれば免責される、とするわね。 ただ『不可抗力の抗弁』だとする考え方もあるわ。 この考え方によれば、債務者は特定物売買では、目的物の引渡しという「結果債務」を負うのであるから、それが実現できなかったときは、その不能が不可抗力によるものであることを主張・立証しなければ免責されない、と捉えるのよね。 この考え方(=『不可抗力の抗弁』だとする考え方)だと、サルが言ったような「ちゃんとやってました(=善管注意義務を尽くしました)」と主張したとしても、引渡しができなかったときは、ちゃんとやっていた(善良な管理者としての注意を尽くした)としても、不可抗力でない限り免責されないってことになるわけね。 |
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あれま! | ||
『不可抗力の抗弁』とする考え方は、特定物売買における特定物引渡債務を、債務者が、契約で目的物の引渡しという結果を実現する結果債務を、債務の内容としていると考えているわけですよね。 そうであるならば、結果債務を果たしていない以上、不可抗力でない限り、履行不能による免責はされない、ということになるわけですよね。 |
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そうね。 私は、伝統的な見解である『無過失の抗弁』だとする考え方で捉えているんだけれどね。 |
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チイも同じだよぉ。 でも『不可抗力の抗弁』って考え方も、今、勉強して成る程ぉ〜って思ったよぉ。 |
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民法は色々な考え方や学説のあるところだからね。 自分のより強く納得できる考え方を理論的に説明できるようにすればいいと思うわ。 因みに、前回の勉強会で学んだように、債務者が「履行遅滞」にあるときには、いずれの考え方でも、不可抗力であったとしても責任を免れ得ないことになるから、その点は注意して欲しいわ。 |
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ふむふむ。 | ||
さて、それじゃ今日の勉強会のメイン論点ね。 特定物売買と危険負担(対価危険)という問題になるわ。 危険負担自体の勉強は、債権各論で学ぶから、ここでは必要最小限度の説明にとどめるから、今日の勉強会で理解できなくっても、後の勉強で理解できるようになれば、いいか、って気持ちでいいからね。 特定物売買において、契約成立後、目的物の引渡しが不可能となり(=履行不能)、かつ、それが債務者(売主)の責に帰することのできない事由によるものであったときは、売主の債務は消滅するわ。 |
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成る程、成る程。 売主になんの落ち度もないって状況で、債務が果たすことができなくなった場合は、もう売主の債務はなくなるってことね。 まぁ、そりゃそうじゃないと厳しいもんね。 |
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では、その場合に、買主の債務(=代金支払い債務)も消滅するのか、どうか? 言い方を変えると、買主が目的物を受け取れない以上、売主に代金を支払わなくてもよいことになるのかどうか? って問題(=危険負担の問題)があるのよね。 |
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・・・なぬ!? なんも受け取れないのに、金だけは払えって話? |
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特定物につき物権の設定または移転を目的とした双務契約の場合には、いわゆる債権者主義が適用されるわ。 この債権者主義とは、債務者(=売主)の帰責性なく目的物が滅失した(=履行不能になった)場合には、買主は目的物を受け取れないにも関わらず、その代金を支払わなければならない、という考え方なのよね。 この債権者主義を定めた条文を確認しておきましょうか。 民法534条1項を見てくれる? |
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民法第534条 (債権者の危険負担) 『1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。』 |
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この民法534条1項にある『債権者の負担に帰する』というのは「買主が代金支払いをしなければならない」ってことを意味するわけね。 | ||
ほげぇーーーーっ!! なんも受け取れないのに、金だけ払えってのかお!! と、と、とんでもない話だお!! 何のための法律なんだおぉぉぉぉ!! |
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あー、はいはい。 危険負担の勉強は、債権各論だから、ここでは必要最小限の説明にするって最初に言ったわよね。 サルの憤りはワカッタから、今日の勉強会では自重してくれないかしら。 そんなことより、問題はちゃんと覚えている? 特定物売買において、契約成立後、目的物の引渡しが不可能となり(=履行不能)、かつ、それが債務者(売主)の責に帰することのできない事由によるものであったときは、売主の債務は消滅する・・・そして、その場合に、買主の債務(=代金支払い債務)も消滅するのか、どうか?って問題だったわけよね。 |
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・・・534条1項を読むと、ナニやらヤバい雰囲気すんだけど。 | ||
そうね。 民法534条1項を、そのまま適用すると、買主は代金を支払わなければならないってことになるわけよね。 この場面は、民法534条1項が、まさに適用される場面であるという理由から、民法534条1項を、そのまま適用する、という考え方が、判例・旧通説の立場になるわ。 |
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マヂっすかっ!! な、な、なんか納得いかない・・・。 なんで、売主の債務だけ消滅して、買主の債務だけ残るんだお!! |
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そうなのよね。 サルのように妥当ではないのではないか、とする考え方も勿論あるわ。 多数説の見解は、536条1項適用説という考え方なのね。 ここで、先ず民法536条1項を確認しましょうか。 |
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民法第536条 (債務者の危険負担等) 『1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。』 |
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条文は読んでくれた? この536条を、534条の債権者主義に対して『債務者主義』というわ。 さぁ、ソレじゃ、この536条1項適用説という、学説の多数説の考え方について説明するわね。 『特定物』の売買である以上、534条1項の適用が予想される場面である・・・ということについては、この考え方も肯定するのね。 ただ、『特定物』の滅失・損傷の危険移転の基準を、「契約成立」に求めるのではなく、『特定物』の「現実支配」に求めるべきだ、と同説は考えるわけ。 |
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「現実支配」というのは、どういうことですか? | ||
「現実支配」とは、特定物(特定物売買の目的物)が物であることから、「引渡し」または「登記」がなされることが求められるわ。 そして、この「現実支配」(「引渡し」または「登記」)がされた時点をもって、債務者から債権者へ「危険」が移転する、と考えることで、民法534条1項の適用範囲を修正する(=狭く捉える)という考え方なの。 この考え方に立てば、特定物の売買契約がされても、まだ買主が「現実支配」(=「引渡し」または「登記」)をする前の間に、売主の責に帰することができない事由によって、目的物が滅失・毀損して、引渡しが不能となったときは、民法534条1項はまだ適用できる段階に達していないのであり、536条1項の適用場面となる、と捉えるのよね。 そして、536条1項を適用することから『債務者は、反対給付を受ける権利を有しない』・・・つまり、買主の代金支払い債務も消滅したといえる、という結論を導くわけ。 |
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おおっ!! あたしは俄然、コッチの方が納得いくかな!! つまり、あたしがなんか特定物を買うっていう契約を結んだとして 引渡しをする「前」なら、売主(債務者)が危険(=特定物の滅失又は損傷のリスク)を負担。 引渡しをした「後」なら、買主(債権者)が危険を負担 ってことだよね? |
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そういうことね。 まぁ、危険負担の勉強をしていないから、ここでの議論は、これくらいにしておこうって思っているけれど、一応最後に間違えやすいとこだけ注意しておくわね。 今の議論は、あくまでも『特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合』の問題だからね。 『特定物』ではなくって「不特定物」の場合だとか、『物権の設定又は移転』を目的としていない「賃貸借」の場合には、『前2条に規定する場合を除き』(536条1項)と、しているんだから、債務者主義(536条)となるわけだからね! |
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ふむふむ。 | ||
む、難しいです・・・。 | ||
大丈夫。 今、議論した危険負担の問題については、最初にも言ったように、また債権各論のところで勉強するからね。 今の時点では、こういう考え方もあるんだなってくらいの認識で構わないわ。 そう思えばこその「補講」ってことだからね。 |
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ハ、ハイです! | ||
なんか最近の勉強会は、やたら難しい気がすんお。 初学者のチビッ子1号もおることだし、そういう配慮も忘れずにやって欲しいお! |
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藤さん・・・お優しい。 | ||
・・・。 (ぐぬぬぬぬ。 確かに最近難しいって思ってはいたですが、藤先輩の発言は、絶対、私をダシにしてるです・・・。) |
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ん? 優しい先輩を、なんつう目で見てんだお? そこは、素直に 「ありがとうです!」 で、ええんやで? |
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大丈夫よ、ナカちゃん。 今のナカちゃんの気持ちは、私は察しているつもりだからね。 素直になれない相手は、いるものよね、ホント。 |
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「明智先輩」! ありがとうです! |
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・・・ホゲッ! |