あら? 今日はナカちゃん来てないみたいなんだけど、誰か知ってる? |
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竹中さんが遅刻されるなんて珍しいですよね。 この勉強会は、人一倍楽しみにしているはずなんですけど・・・。 |
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サル! あんた、ナカちゃんと仲いいからメールとかで連絡きてるんじゃないの? |
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いちいちメール確認なんてしないでしょ、フツー。 あんなもの週末にまとめて削除しとけばいいんだよね。 大事な用なら、返事なければ、また電話とかでして来るはずだし、それで十分でしょ。 |
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あんたって、昔っからそういうところあるよね・・・。 治さないとダメよ? じゃあ、メール確認はしていないのね? 今見てみてよ。 |
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・・・あのね。 竹中って子からメールが届いとるね。 『勉強会間に合いません。 先に始めていて下さい。 すみません。 竹中』 だって。 |
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ホラ! やっぱり連絡来てるじゃないのよ! なんで、そんな大事なメールも見てないのよ! |
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藤さん・・・ 私もメールの返信を頂いたことがないので、出来ればメールはチェックして頂けると嬉しいです。 |
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ワカッタ、ワカッタ。 これからは、ちゃんとチェックするようにするお。 (メールが着てるかどうかのチェックだけねw) |
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ありがとうございます。 |
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言っておくけど、チェックするっていうのは、着信の有無だけじゃなくって、メールの内容確認まですることを言っているんだからね! | ||
うわっ!!! なんで、今、あたしが思っていることワカッたの? 怖いんだけど!!! |
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ふ、ふ、藤さん・・・。 | ||
あんたの考えそうなことくらい、大方予想がつくわよ! でも、ナカちゃんも、どうしてサル宛にメールなんかするかなぁ。 私か、つかさちゃんにしてくれれば問題なかったのに。 |
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まぁ、そんな難しい話は置いておいて、勉強会はじめちゃおうか。 | ||
ナニ、メールの件の話から逃げたいがために、都合よく勉強会の話題にしてんのよ! | ||
でも、とりあえず勉強会は始めませんか? | ||
そうね。 それじゃ、今日は取得時効を抑えておくことにしましょうか。 物権との関係もあるため、総則以外の条文も多いところよね。 ナカちゃんいないから、条文は、サルか、つかさちゃんがひいてくれることを期待するわね。 今日からは、これまでの勉強会で、たびたび出てきた取得時効(民法第7章第2節)と消滅時効(民法第7章第3節)について学ぶことにするわ。 因みに、消滅時効を定めた民法第7章第3節が、民法総則最後の条文になっているわね。 それじゃ今回からは、取得時効について勉強するわね。 今日は、まずは取得時効の要件と効果について、確認することにしましょうか。 |
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ウキっ! (今日の勉強会は大事だお。 あたしは、この時効期間さえ経れば、他人の物が貰えてしまうという取得時効については、興味津々なんだお。) |
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ちょっと・・・なんか、あんたの目、怖いわよ? なんか悪いことでも企んでいるじゃないでしょうね? まずは、取得時効の定義からね。 取得時効とは、権利取得の効果を生ずる時効をいうわ。 この取得時効には、大きく2種類が存在するのね。 その種類について確認してもらうわ。 民法162条と、163条をみてくれる? |
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民法第162条 『(所有権の取得時効) 第162条 1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 2項 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。』 民法第163条 『(所有権以外の財産権の取得時効) 第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。』 |
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そうね。 所有権の取得時効(162条)と、所有権以外の財産権の取得時効(163条)の2種類よね。 ただ、どちらにせよ、取得時効の対象となる権利は、所有権、またはそれ以外の財産権で、継続的な占有(または準占有)になじむ権利、ということになるわ。 さ、次は、大事な取得時効の要件ね。 まずは、所有権の取得時効の要件(162条)から。 所有権の取得時効の要件は、一定の要件を備えた占有と、その一定期間の継続ということとなるわ。 ここにいう『一定の要件を備えた占有』というのが、いわゆる、『平穏・公然・善意・無過失』って言われるものよね。 あ、勿論、善意の取得時効と、悪意の取得時効とでは要件が異なるのは、条文に示されているとおりなんだけど、ここでは、取得時効の要件として一緒に抑えることにしちゃうわね。 |
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平穏・公然・善意・無過失・・・ 平穏・公然・善意・無過失・・・ 平穏・公然・善意・無過失・・・ 平穏・公然・善意・無過失・・・ |
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だから、あんた、さっきから怖いわよ? なんかお経みたいになっちゃってるじゃないの。 『一定の要件を備えた占有』の中身としては、 @占有があること Aその占有が、所有の意思をもってなされること(=自主占有) Bその占有が、平穏・公然であること C他人の物の占有であること が挙げられるわね。 1つずつ見ていくことにするわね。 まずは、@占有があること、についてね。 あ、占有について先に見ておくべきね。 民法180条を見てくれる? |
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民法第180条 『(占有権の取得) 第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。』 |
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ここにいう『所持』とは、物が、ある人の事実的支配に属していると認められる客観的な状態をいうわ。 物権の話になってしまうんだけれど、必ずしも自分自身で所持することまでは要せず、賃借人・受寄者を通じて、なお目的物を支配していると認められれば足りることとされるわ。つまり、代理占有、間接占有であってもよい、ということね。 この論点については、2014年新司法試験の民事系択一でも問われているわね。 『他人が所有する土地を自己所有の土地として第三者に賃貸した者は、その第三者が20年間その土地を占有したとしても、取得時効によりその土地の所有権を取得することはできない。』 という問いね。 ちなみに、正解は『×』。 何故ならば、民法181条は代理占有について定めているからね。 (※ 民法181条『占有権は、代理人によって取得することができる。』) したがって、賃借人による間接占有による時効取得が認められる(同旨判例として、最判平1年9月19日)以上、この問いは誤りであるといえるわけね。 |
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受寄者(ジュキシャ)って? 間接占有って? |
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そのあたりは、物権で勉強するから置いておいて・・・。 次に、ここにいう『自己のためにする意思』(=占有意思)とは、自己に利益を受ける意思、すなわち、所持による法律上・事実上の利益を自己に帰属させる意思をいう、とされるわ。 |
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・・・だったら言わなくていいっての(ボソっ) | ||
たまには、自分で勉強してきたって罰は当たらないわよ? 取得時効には、興味あるんでしょ? はい。 というわけで、次はAその占有が、『所有の意思』をもってなされることつまり、自主占有であること、とはどういうことか、よね。 『所有の意思』というのは、所有者と同様の排他的支配を事実上行おうとする意思をいうの。 そして、この意思は、占有を開始するに至った原因(=権原)によって決まる、とされているわ。 例えば、借家人は、あくまでも家を借りる、という意思をもって、その家の占有を開始しているのだから、『所有の意思』はないと言えるわ。 他方、例えば、泥棒には、『所有の意思』がある、ということになるわよね。 『所有の意思』をもってなされない占有は、自主占有に対して、『他主占有』と呼ばれるわ。 『自主占有』と『他主占有』、いずれもこの後、何度も出てくる言葉だから、抑えておいてね。 そして、この『所有の意思』は、推定されるわ。 民法186条1項が、この『所有の意思』の推定規定となっているの。 六法で、確認してくれる? |
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民法第186条 『(占有の態様等に関する推定) 第186条 1項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。 2項 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。』 |
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じゃあ、ナカちゃんがいないことだし、少し難しい質問をしてもいい? 186条1項は、『所有の意思』を推定しているわけよね。 となると、相手方は、この推定を覆す立証をしなければ、この推定によって自主占有という要件が充足されることとなってしまうわ。 つまり、相手方(=取得時効成立によって所有権を失う元の所有権者)としては、自主占有ではなくって、他主占有権原、または、他主占有事情について立証することが必要となってくるわよね。 では、ここで質問! この推定を覆す事情として、占有者が、移転登記を求めなかったことや、固定資産税を支払わなかったことをもって、ただちに『所有の意思』を覆す事情と言えるといっていいと思う? |
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(・・・「ただちに」という一文が臭いなぁ。引っ掛けくさいんだよなぁ。 でも、「いえない」という答えをしたとして、肝心の理由がワカラナイなぁ。) |
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(藤さん答えて下さらないんだ。正直、よく分からないなぁ。 でも、土地の所有者であれば固定資産税については支払う義務があるわけなんだから、固定資産税を支払わなかったという事実は、自分の土地ではない、という認識があった、という事情といえるんじゃないのかな? だったら、『所有の意思』を覆す事情として有効だと思えるんだけどなぁ。) えーっと、えーっと・・・。 |
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(メガネも言ってくれないってことは、この質問、あたしに向けられているのかな? ってことは、案外簡単な質問ってことなの? マヂで? くぅぅぅ。仕方ない、いちかばちか答えてみようかなぁ。 理由聞かれても答えようがないから、出来れば言いたくないんだけどなぁ。) うんとね・・・「ただちに」は、いえないね。 |
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そうね。 今の質問は、平成7年度重要判例解説掲載の、最判平成7年12月15日からなんだけど。 この質問のような事案に対して、最高裁は次のような判断を下しているわ。 『占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が、所有の意思のない占有にあたることについての立証責任を負う。』 そして、 『占有者が、その性質上所有の意思のないものとされる権原にもとづき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情(このような事情を以下「他主占有事情」という)が証明されて初めて、その所有の意思を否定することができるものというべきである。』 という規範を示しているのね。 そして、この規範に基づいて、移転登記を求めなかったという事情や、固定資産税を支払わなかったという事情が、その証明に足るといえる事情かについての判断を下しているわ。 『所有権移転登記手続を求めないことについてみると、この事実は、基本的には占有者の悪意を推認させる事情として考慮されるものであり、他主占有事情として考慮される場合においても、占有者と登記簿上の所有名義人との間の人的関係等によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。 次に、固定資産税を負担しないことについてみると〜中略〜これについても所有権移転登記手続を求めないことと大筋において異なるところはなく、当該不動産に賦課される税額等の事情によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。 すなわち、これらの事実は、他主占有事情の存否の判断において占有に関する外形的客観的な事実の一つとして意味のある場合もあるが、常に決定的な事実であるわけではない。』 としているのね。 つまり、質問では、『所有の意思』の推定を覆す事情と、ただちに言えるか? と聞いているわけだから、答えは、サルが言ったように、「ただちに『所有の意思』がないと判断される事情にはならない」ということになるわね。 |
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この判例は知りませんでした。 ケースバイケースということなんですね。 決定的な事実となり得る場合もあるし、そうではない場合もある。 つまり、具体的事実を評価して、そう言えるか否かの判断が重要ということなんですね。 |
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そういうことになるわね。 サル、やるじゃない! |
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え? あぁ、ま、ま、まぁね。 |
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やっぱり藤さんには敵わないです。 で、でも次の質問では、私もいいとこ見せられるよう頑張ります! |
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じゃあ、次はBその占有が、平穏・公然であることについてね。 平穏・公然、ということは、占有が、暴力によらず、また、隠し持たないということね。 因みに、さっき見てくれた条文、民法186条1項によって、この平穏・公然の占有も推定されるわ。 一応、確認しておきましょうか。 『(占有の態様等に関する推定) 第186条 1項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。』 因みに、ここにいう『平穏』の反対は、190条2項にいう『暴行若しくは強迫』ということになるんだけれど、まぁ、今は、「へぇ〜」くらいでいいわ。 因みの因みになんだけど、ここにいう『公然』の反対も、190条2項にいう『隠匿』ってことになるわね。 平穏・公然であれば、たとえ悪意の占有(つまり、占有すべき権原のないことを知ってする占有)であっても、20年で時効取得できるわ。 そのことを定めているのが、162条1項よね。 『(所有権の取得時効) 第162条 1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。』 |
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あ、ちょっと待ってっ! 大事なところだから確認させて欲しいんだけどさぁ。 前に光ちゃん、沖縄に別荘があるって言ってたよね? 例えばね。もちろん例えば、の話なんだけどさ。 あたしが、その光ちゃん家の別荘に勝手に住みついて、20年間、ずっと、そのまま放置されていたら、あたしは20年後には、この別荘は時効取得で、あたしの別荘だ! って言えるのかな? |
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言えるわね。 別荘なんかだと、自宅から離れたところにあるわけだし、なかなか頻繁にそこに行かないことなんかもあるから、長い期間にわたって放置されちゃうことなんかもあるでしょうね。 実際、所有している別荘に、勝手に誰かが住んでいて、それを長年にわたって放置した結果、その別荘の土地も家も全部取得時効されてしまったという事案もあるくらいだからね。 |
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す、す、凄いよ! 取得時効っ!! あたしが、沖縄に別荘を持てるチャンス到来だお! |
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え? え? 今、なんて言ったの? |
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なぁ〜んにも言ってないよぉ? | ||
あ、重要判例というわけではないんですけれど、土地の取得時効と言えば、大阪名物のたこ焼きの老舗「大たこ」の話が有名ですよね。 私も、小さい頃、大阪の道頓堀に遊びに行った際には、食べたことがあるんですけれど、「大たこ」の屋台って路上にあったんですよ。 そこに一杯お客さんが並んで、たこ焼きを買っていたんです。 この「大たこ」が2006年に、20年間以上にわたって、この場所で営業をし続けてきたという事実から、土地の取得時効が成立した、として大阪市を相手に土地の所有権移転登記を求めたっていう事件があるんです。 |
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へぇ〜。 面白いね、ソレでどうなったの? |
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結論から言いますと、「大たこ」は敗訴しました。 その結果、不法占拠ということから立ち退きを求められ、今は、路上での屋台ではなく、ビルのテナントで営業を続けてみえますね。 地裁と、高裁以降とでは、取得時効の成立否定の理由が違うのですが、最高裁の見解としては、道路や港湾、公園などといった公共用物については、どれだけ占有したとしても時効が成立しないということなんです。 行政法の勉強会で検討した「仙台水路時効取得事件」を思い出されませんか? |
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そっか、そう言えば、そんな判例を検討した記憶があるなぁ。 成程、成程。 20年間という時間をかけて取り掛かる以上、その場所が、公用地なのか私有地なのかは見極めてかからないとダメだね。 うん、気をつけないと・・・。 |
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え? え? 取り掛かる? さっきからナニ言ってるの? |
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いやいや、なんにも言ってないから。 独り言だから、過剰に反応しなくっていいから、ホントホント。 |
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なぁんか怪しいのよねぇ。 えーっと、それじゃ次は最後のC『他人の物』の占有であることについてね。 『他人の物』とは、自己の所有物ではない物をいうわ。 |
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ちょっ! そんなこと、いちいち言わなくっていいんじゃない? 当たり前じゃないの! |
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言わんとすることはワカルわ。 ただ、ここは一応、論点があるのよね。 じゃあ、せっかくだから考えてみてよ。 質問! 自分の物でも、時効取得はできるのでしょうか? |
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『(所有権の取得時効) 第162条 1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。』 え・・・でも、条文には、確かに『他人の物』って書いてある。 うーん、となると、自分の物は、時効取得できないってことなのかなぁ? うん? 待て待て・・・だって、自分の物だったら、時効取得するまでもなく自分の物なんじゃない? え? え? でも、できるのか? って聞いてるってことは、できないの? おかしくない? ちょっと、よくワカラなくなってきちゃったんだけど・・・。 |
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藤さん、さっき私が、次の質問では頑張りますって言ったから、回答の機会を与えて下さっているんですね。 ありがとうございます。 それじゃ、せっかくの機会ですから答えさせて頂きますね。 この論点は、百選T掲載の43事件の話なんですよね。 (百選T 43事件 最判昭和42年7月21日) この自分の物でも取得時効できるのか? という問題に対して、最高裁は次のように述べているんです。 『所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法162条の適用があるものと解すべきである。 けだし、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に権利関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者であっても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であったり、または所有権の取得を第三者に対抗できない等の場合において、取得時効による権利取得を主張できると解することが制度本来の趣旨に合致するものというべきであり、民法162条が取得時効の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであって、同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない趣旨ではないからである。』 つまり、時効取得の目的物が『他人の物』とされているのは、通常は、時効取得されるのは他人の物だから、その場合を想定して規定されているだけのことであって、自己の物の時効取得を許さない趣旨ではない、ということなんです。 したがって、質問の答えとしては「できる」ということになりますね。 |
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そうね。 回答と一緒に判例紹介までしてくれて、ありがとうね。つかさちゃん。 サルも、一生懸命考えていてくれたみたいで何よりよ。 実際、今、つかさちゃんが紹介してくれた判例の2審では、取得時効の成立のためには、『他人の物』を占有することが要件として求められることから、「自己の物」には取得時効の成立する余地はない、としているんだから、条文から一生懸命答えを出そうとしたサルの姿勢は良かったと思うわ。 ただ、最高裁判例がある以上、今のつかさちゃんの紹介してくれた判例の判断枠組みは抑えておいてね。 |
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(まぁ、このあたりは持たざる者の、あたしにとっては無用な話かな。 大事なのは、いかにして取得時効が成立するか、ってことだからなぁ、ウヒヒヒ。) |
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この『他人の物』というところとの関係では、あとは・・・ 物の一部についても取得時効は成立するのか? という論点もあるわね。 答えとしては、物の一部であっても、取得時効は成立するわ。 この場合の判断基準としては、その物が一部であったとしても、それが経済的価値の単位として扱われるか否かによって定まるの。 ちょっとワカリにくいかも知れないから、具体例をあげるならば。 例えば、土地は「一筆」(イッピツ)、「二筆」って数えるんだけど。 この一筆の土地の一部・・・つまり土地の一部にも取得時効は成立するってことね(大判大正13年10月7日)。 他にも、他人の土地に権原なくして植えつけた樹木についても取得時効の成立を認めた判例もあるわね(最判昭和38年12月13日)。 あとは「公物」についても取得時効は成立するのか? という論点については、さっき、つかさちゃんが「大たこ」の話の中でしてくれたから割愛することにするわね。 一応、簡単にまとめておくと、「公物」には「公共用物」(道路、河川、公園等)と「公用物」(官公庁の建物等)とがあるんだけれど。 いずれも、原則として、国の公法的支配に服するため、「公物」のままでは取得時効の対象とはならないわ。 原則・・・と言ったのは、例外があるということになるんだけれど、この例外については、これも、さっき、つかさちゃんが言ってくれた行政法の勉強会で検討した「仙台水路時効取得事件」が、この例外事例になるわね。 |
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成程、成程。 他人の土地の一部であっても取得時効できる、と。 インプット、インプットぉ。 |
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とまぁ、ここまでが所有権の取得時効の成立要件の1つである『一定の要件を備えた占有』の中身についての説明になるわね。 もう1つの成立要件である『その占有の一定期間の継続』については、占有者が、その占有の開始時点において、自己の所有物であることについて善意・無過失であったか否かによって、継続すべき『一定期間』が異なることになるわ。 |
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民法第162条 『(所有権の取得時効) 第162条 1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 2項 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。』 って条文にあるから、善意だったら10年間(162条2項)。 悪意だったら20年間ってことだよね?(162条1項) |
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そういうことよね。 今日は、随分と集中して聞いててくれるのね。 私も嬉しいわ。 因みに、この期間計算は、占有開始時点から行うものとされているわ。 したがって、起算点を勝手に選択したり、逆算したりすることはできないわ(最判昭和35年7月27日)。 あ、それから・・・。 この善意か、悪意か? について、いつの時点での善意・無過失が求められるのか? という論点があるわ。 これについては条文に『その占有の開始の時に』と条文にあることから、占有開始時点で必要とされるわね。 つまり、占有開始時点以降に、「あ、これ、自分の物ではない」と知った(=悪意となった)としても、善意占有を主張できるということとなるわ。 そして、善意については推定規定があるわ。 さっき確認してもらった民法186条1項ね。 『(占有の態様等に関する推定) 第186条 1項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。』 この推定規定によって、『平穏・公然・善意・無過失』のうち、前の3つについては推定されることとなるわけ。 但し、『無過失』については推定がないから、これについては、取得時効を主張する者が立証しなければならない、ということになるわね。 この論点については、2014年新司法試験の民事系択一においても問われているわね。 『10年の取得時効を援用して所有権の取得を主張する者は、占有を開始した時及びその時から10年を経過した時の2つの時点の占有を主張・立証すれば足り、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と物を占有したこと、占有の開始時に善意無過失であったことについて主張・立証する必要はない。』 という問いね。 正解は、『民法162条2項の10年の取得時効を主張するものは、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことの立証責任を負うものである』(最判昭和46年11月11日)にあるように、無過失についての立証責任はあるわけなんだから、『×』ってことになるわね。 |
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ほうほう。 無過失は推定規定がないわけか。 逆を返せば、無過失だってことを証明できれば、善意取得で10年も夢じゃないってことかぁ。 いいね、いいねぇ。 |
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ん? また何か変なこと言ってない? そうそう。 『その占有の一定期間の継続』というのが成立要件なんだから、占有しているという事実状態は継続したものでなければならないわ。 ただし、この継続にも推定規定があるのよね。 この推定規定は、さっきから何度も見ている186条の2項の条文ね。 『(占有の態様等に関する推定) 第186条 2項 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。』 つまり、占有の前と後ろの両方の時点で占有したという証拠があれば、その間の占有は継続したものと推定されるってことなの。 |
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すばらっ!! 成立要件に推定規定がこんなにもあるってことは、もう時効取得しなさいって言ってるみたいなもんだよね? |
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なんて? 今、なんて言った? サラっと、とんでもないこと言ってない? あんた。 真面目に聞いているなぁ、って思ったら、なんか違う意味で、しっかり聞いているんじゃないでしょうね? いい加減なこと言ってると、もう教えてあげないわよ! ・・・。 『その占有の一定期間の継続』という成立要件の最後になるんだけれど・・・。 占有の承継っていう論点があるわ。 占有は、売買や、贈与、相続によって承継されることになるんだけれど。 占有を承継した者は、自己の占有のみを主張してもよく、また、自己の占有に加えて前主の占有を併せて主張してもよいとされているわ(民法187条1項)。 例えば、自己の占有のみでは善意取得の継続期間である10年間に満たない、という場合に、前主の人も善意取得で5年間、自分も善意取得で5年間、2人合わせれば善意取得の成立要件である継続期間10年間になる、っていうような場合が、また書き以降の想定している場面となるわね。 六法で民法187条をみてくれる? |
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民法第187条 『(占有の承継) 第187条 1項 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。 2項 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。』 |
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ただし、前主の占有を併せて主張する場合には、前主の瑕疵も承継する(187条2項)と定められているわよね。 これはどういうことかって言うと。 悪意占有であるAから、善意占有であるBに占有の承継があった場合に、もし、Bが、前主であるAの占有を併せて主張しようとした場合、この場合のBは悪意占有となる(=悪意という瑕疵をも承継する)ってことになるわけ。 まぁ、そうだとしても2人の占有期間を併せて20年間になるというのならば問題ないわよね。 ここで、百選T 65事件(最判昭和53年3月6日)が扱っている論点があるわ。 その論点とは、上の逆パターンなのね。 つまり、A(善意占有)⇒B(悪意占有)という場合に、Bが前主の占有を併せて主張した場合に、この場合のBは自己の占有が悪意であるのに、Aを承継することで善意占有となって10年間という期間での取得時効の成立を主張できるのか? という問題なの。 まぁ、百選があるんだし開いて確認してみましょうか。 |
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(いそいそっ!) 65事件・・・65事件っと。 |
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65事件は、事実の概要がちょっと長いから、ワカリやすいように変更して説明しちゃうわね。 ある土地が、A⇒B⇒Cと承継されたの。 そして、Cが、162条2項の10年間(善意占有の継続期間)の時効取得を主張した事案だと思ってみて。 この事案において、A、Bは、それぞれ A(善意占有 7年間) B(悪意占有 8年間) という占有だったのね。 悪意占有だったら20年間が必要となるわけだから、A+Bで20年間には満たない以上、善意占有での取得時効が成立するか否かが問題になるってことはワカルわよね? 最高裁は次のような判断を示しているわ。 『10年間の取得時効の要件としての占有者の善意・無過失の存否については、占有開始の時点においてこれを判定すべきものとする民法162条2項の規定は、時効期間を通じて占有主体に変更がなく、同一人により継続された占有が主張される場合について適用されるだけではなく、占有主体に変更があって承継された2個以上の占有が併せて主張される場合についてもまた適用されるものであり、後の場合にはその主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点においてこれを判定すれば足りるものと解するのが相当である。』 としているわ。 つまり、逆パターンであるA(善意占有)⇒B(悪意占有)という承継であって、悪意であるBが前主の占有を併せて主張する場合は、Bは自己の占有が悪意であっても、善意占有となり、10年の期間での取得時効の成立を主張することができる、と判例はいっているわけね。 |
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すばらっ!! なんて、すばらっ!!! 流石、最高裁、いいこと言うなぁ。 |
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おかしいですっ! おかしいですっ!! そんな考え方は、おかしいです! |
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あ、ナカちゃん来てくれたんだ。 今日はどうしたの? |
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それは、また後で話すです。 それより、この判例の考え方には納得いかないです! |
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うんうん。 学説では、この判例の考え方は成立しない、とする説が多数説となっているから、ナカちゃんのように考えることも出来ると思うわ。 ただ、最高裁判例がある以上、一応、判例の考え方は抑えておく必要があるからね。 私も、個人的には、成立しない、と考えることがいいように思うところだからね。気持ちはワカルわよ。 えーっと、今日は延々と所有権の取得時効の成立要件について勉強してきたわけだけど、要件ときたら効果・・・という、いわゆる要件・効果パターンで抑えておくべきだからね。 効果について抑えて、今日の勉強会を終わりにしましょうか。 効果は、所有権を取得する、という効果が生じることになるわ。 そして、時効の効果ときたら、遡及効(民法144条)よね。 したがって、時効取得した者は、占有開始時点から、所有者であったことになるわ。 そして、もう1つの効果としては、原始取得であることね。 この原始取得という言葉については、物権で改めて勉強するから、ここでは説明はしないけれど・・・。 例えば、取得時効した土地が前主の下にあったときには、種々の制約があったとしても、それらの制約のない完全な所有権を取得するってことなのね。 もう少しワカリやすく説明するなら、例えば、その前主の下にあったときには、土地に担保としての抵当権とかがついていたとしても、その抵当権は取得時効によって消滅することになる、ってことね。 ただし、これもまた物権で学ぶんだけど、通行地役権が他人のために存在することを容認した上で占有を続けていた場合には、時効取得しても、その地役権の制約を受けることになるんだけどね(大判大正9年7月16日)。 |
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原始取得? 通行地役権? |
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だから、物権で勉強するから。 もう! あんたも、自分で気になることあったら基本書を見る、くらいの気概はないの? |
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ウキっ!! | ||
えーっと、今日はここまでにしようと思うんだけど。 ナカちゃんは、今日はどうして勉強会間に合わなかったのかは聞いてもいいの? |
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あ・・・そうです、そうです。 明智先輩・・・。 これ、先日お誕生日に頂いた引換券ですけれど、お返しさせて下さい。 |
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え?! どうして? |
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要らないモンなら、あたしが貰ってもいいかな? 光ちゃんだって、一旦あげた物を返されても困ると思うしさ。 あたしがナカたんから貰うってことで、どう? どう? |
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ダメです! コレは、お返ししないといけないです! |
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返さないといけない物って、一体全体、ナニを貰ったの? 不幸の手紙とか? |
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ク、ク、クルーザー・・・。 | ||
ナカちゃん、船酔いがヒドいとか? | ||
・・・・・。 | ||
・・・・・。 | ||
私、あまり誕生日に贈り物をした経験がなかったから、お父様やお兄様とも相談させてもらって決めることにしたの。 でも、コレなら絶対喜んでくれるって、お父様もお兄様も太鼓判を押して下さったのよ? |
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・・・ナカたんが、今日遅刻したのは、お前のせいだお。 | ||
ちょっ!! いきなり、なんで、そんな話になるのよ!? 私のお誕生日のプレゼントと、ナカちゃんの遅刻が、どう関係するって言うのよ! |
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いや、間違いない。 今、あたしでさえも驚きを通り越して、なんか得体の知れない疲労感さえ感じているんだお。 ナカたんなら、コレ、間違いなく失神・気絶モンだお。 そだよね? |
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明智先輩のせいではないです。 ただ、昨日の夜、引換券の内容を確認してから、藤先輩にメールを出したお昼までの記憶は、ないです。 |
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えぇぇ。 ソレって、何もかも失念しちゃうくらい嬉しかったってこと? |
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オイ! ソコのブルジョワっ!! 自分に都合のいい解釈してんじゃねぇお。 なにもかも吹っ飛ぶような衝撃受けたってことに決まってんだろが、常考っ! |
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お父さんとお母さんも、絶対返してきなさいって言ってたので。 コレは申し訳ないですけど、お返しさせて下さい。 |
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(小声で) ナカたん、ナカたん。 売り飛ばしてまえばいいんだお。 貰ったモンをどうしようがナカたんの勝手じゃないの。 そんで、そのお金を2人で山分けしようよ! |
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どうして藤先輩は、そんな悪だくみばかり言うですか! このクルーザーは、明智先輩にちゃんとお返しするです! |
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というわけで、明智先輩のお気持ちだけ頂いて、この引換券はお返しさせて下さい。 ありがとうございます。 |
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うーん、ナカちゃんのお気に召さなかったのは残念だわ。 じゃあ、このクルーザーは『竹中号』って名前にして、十和田湖の別荘に係留しておくことにするわね。 遊びに来た際には、一緒に乗ることにしましょ? |
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私の名前を、そんな素敵なクルーザーにつけて頂けるんですか。 少し恥ずかしいですけど、嬉しいです。 じゃあ、明智先輩からは、クルーザーの名前を頂いたってことにさせて貰っていいですか? |
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うん・・・それだと、なんだか、私だけプレゼント渡しそびれたような気がしちゃうから、ソレはソレとして、また改めてプレゼントは渡させて欲しいんだけど。 まぁ、クルーザーについてはナカちゃんが要らないみたいだし、残念だけど諦めるわ。 |
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『竹中号』ねぇ・・・。 ナカたんだけに、ちょっとした衝撃で、すぐにエンジントラブル起こしそうな名前だなぁ。 |