さぁ、じゃあ今日からは『錯誤』について勉強するわね。 ザックリ言っちゃうと、錯誤って言うのは、思い違い・勘違いってことよね。 前に私が、サルがチョコレートを買うつもりで、ビスケットを買っちゃったって話をしたじゃない? 錯誤って、そういうことなのよね。 じゃあ、まずは勉強する条文の確認からね。 六法で、民法95条を確認してくれる? |
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民法第95条。 『(錯誤) 第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。』 |
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錯誤というのは、内心の効果意思(真意)と表示との間に不一致が生じているんだけれど、表意者自身は、その不一致を知らないことを言うのね。 じゃあ、この不一致を表意者自身が知っていたら、どうなるの? |
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知ってたら、ソレ、ただの嘘つきじゃない? 本音は違うこと思ってんのに、別のこと口にしているわけでしょ? |
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よくワカッテイルじゃないの。 あんたが、いつもやってることだもんね。 心裡留保と、錯誤とを分かつ部分でもあるって、以前、心裡留保の要件を話す際に言ったよね。 表意者が、真意と表示との間の不一致を知ってて、しているなら心裡留保。 表意者が、真意と表示との間の不一致を知らないなら、それは錯誤ってことになるわね。 心裡留保と錯誤との違いをザックリ言うなら、心裡留保は嘘。錯誤は勘違いってことになるわ。 あんたは、ドッチもやりそうだけどね。 |
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一言多いよね・・・ どうせなら気持ちよく勉強したいのになぁ。あたし。 |
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藤先輩なんて、いつも一言どころか二言以上多いです! 私に、変なアダナをつけてイジめてるくせに、自分だけ気持ちよく勉強したいなんて、ダブスタです! |
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・・・。 (このチビっ子、最初は殆ど口開かないくらい大人しかったのに、最近やたら言うようになってきたなぁ。 ココは一発、大人の女として、ガツンと頭突き入れとかないと駄目かなぁ?) |
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イヤですぅぅぅっ!! |
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・・・・。 (そうだったお・・・ このチビっ子、先読みしやがるから、いつも逃げるんだったお。 なんとか、このチビっ子を出し抜いて頭突き入れる技を編み出さねばっ!)) |
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そんな技を会得する暇あるなら、試験勉強を頑張るべきです! 私みたいに留年したら、どうするんですかっ! |
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サ、サ、サトリの妖怪じゃぁあぁぁぁぁぁぁっ!! | |||
開始早々豪快に脱線してるんじゃないわよ! 錯誤を定めた民法95条の制度趣旨は、表意者保護なの。 人は誰しも、勘違いしてしまうことはあるわよね。 そんな勘違いをしてしまった表意者を保護するために、錯誤による意思表示は無効としているのよね。 ただし、アレは勘違いだったから無効にします、なんてことが横行しちゃうと、今度は、取引が後から無効にされてしまうことが頻発しちゃって、これはこれで問題よね。 だから、表意者保護を求めつつ、他方、取引の安全も考慮して、その両者の調和をとろうというのが、この民法95条の制度趣旨なの。 |
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『間違えたっていいじゃないか 人間だもの さくご』 |
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流石、藤さんっ!! 相田みつを先生顔負けの名句ですね! |
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・・・殆ど、パクりじゃないですか。 | |||
ナニ、下らないこと言ってるのよ! どうせなら、錯誤(サクゴ)と語呂合わせで、95条(クゴ)って覚えるといいよね? くらいのこと言いなさいよ! 私は、あまり条文を語呂合わせで憶えることはないんだけど、錯誤の95条なんかは、結構、語呂合わせで憶えちゃったわね。 |
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あ、光ちゃんもそうなんですか? 実は私もです。 光ちゃんは、そんな憶え方はされないと思っていたので、なんかソレ聞いて嬉しいです。 |
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つかさちゃんも? やっぱり、錯誤は、語呂合わせしちゃうよね? さて。 錯誤の要件だけど、コレはもう、まんま条文から導けるから。 『意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。』 という95条の条文から・・・ 要件としては @『法律行為の要素に錯誤』があること A『表意者に重大な過失』がないこと が、表意者が、錯誤無効を主張するための要件となるわね。 |
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『法律行為の要素に錯誤』があるって、どういう意味? 『要素』って文言が、なんか引っ掛かるんだけど、ソレいるの? |
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この『法律行為の要素に錯誤』って文言は、錯誤においては重要な意味を持っているわ。 考えてみるとワカルと思うんだけど、錯誤があれば無効が主張できる、ってことになると、ささいな錯誤であっても、法的には無効にできちゃうことになってしまって、社会的に取引が成り立たなくなっちゃうわ。 そこで、民法95条は、法律行為の『要素』に錯誤がある場合にのみ、錯誤無効の主張を認めているのよ。 この『要素』には、判例・通説は、2つの要件を求めているわ。 『要素』の要件は、 @(主観的には)因果関係 A(客観的には)重要性 の2つが求められるってことになるわね。 因果関係とは、その点について錯誤がなければ、表意者は、その意思表示をしなかっただろう、と言えること。 重要性とは、錯誤がなければ意思表示をしなかっただろうことが、一般通常人の基準から(=一般取引通念に照らして)もっともであると言えること。 ってことね。 |
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因果関係と重要性かぁ。 なんか漠然としてて、今ひとつピンと来ないなぁ。 いつもみたいに質問出して欲しいなぁ。 |
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いいわよ。 それじゃ、次の質問の事案が、『要素』の錯誤と言えるか考えてみて? 質問! サルが私に、借金してしまったから、その借金の保証人になって欲しいって頼みに来たの。 私は、サルが困っているならって思って保証人になったんだけど、実は、その借金はサルの借金ではなくって、サルの友達の借金だったのよね。 (大判昭和9年5月4日をベースとした事案) さぁ、この場合の錯誤は、『要素』の錯誤と言えると思う? 『要素』の錯誤と言えるのであれば、私は錯誤無効を主張できることになるわね。 どうかしら? |
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金持ってんだから、ゴチャゴチャ言わんと、保証人くらいやってくれって思うかな。 よって、錯誤無効なんか言わせねぇおっ! |
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答えになっていないじゃないですか・・・。 この事案の明智先輩の錯誤は、人違いですよね。 藤先輩だと思っていたのに、実は違う人だったってことですものね。 藤先輩のためならってことで保証人になったのに、ソレが実は違う人でしたって言うのなら、そもそも保証人にはならなかったと言えます(因果関係)。そして、保証人になるかならないかは、相手次第(重要性)だと思いますから、この錯誤は、『要素』の錯誤と言えると思います。 |
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うんうん。ナカちゃん、大正解っ! ・・・サルには、もう質問出してあげないっ!! 実際、今の質問のベースとした判例の最高裁も、この人違いは『要素』の錯誤にあたると判断しているわね。 ナカちゃんが言ってくれたように、いわゆる人違いの錯誤の場合、相手方が誰であるかに重きを置くような法律行為の場合には、『要素』の錯誤と判断されるわね。 保証人以外だと、例えば、贈与や、委任、雇用、賃借なんかもそうね。 でも、現実売買などのような1回限りの関係、継続的でない関係の法律行為においては、『要素』の錯誤と判断されないことが多いわね。 もっとも、常にそうって言えるわけではなくって、類型的にそうなることが多いっていう話だから、個別具体的な検討は必要だけどね。 |
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こくこく(相槌) | |||
じゃあ、真面目なナカちゃんには、もう1問。 質問! 金融業を営んでいたナカちゃんが、私を資産家だからと見込んで無担保で融資をしてくれたの。 でも、実際には、明智財閥は倒産しちゃってて、私は無一文だったのよね。 さぁ、この場合はどうかしら? ナカちゃんは、錯誤無効の主張はできると思う? |
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明智財閥倒産マヂ飯うまっ! ようこそ! 貧民の世界へ。 |
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・・・明智先輩だと分かって、明智先輩にお金を貸しているんだから、人違いとは言えないですよね。 でも、明智先輩が資産家じゃないと言うのなら、無担保での融資なんて、普通しない(因果関係)ですよね。 ただ、私が勝手に明知先輩が、明智財閥の人だから資産家だって思って無担保での融資をしておいて、ソレを、後から無効だ、なんて言っていいものでしょうか? |
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いわゆる「動機の錯誤」ですね。 竹中さんは、「お金持ちの人だから」という理由から、無担保での融資を決意されたわけですよね。 つまり、動機付けにおいて錯誤があったと言えますから、この問題においては、「動機の錯誤」の検討が必要かと思います。 |
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そうね。この種の問題においては、「動機の錯誤」の検討は必要になるわね。 実は、錯誤には大きく2つの分類があるの。 動機の錯誤と呼ばれるものと。 表示の錯誤と呼ばれるものね。 民法95条の定める本来の錯誤は、この2つの分類のうち表示の錯誤のことを言っているの。 これに対して、動機の錯誤っていうのは、内心の効果意思と、表示との不一致はないんだけれど、事実から動機を形成する過程において錯誤が生じているっていう場合を言うの。 ところで、下の図を憶えている? |
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動機 ⇒ | 効果意思 ⇒ | 表示行為 | |
左馬之助の服汚れてきたなぁ。 新しい服買ってあげよっかな。 |
この服がいいわね。 この服を買いましょ。 |
『すみません。 この服を下さい。』 |
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意思表示の成立要素ではないが、動機の不法や、錯誤においては重要な意味をもつ。 | ある動機に基づいて決定された一定の法律効果を欲する意思 | 効果意思の外部への表現行動 | |
この過程を意思表示という。 | |||
例のヌコの話で見たね、これ。 意思表示のときだったっけ? |
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そうね。 私の愛する左馬之助を、あんたが散々言ってくれたときよね! 動機、効果意思、表示行為、それぞれの心理過程については、上の図で再確認してくれればいいからね。 さ、それじゃ質問の検討に戻るわね。 ナカちゃんは、私にお金を無担保で貸そうと思って、実際に、その通りの表示行為をしているのだから、真意(効果意思)と表示(表示行為)との間に不一致はないことになるわ。 つまり、錯誤は生じていないことになるわ。 でも、お金持ちの人だから無担保で貸そうって思ったという動機があった以上、事実から動機を形成する過程においては錯誤が生じているって言えるわよね。 このような動機の錯誤を、どう考えるのか、というのが問題になるわけ。 |
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動機なんて知らないよ! だって、その人がナニを考えて決めたのかなんて、相手はワカラナイじゃないの! |
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珍しく、まともなこと言うじゃない。 そうよね。 動機の錯誤は、意思と表示との間に不一致はないのだから、本来の錯誤には、あたらないわ。 そして、今、サルが言ってくれたように、動機は相手方からはワカラナイものよね。 したがって、「動機の錯誤」は、原則として民法95条にいう錯誤ではないということとなるわ。 |
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うわ・・・ きたよ・・・ 「原則として」の付言。 きちゃうね、コレはきちゃうね。 例外が・・・ |
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ザッツライトっ! 動機の錯誤であっても、本来の錯誤と同様に、無効となる場合が例外的にあるわ! その要件としては、判例は次のように述べているわ。 『意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する』 (最判平成1年9月14日 百選T 24事件) 上記判例から、求められる要件としては、 @動機が表示されて、法律行為の内容となっていること Aそれが『要素』の錯誤にあたること の2要件ね。 『要素』の錯誤については説明したから、@の要件について説明するわね。 @動機が表示されていること、というのは、明示的に表示されていれば、ソレがいいに決まっているんだけれど、黙示的な表示であっても良いとされているわ。 |
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ちょいちょいちょいちょいっ!! 黙示的でもいいって、どういうこと? 言わんかったらワカラナイんじゃないかな? 黙示的な表示って、どういうことなの? |
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黙示の表示が認められる場合というのは、動機が、重要な意味をもつことが、その取引における諸状況からして、当事者間では、取引の共通の前提とされていたと認められる場合をいいますね。 藤さんのお好きなザックリした説明ですと、その動機が、その法律行為に不可欠な程、重要であるため、その動機を抜きにしては、最早、その法律行為の客観的合理性が成り立たないと言えるくらいのもので、さらには、相手方が、その行為から利益を受けることが不当と見られるような場合を言うものと思ってください。 |
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クロちゃん、あんがとね。 御礼ついでに2つ、いいかな? |
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あ、はい! なんでしょうか? |
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まず1点。 ザックリの説明は、もっともっともぉぉぉっとザックリにしてくんなきゃダメなのっ! あたしのスペックを、なめてもらっちゃ困るよ? もう1点。 そんなクソ厳しい条件じゃ、黙示の表示なんて、ほとんど認められないってことになんじゃんっ! |
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あああぁ・・・も、も、申し訳ありませんっ! 藤さんはお出来になるのですから、こんな冗漫な説明はご不要だったということですよね? すみません、すみません。 でも、2点目ですけれど、そもそも「動機の錯誤」は原則95条の錯誤にはあたらないものなのですから、ソレを例外的に認めるための要件が厳しいのは、当然のことだと思うのですが・・・。 ましてや、動機が明示的に表示されていない黙示の表示を、動機の表示としてみるわけですから・・・。 |
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・・・・。 (1点目については、微塵もわかっていないけど仕方ないか。 でも、定期試験終わったら、あたしがオミソってことバレちゃうんだろうなぁ、くぅぅ。) |
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あんた、なんで教えてもらったのに、そんなこと言えるのよ? つかさちゃんも、謝らなくっていいわよ! 動機の錯誤において、錯誤無効の主張ができるかどうか、というのは、なかなか難しい問題よね。 ちょっと質問出してあげるから考えてみる? 質問! サルが、近所に鉄道が通ることになって新しい駅が出来るっていう情報を入手して、土地相場の上昇を見込んで、現在は荒地で、坪単価1万円程度の土地を、地主さんに交渉して、坪30万円で500坪購入したの。 ところが・・・鉄道が通るっていう話はガセで、鉄道がくることはなかったっていう場合、サルは、錯誤無効を主張できると思う? |
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あたし、そんなお金持ってないお。 財布見る? 今、手持ちのお金200円だお? |
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藤さんは、鉄道計画による土地高騰を見込んで、荒地の購入(以下、「本件取引」)をされてます。しかし、実際には、鉄道計画は果たされず、藤さんの本件取引は、鉄道計画を前提としたものであった以上、錯誤があったといえます。 そこで、本件取引について錯誤無効の主張ができるかを検討します(民法95条)。 藤さんは、荒地の所有権を得ようという効果意思で、お金を払って荒地を実際に買っているわけですから、効果意思と表示行為との相手に不一致はありません。 でも、事実から動機を形成する過程においては、錯誤があると言えますから、この藤さんの錯誤は、動機の錯誤にあたります。 意思と表示との間に不一致がない以上、動機の錯誤は、本来は錯誤とは言えませんが、錯誤の趣旨である表意者保護の要請から、このような場合であっても、例外的に錯誤無効の主張を認めるべきと言えます。 他方、取引の安全の見地から、相手方の被る不利益との調和を図る必要もあるといえます。 そこで @動機が明示的又は黙示的に表示され、その動機が法律行為の内容となっていて、Aそれが、法律の『要素』の錯誤と言えるのであれば、相手方も表意者の動機について知り得ること、そして、その錯誤がなければ、表意者は、その意思表示をしなかったであろうといえることから、錯誤無効の主張を認めるべきと言えます。 この点、本件事実に当てはめて検討するに、藤さんは、動機の錯誤であるにもかかわらず、この動機を相手方に表示したという事実が認められません。 したがって、藤さんの錯誤は動機の錯誤に過ぎず、また、例外的に錯誤無効の主張を認めるべき要件を充足するための動機の表示が、明示的にも黙示的にもなされていない以上、錯誤無効の主張は認められないと言えます。 |
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ぱちぱちぱち(拍手) スゴいです、スゴいです! すっごい丁寧な回答です! |
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試験が近いから、答案を意識した回答を心掛けてみました。 藤さんが、最近、試験のことを気にされてみえるので、お力になれればなって思いまして。 |
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「動機の錯誤だけど、表示がないから錯誤無効は成立しない。」 あたしなら2行だお! |
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藤さんは、私なんかよりもお出来になりますから、その理解でいいでしょうけど、答案は、ソレでは点数入らないですよ? | |||
つかさちゃんも、もう、こんなサルなんか甘やかせないでいいわよ。 定期試験で痛い目見れば、少しは真面目になると思うし。 でも、つかさちゃんの答えを聞いてて少し気になったんだけど、今の質問で、もし動機が表示されていたなら、つかさちゃんは、錯誤無効は成立すると思う? |
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動機の錯誤であっても、表意者保護の趣旨は妥当するわけですから、本来の錯誤と同様に、 @動機が表示されていて法律行為の内容となっていること A要素の錯誤となっていること の2つの要件を充足していれば、例外的に錯誤無効が成立すると私は思っていますから、光ちゃんが言うように、動機が表示されていたと言うのであれば、錯誤無効は成立するという結論になるかと思います。 |
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そうかなぁ。 私は、この質問のサルの行為は、「投機行為」だと思うのよね。 だから私は、仮にサルが、土地の地主さんに鉄道計画があるから、あんたんとこの荒地を買うんだよ、って、その動機を表示していたとしても、投機行為である以上、そのリスクについても、単に自分だけの判断の結果なんだから、サルが負うべきだと思うわ。 だから、動機を表示していたとしても、やっぱり錯誤無効の主張はできないという結論にするかなぁ。 |
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そんな深い意図での質問だったんですね。 私は読み取れませんでした。 |
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違うわよ。 つかさちゃんが丁寧に検討してくれたお陰で、答えを聞いてて、ふと思ったんだから。 そうかなぁ、って思ったから聞いてみたの。ありがとうね。 |
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あ、でも私も、今の光ちゃんの答えを聞くと納得いきます。 投機行為という行為の性質を、確かに、私は考えていませんでしたね。 |
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おいおいおい。 勉強会から脱線してんじゃねぇお。 いつまで2人で、くっちゃべってんだお! |
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まったく脱線なんかしてないじゃないのよ! ナニ聞いてるのよ!? じゃあ、あんたには特別に質問出してあげるから考えてなさいよ! 質問! サルは、私の所有している馬を、受胎(子供をお腹に孕んでいる状態)している馬だと思って高値で買う契約をしたの。 ところが実は、その馬は受胎していなかったのよね。 この場合、サルは私に対して、錯誤無効を主張できると思う? (大判大正6年2月24日をベースとした事案) |
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できる、できる。 錯誤無効だね。 |
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理由っ!!! 理由もちゃんといいなさいよ! |
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『理由』? 宮部みゆきの小説だよね? 映画は見たけど、ドラマ版はまだ見てないんだよねぇ。 あたしが、宮部みゆき好きだって、よく知ってたね? 言ったっけ? |
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藤さんが読書好きなのは知っていますけど、その答えでは光ちゃんが怒るのは無理ないですよ? 質問の事案ですと、高値で取引をしているというところがポイントだと思います。通常の馬の売買取引を考えれば、高値で取引をしているのですから、ソコには何らかの理由があったと見るべきです。 つまり、藤さんは買う馬が受胎している馬だと思えばこそ、そのお腹の中の馬の分を、取引価格に上乗せされて高値をつけたのだということです。 そうであれば、この高値には、動機の黙示の表示があったと言えるということです。 したがって、動機の黙示の表示があり(要件@充足)、この馬の高値の購入においては、受胎についての錯誤は、『要素』の錯誤と言える(要件A充足)以上、錯誤無効は成立するといえますよね。 でも、この質問のベースとなった受胎良馬売買事件では、たしか黙示の表示の存否は問題にすることなく、錯誤を認めていますよね。 |
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つかさちゃんが、私の味方してくれるなんて嬉しいわっ! ありがとうね! |
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四面楚歌だお・・・。 光ちゃんはいつもブチ切れだし。 ナカたんは噴霧器作ってくるし。 最後の砦のクロちゃんまで・・・ |
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そんなことないです。 私は、いつも藤さんの味方ですよ? ただ、今のは流石に・・・。 |
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いいから、いいから。サルに申し開きなんてしなくて、いいから。 じゃあ、言いそびれている動機の錯誤の1つ目の要件の後半部分について説明するわね。 動機が法律行為の内容となっていること だったわよね。 コレは、動機が、そのことによって利益を受ける表意者の一方的な意思表示では足りず、不利益を引き受ける相手方が、意思表示の内容とすることへの同意があることが求められるわ。 相手方の同意が、どのような場合に認められるかは、意思表示解釈の問題だから、問題を読んで検討すべきと言えるわね。 動機の錯誤について、最後にザックリした、まとめをするなら・・・。 動機が表示されていれば常に錯誤無効の主張ができるわけじゃないってことなの。 さっき、つかさちゃんが答えを言う際に意識してくれていたように、その錯誤が『要素』の錯誤じゃないといけないってことを大事にしてね。 |
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あ、そー言えば。 「猫の皿」って落語知ってる? あたしの好きな落語の話の一つなんだけどさ。 ある古美術商やっているオッサンがいたんだけど。 このオッサンは、地方を回って、お宝を安く買って、それを江戸で高値で売るっていう、あくどい商売をしてたのね。 そのオッサンが、ちょっと茶店に寄ったところ、なんとビックリっ! その茶店の猫のエサ食っているお皿が、すっごいお宝の皿だったのよ! コレは・・・ と思ったオッサンは、茶店の主が、猫のエサの皿にこんなお宝を使っているのは、この皿の価値を知らないからだろう、それなら安く買い叩いてやろうと思って、茶店の主に話を持ち掛けるわけ。 「ご主人。わしは、この猫がえらく気に入った。 是非、わしに譲ってはくれないだろうか。 ついては、今までの世話代等もあろうから3両でどうだろう?」 ってね。 茶店の主も、最初は、そんな猫に3両なんて・・・とか言って遠慮するんだけど、オッサンは、いやホントこの猫が気に入ったんだ、とか嘘八百抜かして、まんまと猫を3両で買い取ることになるのね。 そんで、 「猫もエサを食うのに、皿が違うと食べないといかんからなぁ」 なんて嘘吹いて、皿も一緒に持って帰ろうとするんだよね。 ところがドッコイ! 茶店の主が、オッサンから皿を取り上げて 「いやいや、これは名のあるお宝ですから、到底3両ではお渡しできません。」 って言って持ってちゃうわけ。 ちょ、ちょ、マヂで!? ってオッサンは面食らうじゃない。 「な、な、なんでまた、そんな大層な代物って知っていたのなら、猫のエサの皿になんかしてるんだよ!」 って噛み付くよね? ソコで、茶店の主が、こう返すの。 「はい。 こうしておりますと、時々猫が3両で売れます。」ってね。 あ、コレがサゲね。 |
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面白いですっ! 「猫の皿」なんて落語あるんですね。 私、猫が大好きだから、猫の出てくる落語なんて是非聞いてみたいです。 |
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なんで急に落語なのよ? ・・・で? あんたは、ナニが言いたいの? |
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いや、このオッサンは、錯誤無効の主張はできるのかなぁ? ってさ。 |
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もう教えることは勉強会で伝えたんだから、たまには自分の頭使って考えてみたら? | |||
藤さんっ! 私は、一緒に検討したいです。 帰りに一緒に、考えながら帰ることにしませんか? |
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質問というより、最早完全に落語の独演会になっていたです。 でも、最後のサゲは『じょしらく』で聞いた憶えがあるです。 この話のサゲだったんですね。 |
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『じょしらく』ではサゲしか見れなかったけど、ドラマの『タイガー&ドラゴン』なら、バッチリ『猫の皿』見れるよ? 『タイガー&ドラゴン』は、クドカンのドラマだし面白いから見てみるといいよ。 でも、個人的には『猫の皿』の落語そのものを見るのがお奨めだよね。 色々な方がやってるけど、あたしは立川志の輔の『猫の皿』が一番お奨めだよ? |
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じゃあ、ドラマも、『猫の皿』も、夏休みに、一緒に藤さんの家で鑑賞会しましょう! | |||
私も行きたいです! | |||
定期試験が、その前にあることをお忘れなく。 | |||
『忘れたっていいじゃないか。 人間だもの あたし』 |