それじゃ、実際に事例問題を解いてみようの第4回ね。 今回は、実は、ある試みの下に事例問題を解いてみよう、ということなんだけど、その「ある試み」については、今は伏せておくわね。 |
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なんだろ!? なんか秘密とか、謎って、それだけでドキドキしちゃうね! |
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楽しみです! |
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なんだろ・・・。 まさか大学構内にデリバリーの出前注文とかかな? 明智財閥のお抱えのシェフが、ヘリコプターで豪勢な御弁当でも空輸してきてくれるとかかな? |
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話聞いててくれた? 私は『ある試みの下に事例問題を解いてみよう』って言っただけだからね。 あんた、『ある試み』って部分だけを拡大解釈してんじゃないわよ! まぁ、「ある試み」の内容については最後に、みんなにもチャンと伝えるから心配しなくっていいからね。 さて。 事例問題では、時に、一つの事案の事実を一部変更して、複数の質問がなされるパターンの出題があるわよね。 例えば、前回の事例問題の場合ならば、取消の「前」と「後」とで取扱いが異なるわけなんだけど、その両者が問われる、みたいなパターンよね。 こういった事案で、それぞれの処理についての把握が出来ているかかが端的に問われているわけなんだから、その違いをしっかりと答案に示せることが大事になるわ。 今日は、そういう事例問題を解いてみようってことね。 |
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典型論点の事例問題としては、よくある問われ方ですよね。 | ||
そうね。 それじゃ、早速事例問題の出題をするわね。 出題! 『ナカちゃん(=A)には成人の1人息子のサル(=B)がおり、ナカちゃんにはサルの他に子供はおらず、また、ナカちゃんの夫は既に死亡している。 ナカちゃんの1人息子のサルには、妻も子供もいない。 サルは、ナカちゃんから代理権を与えられていなかったにもかかわらず、ナカちゃんの所有する甲土地を、ナカちゃんの代理人として、私(=C)に売却した。 この場合において、次の小問(1)から(3)について論ぜよ。 なお、小問(1)と(2)は、それぞれ独立した問題である。 (1)その後、サルが死亡した場合、私は、ナカちゃんに対して甲土地の引渡および登記の移転を請求できるか。 (2)その後、ナカちゃんが死亡した場合、私は、サルに対して甲土地の引渡および登記の移転を請求できるか。 (3)上記(2)の場合において、ナカちゃんが死亡前に、追認拒絶をしていた場合はどうか。』 例によって、事案における登場人物については、 「ナカちゃん」をA。 「サル」をB 「私」をCと置換してくれてもいいわよ。 その方が事例問題っぽくはなるからね。 (※ ページ最後尾の答案構成では、登場人物をアルファベット表記置換してあります。) |
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あぁ〜。この問題、以前に勉強会でやったねぇ。確か。 無権代理と相続の勉強会だったっけ? |
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そうね。 ちゃんと憶えていてくれているのは嬉しいわ。 内容については、過去の勉強会で抑えたはずよね。 それじゃ、小問(1)から検討するわね。 小問(1)は、図で示すと、下の図になるわよね。 |
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勉強会のときの事案とは、死亡したのが藤先輩になっているので、少し異なっていますが、考え方としては同じだと思います。 判例の立場である地位並存説から、相続によって、私は、無権代理人の藤先輩と、それまで有していた本人としての地位とが並存することになります。 (判例: 最判昭和37年4月20日 百選T 35事件) 無権代理行為は、藤先輩が勝手にやったことですし、本人の私は悪くないのですから、信義則説から考えても、相続によって無権代理人の藤先輩の立場を取得したからといって、本人としての追認拒絶権の行使をすることが、信義則(1条2項、ここでは禁反言)に反するものとはいえません。 ですから、本人としての追認拒絶権の行使が認められるということになるかと思います。 |
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いい検討だと思いますよ、竹中さん。 ただ、そこで終わってしまうと、ちょっと途中答案気味かと思うんですが・・・。検討すべきことは、他にはないでしょうか? 無権代理行為の相手方である光ちゃんのとり得る手段という観点から、もう少し検討してみてください。 |
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あうあうあうあうあう・・・な、な、なんでしょう・・・。 | ||
ナカちゃん! 助け舟を出させてもらうね!! 本人の追認が追認拒絶によって得られなかったときは、無権代理行為は無効が確定することになるよね・・・。その無権代理行為について無権代理の相手方のとり得る行為としては、 @催告 A取消 B無権代理人の責任追及 C表見代理の主張 が考えられるよ! でも、本問では、光おねーちゃんが、ナカちゃんに対して、甲土地の引渡および登記の移転を請求できるか? が問題になっているんだから、履行請求を前提に検討すべきだよね。 となると、ナカちゃんは、地位並存説から、相続によって、ナカちゃん本人だけではなく、無権代理人のオネーチャンの地位とが並存しているわけなんだから、無権代理人としての責任を追及されることになっちゃうよね。 この請求を根拠付ける条文は、民法117条だよ! 民法第117条。 『(無権代理人の責任) 第117条 1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 2項 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。』 だから、光おねーちゃんが、オネーチャンが無権代理人であるという事実について善意・無過失であるなら、117条責任として、履行責任か、損害賠償責任をナカちゃんに追及できることになるよ(117条1項後段)。 ここにいう履行責任って言うのは、本来の契約に基づき、本人と相手方との間で生ずるはずであった法律関係が、そのまま無権代理人と相手方との間で存することになるってことだね。 |
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ん? ちょっと待ってよ・・・ソレ、なんかおかしくね? |
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おかしくなんかないよ! 合ってるよ! |
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チイちゃんの言っていること自体は間違いではないんです。 ただ、この事例問題の場面でも、そう言えるのか? という疑問を藤さんは投げかけているんですよね。 少し藤さんの疑問だけですと不明瞭かも知れないですから、言葉を補いますと、今、チイちゃんは、 『光おねーちゃんが、オネーチャンが無権代理人であるという事実について善意・無過失であるなら、117条責任として、履行責任か、損害賠償責任をナカちゃんに追及できることになるよ(117条1項後段)。』 って言いましたよね。 確かに、地位併存説の立場から検討すると、竹中さんには本人としての地位と、相続によって無権代理人である藤さんの地位とが並存していることになりますよね。 そうである以上、(相手方が善意・無過失の場合には)竹中さんが、光ちゃんから無権代理人としての責任を追及されることは致し方ないことといえます。 ただ、履行責任追及を認めてしまうと、せっかく竹中さんが本人の地位に基づいて追認拒絶をしたのに、追認拒絶をしなかったのと同じ結果になってしまうってことになりませんか? |
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あ・・・ホントだ・・・。 | ||
そうそう、そーいうこと。 (ぶっちゃけ、メガネの言っていることは、よくワカラナイんだけど、まぁ、そういう疑問だよねぇ。 追認拒絶したのに、結果同じになるじゃん! 追認拒絶を本人の地位から認めてもらっても意味ねぇーじゃん ってことだもんね。) |
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ちょっと、チイわからないよ・・・。 どうしたらいいの? オネーちゃん・・・。 |
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なんでも、あたしに頼ろうとするとこは、チイ変わってないねぇ。 仕方ない。 可愛い妹の疑問を、解決してやるとするか。 ちょっと、光ちゃん。 チイにもワカルように教えてあげてよ! |
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チイちゃんに言った言葉、自分にも言い聞かせたら? なんでも私に頼ろうとしてんじゃないわよ! ただ、そうよね。 履行請求を無権代理の相手方に認めてしまうと、せっかく追認拒絶をしたのに、追認拒絶をしなかったことと同じ結果になってしまうという、本人(=ナカちゃん)にとっても酷な結果になってしまうのよね。 逆に、無権代理の相手方からすれば、本人の追認拒絶によって、本来ならば、損害賠償請求しかできなかった(⇒無権代理人に対する損害賠償請求)のに、相続という偶然の事情のお陰で、本人の追認拒絶があったにもかかわらず、履行請求権が認められるということになってしまって、これも妥当な結論とは言えないわけよね。 そこで、このような場合には、履行責任ではなく、損害賠償責任のみを本人は負うというのが、両者の公平という見地からは妥当と言えると思うわ。 この論点については、判例もあるのよね。 (判例:最判昭和48年7月3日) 但し、この判例の事案は、本人の債務は金銭支払債務だったのよね。 金銭支払債務のような場合には、履行責任も損害賠償責任も、ともに金銭での支払いということになる以上、特に、履行責任か、損害賠償責任か、を考える必要はないわけなんだけど、本問では、甲土地という特定物 (※ 特定物・種類物については物権で勉強します) が債務の目的物になっているわよね。 このような場合には、履行責任を負う場合には、甲土地そのものを引き渡さなくてはならないことになるわ。 それに対して、損害賠償責任の場合は、金銭による支払いで済む、という違いがあるわけよね。 |
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え? お金払えば済む・・・って、その場合の金銭は、甲土地相当額の金銭を支払う必要があるわけでしょ? ソレって、同じ結論じゃない? |
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違うわよ。 履行責任は、特定物そのものを引き渡す義務を負うわけだけど、損害賠償責任は、金銭による支払いでいいわけでしょ? それなら、甲土地そのものを引き渡す責任を免れるってことじゃないの。 先祖伝来の土地とか、思い出のある家にずっと住み続けたいって気持ちを持つ方だってみえるんだし、履行責任ではなく、損害賠償責任のみ、というのは大きな違いだと思うわよ? |
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いやぁ、土地渡しているのと同じくらいのお金を支払うのなら、ドッチでもいいやって気になるかなぁ、あたし・・・。 | ||
お金では買えないモノだって、世の中には一杯あるのよ! 私の左馬之助だって、お金には代えられないでしょ!? |
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そりゃ、そーだよ。 ヌコなんて、無駄飯食べて寝てるばっかで、一円の価値にもならないんだから、お金に換金できるわけないじゃない。 |
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誰も、そんなこと言ってないわよっ!! どういう曲解したら、そんな話になるのよ!! |
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ま、まぁ、お金に代えられないもの、という点では、御2人の考えは一致しているのですから、いいのではないでしょうか。 私は、光ちゃんの考え方に賛同しますけどね。 あ、でも、藤さんが言われるように、猫は寝てばかりいるのが、また可愛いんですけれどね。 |
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光おねーちゃん、猫飼っているんだ!! いいなぁ、いいなぁ。 チイも、猫飼ってみたかったんだよねー! |
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左馬之助の写真見る? すっごく男前で、ビックリしちゃうわよ、きっと? |
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ヌコに、男前もクソもあるかお。 お前、野球だけじゃなくって、動物までも見る目ないのな。 |
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ふ、藤さん、猫の話になると厳しいんですね。 あ、そうだ。 竹中さん? そう言えば、検討の話に戻りますけれど、論点がわかったからと言って、すぐに論点に飛びついてしまったのは勇み足じゃないですか? |
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あ、ホントだ・・・。 ナカちゃん、原則論から論じることを忘れているよ。 |
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あうあうあうあう! 知っている論点だったので、つい慌ててしまったです! |
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ダメだねぇ、チビっ子はぁ。 あたしみたいな大人の女は、そういう、はしたないことはしないよ? |
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あんたは、理解があやふやで答えなかっただけじゃないのよ。 なに、さも私はワカッテイマス的な雰囲気出してんのよ! ホント、そういう腹黒さだけなら、大人よね!! |
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エヘへへ。 そんなに褒めなくてもいいよ。 |
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「汚い大人」呼ばわりされて、どうしてポジティブに捉えられるのか、藤先輩がワカラナイです・・・。 | ||
オネーちゃん、子供扱いされるの嫌いだから、汚くっても「大人」扱いが嬉しいんだと思うよ。 | ||
あぁ・・・言われてみれば、よく私のことを子供扱いしているです。 アレは、その気持ちの裏返しだったんですね。成程です。 |
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えーっと、脱線が激しいので。 そろそろ勉強会に戻すわね。 論点の解釈に行く前に、先ずは原則論から、しっかり述べることが大事って話はしたよね。 では、この事案における原則論は? って話よね。 |
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事案のオネーちゃんの行為は、無権代理行為だよね! 無権代理行為は、原則として無効だよ。 つまり、本人であるナカちゃんが追認しない限りは、本人に無権代理行為の効果は、帰属しないことが原則だよね! |
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民法第113条。 『(無権代理) 第113条 1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 2項 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。』 民法113条1項が、根拠条文になるです! |
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この原則論は、小問(1)〜(3)に共通する原則論になるよ! | ||
そうよね。 起案に際して、全ての小問の前提として、この原則論を述べておくというのは、それぞれについて原則論から論じる時間を短縮する意味では、いいかもね。 ナカちゃんの検討は、ちょっと原則論から述べることを失念してはいたけれど、検討自体は良かったと思うわ。 その先の議論については、勉強会で抑えてなかったけれど、この機会に勉強することができて、良かったと思うわ。 それじゃ、次は小問(2)ね。 問題を、もう1度言っておいたほうがワカリやすいかしら? 『ナカちゃん(=A)には成人の1人息子のサル(=B)がおり、ナカちゃんにはサルの他に子供はおらず、また、ナカちゃんの夫は既に死亡している。 ナカちゃんの1人息子のサルには、妻も子供もいない。 サルは、ナカちゃんから代理権を与えられていなかったにもかかわらず、ナカちゃんの所有する甲土地を、ナカちゃんの代理人として、私(=C)に売却した。 この場合において、次の小問(2)について論ぜよ。 (2)その後、ナカちゃんが死亡した場合、私は、サルに対して甲土地の引渡および登記の移転を請求できるか。』 よね。 小問(2)の事案を、図にすると下の図になるわ。 |
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コレは、勉強会でやったよね。 | ||
今度は、しっかり答えるです! 原則については、さっきの原則論が妥当するです。その上で・・・。 地位並存説から、相続によって、無権代理人の藤先輩は、それまで有していた無権代理人としての地位と、相続によって取得した本人の地位とが並存することになるです。 しかし、信義則説から、相続によって本人の追認拒絶権を取得したからといって、自らがなした無権代理行為の相手方に対して、取得した追認拒絶権を行使することは、信義則(1条2項、ここでは禁反言)に反すると言え、認められないということになるです。 ですから、結論としては、本人を相続した無権代理人の藤先輩は、追認拒絶権の行使することは認められないということになるです! |
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理論構成としては、そのように捉えて問題ないと思います。 ただ、判例(最判昭和40年6月18日)は、地位同化説(資格融合説)で捉えているという解釈が一般ですから、せっかくなので、この機会に、地位同化説による理解も抑えておくといいと思いますよ。 |
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チイが、「へぇー、そう」って納得するのが、地位並存説。 チイが、「ソレはどうか?」って疑問に思うのが、地位同化説。 なんだよ? チイ。 |
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真面目にやってよ! オネーちゃんっ!! |
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チイちゃんっ! もっと言ってやって!! |
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あたしの妹が、どこぞの犯罪者面した女と、同じ顔をしている・・・。 姉としては看過し難い、ゆゆしき事態だお・・・。 |
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光おねーちゃんの真似だよ! 似てるよね? ソックリだよね? |
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・・・。 (ナニも、よりによって、そんな顔を真似しなくってもいいと思うです。) |
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チ、チイちゃん? どうせ、私の真似してくれるなら、もっといい表情を真似してくれると、おねーちゃんも嬉しいかなぁ・・・なんて思うんだけどね。 それはさておき、最後の小問(3)ね。 ここでも、もう一度問題文を示しておくわね。 『ナカちゃん(=A)には成人の1人息子のサル(=B)がおり、ナカちゃんにはサルの他に子供はおらず、また、ナカちゃんの夫は既に死亡している。 ナカちゃんの1人息子のサルには、妻も子供もいない。 サルは、ナカちゃんから代理権を与えられていなかったにもかかわらず、ナカちゃんの所有する甲土地を、ナカちゃんの代理人として、私(=C)に売却した。 この場合において、次の小問(3)について論ぜよ。 (2)その後、ナカちゃんが死亡した場合、私は、サルに対して甲土地の引渡および登記の移転を請求できるか。 (3)上記(2)の場合において、ナカちゃんが死亡前に、追認拒絶をしていた場合はどうか。』 この問題においても同じく事案を図にしたから、下を見てね。 |
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コレも勉強会でやったよね? | ||
そんな「あるある」は要らないから。 やったことあるのなら、説明してよ! |
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よし! おい、チイっ! ナニ、ロー生なのに、学部生のチビっ子に答えてもらってんの! オネーちゃんは見てて情けないよ! さ、この問題はチイが答えてごらんよ! |
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この事案の取扱いについては判例もあるところだし、チイだって、しっかり抑えているつもりだよ! (判例:最判平成10年7月17日 百選T 5版 37事件) 本人であるナカちゃんが生前に追認拒絶をした時点で、無権代理行為の効力が本人に対して及ばないことが既に確定しているって考えるべきだと思うよ! だから、一度、追認拒絶をしてしまった無権代理行為は、例え、本人のナカちゃん自身であっても、最早追認によって有効にすることはできないんだよ。 よって、無権代理人のオネーちゃんが、その後、本人であるナカちゃんを相続しても、今更無権代理行為を追認しようがないわけなんだから、その追認拒絶の効果を主張したとしても問題ないといえるよ! |
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うんうん。 よくやったよ、チイ。 |
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まだ、十分じゃないわね。 チイちゃん、そこで終わっていいの? |
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ダメだよ! 追認拒絶があった以上、無権代理人であるオネーちゃんの相手方である光おねーちゃんは、無権代理人の責任追及が可能となる場合があるよ! 民法第117条。 『(無権代理人の責任) 第117条 1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 2項 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。』 民法117条2項から、この無権代理人の責任追及をするには相手方が無権代理人に代理権のないことにつき善意・無過失であること(117条2項前段)が求められることになるよね。 よって、光おねーちゃんは、オネーちゃんが無権代理人であった事実について善意・無過失であるならば、追認拒絶の効果を主張するオネーちゃんに対して、甲土地の引渡および登記の移転を請求することができるってことになると思うよ! |
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そうね! そこまで答えないと、途中答案になっちゃうわよね。 チイちゃん、よく出来ました。 |
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勉強会のときは、そこまで話してなかったじゃないの・・・。 | ||
無権代理行為の相手方の行為については勉強したんだから、追認拒絶によって無権代理行為となった場合の処理についても、ちゃんと答えられて当然じゃなくって? 小問(1)の検討もした後なんだし、ソレはないと思うけどなぁ。 |
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藤さんでも、ウッカリされることってあるんですね。 私は、なんだかホッとしちゃいました。 |
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あ、ウッカリで済ませちゃうんだ。 つかさちゃんのサル・フィルター、すっごいよね・・・。 |
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ところで、明智先輩。 「ある試み」というのは、なんだったんです? |
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あ、実は今回の問題は、俗に演習本と呼ばれている市販の事例問題集を検討素材にしていたのよね。 まぁ、色々な問題集が出版されているわけなんだけど、今日は、その中から独断と偏見で、コチラの一冊から事例問題をピックアップしてみました。 (『新司法試験論文えんしゅう本3 民事系民法』辰已法律研究所) 典型論点とは言え、問題文を、そのまま掲載してしまうのは、ちょっと問題かなぁ、と思って、少し言葉をイジってはいるんだけれど、概ね同じ内容になっているわ。 どうして、この問題をやったのかって言うと、実際に自分で起案した答案と、問題集の答案構成例とを比較、検討することで、問題の聞かれている論点がちゃんと把握できていたか、また、その論点に対して答えるべき内容をしっかり答案に示すことができたか、ということがワカルからなのよね。 というわけで、今回の起案については、紹介した本に答案構成例があるわけなんだけど、ソレを見る前に、実際に自分で起案してみようってことになるわね。 |
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それなら、チイが起案したいよ! | ||
私もやりたいです! | ||
じゃあ、ナカちゃん。 また2人でやろっか! |
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ハイです! | ||
以下、チイとナカちゃんによる今回の問題の起案(答案構成)です。 あくまでも、答案構成例であって、正解がこれだけというわけでは決してないです。 えんしゅう本の答案構成例とは異なるものですが、あくまでも、チイとナカちゃんによる答案構成ということで御理解下さい。 |
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チイ&ナカver.起案 Bは無権代理人であるため、BがCとの間で交わした売買契約の効果は、本人Aの追認がない限り、Aに帰属しないのが原則である(民法113条1項、以下、法律名省略)。 小問(1) 1.(1)AはBの単独相続人であり(889条、890条)、相続により、AはBの財産上の地位を包括的に承継する(896条)。 この場合、本人Aが、無権代理人Bの地位を承継したことにより、無権代理行為の瑕疵が治癒され、当然にAC間の契約が有効になるのかが問題となる。 (2)この点、当然に両者の地位が融合するものではないと考える。本人は被害者的立場にあることから、追認拒絶をしても、信義に反するものではないし、また、相続という偶然の事情により、本人の追認拒絶権を奪うことは妥当ではないからである。 (3)よって、本人の地位と無権代理人の地位は併存し、Aは前者の地位に基づいて追認拒絶することができる。 2.(1)一方、相手方Cが、無権代理につき善意・無過失であった場合には、AはBの無権代理人としての責任(117条)を相続により承継していることから、CがAに対して、履行責任を追及できるかが問題となる。 (2)この点、債務の目的物が特定物の場合において、履行責任を認めてしまうと、本人の立場での追認拒絶権を認めたことが無意味になってしまう。 そこで、金銭支払債務や、種類物の引渡債務などの場合は、履行責任を認めてもよいが、債務の目的物が土地のような特定物である場合は、履行責任を認めるべきではなく、損害賠償責任のみを負うと解すべきである。 また、このように解しても、相手方Cとしては、相続がなければ、本人の追認拒絶によって履行の実現を得ることはできず、損害賠償責任の追及しかなし得なかったのであるから、やむを得ないところといえる。 (3)よって、Aが追認しない限り、CはAに対して、甲土地の引渡および登記の移転を請求できない。 小問(2) 1.BはAの単独相続人であり(887条1項、890条)、相続により、BはAの財産上の地位を包括的に承継する(896条)。 上記小問(1)の場合と異なり、Bが本人の資格において追認拒絶することを認めるのは信義則(1条2項)に反する。 したがって、BがAの地位を承継したことにより、本人Aが法律行為をしたのと同様に、無権代理行為は当然に有効になると解すべきである。 2.よって、CはBに対して、甲土地の引渡および登記の移転を請求できる。 小問(3) 1.Aの追認拒絶により、Aに効果が帰属しないことは確定している。 従って、その後、相続があっても、その効果が影響を受けることはない。 2.CがBの無権代理について善意・無過失の場合には、CはBに対して無権代理人の責任を追及することができる(117条)。 この場合、甲土地の所有権は、相続によりBに帰属しているので、Cは履行請求を選択して、甲土地の所有権を取得しうる。 3.よって、CがBの無権代理について、善意・無過失の場合は、CはBに対して、甲土地の引渡および登記の移転を請求できるが、悪意又は有過失の場合はできないこととなる。 以上。 |