添付A

それじゃ予告通り、今日の勉強会では付合について勉強するわね。
付合には、不動産の付合242条)と、動産の付合243条)とがあるわ。
富豪』か・・・。
庶民のあたしからすれば、スゴく憧れる響きだお。
付合』ねっ! 『付合』っ!!

イメージしやすいように簡単な例を挙げてみるわね。

@私の家の窓ガラスが割れてしまったので、リフォーム業者のサルに修理を依頼したわけ。
リフォーム業者のサルは、自前(サル所有)のガラスをつかって、窓を修理した・・・というような場合において、ここで使用されたガラスの所有権は? というのが、不動産の付合の問題。

A私の送迎用リムジンのタイヤが摩耗してしまったので、私はサル自動車店にタイヤの取り替えを依頼したわけ。
サル自動車店のサルは、自前(サル所有)のタイヤをつかって、新しいタイヤに取り替えた・・・というような場合において、ここで使用されたタイヤの所有権は? というのが動産の付合の問題。

ということになるわ。

もちろん、前提として、ガラスやタイヤは私がサルから買い取ることになるものよね。
そうであれば、修理や取り替え後のガラスやタイヤが私の所有になることは当たり前の話よね。
ここには、ガラスやタイヤについての私とサルとの間での売買契約が前提となっているからね。
でも、もしそういう契約がなかったとしたら
え? ナニ? 聞いてるの?
その場合は「ナニお前、うちの商品かっぱらおうとしてんだお!」って言って、ぶん殴るお。
・・・じ、じ、自力救済は禁止・・・いや、もうソレは自力救済でさえないです、ただの無法者です・・・。
もっと法律的な問題として考えてくれないかしら。
前回学んだ添付の問題として、この付合についても考えて欲しいわ。

ガラスやタイヤは、もともとはサルの所有する動産だったわけよね。
しかし、付合によって、そのガラスやタイヤの所有権は、私の家ないしは私の車の所有権に吸収されて消滅してしまうのか? ということを考えて欲しかったわけ。 
いや、お金払ってくれないのなら、あたしはガラスやタイヤを取り外して持って帰るから! 
添付の問題を考える際の注意事項を伝えておくのを忘れていたわね。

添付が問題になるのは、添付前のそれぞれの物の所有者が異なっていた場合だわ。
例えば、前回の勉強会でのコーヒー牛乳の例を挙げると、コーヒーも牛乳も私の所有物だったという場合には、添付したとしても所有権が変わらないのは当たり前の話でしょ?

ソレともう1点。
添付後に生じた物は、もはや分離できない、分離を許さない、ということが前提となっているの。
だから、今、サルが言ったように、お金を払わないからガラスやタイヤを持って帰るということはできないし、逆に私から、お金を払わないから、ガラスやタイヤを取り外して持って帰って、と言うこともできないわけ。
あ、そういうことなんだ・・・。となると、なんとしてでも代金を回収せんといかんなぁ。 
オネーちゃん、さっきから論点がズレているよ!
この問題で、光おねーちゃんが考えて欲しいのは、所有権の帰属だよっ!
ん? どういうこと?
あたしが、いかにして代金を回収するかっていう話じゃなくって? 
債権ではなくって物権の勉強会だからね。

ここで考えて欲しいのは、次の問題なのね。
サルの使用したガラスやタイヤについて、サルの所有権が認められるというのであれば、サルは添付後も所有権を有するということになるわけでしょ?
でも、サルのガラスやタイヤの所有権が、私の家や車の所有権に吸収されて消滅してしまう、としたら、サルは所有権を失うことになるわけでしょ?

つまり、今日の勉強会では、代金回収の法律的手段ではなくって、この添付・・・それも付合による所有権の帰属について考えて欲しいって言ってるのよ。

代金回収を図る法的手段については、また債権の勉強会で学ぶことにしましょ。 
ふむ、よかろう。
・・・・。
(一体、何様のつもりなんでしょうか?)
それじゃ、ちょっと遅くなっちゃったけれど、条文を確認してみましょうか。
不動産の付合について242条を、動産の付合について243条を六法で確認してくれる? 
民法第242条
『(不動産の付合) 第242条
 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。』



民法第243条
『(動産の付合) 第243条
 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
添付の問題において、実際に問題になることが多いのが、この付合
それも、不動産の付合の問題なのね。
242条但書ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。』の一文のあることが問題を複雑にしているのよね。
じゃあ、そんな但書は抜いてまえばいいんだお。
あたしも、ぶっちゃけ但書なんて、うっとおしいからイラんと思っとるし。
オネーちゃんは、もう少し真面目に考えてよ!
そうよねぇ。
はい、それじゃ木下さんの発言はスルーして、不動産の付合について説明するわね。

不動産の付合という問題は、普通は、不動産に動産が付合する場合を想定しているわ。
不動産と動産を比較すれば(例えば、今回の事例のような建物とガラス)不動産の方が主たるものになるだろうから、民法でも『不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する』と定めているわけよね(242条本文)。
あ、因みにですけれど、民法総則勉強済みかも知れませんが、建物は土地には付合しません
これは、日本では土地と建物とは別個の不動産だからですよね。
あ、つかさちゃん、ありがとうね。
えーっと、動産が不動産に付合した場合の効果については、民法247条1項ね。

六法で確認してくれる?
民法第247条

『(付合、混和又は加工の効果) 第247条
1項 第242条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。

2項 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。
そうね。
つまり、付合の結果動産は独立の物としての存在を失い、付合した不動産の一部になるということなの。
したがって、動産が不動産の従物87条 民法総則24回勉強会参照)になった場合には、付合は生じないわ。
従物は、なお独立の物であることを失っていないからよね。

ただし、従物でなくとも所有権を失わない場合
それが、さっき言った曲者。242条但書の場合なの。 
成る程・・・スッキリ終わりたいのに邪魔をしてくれるわけだね・・・。
まさに曲者だね、ソイツ。 
・・・。
(いつも勉強会で横やりばかり入れてきてスッキリ終わらせてくれない藤先輩も、曲者という認識でいいのでしょうか?) 
242条但書は『ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。』としているわよね。

この但書について説明するわね。
例えば、私の建物を、サルに賃貸借していたと考えてみてくれる?

私の建物を借りているサルが、家主である私の許可を得て、その借りている建物に増改築を加えたわけ。
増改築に用いられた動産(材木や、ガラスや、金具)は、建物に付合するわけなんだから、本来であれば、これらの動産は私の不動産(建物)の所有権に吸収されて、私に帰属することになるはずよね?

でも、この但書によれば、そうはならないのよね。
家の所有権を有する家主である私が、サルの増改築を了解しているわけよね。
この了解が権原になるの。
そして、その『権原によってサルは、増改築をした、つまり動産を附属させた』わけだから、その増改築部分の所有権は、サルのもとにとどまる、という結論になるのよね。

でも、いくら了解があったとしても、サルの増改築部分が、完全に私の建物と一体化してしまっていて、最早、私の建物の一部としてしか見ることの出来ない物であるというような場合=「強い付合」と呼ばれる場合は、流石に、その増改築部分に独立のサルの所有権を認めることはできないことになるわ。
そのような場合に、サルの所有権を認めることは、一物一権主義に反することになるからね。 
えーっと、じゃあ、つまり・・・。
あたしの増改築部分が、従物でもなくって、そんでもって、光ちゃんの建物の構成部分でもない=「弱い付合」といえる場合・・・という場合に、家主の光ちゃんの了解があれば、その増改築部分には、あたしの所有権が認められるってことかな?
そういうことになるわね。

実際の判例にも、

二階建て木造家屋の階下の一部を賃借した者が、賃貸人の承諾を得て賃借部分を取り壊しその跡に自己の負担で店舗を作った場合には、右店舗部分が原家屋の柱、梁(ハリ)を利用している事実があっても、賃借人が権原によって原家屋に付属させた独立の建物であって、区分所有権の対象となる

と判旨したものがあるわね。
最判昭和38年10月29日) 
うーん、わかったような、わからないような・・・。
大丈夫よ。
この問題については、百選掲載判例もあることだし、次回の勉強会では、その判例検討をしながら、もう少し理解を深めることにしようって思っているから。 
  わーいっ!
判例検討、判例検討っ!!
この小動物、暑さで頭やられてんじゃないのかお・・・。
一体全体ナニに喜んでいるのか、サッパリ、ワカラナイお・・・。
あんたも暑さで頭ヤラれれば、少しは真面目になれるんじゃない?
ほんと、いつまで、そのダメな平常運転が続くのかしら。

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