公定力 | ||
今回からは行政行為の効力について、その内容を学ぶことにするわ。 特に、その中でも、公定力について、しっかり学ぶことにするから、そのつもりでね! ただ・・・ 正直、随分と行政法の勉強会が間が開いてしまったから、いきなり公定力とはなんぞや?! って話されても面食らってしまうと思わなくはないから・・・。 少し、その前提から話し始めることにするわ。 え? 行政行為さえ憶えていない? ・・・まぁ、その場合は、今回以前の勉強会に戻って復習するっていう方法があるんじゃない? |
||
間が開いている、なんて、いちいち突っ込む人もいないし、言わなきゃワカラナイと思うけどなぁ。 | ||
それもそうよね。 えーっと、それじゃ、行政行為の効力の話をする前に、その前提となる理解として・・・の話になるんだけど。 行政行為は、いつ成立するのか? という論点があるわ。 |
||
いつ成立するのか? そんなもん成立したときじゃね? |
||
だ、だ、大胆な返しですけれど、藤さんが、それで御理解されてみえても、他の方は、それでは分からないと思いますよ。 百選T 6版 59事件 最判昭和57年7月15日(高砂給油取扱所変更許可申請事件)が、この論点を扱っていますね。 この事件では、消防法上の変更「許可」処分について、その成立がいつかが争点となったのですが、最高裁は次のような判断を示しています。 『行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには、行政庁の内部において単なる意思決定の事実があるかあるいは右意思決定の内容を記載した書面が作成・用意されているのみでは足りず、右意思決定が何らかの形式で外部に表示されることが必要であり、名宛人である相手方の受領を要する行政処分の場合は、さらに右処分が相手方に告知され又は相手方に到達することすなわち相手方の了知しうべき状態におかれることによつてはじめてその相手方に対する効力を生ずるものというべきである』 |
||
到達したら、それは、すなわち了知しうる状態って考え方は、民法で勉強した到達主義の考え方だね。 成程、成程。民法の隔地者間における意思表示の効力発生がいつか、って論点と被っているところあるね。 |
||
・・・。 (ふ、ふ、藤先輩が、完全にまともなことを言っているです。 あ、あ、ありえないことが起きているです!) |
||
サル、どうしたの? 珍しく、いいこと言うじゃない。 行政行為がいつ成立するのか? という論点については、私からの説明は不要みたいね。 じゃあ、もう一つ論点いっちゃうわね。 行政行為の効力発生時期はいつか? という論点があるのよね。 |
||
んみゅ? 成立したときから、効力発生ってことで、いいんじゃないの? |
||
成程、成程。そうとも言えるのかな。 この論点は、薬事法上の「承認」について争われたものなのよね。 百選T 6版 61事件 最判平成11年10月22日での最高裁の判断は次のものなんだけど。 『承認の効力は、特別の定めのない限り、当該承認が申請者に到達したとき、すなわち申請者が現実にこれを了知し又は了知しうべき状態に置かれたときに発生すると解するのが相当である』 ってね。 つまり、行政行為の効力発生時期は、行政行為が成立し、相手方に告知され、相手方が行政庁の意思表示を了知することができる状態になった時と言えるわけなんだけど、そもそも行政行為の成立が、相手方への告知又は了知することができる状態を要件としているのだから、成立した時という理解でもいいことになるわね。 面白い返しをしてくれるじゃない。 |
||
ウキっ! なんか調子いいのかな? |
||
これなら、安心して今日の勉強会に入れそうね。 行政行為の効力についての前提の話をしたところで、今日のメイン、行政行為の効力について話すことにするわね。 行政行為の効力には 公定力 執行力 不可争力 不可変更力 があるのね。 まずは、この行政行為の効力の中から、公定力について、しっかり学ぶことにするわね。 ちなみに、行政行為の効力には、今言った色々な効力があるんだけれど、これらの効力に共通する前提として、これらの効力は、「行政行為だから」とか「行政が行う活動だから」という理由から認められる効力ではなくって、あくまでも法律や制度が作り出した効力だってことは抑えておいてね。 |
||
了解、了解! 行政行為は、行政がやったことなんだから効力が認められるってわけじゃなくって、法律や制度が大事ってことね。 |
||
そういうことね。 それじゃ、公定力について説明するわね。 公定力とは、行政行為が仮に違法であっても、取消権限のある者によって取消されるまでは、差し当たり有効なものとして通用させる力をいうと定義されるわ。 また、この公定力に対しては、何人(ナンビト)も、その効果を否定することはできないわ。 私人は勿論、裁判所、行政庁であっても、同じことだからね。 |
||
凄いね・・・ 流石、皇帝力っていうだけあって、誰も逆らえない力があるんだね。 |
||
ちょっと、ちょっとっ!! ナニ、とんでもない変換してくれちゃってるのよ! 公定力だからね! 公定力っ!! 思わず聞き逃しちゃいそうな間違いしないでよね! |
||
誰であっても、効力を否定できない、というのなら、取消権限のある人っていうのは誰になるんでしょうか? | ||
『取消権限のある者による取消』というのは、具体的には、次の者による取消のことを言っているわ。 @裁判所が、取消訴訟において判決で取消すこと A行政庁が、行政不服審査において裁決・決定で取消すこと B処分をした行政庁が、職権で取消すこと ね。 ワカリやすく言うと、私人の取消訴訟の提起や、不服申し立てによって取消される場合(争訟取消 @、A)と、行政庁自らが、その職権によって取消す場合(職権取消 B)とがあるわけね。 |
||
でも、何気にスゴいよね・・・ 『仮に違法であっても』取消されるまでは有効なんでしょ? コレは、まさにカイザーパワーだよね。 |
||
え? ナニ? なんて? |
||
いや、「皇帝」は独語で、「カイザー」って言うからさぁ。 皇帝の力ってことだから、まぁ、格好よく言うなら、カイザーパワーかなぁ、って。 |
||
皇帝力じゃなくって、公定力だっていうのっ!! いい加減、そのネタやめなさいよ!! 大体、なんで「皇帝」はドイツ語なのに、「力」は英語なのよ! ドイツ語で統一して、カイザーマハトって言えばいいんじゃないの? ただ、公定力という効力は、確かに強力よね。 例えば、仮に、違法な課税処分を受けたとしても、その違法を、さっき言ったような不服申し立てや、取消訴訟をして、その取消が認められない限りは、処分は有効なわけだから、納税拒否は認められないことになるわけだからね。 納税拒否が認められないってことは、違法だ、違法だ、って騒いで納税しないままでいれば、滞納処分ってことになっちゃうからね。 |
||
まさにカイザーパワー! 愚民共をひれ伏させる圧倒的力! |
||
しつこいっ!!! しかも、ドイツ語ならカイザーマハトって教えてあげたじゃないのよ! この公定力については、判例も認めているわね。 茨城耕作権確認等請求事件(百選T 71事件 最判昭和30年12月26日)において、最高裁は次のように述べているわ。 『行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解すべき』 とね。 |
||
でも、どうして、こんな公定力なんて効力があるのでしょうか? | ||
いい質問ね。 かつては、行政行為というのは、そもそも公権力側(=国家)が行う行為であることから、国家は正しい行為を行うものである、という国家機関の権威や、それに対する信頼から認められていたとされるわ。 ただ、そのような考え方は妥当ではないわ。 最初に言ったように、「行政行為だから」公定力が認められていると考えることは、よくないといえるわ。 じゃあ、この公定力が認められている根拠をどう考えるのか? って話になるんだけれど、通説的理解としては、行政行為について争う手法として、法律が取消訴訟制度を設けているのであるから、行政行為の効力は、取消訴訟によって争わせるべき、と考えるから、とされているわ。 いわゆる取消訴訟の排他的管轄という言葉で表現される考え方ね。 |
||
今の光ちゃんの答えって、ナカたんの質問に答えてんの? なんかスッキリしないんだけど。 |
||
ナニよ、散々、カイザー、カイザー騒いでおいて今更っ!! ただ、今のサルの気持ちはワカルわ。 事実、『現在、公定力は、過去の行政法理論の延長上に、脆弱な根拠に基づいてかろうじて認められているにすぎない』(『行政法 第4版』櫻井敬子 橋本博之 弘文堂)とする指摘もなされているわけだし、どうして、公定力が認められているの?、という質問に対する回答としては弱いって気持ちは私もあるからね。 ただ、取消訴訟の排他的管轄という考え方が、形式的な説明ではあるものの、この理解が通説的理解である以上、抑えておく必要はあるっていうのはワカルわよね? |
||
じゃあ、あたしが皇帝の力なんだから、当然に認められるっていうカイザーパワー説を提唱するよ! | ||
あ、ふ、ふ、藤さんがそのようにお考えになるのでしたら、私も、カイザーパワー説? でしたっけ? そのお考えに賛同します。 |
||
クロちゃん、クロちゃん。 | ||
はい。 |
||
カイザーはドイツ語。 パワーは英語。 ごちゃ混ぜにしたらダメだお? |
||
あ・・・す、すみません。 | ||
あうあうあうあう。 黒田先輩に、あんまりな返しです。 |
||
ちょっと短いけれど、まぁ、久し振りだったし、このへんにしておこうかしら。 | ||
早く終わるのは大賛成っ! ウホホーイっ!! |
||
言っておくけど、次回は、判例検討もしっかりするから、そのつもりでね! | ||
光ちゃん、光ちゃん。 | ||
なに? | ||
藤さん、もうお帰りになってみえます。 念押しをされるのでしたら、終わりを伝える前にされるべきでしたね。 |
||
最初に、ちょっと褒めたらコレだもんね。 あのサルは、いつになったら真剣に勉強に取り組む姿勢を見せるのかしら。 |