金銭債権A

金銭債権については、前回の勉強会で概ね必要な点については伝えたんだけど・・・今日の勉強会では、少し踏み込んで金銭債権に絡んだ問題を考えてみようと思うわ。
・・・必要な範囲で、ええんやないだろうか。
ぶっちゃけ債権総論の勉強会は、物権法と比べて、進行は遅いわ、難易度は上がっているわ、でエラいことになっとる気がする今日この頃でつ。
そうね。
ちょっと進行が遅いという気はしなくもないわね。
実際、このペースだと債権総論が終わるのは、1年後・・・なんて事態も考えられるところだしね。
・・・。

(なんてスローペースなんだお。
とんでもねぇこと言っとるじゃまいか。)
勉強会の回数を増やすというのは、どうでしょうか?
ソレいいねぇ!
チイは大賛成だよぉ!
いやいやいや、ないないないないっ!!
反対、反対、断固反対っ!!
今季は、例年になくプロ野球の広島の試合観戦が面白いんだから、ぶっちゃけ勉強会なんてやっとる暇は、ないんだお!
・・・広島が珍しく調子いいからって、ナニを本末転倒なこと言ってんのよ、あんたは。
自分とこが面白い試合してないからってアたるのは、やめて欲しいよねぇ。
まだ6月じゃないのよ。
暫定の首位に、価値があるとでも思っているのかしら?

(2016.6.19 広島暫定首位!)
うんうん、そうだね、そうだね。
まぁ、頑張ってよね?
キィィィィィィィィっ!!
広島ファンに見下ろされるなんてぇ〜っ!!
クックック・・・。

(なんという清々しさだお!!
苦手の交流戦を、ここまで好調に終われるとは・・・。
コレはもう今季優勝待ったなしだお!)
・・・進行に文句を言っておいて、サル自らがペースダウンを誘っているんじゃなくって?
いいの? 
こんな調子じゃ、勉強会の回数が増えることになっちゃうわよ?
  あ、そか!
始めよう、始めよう!
勉強会を始めよう!
でも、今日の勉強会はサルも興味を持つ、ちょっと面白いテーマだと思うんだけどね?
ほほぅ。
ハードル上げるねぇ。
言ってみて、言ってみて。
ズバリ、金銭債権と貨幣価値の下落その他の事情変更)っ!
んんんっ!?
えーっと、つまり、お金の価値がインフレとかですっごい下落した場合に、どうなんの? 的な話?
そうね。
ワカリやすく伝えると、100万円をサルが私から借りていたとして、返すまでの間に様々な事情変更があった場合に、私に返すお金は100万円でいいのか? って話よね。
  成程・・・『実に面白い』。
・・・。

(また、変な物真似をしてるです・・・。)
まぁ、ある程度の長期の継続的契約関係を前提とした金銭債権の場合に、インフレによる貨幣価値の下落や、その他の事情変更ということは考えられるところよね。
そのような事情は、金銭債権の名目額に、影響を与えるのか
って問題を考えてみたいと思うわ。
事情変更の原則の適用が問われるのではないでしょうか。
事情変更の原則」っていうのは、どのような原則なのですか?
あ、すみません。

事情変更の原則」とは、当事者の予見することのできなかった著しい事情の変更により、契約の文字通りの履行を強制したのでは、かえって信義則に反し、正義にもとる場合に、当事者に契約解除権・契約内容改訂権を認める、という考え方で、信義則民法1条2項から導かれる法理をいいますね。
  ふむふむ。
そうね。
事情変更の原則の適用可能性は勿論考えられるところよね。

でも、その前に、この金銭債権と貨幣価値の下落という問題についても、実は原則と例外つの処理が考えられるのよね。

というわけで、先ずは、その原則から説明するわね。
原則は、名目額での支払いってことになるわね(名目主義)。
つまり、100万円借りたら、100万円返せばええってこと?
そうね。
債務者は、原則として、名目額をもって支払えばよいってことになるわ(名目主義)。

貨幣価値下落という経済変動が、金銭債権の返済額に影響を与えるならば、金銭貸借の安定性は大きく失われることとなるわ。
そこで、金銭価値下落の危険性は、債権者が負担すべき、と考えられているからなのよね。
どうして、そのように考えるべきなのか・・・と言いますと、インフレによる貨幣価値の下落という問題は、資本主義社会では起こり得る問題であることから、その危険は債権者が負うべきといえるからですね。
実際、このような問題を扱った判例もあるんですよね。

最判昭和36年6月20日ですが
金硬貨による支払の特約若しくは償還期限における貨幣価値の著しい騰落のあつた場合債券売出当時の貨幣価値を償還期限のそれに引直した金額によつて償還金を支払う旨の特約がないかぎり、債券発行売出銀行は償還期限に債券面記載の償還金額を支払うをもつて足りると解しなければならない。
として、貨幣価値が、債権発行時の300分の1程度になっても、券面額を返済すれば足りる、という判決を下しているんですよね。
  マヂでかっ!!
うほっ!!
めっさ借り得でけるやないのっ!!
借りた場合は、借り得ってことはいえるわね。

でも、金銭価値下落の危険性は、債権者が負担すべきである以上、逆の場合(=損する立場になること)だってありえることは忘れないで欲しいわ。

例えば、生命保険や損害保険に入っていたとしても、約定された一定の保険金額は、保険料率に基づいて算出された保険料との関係で定められているため、物価高騰を理由に、約定の保険金額を超える額の支払いを請求することはできないってことになるわけよね。
あ、そか・・・。
その場合は、美味しくない話になってまうわけね。
どんな目線で聞いているのよ、一体・・・。
まぁ、いいわ。
ソレじゃ、ここまでの話を理解しているか確認する意味で、質問を一つ出すわね。

質問

私はサルに、返済期限を10年後ってことにして、500万円を貸し付けたのね。
ところが、その10年の間に、貨幣価値はインフレの影響で大幅な下落が起きてしまい、ザッと30%くらい下がってしまったわけ。
さて、この場合に、返済期限時に、私はサルに対して、650万円(10年前に貸し付けた当時の500万円の価値分)の返済を請求することが出来るでしょうか?
できねぇお!!
おまっ!!
ナニ、インフレによる貨幣価値の下落を、あたしに押し付けようとしてんだお!
くっそ図々しいなぁ、オイっ!!!

債務者は、原則として名目額で支払えばええんだお!
インフレなんてのは、資本主義社会では、通常起こり得ることなんだお!
だから当然、その危険は債権者・・・つまり、お前が負担すべきなんだお!!
従って、あたしに650万円の返済の請求なんて出来ないんだお!
あたしは借りた500万円を返せばええって話なんだお!!
悔しいか!? 悔しいのかっ!?
マヂざまぁっ!!
・・・すごく理解しているです。
・・・ただ、すっごく感じ悪い回答です。
ホントにね。
サル自身の問題にすれば、より理解しやすいのかなっと思って配役しただけなのに、えらい言われようじゃないのよ。
まぁ、理解しているみたいだから、ソレは何よりね。

じゃあ、次は例外・・・さっき、つかさちゃんが言った「事情変更の原則」が適用される場合について説明するわね。

この事情変更の原則が適用される場合は、必ずしも貨幣価値の下落(インフレ)によるものではないわ。
双務契約の場合に、予見不能で、かつ、著しい事情変更により、対価の均衡が失われ、契約通りの履行を強制したのでは信義に反すると認められる場合ってことになるわ。
この場合には、契約解除等が認められることとなるわ。
このような「事情変更の原則」が、法律の規定で明文化されているものも、実はあるんですよね。

地代・家賃の増減請求権借地借家法11条、32条)や、保険契約者等の責に帰しえない事由による危険著増商法657条1項、683条)等が挙げられますね。

一応、借地借家法11条1項だけ見ておきますか?
ハイです!

借地借家法第11条 (地代等増減請求権)

『1項 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増減しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。』

成程、成程です。
流石、つかさちゃん。
よく知っているわね。
ソレじゃ、例外の処理についても紹介したところで、ここで質問といっちゃおうかな。

質問

前回サルのせいで倒産の憂き目にあってしまったナカちゃんは、なんとか再起して、今は中東から石油を買う輸入業者として頑張っていました。
さて、輸入業者のナカちゃんは、サルに対して、この先5年間、1バーレル2000円で、石油を供給するという契約を締結しました。
しかし、産油国による突然の輸出制限措置のせいで、石油価格は2倍以上に高騰してしまい、1バーレル2000円という価格での契約の履行が困難なものとなってしまいました。

この事態に際して、ナカちゃんは、サルに対して、契約の解除を求めることが出来るでしょうか?
ひ、光ちゃん・・・あの、言いにくいんですけれど、まだ「解除」の勉強をしていないので、その質問は、いかがでしょうか。
  KYっすわ。
アスペっすわ。
あ・・・そ、そ、そうだったわね。
そ、それじゃ出しておいて、アレなんだけど、私が答えを言うことにしちゃうわね。

質問を「ナカちゃんは、サルに対して、事情変更を主張することができるか?」って、すれば良かったわね。

ちょっと難しい質問だったかも知れないけれど、事案のような
産油国による突然の輸出制限措置
は、予定されていることではないし、当然予期しうるものでもないといえるわ。

そうであることから、本件事案のような場合には、ナカちゃんは「事情変更を主張して、契約解除が認められるといえるわね。
また、この場合、契約内容の改訂は、解除の後、再契約締結の問題として、当事者の自由意思に委ねられるべきといえるわね。
  難しい質問です・・・。
そうね。
ただ「事情変更の原則」なんて、そうそう適用が認められるものではないから、あんまり考えることもないんだけどね。
でも、この「事情変更の原則」の適用可能性について検討するような問題もあるわけだから、押さえておいては欲しいわね。

ソレじゃ、ここからは説明だけにしちゃおうかな。

双務契約でなくても「事情変更」が認められる場合もあるのね。
これは、扶養料・養育費の変更の請求権があるわ。

扶養料(扶養権利者から扶養義務者に対する請求権)や、養育費(父母の一方から他方に対する子供の生活費分担金の請求権)の額が、一度定められたとしても、事情変更が生じたときは、当事者はその額の増減を請求することが出来るといえるわ。

この事情変更を認めた裁判例もあるわね。
大阪高決昭和56年2月16日
夫婦が離婚する際、一方が子を引き取り、その引き取った者の費用で養育する旨の合意があった場合でも、子の成長に伴い養育費が増加する等のときは、新たな事態に対処するため、事情変更の原則の適用が認められるといえるわ。
ふむふむ。
チイは、あんまり理解できていなかったとこだよぉ。
勉強になるよぉ。
そう?
そう言ってもらえると、私も嬉しいわ。

それじゃ、最後に、金銭債務の支払手段について、簡単に話して、金銭債権の勉強会を終わることにするわね。
金銭債務の支払手段だけど、原則、金銭債務の支払いは、各種の通貨(強制通用力のある貨幣。現金)をもってなされるわ。
  ソレ聞いた。
そうね。
原則については言ったわよね。

金銭債務の支払手段例外だけれど、その他の支払い手段としては、先ず預金手形が・・・当事者の合意によって定められている場合には、小切手、銀行振込といった支払い手段を用いることが出来るわね。

先ず、預金手形といったのは、この預金手形は信用が非常に高いものなのね。
これに対して、小切手、銀行振込といった手段は、預金手形よりは信用が低い支払い手段であることから、この支払い手段が当事者の合意によって定められている場合には用いることができるってことになるわけね。
  預金手形ってナァニ?
預金手形っていうのは、銀行振出の自己宛小切手をいうそうよ。
預金手形は、銀行が振出人兼支払人であるため、支払いが確実であることから、よっぽど特別の事情(例えば、振出銀行が信用危機に瀕しているとか、債権者にとって換金が不便である等)のない限り、債務者は、現金に代えて、この預金手形をもって支払うことができるとされているみたいね。
  ふむふむ。
預金手形かぁ・・・。
チイは知らなかったなぁ。
勉強、勉強だよぉ。
ふんふん。
預金手形かぁ。
あたしは知らないお。

・・・というわけで、あたしに現物を寄越すんだお。
勉強の為になっ!!
・・・誰に言ってるのかしら?
いや、光ちゃんも『いうそうよ』とか『いるみたいね』って、あんまり知らないみたいじゃないの。
ここは、後学の為にも、一度、その預金手形とやらを、実際に振り出してみて、お互い勉強するってのが、ええんやないのかな?
ね? ね?
別にいいわよ。
実際に見たことないものなんて他に幾らでもあるんだし、その都度、実体験を必要とするわけでもないからね。
実体験は必要やなくっても、預金手形は必要なんだお!
ソレも「高額」の・・・おっとっと、高額やなくって「後学」の為にね!
ウヒヒ、ウヒヒヒヒ。
・・・「ウヒヒ」なんて笑い方しておいて、そんなこと言われても説得力の欠片もないと思うです。
流石、藤さんです。
向学心のみならず探究心までお持ちなんですね。
見習いたいです!
あ・・・説得されてる方が、いたです。

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