正当防衛A 成立要件
それじゃ、今日は前回に引き続き、正当防衛成立要件を抑えていくことにするわね。
おさらいがてら、条文の確認と、正当防衛の成立要件を再確認してからにしましょ。

六法で正当防衛を定めている刑法36条を見てくれる?
刑法第36条

『(正当防衛)第36条 
1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
ありがとね。
この条文から導かれる正当防衛が成立するための要件は、次のものだったわよね。

@急迫』の『侵害
A不正』の『侵害
B自己又は他人の権利
C防衛するため
Dやむを得ずにした行為

前回は、@急迫の侵害』について理解したから、今日は、その続きの要件を見ていくわね。
  ・・・4個も残っているよ。
最初に言っておくけれど、今日はACまではやる予定だから。
サルも、そのつもりで進行に協力しなさいよ?

はい。
それじゃ、A不正の侵害』についてね。

ここにいう『不正』とは、違法(=法秩序に反することと同義ね。
したがって、責任無能力者の侵害行為も不正』ということになるわ。

ここで問題になるのは対物防衛なのよね。
対物防衛
石を投げられた、とかそういう場合?
ソレは対物防衛ではないわ。
対物防衛の問題とは、物や動物の侵害を不正と評価することができるか? という問題なの。

例えば、私の飼っている猫の左馬之助がいるわよね。 
左馬之助が、サルに襲い掛かったので、サルが引っ掛かれては、たまらない、と思ってやむを得ず、はたいたところ、左馬之助が、打ち所が悪くって死んでしまった場合・・・。

この場合、犬や猫などのペットは、その所有者(左馬之助の場合は光)の財物にあたるため、そのペットを殺してしまうことは、器物損壊罪刑法261条)となるんだけど、サルの行為に正当防衛が成立するのであれば、違法性阻却されることになるわよね。

さぁ、今、私が説明した事案において、サルに正当防衛が成立するか、考えてみてくれる?
飼い主に似て躾のなっていない畜生(=左馬之助のこと)だから、ソレは十分考えられる事案だね。
ひ、ひ、光ちゃんっ!!
いくら質問の事案とは言え、左馬之助ちゃんを、そんなヒドい目に遭わせるなんて、私には考えられませんっ!!

このような場合において正当防衛が成立するかについては、肯定・否定の両説がありましたよね。

正当防衛肯定説は、客観的違法性論の立場から、違法状態が認められれば不正と評価しうる、とします。
また、新客観的違法性論の立場から、一般法的な観点により不正と評価しうる、と考えることもできるといえます。

正当防衛否定説は、新客観的違法性論の立場から不正の侵害は人間の行為に限られるので、緊急避難が成立しうるにすぎない、と考えますね。
ただ、この場合において、動物の侵害に対して、避難しなければならないとすることは、均衡を失することといえるので、正当防衛に準じた取扱いをするべきである、とする準正当防衛説という考え方もあります。

ですから、光ちゃんの質問への回答としては、少し評価の分かれるところではないかと思うわけですが・・・。 
つかさちゃん、猫好きだから、私の左馬之助にも優しいのね。
ありがとね。
今度、是非ウチの左馬之助にも会いに来て欲しいわ。

えーっと、つかさちゃんが丁寧な解説をしてくれたから、対物防衛についての考え方については、概ねワカッタと思うけれど、正当防衛が成立するか否かについて、自分がどのように考えるか、という観点から再検討しておくべきよね。
え? 左馬之助ちゃんに会えるんですか!?
行きたいです、行きたいですっ!!
猫、猫!! ハァハァっ!!
今日ですか? 今日ですよね!? 
っていうか、今ですか? 今すぐですよね!?
・・・通報レベルのクロちゃんがおるお。
あ・・・な、な、なにも今日の今日ってわけじゃないからね。
ね? つかさちゃん。お、落ち着いて?

それじゃ、次の要件B自己又は他人の権利』を見るわね。

ここにいう『権利』とは法益を意味するわ。
正当防衛については、刑法36条1項から『自己又は他人の権利を防衛するため』とあることから、自己の法益侵害の場合だけでなく、他人の法益侵害のための行為であっても成立するわ。

因みに、他人の権利(法益)のための正当防衛は『緊急救助』というわね。

ここで問題になるのは、社会・国家法益も他人の権利に含まれるのか? という問題なのね。
うーん、ワカラないです・・・。
この問題についても、肯定・否定の両説があるわね。

肯定説は、法の自己保全の観点から限定的に認める、とするわね。
否定説は、公共的利益の保全は、国家の任務であって、これを個人に委ねることはできない、として社会・国家法益は他人の権利には含まれない、とするわね。

ちなみに、学説の多数説、判例肯定説をとっているわ。

国家法益のための正当防衛は、国家公共の機関の有効な公的活動を期待し得ないという極めて緊迫した場合にのみ例外的に許容される、とした判例最判昭和24年8月18日)もあるわね。

もっとも、この判例では、正当防衛の成立は認めてはいないんだけど、理論上は、認められる、としているのよね。
ふむふむ・・・。
コレで正当防衛成立要件を2つ消化したわけだね。
あと1つだから、まぁ、サラっとやっちゃってよ。 
そうしたいのは山々なんだけど、次の要件C防衛するため』は、少し議論の多いところだから、丁寧に見るつもりなのよねぇ。

この『防衛するため』という要件を考える上で、ちょっと質問してみるから考えてくれる?

質問

サルが、私に殴りかかったため、私は死亡してしまったの。
ところが、私が死亡した後になって判明したんだけれど、実は、私は拳銃をサルに向けて発砲しようとしているところだった・・・。

みたいな事案。
このような場合を「偶然防衛」っていうのね。
私がサルを拳銃で狙っていたという事実は、行為時点のサルは知らないことよね。
つまり、行為時点のサルには正当防衛の成立要件の1つである『防衛するため』(防衛の意思が欠けていることになるわ。

このような場合においても、正当防衛は成立するのか
という問題ね。
うーん、結果的には、あたしは光ちゃんを殺していなかったら撃ち殺されていた可能性が高いわけなんだから、正当防衛でいいような気がするなぁ。
・・・っていうか、この質問の事案、あたしも、光ちゃんも、お互いどういうつもり(=動機)で相手を殺そうとしたんだろ?
まぁまぁ、質問の事案なんだから細かい話は置いておいてよ。

この主観的正当要素である『防衛の意思の要否については争いがあるところなのね。

必要説防衛の意思必要説)は、行為無価値論の立場から、防衛行為の適法性について主観・客観の両要素を考慮すべき、としているわ。
明らかに犯罪的意図をもっていた場合に、正当防衛を認めることは正当防衛を定めた法の趣旨に反する、また、刑法36条1項には防衛のため』』という文言があること等を理由とするわね。

これに対して不要説防衛の意思不要説)という考え方もあるわ。
不要説は、結果無価値論の立場から、主観的事情は違法性の判断に影響しないので、偶然防衛であっても正当防衛にあたる、とされるわね。
私は防衛の意思必要だと思うです!
結果的に正当防衛だったからいいとは思えないです。
 ナカちゃんは二元的行為無価値論の立場なので、この帰結となるかと。)
成程ね。
ただ、そうなると、次の問題も出てくるのよね。

防衛の意思必要説の立場からは、その防衛の意思の内容が問題となってくるのよね。
  防衛の意思の内容
うんうん。
防衛の意思必要説は、防衛の意思必要だっていうわけでしょ?
要るのはワカルとして、その防衛の意思内容は、どのような内容のものか? という問題なのね。

そうね、ここは百選掲載判例もあるところだし、判例検討しちゃいましょうか。 
うわっ!!
あと1個だと思って気ぃ抜いてたら、まさかの判例検討っ!?
正当防衛は、論点が多いって先に言っていたでしょ?
勝手に気を抜いている、あんたが悪いんじゃないの。

はい。文句はいいから、判例検討するわよ?
百選T 24事件最判昭和50年11月28日)ね。
成程、成程。
つまり判例は、防衛の意思の内容としては、憤激してたり、逆上して攻撃したとしても、防衛の意思は認められるけれど。
積極的加害意思をもっての攻撃行為には、防衛の意思は認められない、って言ってるわけね。
アラ。
らしくない綺麗なまとめをしてくれるじゃない。  
いやぁ、なんかナカちゃんとの勉強会の回を見て、あたしのキャラが崩壊しているなんつー失礼発言する輩もいたからさぁ。
あたしだって、その気になれば、これくらのまとめは出来るんだよって普段からアピっておかないとね!(ドヤっ!)
普段から、真面目に勉強会に取り組めば、そんな批評もされないわよ。

積極的加害意思は、判例の立場からは、急迫性の問題と、防衛の意思の問題との両者で問題になるわけよね。
この両者にまたがる問題を、どう考えるのか? ということなんだけど、あくまでも今の私の理解として聞いて欲しいんだけど・・・。

行為の実行時点の行為者の内心を問題にする場合は、防衛の意思の問題
不正の侵害を予期した行為の事前時点の行為者の内心を問題にする場合は、急迫性の問題として考えるべきかと思うわ。
  成程・・・。 
うーーん、もう少し見ておきたい判例もなくはないんだけれど、まぁ、これくらいにしておきましょうか。 
  おしまい?
そうね。
サルも今日は頑張っていたみたいだし、お開きにしましょうか。 
 
それじゃ、遠慮なく・・・。
掲示板にレスちょーだい!
 あたしに元気を分けておくれお!
』 
・・・結局やるのね。   
メ、メ、メタはダメですぅ・・・。 

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