履行強制@

さて。
前回までの勉強会で債務不履行の類型について見てきたわけよね。

債権者は、債務者の債務不履行に対して、履行請求権を有するわ。

ここに、履行請求とは、債務の履行が可能であり、履行障害事由が存しないにもかかわらず、債務者が、任意に履行しない場合(つまり、債権者からの履行請求に応じない場合)に、債務内容を強制的に実現することをいうわ。
できる(=履行障害事由が存せず、債務の履行が可能である)のに、しない(=債務者が任意に履行しないから、強制的にやらせる・・・ってことね。
そうね。

もっとも、債務内容を強制的に実現するっていっても、実際には、国家の執行機関(執行官・執行裁判所)によって、強制的に実現される強制執行)ものなんだけどね。
あぁ、はいはい。
私人自らがやっちゃアカンっていう例のアレがあるからね。
そりゃ、そういうことになるわね。
例のアレってナニよ。
自力救済の禁止でしょうが。

行政法 勉強会参照)
因みに、この履行請求権の行使的に阻害される履行障害事由ですが、大きく次のつがありますね。

履行不能
同時履行の抗弁権、留置権の抗弁
不安の抗弁
事情変更を理由とする履行拒絶・契約内容の改訂


これらの事由のうち履行不能については、既に債権総論の勉強会で勉強しましたよね。
後のつ(物権法で学んだ留置権の抗弁を除く)の事由については、債権各論の勉強会でってことになりますが。
履行障害事由について整理してくれて、ありがとうね、つかさちゃん。

さて、この履行強制を定めている規定を見ることにしましょうか。
民事執行法という手続について別途定めている法律があるんだけれど、民法では、民法414条になるわ。
条文を見てくれる?
民法第414条 (履行の強制

1項 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2項 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。

3項 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。

4項 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない
。』
この民法414条は、実質、実体規定ではなく、手続規定といえるわ。
勉強会では、この民法414条にいう履行強制の方法の基本的な区分、そして、具体的にどのように履行を強制しうるのか、という問題を見ていくわね。

ただ後者の論点については、ちょっと長くなりそうだから、次回から2回に分けて考えていく予定でいるわ。
ソコを思い切って3回っ!!
いや、もういっそ4回っ!!
えーい、面倒だ、5回だ、5回っ!!
サルの相手をすることが面倒よ。

履行を強制する方法としては、次のものがあるわ。

1)直接強制
2)代替執行
3)間接強制

先ずは、この基本的な区分から押さえていくわね。
  こくこく(相づち)。
1)直接強制からね。
コレは、民法414条1項を再度見て欲しいわ。
民法第414条 (履行の強制

1項 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
条文にいう『強制履行』が、直接強制を意味しているわ。

この直接強制とは、国家の執行機関によって、債務者の意思にかかわらず、債務内容を実現する方法をいうのね。
物の引渡しを目的とする債務(「与える債務」)においては、この直接強制が最も有効な手段といえるわ。

でも、債務者の意思を無視するものであるため『債務の性質がこの方法を許さないとき』(「なす債務」、つまり、作為・不作為、もしくは意思表示を目的とする債務のような場合)は、この直接強制によることは認められない414条1項但書)ってことになるわ。
あら・・・直接強制、ダメじゃないの。
早くも、ここでリタイアじゃないの。
そうね。

債務の性質が強制履行を許さない場合』・・・
この場合に活躍するのが、次の代替執行ね。
見て欲しい条文は、民法414条2項3項になるわ。
民法第414条 (履行の強制

2項 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。

3項 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。』
代替という言葉についての説明は、行政法勉強会で学んだから、ここでは割愛させてもらうわね。
ふむ。
以前、勉強したから「大体」ワカルしね。
代替」だけに。
  藤さんっ!
今日も絶好調ですねっ!!
・・・。

(・・・山田君が座布団総取りしそうなギャグです。)
大体ワカるなんて曖昧な理解じゃ困るんだけどね。
まぁ、不安だったら戻って再度復習しておくことをお薦めするわ。

この代替執行とは、債権者に、給付実現の権限を与えて実現させ(その過程で、第三者をして実現を助力させてもよい)、それに要した費用を取り立てる方法をいうわ。

なす債務」のうち、代替給付(=債務者の代わりに他の者でも行うことのできる給付が可能である場合に有効な手段ね。
もっとも、代替性がない・・・つまり、債務者自身がなすべき債務には、親しまないわ。
  ふむふむ。
そして最後に間接強制ね。
この間接強制については、民法上の条文はないわ。

確認する法律は、民事執行法になるわね。
民事執行法172条173条を見てくれるかしら。
民事執行法第172条 (間接強制

1項 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。

2項 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。

3項 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。

4項 第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。

5項 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

6項 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。




民事執行法第173条

1項 第168条第1項、第169条第1項、第170条第1項及び第171条第1項に規定する強制執行は、それぞれ第168条から第171条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第1項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第2項から第5項までの規定を準用する。

2項 前項の執行裁判所は、第33条第2項各号(第一号の二及び第四号を除く。)に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該債務名義についての執行文付与の訴えの管轄裁判所とする。
間接強制とは、債務者の債務不履行に対して、履行されるまで、債務者に相当と認める一定の額の金銭の支払いを命じ、これにより威嚇して、債務者に心理的圧迫を加えることを通して、債権内容を実現する方法をいうわ。
ほうほう。
はよせいや、せん間は1日3万円もらうで?
みたいな感じやね?
なんでおかしな関西弁訛りになっているのよ、サルは。
でも、そういう理解になるわね。

他人が代わって行うことのできない債務(=不代替的給付、つまり債務者自身がなすべき債務)については、この間接強制という手段しかないわ。
行政法でも学んだ代替か不代替か、という見極めから、では履行強制の手段として、どのような方法があるのか、という問題を考えることになるわけよね。
そうなりますね。

因みに、ここにいう『相当と認める一定の額の金銭』ですが、これは損害賠償ではなく、威嚇のための金額法定の違約金)ということになります。

ですから、債務不履行によって生じた現実の損害額を上回る場合であっても、債権者は差額を返す必要はありません
逆に、間接強制の支払額が、現実の損害額に満たないような場合には、債権者は、その差額について、別途、損害賠償請求ができることになります。
  へぇ〜。
成程、成程だよぉ。
とまぁ、履行強制の方法には、今、紹介したような

直接強制民法414条1項
代替執行民法414条2項3項
間接強制民事執行法172条173条

という手段があるわけね。

この基本的な方法の区分を前提として、具体的な、それぞれの債務の履行の強制において、どのような強制が図れるのか、ということを次に考えてみることにしたいと思うわ。

もっとも、様々な債務があるわけだから、全部を全部見ていくってのは難しいわね。
また、具体的な執行手続は、民事執行法の分野の話になってしまうわけだから、ちょっと私の理解では、そこまでの説明も無理そうだしね。
あ、でしたら私が光ちゃんに代わって、勉強会の進行を務めさせてもらってもいいでしょうか?
民事執行法は、私は学習済みですからね。
そっか。
つかさちゃん、手続法は得意だったものね。
そうね、ソレじゃ、ここからは、つかさちゃんに任せることにするわ。
・・・そこまでやらんでもええんやないだろうか、と。
  そんなことないよぉ。
チイは聞きたいもん!
うーん、それじゃ『具体的に、どのように履行を強制しうるか』という問題については、補講って位置付けの勉強会にしましょうか。
  ・・・あ、結局やるんや。
だって、せっかく、つかさちゃんが教えてくれるって言ってくれているんだもの。
どうせなら、この機会に聞いておきたいじゃないの。
私も、自分の勉強方々2回くらいに分けてやるつもりでいたしね。
  ・・・(心底どうでもええ。)
オネーちゃんから、またダメな空気が漂っているよぉ。

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