種類債権の勉強も終えて、今日からは2回に分けて心機一転、金銭債権について学ぶことにするわね。 先ずは、条文を確認しましょうか。 民法402条を見てくれる? |
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民法第402条 (金銭債権) 『1項 債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済することができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。 2項 債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で弁済をしなければならない。 3項 前二項の規定は、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。』 |
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金銭債権とは、金銭の引渡しを目的とする債権をいうわ。 | ||
お金かぁ。 なんか、いかにも債権って感じしちゃうね。 |
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そうね。 我妻先生なんかも、金銭債権を指して『最も債権らしい債権』って言ってみえるからね。 |
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誰それ? | ||
ふえっ!? (※ ナカちゃんの基本書は我妻先生のダットサンです) |
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我妻先生を「誰それ」なんて、藤さんは、相変わらず御冗談ばっかりですよね。 | ||
つかさちゃんこそ、相変わらずよね・・・。 なんでもかんでも冗談で済まされると思ったら大間違いよ、サル? まぁ、いいわ。 今日のところは勉強会が進まないからスルーしておくわ。 さて、先ずは金銭債権の分類からね。 金銭債権は @金額債権(普通の金銭債権) A相対的金種債権 とに分類されるわ。 |
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その分類とは別に 絶対的金種債権 特定金銭債権 外国通貨金銭債権 という分類もありますよね。 |
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※ 金額債権と、相対的金種債権との誤記がありましたので、修正すると共に、御詫び方々、上記分類についての説明も設けておきます。 絶対的金種債権(純然たる種類債権) 一定種類の貨幣を、一定数量、引渡すことを目的とする債権 例)収集の目的で、明治30年発行の1円貨幣を、取引の対象とする 特定金銭債権(≒特定物債権) 陳列・収集の目的で、特定物たる金銭の引渡しを目的とする債権 例)古銭商に展示されている「この小判」を取引の対象とする 外国通貨金銭債権 外国の通貨で表わされた一定の金額を、その外国通貨で支払うことを目的とする債権 (※ これと異なり、例えば「10万ドルに相当する金額を、日本円で支払う」という内容の債権のように、外国通貨を勘定の基準として表示し、支払通貨を日本通貨とするときは、外国金銭債権ではなく「外貨価値債権」という。 円で支払うことに変わりはないが、円の基準となるのが外貨価値、ということです。) かなり細かい分類なので、ここまでの説明は不要かと思い、勉強会では下記の光ちゃんの判断になっておりました。 誤記については気をつけるようにしているのですが、慌しい更新をした為か、ここ最近多いですね。 極力ないよう気をつけるように致します、反省! (2016.6.22 アホの管理人) |
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まぁ、そこまで細かい紹介は不要かなって思ってね。 この勉強会では@金額債権とA相対的金種債権の分類の紹介で終わっておこうと思うわ。 |
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あ、そうなんですね。 すみません、余計なことを言ってしまって。 |
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ううん、いつもフォローしてくれる、つかさちゃんには感謝してるから、遠慮せずにドンドン言ってくれると嬉しいわ。 | ||
は、はいっ! | ||
えーっと、ソレじゃ金銭債権の分類の1つ目。 @金額債権(普通の金銭債権)からね。 金額債権とは、一定金額の支払いを目的とする債権をいうわ。 この金額債権においては、金額を重視し、金銭の種類を重視しないわ。 だから、どのような金銭で支払うかは債務者の選択に委ねられ、各種の「通貨」(強制通用力のある貨幣。通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律3条、7条、及び日本銀行法46条2項による)をもって弁済することができるわ(402条1項本文)。 次にA相対的金種債権ね。 相対的金種債権とは、一定金額を特定の種類の通貨で支払うことを目的とする債権をいうわ(402条1項但書き)。 例えば、1万円札で100万円支払う、みたいなことね。 |
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お金なんて耳揃えて渡してくれればええって思うんだけどなぁ。 なんで、わざわざ『特定の種類の通貨』なんて条件をつける必要があるんだお? |
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この402条1項但書きの目的とするところは、当事者の合意(金種約款)によって、貨幣価値の安定した通貨を指定しておけば、貨幣価値の変動に対処できる点にあるわね。 もっとも、その特定の種類の通貨が、履行期において強制通用力を失ったときには、債務者は、他の通貨で弁済しなければならないとされているわけだけどね(402条2項)。 |
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なるほろ、なるほろ。 |
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今の説明と関連して、金銭債権の弁済に関する原則と例外とを押さえておいてね。 原則、金銭債権の債務者は、その選択に従って、各種の通貨(強制通用力のある貨幣)で弁済することができるわ(=金額債権の場合。402条1項本文)。 そして、例外として、一定種類の通貨をもって、一定額の支払いを約したときは(=相対的金種債権の場合)その合意に従うってことになるわけね(402条1項但書き)。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
重要なのは、金銭債務不履行の場合の特則ね。 金銭債務の不履行(=履行遅滞)の場合には、金銭債務には、一般の債務不履行とは異なる2つの特則があるわ。 ここは、しっかり押さえておいてね。 2つの特則は 1)要件上の特則 と 2)効果上の特則 とがあるわ。 |
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ふむふむ。 | ||
1)要件上の特則からね。 この2つは、金銭債務においては特に重要な点になるから、しっかり聞いておいてね。 @金銭債務においては、債務者は、不可抗力をもっても、抗弁とすることができないわ(419条3項)。 条文を、確認しておきましょうか。 民法419条を見てくれる? |
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民法第419条 (金銭債務の特則) 『1項 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。 2項 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。 3項 第1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。』 |
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『不可抗力をもって抗弁とすることができない』 っていうのは、どういうことなんだお? 返せないものは返せない(=返すお金がないから返せない)んだから、仕方ないって話にならないわけ? |
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ならないわね。 債務不履行の一般原則からすれば、債務者は、自己に帰責事由(故意・過失)のないことを証明すれば、免責されることとなるわ(415条参照)。 でも、金銭債務の不履行にあっては、たとえ無過失を証明しても、さらには不可抗力を証明しても、免責されることはないわ。 |
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ふえっ!? 不可抗力であっても免責されないですか!? えーっと、例えば、今年(2016年)起きた熊本地震みたいな災害に遭って、そのせいで返済日に間に合いませんでしたっていうのなら認められないですか? |
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認められないわね。 419条3項は『不可抗力をもって抗弁とすることができない』と定めているわけだから、返済が遅れたら、その理由が、今ナカちゃんが言ってくれたような大災害によるものであったとしても、履行遅滞による損害賠償義務を負うってことになるわ。 |
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あ・・・あと、ちょっと光ちゃんの答えが、藤さんの御質問に対するお答えになっていませんでしたので、答えておきますと・・・藤さんの主張が「返すお金がないんだから返さない」というものでしたらば、その主張は、不可抗力以前の話であって、そもそも通らないですね。 | ||
マヂでかっ!? | ||
え? 本気で聞いていたの? 私は、てっきりまたサルが冗談で下らない質問をしているんだと思って、聞き流しちゃったわ。 『ない袖は振れない』 とは言うけれど、お金がないから返さない、なんて主張がまかり通るとでも思っているわけ? |
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返したいけど、お金がなければ返せないんだから、ソレを債務不履行(415条)なんて言われると不本意なんだけどなぁ。 | ||
ナニを言ってんだか。 あ、因みに、今サルが言った債務不履行についてなんだけれど、金銭債権においては、履行不能は考えられないからね。 |
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え? なんで? なんで? お金がなくって返せないんだから、ソレは履行不能ってことやないの? |
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違うわよ! 債務不履行については、まだ勉強していないから、ちょっとワカリ辛いかも知れないけれど、履行不能っていうのは、物がないから履行できないってことを言うのよ。 サルのいう「お金がないから返せない」っていうのは、物(お金そのもの)がなくなったわけではないんだから、履行不能ではないわ。 現実問題として、サルの手元に弁済すべきお金がなくたって、お金自体は、市場にはそれこそ大量に流通していて、なくなるなんてことは考えられないわけでしょ? 金銭については、そういった特徴があることから「種類債権の極限」なんて呼ばれ方もされるわね。 つまり、お金は価値そのものであることから、目的物の特定は生じないわ。 だから、金銭債権についての、債務不履行には、履行不能は考えられず、常に「履行遅滞」しか考えられないってことになるわね。 |
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あららら。 | ||
あららら・・・じゃないよぉ。 お金が弁済期にないからと言って、未来永劫にないわけじゃないんだし、返す当てが出来るときもあるわけだからねぇ。 その時には返せるってことを考えれば、履行不能じゃなくって、あくまで履行遅滞(履行期に遅れること)ってことになるんだよぉ。 |
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でも、返すお金がないんだから履行不能っていうのは面白いですよね。 藤さんの御冗談には、いつも笑ってしまいます。 |
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うん? 今のあたしの冗談、ウケちゃった? |
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藤さんのご冗談、大好きです! | ||
・・・冗談じゃなかったと思うんですけどぉ。 まぁ、いいわ。 1)要件上の特則の2つ目ね。 A金銭債務の不履行において、債権者は、損害の証明をすることを要しないわ(419条2項)。 コレは、次に説明する2)効果上の特則と関係するところなんだけど、まぁ、考えてもらえればワカルと思うけれど、お金なんて価値そのものだからね、100万円の債権で、100万円の損害の発生ってことなら、証明なんて不要って話になるわけよね。 |
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まぁ、そりゃそっか。 | ||
2)効果上の特則には、原則と例外があるわ。 先ずは、原則からね。 金銭債務の不履行における損害賠償額は、法定利率によって定まるわ(419条1項本文)。 因みに、法定利率は、民事利率は年5%(民法404条)。 商事利率は年6%(商法514条)になるわね。 一応、民事利率については条文を確認しておきましょうか。 民法404条を見てくれる? |
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民法第404条 (法定利率) 『利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。』 |
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この法定利率による賠償額は、利率について特約のないときになされるわ。 この法定利率は非常に強いのよね。 仮に、債権者が、損害額がこれより大きいことを証明しても請求することはできないし、また、債務者が、損害額がこれより小さいことを証明しても、減額を主張することはできない、というのが判例・通説の考え方になるわね。 (最判昭和48年10月11日) |
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そうですね。 この場合の賠償されるべき損害額は、実損害額ではなく、法定利率によって算出された損害額になるってことですね。 |
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そういうまとめになるわね。 じゃあ、原則は見たから、次は例外についてね。 この例外の場合は、次の3つの場合があるわ。 1つ目は、利率について特約があり、その利率が法定利率を超えるときは、約定利率によるってことね(419条1項但書き)。 2つ目は、当事者が、損害賠償額の予定をしたときは、それによるってことね(民法420条)。 ここは、条文を確認しておきましょうか。 民法420条を見て欲しいわ。 |
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民法第420条 (賠償額の予定) 『1項 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。 2項 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。 3項 違約金は、賠償額の予定と推定する。』 |
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ナカちゃん、ありがとうね。 この民法420条にいう損害『賠償額の予定』には、実損害を賠償する旨の特約も含まれるわ。 これは、419条1項が任意規定であることから、特約があれば、その特約が優先されるためね。 3つ目は、法律で、利息の他、損害賠償を支払うべき旨が定められているときね。 この場合の法律としては、民法647条、669条、873条2項等が挙げられるわね。 |
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じょ、条文は見なくていいですか? | ||
そうね、また各論の勉強会の際に触れるようにするわ。 ソレじゃ、今日の勉強会の理解を確認する意味で、一つ質問をして終わることにしましょうか。 質問! 小さな会社を経営しているナカちゃんは、サルに頼まれて、会社の金1000万円を、年利8%で融資したのね。 ところが、相手はあのサルだから、弁済期が来たのに、お金を返済してくれなかったわけ。 その為、ナカちゃんの会社は振り出した600万円の約束手形の決済が出来ず、不渡処分を受け、その結果、倒産してしまったの。 さて、この場合、ナカちゃんは、サルに対して会社の倒産による損害賠償を求めることができるでしょうか? |
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あうあうあうあうあう。 私の会社が、藤先輩のせいで潰れてしまったです! |
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1000万円の返済義務がオネーちゃんにはあるよね! その返済を怠ったんだから、ナカちゃんは、オネーちゃんに金銭債務の不履行による損害賠償を求めることが出来るよね。 金銭債務の不履行については、原則として、利率についての特約がなければ、法定利率の商事利率年6%(ナカちゃんは会社経営の商人なので、商事利率が適用されるため)になるけど、約定利率があるから、例外の特約に基づく約定利率の年利8%による損害賠償額になるよね。 チイは、ナカちゃんの会社が倒産しちゃったわけだから、会社の倒産による損害についても、オネーちゃんに求めたいとは思うけれど・・・賠償内容は、金銭債務の不履行についてだから、会社倒産による実際の損害の賠償までは求めることは出来ないと思うよぉ。 |
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あうあうあうあう。 そうなっちゃうですか? |
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そうね。 金銭債務の不履行である以上、今のチイちゃんの答えた通りになるかな。 |
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あうあうあうあう。 | ||
今日の金銭債権の勉強会をまとめておきますと・・・金銭債権の特色のポイントとして押さえておくべきなのは、次の3点になりますね。 @目的物の特定がない。だから履行不能はない。 A不可抗力は認められない(419条3項) B損害の発生を証明しなくてよい(419条2項) という整理になりますでしょうか。 あ・・・竹中さん、聞いてみえます? |
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えっぐえっぐ。 藤先輩は、いつも意地悪ばっかりするです。 |
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なんだか謂れのない非難を受けているわけだけど。 あの腐れ金満の事案のキャスティングには悪意しか感じないお。 |
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そうですよね。 藤さんが、弁済を怠るなんてことは「考えられない」話ですものね。 |
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違うです、違うです! 「考えられない」のは、事案の私が藤先輩に1000万円もの大金を貸したことです! 藤先輩は、きっと最初っから返す気なんてなかったに違いないです! どうして事案の私は、藤先輩に大事な会社のお金を・・・ |
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・・・。 | ||
ハッ! お、思わず、全部口に出してしまっていたです! |
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チビッ子め・・・。 随分と言うようになったやないの。 |
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あ・・あの・・・その・・・ | ||
ええじゃない、ええじゃないの。 | ||
ふえっ!? 怒ってないですか? |
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お互い言いたいことを言えてこその友達だかんね! 思ってることは、そうやって言ってくんないとね! |
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藤先輩っ! | ||
・・・あんたは少し自重することも覚えなさいよ。 なんでも言えば、いいってもんじゃないわよ? |