特定物債権@

ここでは、善管注意義務の適用される場面での、他の条項との関係について少し丁寧な説明をしたいと思います。

善管注意義務を定めた民法400条は、次のものでしたよね。
民法第400条 (特定物の引渡しの場合の注意義務)

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
履行期から、引渡し時までの間で、この400条にいう善管注意義務が適用される範囲は、実は非常に狭いといえます。

先ず、通常の契約の場合ですが。
契約によって生ずる保管義務については、その物の保管義務が主たる債務となる場合と、付随義務となる場合とが考えられますが、いずれにせよ、それらの保管義務は契約について定められた規定が適用されることになります。

次いで、その規定が適用されない場合に、民法400条が補充的に適用される、ということとなるわけです。
では、それ以外の適用場面について考えてみることにしましょう。
先ず『債権が成立して、その履行期までは、400条の保管義務が適用された』・・・という前提で、ここからの話を展開しますね。

履行期が到来して、そのまま履行された・・・という場合、履行によって、保管義務は消滅することになります。
オーソドックスな処理ということで、特に問題はないわけですね。

しかし、履行期において、履行されなかった場合には、次のように場面を分けて考える必要が出てきます。

@履行期に、債務者が履行しなかった場合
A履行期に、債権者が履行しなかった場合
B履行期に履行されなかったが、その不履行について、受領遅滞の責任も、履行遅滞の責任も生じていない場合


場面です。
それでは@履行期に、債務者が履行しなかった場合から。
この場合には、条文があります。
民法412条1項を見て下さい。
民法第412条 (履行期と履行遅滞)

1項 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。

2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。

3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
履行期に、債務者が履行しなかった、ということですから、債務者は履行遅滞となります412条1項)。

そして、この場合(=履行遅滞の状態下においては、債務者には、その物に対して、善管注意義務400条以上の注意義務が課されることとなります。
よって、それ以降は、債務者は、例え目的物が不可抗力によって滅失・毀損した場合であっても責任を負わなければなりません履行遅滞後の履行不能の法理)。

つまり、この場合の債務者は、善良な管理者の注意を尽くしたとしても免責されない、ということになります。
次に、A履行期に、債権者が履行しなかった場合です。
この場合についても、条文がありますので、先ず条文を確認しましょう。
次は民法413条を見て下さい。
民法第413条 (受領遅滞)

債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。
履行期に、債務者が履行の提供をしたものの、債権者が受領しなかった場合には、債権者の受領遅滞の問題となります(413条)。

そして、受領遅滞の法理によれば、債務者は、それ以降は保管についての注意義務を軽減され、「自己の財産におけるのと同一の注意」を尽くせば免責されることになります。

従って、受領遅滞の場合には、400条の善管注意義務は課されない、ということになるわけです。
それでは最後にB履行期に履行されなかったが、その不履行について、受領遅滞の責任も、履行遅滞の責任も生じていない場合についてですね。

少し場面が想定しづらいかも知れませんが、端的に言うならば、上記@及びA以外の場面ということになります。

具体的に場面を述べますと、特定物債務者が、同時履行の抗弁権民法533条を有しているため、履行期に履行しなかったことが正当化される場合になります。

もう少し噛み砕いて述べますと、債務者が、同時履行の抗弁権を有しているため、履行期に履行せず、また履行の提供もしなかった場合ということになりますね。

この場合は、履行しなくても、相手方の履行の提供がなければ債務不履行になりません

ですが、債務者もまた履行の提供をしていないわけですから、相手方を受領遅滞にすることは出来ず、また相手方も同時履行の抗弁を失わないため相手方を債務不履行にすることもできません
いわゆる、どっちつかずの状態になるわけです。
この場合においては、400条の保管義務が、そのまま適用されることになります。
長々と説明に終始してしまいましたが、ここまでの説明を図示しますと、次のような図になります。
ここまでの説明は、大分先取りしてしまった内容もありますので、今の勉強会の進行段階においては、理解がし辛いことと思われます。
また、後の勉強会の理解が進んだ際に、こちらのページにリンクを張って、再度復習できるように御案内させて頂くつもりでおりますので、ご容赦下さい。
おいっ!!
こらっ!!
ナニを、さっきからブツクサ言っとるんだお!!
目ぇ開けたまま寝言こいてんじゃねぇお!!
ん?
ナニ?
 

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