最高裁昭和50年11月28日判決 | ||||
ちょっと事案が長いから、前提部分は口頭での説明だけに省略させてもらうわね。 私がナレーター。 被告人を、ナカちゃん。 散弾銃で撃たれた男を、サル。 サルの奥さんを、つかさちゃん。 って配役でいくわね。 |
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ナレーター |
友達と車で走っていたナカちゃんと友達は、サル達グループから因縁をつけられました。 サル達に、酒肴(シュコウ)を強要、さらにはサルらを車で送り届けるよう強要されましたが、ナカちゃん達は、大人しくサル達の言うとおりにしました。 しかし、サル達グループは、車を降りると、一斉にナカちゃんの友達に襲い掛かりました。無抵抗のナカちゃんの友達に対し、顔と言わず、腹と言わず、殴る蹴るの暴行を加えたのでした。 |
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あうあうあうあうです! このままでは、私のお友達が殺されてしまうです! な、な、なんとかしないといけないです!! |
被告人 |
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因縁をつけた男 |
オラオラオラオラっ!! 『君がッ泣くまで殴るのをやめないッ!』ってかぁ? オラオラオラオラオラぁーーっ!! |
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ハァハァハァ・・・自宅に駆け戻ったです! 確か、ココに私の弟の散弾銃が・・・あったはずです! あ、あったです!! よしです! この散弾銃を持って、お友達を助けに行くです! (散弾銃に実包4発、予備実包1発。安全装置解除。) |
被告人 |
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アレ? です! 現場に戻ったら、お友達も、あの因縁つけた男もいないです! 何処に行ったです!? |
被告人 |
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因縁をつけた男の妻 |
やれやれ。 あの人にも困ったもんだわ。 |
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あ! です! アレは、あの因縁をつけた男の奥さんです! |
被告人 |
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因縁をつけた男の妻 |
なによ、ナニ見てんのよ? | |||
わ、わ、私のお友達は何処に行ったです!? 拉致したですか、です!? |
被告人 |
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因縁をつけた男の妻 |
シラナイわよ。 私には関係ないし。 |
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お友達が何処に連れて行かれたか言うです! 『君がッ話すまで あなたの腕を放すのをやめないッ!』です! |
被告人 |
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因縁をつけた男の妻 |
ちょっとっ!! ナニするのよ!! そんなに腕を引っ張ったら痛いじゃないのっ! いた、いたぁーーいっ!! |
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因縁をつけた男 |
あぁ!? アレは、俺のカミさんの悲鳴? |
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因縁をつけた男 |
あのガキャァっ!! 人の女に手ぇ出しやがってからにぃっ!! このやろう! 殺してやる!! |
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ひぃぃぃぃぃぃですっ! に、に、逃げるです!! |
被告人 |
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因縁をつけた男 |
待ちやがれっ!! 逃がすかよっ!! |
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はぁはぁはぁです! こ、このままでは追いつかれてしまうです! こ、こうなったら・・・です! |
被告人 |
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えいっです!! (振り向きざまに散弾銃を因縁をつけた男に向けて発砲。) |
被告人 |
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因縁をつけた男 |
アンギャァァァっ!! (散弾銃により重傷) |
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はい、お疲れ様ぁ。 | ||||
ビックリしたよ・・・。 まさか、チビっ子が散弾銃持ち出すなんてさ。 |
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私も、気持ちはワカルんですけれど、コレは流石に正当防衛にならないような気がしちゃうのですが。 | ||||
あ、そうね。 この事件の被告人は、素手の相手に対して、散弾銃を持ち出しているわけだから、武器対等の原則からも、相当性の程度を超えている(=質的過剰)といえることから、ここで成立が問題となっているのは過剰防衛なのね。 過剰防衛については、まだ勉強していないから少し予習になっちゃうんだけど、刑法36条2項に定められているわね。 『防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。』(刑法36条2項) というものね。 |
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一審は、過剰防衛の成立を認めているのですけれど、二審では、被告人の対抗的攻撃意図が明らかであること、そして、攻撃に対する防御を目的としてではなく、対抗闘争行為の一環でなされた行為であることから、正当防衛の観念をいれる余地はない、として過剰防衛の成立を否定しているんですよね。 | ||||
でもでも、私のお友達へのフルボッコを見ている私としては、捕まったら、どうなるかワカッタもんじゃない、という恐怖はあったです! 確かに、散弾銃を撃った以上、攻撃意図はあったと思いますが、防御の意図もあったと思うです! |
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散弾銃であたしを撃っといて、防御とはねぇ。 | ||||
本件では、さっき話した防衛の意思必要説から、この防衛の意思必要説にいう防衛の意思の内容が問題になっているわけね。 つまり、本件のナカちゃんは、防衛の意思だけではなく、攻撃の意思ももって行為に及んでいるわけよね。 この問題をどう考えるかについて学説は、2説あるの。 目的説 と 認識説 の2説ね。 目的説は、防衛の目的・動機を必要とするわ。 したがって、憤激・逆上した場合や、本件のように攻撃意思がある場合には、防衛の意思は認められない、と考えるわけ。 ただ、現実問題として、急迫不正の侵害に対して、憤激したり、逆上してしまったりすることは往々にして考えられるわけよね。 このような場合に、攻撃意思があるというだけで、防衛の意思は認められない、としてしまうことは、どうなの? という疑問はあるところよね。 そこで、認識説という考え方があるわけ。 認識説にいう認識とは、防衛の認識、あるいは、急迫不正の侵害を認識しつつ、それに対応する心理状態をいうとされるわ。 したがって、憤激・逆上した場合や、攻撃意思が併存する場合にも、防衛の意思が認められる、と考えるわけ。 |
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成程ねぇ・・・。 カーッとなってやった・・・というような場合であっても、そのやった行為に、防衛の意思があればいいってことかぁ。 んで、判例はドッチなの? |
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あうあうあうあう。 私としては、過剰防衛が成立して欲しいです・・・。 |
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それじゃ、判決文ね。 『急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り、その行為は、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであつても、正当防衛のためにした行為にあたると判断するのが、相当である。 すなわち、防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできないが、防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではないので、これを正当防衛のための行為と評価することができるからである、 しかるに、原判決は、他人の生命を救うために被告人が銃を持ち出すなどの行為に出たものと認定しながら、侵害者に対する攻撃の意思があつたことを理由として、これを正当防衛のための行為にあたらないと判断し、ひいては被告人の本件行為を正当防衛のためのものにあたらないと評価して、過剰防衛行為にあたるとした第一審判決を破棄したものであつて、刑法36条の解釈を誤つたものというべきである。 』 として、防衛の意思と、攻撃の意思とが併存する場合には、防衛の意思を欠くことにはならない、という判断を下しているのよね。 |
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マヂでか・・・。 あたしを散弾銃で撃っておいて、過剰防衛だと!? |
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・・・少し表現が正確ではないですね。 過剰防衛の成立までは認めているわけではないです。本判決では、最後に光ちゃんがまとめているように、 『防衛の意思と、攻撃の意思とが併存する場合には、防衛の意思を欠くことにはならない』 と述べているだけですからね。 |
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ソレはどういうことなんですか? つまり、過剰防衛の成立は認められなかったということなんですか? |
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竹中さんには残念だと思いますが、差戻審では、因縁をつけてきた男からの被告人への追跡は『急迫不正の侵害』にあたらない、という判断がなされ、過剰防衛の成立は否定されていますね。 まぁ、本判決でも 『急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り、その行為は、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであつても、正当防衛のためにした行為にあたる』 としているわけですから、『急迫不正の侵害』でないのであれば、この結論も致し方ないところですよね。 |
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あうあうあうあうあうあうです!! | ||||
つかさちゃんったら・・・。 差戻審の結果まで教えなくってもいいじゃない。 ・・・でも、事案を理解する上では、ナカちゃんへの同情だけってわけにも、いかないか・・・。 そうね・・・つかさちゃん、ありがとうね。 |
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私もお伝えするべきか迷ったんですけれどね。 | ||||
ここで抑えておいて欲しいのは、憤激・逆上は、防衛の意思と併存可能なんだけれど、前回学んだ積極的加害意思は、防衛の意思とは併存不可ってことなのね。 積極的加害意思については前回学んだわよね。 予期された侵害の機会を利用して、積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだ行為をいうわけよね。 このような場合には、急迫性の要件を欠くってことだったわよね。 そして、積極的加害意思をもっての行為には、急迫性の要件が欠けることになる以上、正当防衛は成立しないということになるわけね。 |
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うーんと・・・。 つまり、カーッとなってやり返した・・・って場合には、ソコに防衛の意思があれば正当防衛が成立するかも知れないけど。 あ、コレは正当防衛になるなって思って、その機会を利用してムカつく相手をフルボッコにしてやった、って場合には、ソコには防衛の意思はないものとされるってこと? |
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まぁ、そうね。 相変わらず、微妙な表現よね・・・あんたの理解。 |
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私は大好きです! 藤さんのザックリとした説明! | ||||
コッチが曖昧な理解だと、サルの説明だと、さらに曖昧な理解になっちゃいそうな気がするのよねぇ。 つかさちゃんは、ある程度ワカッタ上で聞いているから、いいのかも知れないけど、私はあんまり好きじゃないかなぁ。 |
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・・・ううう。 お友達を助けるために、やむを得ないことだったと思うです・・・。 確かに、散弾銃を持ち出したことは・・・今思えば、警察を呼ぶとか、色々思いつくところですが、でもでも、あの時は、お友達を助けたい一心だったです・・・。 |
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ナカちゃん? そんなに配役に感情移入しなくっていいから。 |
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ぶっちゃけ配役が悪ぃーんだお。 毎度、ナレーターに逃げやがってからに。 |
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そうかもね。 少し検討しておくわ。 |
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あうあうあうあう。 あ、あ、明智先輩は悪くないです・・・。 け、け、刑法の判例検討は、やっぱり苦手・・・です・・・・。 |