被害者の同意B 危険の引受 追補
中華は久し振りだわぁ。
ナニ食べよっか。 
 
ぶっちゃけ中華はナニ食べても美味しいからさぁ。
ナニ頼んでくれてもいいお。
あたしが、責任もって食べるから! 
  藤先輩、すっごく嬉しそうです。
中華は、あたし大好きだかんね!
えーっと、それじゃ、とりあえずの餃子から・・・。
焼き餃子5皿、水餃子を2皿。
あ、餃子は、みんなも食べる? じゃあ、2皿ずつ追加で。
あんた、とりあえずで餃子7皿食べるわけ? 
中華料理は、注文してから出てくるまでの時間が短いのも嬉しいよねぇ。ドンドン注文して、ドンドン食べれるようになっているんだもんねぇ。 
藤さんには持って来いの料理ですよね。
木下さん?
ちゃんと勉強会の話題にも参加してくれなきゃイヤですわよ?
まずは、前菜がテーブルにはないとね・・・。
豚足、バンバンジー、春雨サラダあたりでいいかな?
時間かかんないし、すぐ出てきてくれそうだもんね。
このあたりのチョイスが出来ちゃうあたりが上手だよなぁ、あたし。
んでもって、コイツら食べてるあたりに、エビチリ、回鍋肉、青椒肉絲、酢豚がきちゃうわけだよねぇ。 
や、や、ヤバス・・・Wktkがとまらねぇお・・・。
す、す、既に聞いていないとは。   
うまぁーーーーいっ!!!
餃子うまぁぁぁぁーーーーいっ!!!
こ、こ、コレはアカン・・・幾らでも喰えてまうヤツだお・・・!
  美味しいです!
えーっと。
餃子が美味しいのはワカッタから、そろそろ勉強会の話をするけれど、いいかしら?

被害者の同意という論点の中に、危険の引受という論点があるのね。

この被害者による危険の引受というのは、被害者が、結果発生の危険を認識しながらも、結果は生じないだろう、と思って、その危険に身をさらしたところ結果が生じてしまった場合をいうの。 
  もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。 
説明で済ませちゃうと、サルが食べることに夢中でスルーしそうだから、判例検討って形にさせてもらうわね。

はい、みんな立って。
危険の引受を知るためにダートトライアル事件の検討をするわよ?
千葉地裁平成7年12月13日 百選T 56事件
明智先輩・・・。
私、是非、小籠包を食べてみたかったので、追加の追加になってしまうのですけれど、注文してもいいでしょうか? 
いいから、いいから。
ナカちゃんの食べたい物を遠慮なく頼んでくれていいから。 
明智先輩・・・。
あたし、是非、北京ダックを食べてみたかったので、注文してもいいでしょうか?
その前に一つ聞いても、いいかしら?
木下さんの前にあるお皿ですけれど・・・。
ソレ、まさかフカヒレの煮込み料理だったとか? 
フ、フ、フカヒレぇっ!?
そ、そ、ソレって、すっごくお高いんじゃないですか?
値段はともかく、とにかく美味しかったお。 
あんたが頼みたいって言った北京ダックの3倍以上のお値段のする料理だからねぇ。
そりゃ、美味しかったでしょうよ。 
ん〜っと・・・。
ナニが言いたいのかよくワカラナイんだけど・・・。
つまり、北京ダックを3皿注文していいってことかお?
じゃあ、質問してあげるから・・・。
この質問に答えられたら、北京ダックの注文を認めてあげるわ。

質問

判例において、ダートトライアル競技事故で死亡した同乗者に、危険の引受があった場合に、過失致死罪は成立するでしょうか? 成立しないでしょうか? 
いや、質問質問になっちゃうんだけどさぁ。
ダートトライアル競技が、そもそもワカラナイんだけど・・・。
  ・・・・・。
  ・・・・・。
・・・・えーっと、木下さんは放置して・・・。
危険の引受について、まとめておくわね。

過失犯において、被害者に危険の引受があったが、結果について同意がなかった場合については学説の対立があるわ。

ここでは、つの学説を抑えておくべきね。

法益衡量説と、社会的相当性説の2説があるわ。

法益衡量説は、被害者が結果発生の高度の蓋然性を認識し、その行為に同意したことを法益衡量において違法性減少事由として考慮する、という考え方なの。

社会的相当性説は、 危険の引受を社会的相当性の判断の一要素とし、諸般の事情を総合考慮して、社会的倫理規範に照らして相当であるか否かを判断する、という考え方になるわ。
もぐもぐもぐもぐ・・・あたしを放置・・・ってことは、ナニを注文するかは、放任するって理解でいいのかお?
いいんだおね? いいんだおね?
もぐもぐもぐもぐ。
  ふ、ふ、藤先輩・・・。
自重して下さい・・・。
あ、そう言えば、さっき判例検討の際に話した「許された危険」についても簡単にまとめておくわね。

許された危険というのは、法益侵害の危険を伴う行為であっても、その社会的効用のために法的に許される行為って説明したわよね。

具体例としては、救急車両を挙げたけれど、他には、高速度交通機関もあるわよね。

この許された危険の判断基準としては、危険行為の社会的有用性・必要性・危険の程度・蓋然性等を総合的に考察し、社会通念上相当とされれば違法性を阻却するという理解でいいわ。

本来なら、正当行為のところで説明すべき話だったんだけれど、説明しないままに判例検討の際に出しちゃったから、一応説明しとくわね。 
あ、正当行為のところでの説明忘れ・・・ということでしたら、自救行為(=民法上の自力救済)についての説明も、そうなんじゃないでしょうか? 
あ、そうね。
以前、自力救済については行政法執行力のところで説明したものだから、説明したつもりになっていたみたいね。

うんうん。確かに、自救行為については刑法上の論点のあるところだから、説明しておくべきよね。
つかさちゃん、ツッコミ鋭いわぁ。 

説明がちょっと重複しちゃうんだけれど、自救行為というのは、権利を侵害された者が、国家機関の救済を待つ時間的余裕がない場合に、自力でその権利の回復を図る行為をいうのね。
過去の侵害に対する行為であるという点で、この後の勉強会で学ぶ正当防衛とは異なるわ。
つまり、正当防衛には該当しないってことを抑えておいてね。
  もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
ちょっとっ!!
あんた、どんだけ食べてばっかいるのよ!
じゃあ、汚名返上の機会をあんたに上げるわよ!
この質問に答えられたら、デザートを頼むことを認めてあげるわ!

質問

サルが自分の店を改築するために、自分の土地の敷地内に突き出ていたナカちゃんの家屋の玄関の軒先を、ナカちゃんの承諾なしに切り取る行為は、自救行為として適法となる行為でしょうか?
最判昭和30年11月11日 百選T 20事件をベースとした事案)
チビっ子の家の軒先が、あたしの土地に突き出ていたから切り取った。
後悔はしていない(キリっ! 
いえ、藤さん。
聞かれているのは、藤さんのお気持ちではなくって、適法か、違法か、ということです。
藤先輩なら、やりかねない行為だとは思いますが、そのような行為を正当化することには抵抗があります・・・。
まぁ、普通はそう考えるところよね。

自救行為が、適法とされるためには、次の要件が必要とされるわ。

@国家機関の救済を待つと、権利の回復が不可能になるか、著しく困難になること(緊急性)。
A被害回復行為が社会観念上必要かつ相当であること(必要性・相当性)。
B自救の意思で行われたこと(主観的正当化要素)


3要件なの。
因みに、質問で聞いた最高裁の事案では、@A要件を欠くものとして、自救行為には当たらないという判断を下しているわ。

行政法執行力の勉強会でも説明したと思うけれど、自救行為横行すると法秩序が乱されてしまうものであることから、判例は、自救行為を認めることには特に慎重な姿勢なのね。
事実、最高裁において自救行為を認めたものは存在しないくらいだからね。

したがって、質問の答えは自救行為にあたらないという判断がなされる以上、違法性阻却はされないこととなるわ。
よって、建造物損壊罪が成立するという結論になるわね。
  あたしの思ったとおりだお!
よしっ!!!
デザート注文の権利を獲得したお!
サルっ!!
あんたがナニを答えたって言うのよ!! 
いやいや、それくらいのこと、あたしなら答えられたお。
ソレを、チビっ子がフライング気味に言うもんだからさぁ。
いやぁ、チビっ子の勇み足にも困ったもんだよねぇ。
  (ジトォォォォ) 
  こ、コラっ!!
コッチ見んなっ!!
嘘くさぁ〜い。   
まぁまぁ。
それじゃ、これで勉強会もお開きってことで、料理を楽しみましょう。
そうね。
それじゃ、やっと私達のところにも小籠包がきたみたいだし頂きましょうか。
  わーい!!
初めてですぅっ!
ドキドキするですっ!!
実は私も、食べてみたかったんですよね。
確かに、ちょっとドキドキしちゃいますね。
まだ喰うってか・・・。
お前ら、ホントよぉ喰うなぁ。太んぞ?
藤先輩は、勉強会の最中、終始食べていたからです!
大体、この小籠包も、私初めて口にするです!!
・・・・。
(くそぉぉぉ。北京ダック食べたかったなぁ。
 大体、ダートトライアル競技なんてイミフなもの出して、あたしの要望を跳ねつけるなんて、金満豚は、ホント、ケチだよなぁ。)

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