執行力 不可争力 不可変更力 | ||
行政行為の効力には、 公定力、執行力、不可争力、不可変更力などがあるって、前々回の勉強会の冒頭で話したわよね。 この行政行為の効力のうち、公定力について、前々回、前回としっかり勉強したと思うので、今日は、公定力以外の効力について勉強することにするわね。 まずは、執行力。 執行力については、また後で改めて、しっかり勉強する予定なんで、ここでは軽い説明にとどめておくわね。 執行力というのは、法律の定めるところにより、行政行為によって課せられた義務を行政機関が、強制的に履行させることができる力をいうの。 |
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強制的・・・ですか? |
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なんで、そんな顔をしているの? あ、少しイメージが掴みにくい表現だった? 少しワカリやすく話した方がいいかしら・・・。 そうね。 例えば、私が、サルにお金を貸したとするじゃない。 ところが、相手はあのサルよ? お金をいつまで経っても、返してくれないどころか・・・。 終いには「あたし、光ちゃんから、お金なんか借りてないお!」 なんて言い出す始末だったとした場合・・・。 どれだけ、このサルの言い分が腹立たしいからと言って、私が明智家の擁するSPを使って、サルの下宿に乗り込んで、金目の物を持ち去って、換金して債権回収を図る・・・なんてことは認められないわけよね。 確かに、私には、サルにお金を貸し付けたという事実がある以上、債権をサルに対して有していることになるわ。 そして、私の実力行使は、私の債権回収を図るための行為であるという、私にとっては正当な理由に基づく行為であるようにも見えるんだけど、私人間の権利行使に関しては、このような自力救済は認められていないわけ。 そして、民事の場合には、サルが債務不履行をしたとしても、その履行を強制する手段はないのよね。 ところが、行政処分は、行政と国民との関係の行為よね。 この場合には、国民が当該行政処分に従えば、なんの問題もないわけなんだけれど、その行政行為によって課せられた義務に従わない、つまり、不履行の場合、行政は私人と異なり、その義務を強制的に履行させることができるという違いがあるわけね。 |
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ちょっと、いいかな? 自力救済っていうのは、どういうこと? 自分のことは、自分でやるってことなのに、なんでダメなの? |
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自力救済というのは、一般には、民事法の概念なんだけど。 今の私の話のように、自己の有する何らかの権利を侵害された者が、司法手続によらず実力をもって、その権利回復を果たすことをいうのね。 この自力救済を認めてしまうと、力による権利回復が正当化されてしまうことになってしまうっていうのはワカル? お金を返さない相手が居たら、相手の家に上がりこんで金目の物を奪い去る、なんてことが横行しちゃったら、社会秩序を脅かすこと、この上ないわ。また、このような自力救済が正当化されてしまうと、この行為に加担する私的機関まで蔓延ることになってしまい、それこそ、やりたい放題になってしまうわよね。 だから、自力救済は原則として禁止されているわけ。 |
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成程・・・。 ということは、あたしは、光ちゃんにお金を借りても、安心してバックレてればいいってことか。 怖いSPのお兄さん達来られたら、流石に、あたしもキツいからね。 |
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あんた、どういう理解してくれてんのよ! そんな話、いつ誰がしたのよ!? この自力救済の観点から、執行力を説明すると・・・。 執行力とは、相手方の意思に反して、行政行為の内容を行政権が、自力で実現しうる効力をいう、と定義できるわね。 でも、どうして、私人には認められない、このような強力な効力を、行政行為には認めているのか、というのは気にならない? |
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うーん。 行政には、公益目的があるから、その目的を達成するため・・・ということでしょうか? |
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正解・・・とは、ちょっと言えないかな。 執行力が認められるのは、行政目的の『早期』実現のためなのね。 目的達成のためだけなら、民事のように、いちいち司法の判断を仰いでからの執行をとる・・・ということでもいいと思うけれど、それでは、行政目的の達成が遅れてしまうわけだからね。 ただし、このような強力な効力を認めるには、義務を課する法律以外に、別途、行政自らが動くのことの出来る法律の根拠が求められるわ。 これは、法治主義からの要請よね。 例えば、課税処分に応じない納税者に対して、滞納処分という強制執行を図るための根拠法として国税徴収法があるということよね。 |
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ふむふむ・・・。 (私人である光ちゃんに借りた金は返さなくってもいいけれど、行政が課す義務である税金はバックレれてると、ヒドい目に遭うってことか。成程、成程。) |
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明智先輩っ! 藤先輩が、またなにか悪いこと考えているですっ!! |
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あんた、この勉強会でナニを学ぼうとしてんのよ! えーっと、それじゃ、次は、行政行為の効力の中から、 不可争力について話すわね。 まぁ、この不可争力についても、また改めて勉強する機会を設けるつもりだから、説明は軽くするにとどめるけどね。 不可争力とは、行政行為を行ってから一定期間を経過すると、行政行為の相手方(=私人)からは、その行政行為の効力を、裁判上争うことができなくなる効力をいうのね。 行政事件訴訟法14条と、行政不服審査法14条を見てくれる? |
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行政事件訴訟法14条。 『(出訴期間) 第14条 1項 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 2項 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 3項 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。』 行政不服審査法14条。 『(審査請求期間) 第14条 1項 審査請求は、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内(当該処分についてw:異議申立てをしたときは、当該異議申立てについての決定があつたことを知つた日の翌日から起算して三十日以内)に、しなければならない。ただし、天災その他審査請求をしなかつたことについてやむをえない理由があるときは、この限りでない。 2項 前項ただし書の場合における審査請求は、その理由がやんだ日の翌日から起算して一週間以内にしなければならない。 3項 審査請求は、処分(当該処分について異議申立てをしたときは、当該異議申立てについての決定)があつた日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。 4項 審査請求書を郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成14年法律第99号)第2条第6項 に規定する一般信書便事業者若しくは同条第9項 に規定する特定信書便事業者による同条第2項 に規定する信書便で提出した場合における審査請求期間の計算については、送付に要した日数は、算入しない。』 |
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因みになんですが、行政事件訴訟法14条1項と、2項との違いですが、2項は、知ろうが知るまいが1年間と定めているところですね。 | ||
そ、その通りだけど。 どうしたの? つかさちゃん、急に。 |
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いえ、最初っからずっと居るのですが、全く話に参加する機会がなかったもので。 何か言わないと、今日いたの?ってことになりかねないかな、って。 |
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そんな心配いらないわよ。 だって、私、正面に座っている、つかさちゃんが頷いていてくれるのを確認しながら話しているのよ? それ見ると、あ、今、私、間違えたこと言ってないな・・・って安心できるもの。 じゃあ、続けるわね。 不可争力の根拠は、今、ナカちゃんが読んでくれた行政事件訴訟法14条と、行政不服審査法14条に求められるわね。 不可争力の目的は、行政目的の早期実現と、行政法関係の早期安定の2点に求められるわね。 行政行為が、いつまでも経っても不服申し立てや、取消訴訟の対象になるというのでは行政法関係が安定しないことになってしまうわけだからね。 あ、ここで注意なんだけど。 不可争力は、無効な行政行為には働かないわ。行政事件訴訟法14条、行政不服審査法14条共に、その但書きで『正当な理由があるときは、この限りでない。』としているでしょ? これは、無効等確認訴訟には、出訴期間の制限がないことを意味しているのね。まぁ、このあたりについては、詳しくは無効な行政行為についての勉強の際に話すつもりだけどね。 それと、不可争力は、あくまでも、行政行為の相手方である私人からの訴訟の提起や、不服申し立てができなくなる効力なのだから、出訴期間経過後に行政側が自ら、行政行為の取消をすることは許容されているのよね。 |
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ほうほう・・・。 まぁ、いつまでも言うなってことか。まぁ、ワカラナクはないかな。 |
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次は、不可変更力ね。 この不可変更力とは、処分をした行政庁が、自らこれを変更することができなくなる効力をいうの。 あ、この定義の説明だと、さっき話した不可争力について、行政側には職権の取消が許容されているっていう説明とこんがらがっちゃうわね。 少し難しい話になるけれど、不可変更力を理解する上では大事なところだから、しっかり聞いててね。 不可変更力は、異議申し立てに対する決定、審査請求に対する裁決等の準司法的な争訟手続きを経て行われる行政行為(=争訟裁断的性質をもつ行政行為)について働く効力なの。 このような行政行為については、特別の規定のない限り、処分庁は自ら変更することができない効力、それが不可変更力なの。 このような効力が不可変更力に認められているのは、紛争の平和的解決を目的とするものとされているわ。 ただ、その根拠については、特に条文等に求められるものではないから、理論上の効力ってことになるけどね。 あ、この不可変更力との関係で、実質的確定力という効力についても説明されることがあるわね。 この実質的確定力というのは、処分庁だけではなく、上級行政庁や裁判所も、なされた行政行為の取消、変更をなしえない効力と説明されるわ。 |
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うわぁ。 前回までは公定力だけだったのに、今回は一挙にきたなぁ。 えーっと、なんだったっけ・・・ 執行力と・・・不可争力、不可変更力・・・あと実質的確定力? ぶっちゃけ、執行力と、不可争力までしか、よく把握できてない気がするなぁ。 |
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一回聞いて、全部把握できるのなら苦労しないわよ。 何度も言ってるでしょ? 勉強は、反復が大事ってね。 |
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面倒くさいから、カイザーパワーだけにしてまえばいいんだお。 | ||
あんた、ナニ使えない言葉を反復してんのよ! そんな効力はハナからないじゃないの! 無駄なこと憶えてるから、肝心なことが入ってこないんじゃないの? |
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その心配なら、大丈夫っ! 今日は、しっかり肝心なことは抑えてっからね! |
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(執行力のない光ちゃんの借金は踏み倒せる・・・。 しかし、執行力のある税金からは逃げられない、ってね。 クックック・・・。) |
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明智先輩っ!! 藤先輩が、またなんか悪いこと考えているです!! |
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えぇ〜い! うるさい小娘めっ! カイザーパワー炸裂っ!! (ゴスン、ゴスン!) |
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あぁ〜んっ!! 頭突きしてきたですぅ!! |
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カイザーパワー禁止令が発令されました。 以後、その名称を使用した場合は、厳重な処罰を下します!! |
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仮に違法であっても、取り消されるまでは誰も、その効果を否定できない強力無比な力のはずなのに・・・(公定力の定義から)。 | ||
ワカッタわよ! じゃあ、取消したってことにするわよ! これでいいの? |
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取消できるのは、取消権限のある者だけだよ? 光ちゃんに、その権限あるの? |
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ナニ、下らない屁理屈を言ってんのよ! ソレは公定力の話でしょ? あんたのは、カイザーパワーなんだから、公定力の話を持ち出す意味がないわよ! |
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アレアレ? 今、なんて言ったの? 言っちゃったよね? 自ら、その名称の使用さえ禁じておきながら言っちゃったよね? |
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あ・・・・。 | ||
厳重処罰だおぉぉぉぉ!! (ゴスンゴスン!) |
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・・・痛たたた・・・。 まぁ、仕方ないわよね。 私が言ったことなんだから。 でも! この痛みは憶えておくからね! |
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光ちゃん。 昔から『恨みは水に流せ、恩は石に刻め』って言うじゃないの。 いい言葉だと思うけどね、あたしは。 |
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(ど、ど、どの口で言っているですか!!) | ||
藤さん! 深い言葉です。 今日の勉強会で、一番心に刺さりました。 |
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つかさちゃん? 今の一連のサルの行動を見て、そう思えるのなら、一度、眼鏡の矯正に行った方がよくってよ? |
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眼鏡の度は、問題ないはずですよ? | ||
(黒田先輩の目には、世界がどう映っているのか、ある意味すごい気になるです・・・) |