それじゃ、実際に事例問題を解いてみようの第5回ね。 今回は、民法総則では出題頻度の高い表見代理について、答案として、抑えておこうと思うわ。 |
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表見代理の事例問題っていうと・・・ 日常家事代理かな?(勉強会43回 代理E参照) 重畳適用の事例かな?(勉強会45回 代理G参照) |
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表見代理って聞いて、すぐに色々な論点が頭に浮かんでくるあたり、チイちゃんが、しっかり表見代理について勉強していることが、うかがえるわね。 | ||
表見代理って聞いても、やたら暑かった夏の日のことしか脳裏に浮かばないお・・・。 | ||
表見代理については、藤さんが、勉強会の進行を担当してくださったじゃないですか! 私、あの夏の勉強会のレコーダー、たまに聞き返しちゃうくらい好きなんですよ? |
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むぅぁーったく思い出せない・・・。 若年性アルツハイマーの可能性が微レ存・・・。 |
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・・・。 (藤先輩は、無駄な知識に記憶容量を割き過ぎているのが問題だと思うです。) |
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大丈夫、大丈夫。 やれば思い出すわよ。 それじゃ、早速事例問題を出すわね。 出題! 『ナカちゃん(=A)は、私(=C)から融資を受けたいと考えて、サル(=B)に代理人として、私と交渉して、融資の契約を締結してもらうことを依頼し、実印と印鑑証明書を渡した。 サルは、私と交渉したが、融資条件がナカちゃんの希望と合わなかったため契約に至らず、ナカちゃんは私から融資を受けることを断念した。 ところが、その後、サルは預かったままになっていた実印と印鑑証明書を利用して、自分の借金について、ナカちゃんを連帯保証人とする契約を、つかさちゃん(=D)との間で結んだ。 つかさちゃんが、サルをナカちゃんの代理人であると信じたことにつき過失がなかった場合、つかさちゃんはナカちゃんに保証債務の支払いを請求することができるか。』 例によって、事案における登場人物については、 「チイちゃん」をA。 「サル」をB 「私」をC 「つかさちゃん」をDと置換してくれてもいいわよ。 その方が事例問題っぽくはなるからね。 (※ ページ最後尾の答案構成では、登場人物をアルファベット表記置換してあります。) |
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あぁぁぁ。やったね、やったやった! うんうん。 今、なんとなぁーく思い出した。 |
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あんた、「やったやった」って騒いで、「なんとなく」って、どんな思い出し方してんのよ! そんな、曖昧なことで事例問題を検討できるの? 事例問題を解くにあたっては、よく答案構成用紙などに簡単な簡略図を書いてみたりするわよね。 アルファベットと、矢印(→)、簡単な一文などで、相互の関係を書いておくと、検討の際に役立つからね。 まぁ、今回はよりワカリヤスクという意味で、下の図を用意したけれど、答案構成においては、この図をより簡略化したものを書いて考えるというのは、いいと思うわ。 |
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コレ、余談だけど、アホの管理人は、知財の試験の際に、関係図を試験時間余ったんで、やたら丁寧に描き直すというアホな行為に没頭してて、試験打ち上げの飲み会で先生に怒られた経験あるらしいお。 あのアホは、ろくな答案も書けないくせに、見直すことさえ怠るというアホだから、アホのまんまなんだお! |
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メ、メタはダメですぅ。 |
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メ、メタ・・・ってなぁに? | ||
コレだお。 | ||
蛙さんを潰すのは、よくないよね。 オネーちゃんは、悪いことばっかりするけれど、チイは、そういうことは嫌いだよ。 |
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違うです! 違うです! 藤先輩が、嘘を教えているです! |
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竹中さんは「メタは駄目」と言われる際に、いつも最初に、言い澱んでいるために、「メ、メタは」となってしまっているんですよね。 まぁ、私もメタ発言は控えるべきだとは思っているので、この発言も本来ならばメタ発言なので、自粛すべきだったのでしょうね。 |
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チイ、みんながナニ言っているのか、ちっともワカラナイよ! | ||
そうよね。 チイちゃんの言うとおりよ。 意味不明なこと言って、脱線していないで検討してもらえるかしら。 さぁ、どこから始めましょうか。 |
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先ずは原則論からだよね! ナカちゃんが、オネーちゃんに委任した契約の内容は、光おねーちゃんとの契約交渉だよ! だから、オネーちゃんの代理権の内容は、あくまでも、ナカちゃんが光おねーちゃんに融資を受ける借入交渉と、消費貸借契約の締結を行うことになるよね。 そして、この代理権は、光おねーちゃんとナカちゃんとの間の交渉が決裂して、ナカちゃんが交渉を断念した時点で、消滅しているといえるよね。 だから、その後で、オネーちゃんが、勝手に、つかさおねーちゃんとの間で交わした保証債務契約については、無権代理ってことになるよ! 明らかな無権代理なんだから、オネーちゃんが、つかさおねーちゃんとの間で交わした契約については、その効果は、ナカちゃんには帰属しないのが原則だよ!(民法113条1項) |
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そうね。 しっかりと原則論を、述べてくれたわね。 無権代理行為である以上、本人であるナカちゃんが追認しない限りは、無権代理人のした行為の効果は、本人には帰属しないのが原則となるんだけれど、本問では、 『つかさちゃんが、サルをナカちゃんの代理人であると信じたことにつき過失がなかった』 とされているわよね。 ましてや、本問では、 『実印と印鑑証明書を渡した』 という事実があり、また現実問題として、 『サルは預かったままになっていた実印と印鑑証明書を利用して』 無権代理行為をしているわけよね。 このような事案において、無権代理の相手方である、つかさちゃんを保護する考えが、本問の論点となってくるわけよね。 |
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表見代理です! | ||
そう、表見代理!(勉強会42回 代理D参照) 表見代理には、どのような外観に対する、どのような関与かによって3つの類型に分類されたわよね。 代理権授与の表示による表見代理(民法109条) 代理権踰越(ユエツ)の表見代理(民法110条) 代理権消滅後の表見代理(民法112条) の3類型なんだけど、本問のサルの行為には、どの表見代理が成立すると思う? |
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えーっと、えーっと・・・。 私は、藤先輩との間の代理契約は、明智先輩との契約交渉が決裂した際に、消滅しているわけですから、藤先輩が、黒田先輩との契約を交わそうとされた時には、もう代理権は存在しないです・・・。 となると、109条は適用されないです。 また、代理権がない以上、基本代理権の存在を要件とする110条も適用されないです。 となると残った112条を適用させて表見代理を成立させる、ということになるのでしょうか。 |
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消去法で、112条という気持ちはワカルけど、ちょっと無理筋だと思うよ。 だって、112条の要件は、 @かつて存在した代理権が、代理行為時には消滅していたこと A代理人が、かつて存在していた代理権の範囲内で代理行為をしたこと B相手方が、代理権の消滅を知らず(善意)、かつ、知らないことにつき過失がなかったこと(無過失) なんだから、Aの要件を充足しないよ。 ナカちゃんが、オネーちゃんに与えた代理権の内容は、光おねーちゃんからの金員の借入交渉と、消費貸借契約の締結なのに、オネーちゃんは、その過去に有していた代理権の範囲を超えた契約を、つかさおねーちゃんとの間で交わしているんだから、112条は適用できないと思うよ。 |
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そうね。 条文どおりの適用では、表見代理は成立しないことになるわよね。 でも、実印と印鑑証明書まで持ち込まれたがために、サルを信用して取引をしてしまった、つかさちゃんの信頼が、取引安全の見地から保護されないことは妥当な結論といえるのか? という問題が残ることになるわよね。 ここで、条文の解釈によって、この不都合を修正することはできないかしら? ソコを考えて欲しいわ。 |
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重畳適用っ! | ||
あぁ・・・あったね。なんか、そんな言葉も。はいはい。 | ||
あっ! そうです! そうです! 重畳適用という考え方を、学んでいたです! |
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確かに、重畳適用という考え方が判例法理によって確立しているわ。 でも、判例があるから重畳適用ってわけには、いかないわ。 答案で、重畳適用を述べるのであれば、不都合が生じることを指摘した上で、重畳適用を認めるに足りる必要性と許容性まで、しっかり述べないと駄目よね。 さぁ、この論証を、しっかり言ってもらえるかしら。 |
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実印と印鑑預けといて放置しとくなんて、ナカたんはアホそのもの! クロちゃんが、あたしを信じたことは仕方ない。むしろ当然! よって、チビっ子は、とっとと、あたしの借金を返済すればええんだお。 |
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なんて、ヒドい論証・・・。 っていうか、ソレは論証とは言わないです。 |
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解釈は、条文の趣旨から検討するべきだよ! オネーちゃん! 表見代理の制度趣旨は、外観法理だよね。 外観法理の3要件は、 @虚偽の外観 A外観作出の帰責性 B相手方の信頼 だよね。 確かに、本問では、表見代理の個別の適用は成立しないといえるけれど、表見代理の制度趣旨である外観法理については @虚偽の外観 については、オネーちゃんがナカちゃんの実印や印鑑証明書まで呈示していること A外観作出の帰責性 については、ナカちゃんが、代理権を消滅させたのに、オネーちゃんの元に実印や印鑑証明書を預けたままで放置していたこと B相手方の信頼 つかさおねーちゃんが、オネーちゃんが呈示した物によって正当な権限(代理権)を有する代理人であると信じたこと という3つの要件を充足するものといえるよ! それならば、表見代理制度の趣旨から考えれば、表見代理の個別規定が個別には適用されなくとも、表見代理を成立させて、相手方の信頼を保護することこそが、取引安全の見地から求められる結論だと思うよ! 109条、110条、112条それぞれの条文の要件は厳密には充足しない。 でも、外観法理が妥当する場面で、各条文の重畳性、競合性が認められるのであれば、表見法理によって、これらを重畳的に類推適用して、つかさおねーちゃんを保護すべきだよね。 |
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うんうん、しっかりとした論証が出来ていると思うわ。 もっとも、答案では、そこまで厚く書く必要はないから、必要な程度に抑えてくれていいと思うけれどね。 ソレは、また後で出してもらう答案で示してくれればいいわ。 因みになんだけど、重畳適用を認めるとして、適用する条文は何条と何条にするつもりだった? |
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えーっと、109条の代理権授与を基本代理権として、代理権外の表見代理として110条を重畳適用させて表見代理を成立させる、というのでは、どうでしょうか? | ||
チイは、代理権外の表見代理行為に110条、代理権の範囲を超える代理行為として112条を重畳適用させて表見代理を成立させたほーがいいと思うけどダメかな? | ||
私なら、チイちゃんと同じように考えるかな。 109条では、どうしてもダメというわけではないと思うけれど、112条がより妥当するって思うところかな。 あ、最後にだけど・・・。 110条の『正当な理由』という点については、本問では、 『つかさちゃんが、サルをナカちゃんの代理人であると信じたことにつき過失がなかった場合』 と、過失なし、と明確にしているんだから、場合分けなどをして検討する必要はないからね。 っていうか、わざわざ問題文で、しなくていいって言ってくれているんだから、しちゃダメだからね。 余事記載ってことになっちゃうわけだし。ともすれば、問題文さえ、しっかり読んでいないのか、って悪い印象を持たれてしまいかねないからね。 |
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こくこく(相槌) | ||
よーしっ!! それじゃあ、今回も起案ガンバルぞぉっ!! |
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流石、チイちゃんは藤さんの妹さんだけあって、意欲的ですよね。 たまには、私も起案しておくべきだと思っているんですけれど、毎回、チイちゃんの気迫に気圧されてしまって。 |
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それなら、今回はクロちゃんが起案したら、いいじゃない。 | ||
つかさおねーちゃんが起案するの? チイ、見てみたいよ! |
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え? え? そ、そ、そうですか? それじゃ今回の起案は、私が担当させて頂くということで御願いします。 |
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うんうん。 (・・・なんで、揃いも揃って、こいつらは起案したがるんだろ。) |
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・・・。 (気付いたら、サル、まだ一度も起案してないじゃないの。 このサルだけは・・・。 ほかっておくと、ホント、ずっと手抜きし続けるんだから・・・。) |
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以下、つかさちゃんによる今回の問題の起案(答案構成)です。 あくまでも、答案構成例であって、正解がこれだけというわけでは決してないです。 |
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黒田つかさver.起案 1.BはAの代理人として、Cから融資を受けることの代理権を与えられていたが、AがCからの融資を断念したことにより、当該代理権は消滅した。 よって、Bは無権代理人であることから、BがなしたDとの契約は、本人たるAの追認のない限り、Aに効果が帰属しないのが原則である(113条1項)。 2.(1)本問では、BはAから預かったままになっている実印と印鑑証明書とを呈示して、あたかも自らがAの代理人であるかのごとく装っている。また、Dも、Bに有効な代理権があるものと信じて、本件契約を締結している。 かかるDの信頼は取引安全の見地から保護されないかが問題となる。 (2)民法は、代理権があるかのような外観の作出について、本人に帰責性があり、第三者がこの外観を信じ、かつ、信じたことについて過失なく取引をした場合には、表見代理を成立させ、第三者を保護している(109条、110条、112条)。 しかし、本件では、Bの行為は過去に有していた代理権の範囲を超えるものであることから112条は適用されず、また、行為時点においては代理権もないため、基本代理権の存在を要件とする110条の適用もない。 (3)しかし、Aは過去にBに代理権を与えて、自己の代理人として行為させており、この際にAがBに預け、放置したままの実印と印鑑証明書が、Dとの契約の際にも、Bに代理権があるとの誤信を招く原因となっている。 このような本人に帰責性ある外観を信じた第三者を保護すべきとする要請は、各表見代理の規定が個別に適用される場面と大きな違いはない。そうであれば、表見代理の趣旨である外観法理に照らせば、3つの条文による表見代理は、単独での適用のみならず、相互に関連しあう有機的な制度として捉えるべきといえる。 (4)よって、各条項が重畳的に適用され得ることが認められると考える。 3(1)Bが過去にAの代理権を有し、その際に預かったAの実印と印鑑証明書を利用して行為したことから、これらの事情によって、DがBの保証契約の締結についてAの代理権があると信じたことについて過失がなければ、112条と110条の重畳適用により表見代理の成立が認められる。 (2)本問では、Dには、BをAの代理人であると信じたことにつき過失がなかったというのであるから、表見代理の成立は認められ、AD間に有効に連帯保証契約が成立する。 (3)よって、Dは、Aに対し、連帯保証債務の支払いを請求することができる。 以上。 |