千葉地裁平成7年12月13日判決 〜ダートトライアル事件〜 |
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はいはい。 木下さん? 判例検討するわよ? それじゃ、配役ね。 私がナレーター。 ダートトライアル熟練者を、サル。 ダートトライアル初心者を、ナカちゃん。 って配役でいくわね。 |
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ナレーター |
道交法が適用されない競技専用の舗装されていないサーキットを走行して、タイムトライアルを行うモータースポーツであるダートトライアルという競技があります。 (国内ダートトライアルのホームページ参照) 事件は、このダートトライアル競技の練習中に起きました。 |
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早くダートトライアル競技を上達したいです! 今は、まだギアも2速までしか入れられない初心者の私ですが、一生懸命練習して上手になるです! |
初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
よぉ。 今日も練習かい? いやぁ、熱心だねぇ。 よし! ここは競技7年の経験を有する俺が、お前の練習の面倒をみてやるよ。 |
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ありがとうございますです! | 初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
まぁ、まずはお前の運転技術を見ないとな。 お前の練習車に俺が同乗してやるよ。いいよな? |
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はいです! あ、でも私、まだギアも2速までしか入れたことない初心者ですので、お手柔らかに御願いするです! |
初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
うんうん。 任せておけって。 |
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あわわわ・・・です! やっぱり、まだまだ走行すると怖いです! |
初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
ふむふむ。 筋はいいみたいだな。 よし、じゃあ下り坂の直線に入ったらギアを3速に入れてみようか。 |
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さ、3速ですかです? こ、こ、怖いです・・・。 |
初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
なーに、心配ないない。 下り坂って言っても、ストレートだしな。 ホラホラ、言われたとおりギアを3速に入れてみろって。 |
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はいです・・・。 | 初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
おおおっと・・・。 ちょ、ちょ、この先は急勾配のカーブあるからさ! ちゃんとブレーキ踏んで減速して!! ちょ、ちょ、聞いてるか? もっとスピード落としてっ!! |
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や、や、やっているです! ブレーキ踏んでいるです! |
初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
いやいやっ! コレじゃ足りないってっ!! もっともっと減速しないと・・・うわっ!!! 危ないっ!!!! |
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あうあうあうです!! うまく制御できないです! ぶ、ぶ、ブツかるです! |
初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
いや、だから、もっとスピード落として! うひゃ、危ないっ!! |
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あうあうあうです!! | 初心者(被告人) |
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ナレーター |
走行の自由を失ったナカちゃんの運転するダートトライアル車は、何度かの衝突は避けてはいたものの、ついにコースの防護柵に右正面部分から激突してしまったのでした。 | |||
だ、だ、大丈夫ですか?です! | 初心者(被告人) |
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熟練者(被害者) |
も、もうダメぽぉ・・・。 | |||
あうあうあうあうあうです!! 同乗者の先輩が死んでしまったです!! と、と、とんでもない事故が起きてしまったです!! |
初心者(被告人) |
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はい、お疲れ様ぁ。 | ||||
おっとっと。 いらんことしとる間に、料理が届いているじゃないの。 はよ食べんと!! |
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いらんこと・・・って。 サル、あんたねぇ〜。 |
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あうあうあうあう。 私は、過失致死罪に問われてしまうのでしょうか? |
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もぐもぐもぐもぐ。 問われる、問われる。 間違いない。 |
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藤さん・・・。 竹中さんは、真剣に考えてみえるみたいですから、もう少し考えて答えてあげて下さい。 |
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成程・・・もぐもぐもぐ。 それなら問われない、問われない。 間違いない。 |
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あんたの態度が間違いだらけよ! もう少し真剣に検討する姿勢を見せたらどうなのよ? 故意犯の場合においては、被害者の同意は違法性を阻却しないってことは学んだわよね。 パターナリズムの見地から、生命という重大な法益については、被害者の同意は、それのみでは被告人の無罪を導くことは有り得ないことになるわけだからね。 でも、本件のナカちゃんは、過失によってサルを死亡させてしまったわけ。 つまり、過失犯ということよね。 過失犯の実行行為とは、結果が発生する一定程度の可能性のある行為ということになるわ。 そして、現実社会には、このダートトライアルのように一定程度の法益侵害の危険可能性を有しながらも、社会生活上許容される行為もまた存在するわ。 このような行為についての被害者の同意(危険の引受)が、違法性を阻却するか? というのが本件の争点なわけ。 |
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もぐもぐもぐ。 する、する。 間違いない。 っていうか、この小龍包マヂで美味いっ! 間違いないっ!! |
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あうあうあうあう。 私がとっておいた小龍包が、いつの間にか無くなっているです・・・。 |
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・・・私の小龍包も気付いたらなくなっていますね。 | ||||
本件の争点は、小龍包が自然消滅するか、しないかってことかお? もぐもぐもぐ。 |
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まだ食べる料理があるのに、どうして、私達が小皿にとった小龍包まで食べちゃうですか! ヒドイです、ヒドイです! |
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小龍包が人気みたいだから、追加注文することにしましょうか。 それじゃ、小龍包が届くまでの間に、判決文を見ておきましょ。 『少なくとも、 @上級者が初心者の運転を指導する、 A上級者がより高度な技術を習得するため更に上級の者に運転を指導してもらうような場合では、 同乗者の側で、ダートトライアル走行の(前記)危険性についての知識を有しており、技術の向上を目指す運転者が自己の技術の限界に近い、あるいはこれをある程度上回る運転を試みて、暴走、転倒等の一定の危険を冒すことを予見していることもある。また、そのような同乗者には、運転者への助言を通じて一定限度でその危険を制御する機会もある。 したがって、このような認識、予見等の事情の下で同乗していた者については、運転者が右予見の範囲内にある運転方法をとることを容認した上で(技術と隔絶した運転をしたり、走行上の基本的ルールに反すること−前車との間隔を開けずにスタートして追突、逆走して衝突等−は容認していない。)、それに伴う危険(ダートトライアル走行では死亡の危険も含む)を自己の危険として引き受けたとみることができ、右危険が現実化した事態については違法性の阻却を認める根拠がある。 もっとも、そのような同乗者でも、死亡や重大な傷害についての意識は薄いかもしれないが、それはコースや車両に対する信頼から死亡等には至らないと期待しているにすぎず、直接的な原因となる転倒や衝突を予測しているのであれば、死亡等の結果発生の危険をも引き受けたものと認めうる。』 さらに、ダートトライアル競技については、 すでに社会的に定着したスポーツであること、他のスポーツに比べて格段に危険性が高いものとはいえないこと、本件においても競技の安全確保のルールの下に練習が行われていたことから、そのようなスポーツ活動において、引き受けた危険の中に死亡や重大な傷害が含まれていても、社会的相当性を否定することはできない、として、被告人の行為の違法性阻却を認めているのよね。 |
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・・・・。 (なんか議論が白熱しそうな感じだお・・・。 よし! このメニューの最下段にある『巨大フカヒレの煮込み』って料理イっとくか。ぶっちゃけ、こんな機会でもないと、フカヒレなんて食べれないしね! ウオッ! 13800円だとっ!? マヂでかっ!? まま、バレやしないお。コソーリ、コソーリ・・・) |
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判決文を読む限りですと、ダートトライアル競技が、社会的に定着したスポーツであることも考慮要素に含まれていると言えますよね。 確かに、世の中には、ボクシングのような場合によっては死亡の危険もあり得るようなスポーツはありますからね。 |
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力石も、ジョーとの戦いで命を落としているです! 力石はジョーとのボクシングの試合で、ジョーの放ったテンプルへの一撃と、ダウンの際に後頭部をロープに強打したことによる頭部へのダメージというリング禍で死亡しているです。 でも、力石は、試合の中で怪我をしたり、場合によっては死亡をする危険があることを理解した上で試合に臨んでいるです! これは、危険の引受だと思うです! そして、ボクシングは社会的に認められたスポーツであること、また、そのボクシングの試合が適正なルールの下に行われたものであることから、社会的相当性があるといえるです! 被害者である力石自身の危険の引受。 社会的相当性が認められること。 だから、ジョーが業務上過失致死罪なんていう刑事責任が問われることはないのです! この結論は、私のダートトライアル事故についても同じことが言えるはずです! |
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えーっと・・・。 なにか、ところどころ意味不明な言葉が入っていましたけれど、概ね竹中さんの言わんとされるところは合っているかと。 |
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そうね。 ナカちゃんの言っていることは、ちょっとよくワカラナイところがあったけれど、内容的にはズレてはいなかったわよ。 危険の引受だけではなく、本件の判決文にあるように、その行為自体が社会的相当性を有するものであることも必要だと言えるわね。 |
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えーっと・・・。 危険の引受だけで、過失犯の違法性阻却を認めるというのはダメでしょうか? |
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うーん、ダメだとまでは思わないけれど、私は、危険の引受だけで過失犯を不可罰とすることには抵抗があるところかしら。 ただ、このあたりの価値判断については、それぞれに考え方があると思うから、あくまでも『私は』ということで聞いて欲しいんだけどね。 |
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せっかくの機会ですから、少し聞きたいのですが。 | ||||
いいけれど、ちょっとその前提として『許された危険論』の考え方についても触れておいていいかしら。 つかさちゃんには今更だと思うけれど、『許された危険論』とは、行為時を基準として、行為の有する価値が、予想される危険の大きさに結果発生の蓋然性を合わせたものよりも優越する範囲に置いて正当化されるという考え方をいうわよね。 本件事案においても、この『許された危険論』の考え方を適用することはできないか、と思ってね。 |
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明智先輩方の議論に割り込んで申し訳ないのですけれど、私は、ちょっと、今明智先輩の言われた『許された危険論』という考え方が、よくワカラナイです。 もう少しワカリやすく説明して頂けないでしょうか? |
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『許された危険論』の考え方をザックリ説明すると、社会生活上不可避的に存在する法益侵害の危険を伴う行為について、その社会的効用を理由に、その危険を法的に許容することを言うのね。 具体的な例を挙げると、信号無視して街中を走る救急車両などがそうよね。 いくらサイレンを鳴らしていると言っても、赤信号の交差点に入ることは危険を伴う行為と言えるわ。 ただ、患者の生命のための行為の有する価値と、予想される交通事故という危険の大きさと結果発生の蓋然性を考慮して、前者が勝るから正当化される、ってことになるわけよね。 |
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ダートトライアル競技の練習行為には、救急車両のような行為の有する価値が伴わないと思うのですけれど・・・。 | ||||
だから、前提として・・・って言ったんだけど・・・。 私も、ダートトライアル競技の練習が、直ちに「許された危険」だとは思っていないわ。 ただ、本件の場合には、被害者による危険の引受があることを併せ考えると、救急車両のような行為と比較すれば、その行為の有する価値が低いといえるダートトライアル競技の練習行為にも、少なくともスポーツとしての行為の有する価値が社会的に認められることから、違法性阻却を認めるだけの正当性があると言えると思うわ。 そういう理由から、私は、危険の引受と、ダートトライアル競技が一般に社会に定着したスポーツであるという社会的相当性の2つから、違法性が阻却されると考えているの。 |
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成程・・・。 そこまで踏み込んでは考えたことはなかったです。 法益の比較衡量をしているわけですね。勉強になりました。 |
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私も、今の時点での理解を話しただけだし、あくまでも私見って位置づけで聞いて欲しいけれどね。 でも、思わぬ判例検討になって嬉しかったわ。 つかさちゃん、ありがとうね。 |
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わ、わ、私も早く一緒に議論に参加できるようになりたいです! | ||||
ナカちゃんの勉強に対する姿勢だったら、すぐなれるわよ! 私が保証しちゃう! |
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竹中さん、真面目ですからね。 ウカウカしていると、アッサリ追い抜かれちゃいそうですね。 私も負けていられないです! |
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アレ? そう言えば、さっきからサルが話に参加してないみたいだけど? |
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もぐもぐもぐもぐ。 もぐもぐもぐもぐ。 |
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あうあうあうあう。 追加注文した小龍包を、しっかり食べちゃっているです!! まだ、エビチリも、回鍋肉もあるっていうのにヒドイですっ!! |