被害者の同意@ | ||
今日の勉強会から回を跨いで、違法性阻却事由である被害者の同意について勉強することにするわね。 被害者の同意は、違法性阻却事由っていうことなんだけど。 以前の勉強会でも軽く話したと思うけれど、同意さえあればナニしてもいいってわけじゃなかったわよね? |
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あぁ、そうだったっけ? |
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あんた、「なんだツマらない」みたいなこと言っていたじゃないの。 もう忘れちゃったの? 被害者の同意があっても尚、処罰することを定めた規定もあるのよね。 一応、六法で確認しておきましょうか。 総則には規定はないんだけれど、各則にはあるのよね。 各論の勉強前ではあるけれど、見ておくことにするわね。 176条、177条。ソレから202条を見てくれる? |
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刑法176条。 『(強制わいせつ) 第176条 13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。 13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。』 刑法177条。 『(強姦) 第177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。 13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。』 刑法202条。 『(自殺関与及び同意殺人) 第202条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。』 |
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ナカちゃん、ありがとうね。 各論の勉強前だから、説明は少しアッサリにしたものにしておくわね。 176条後段、177条後段は、13歳未満に対する強制わいせつと強姦について定めているわよね。 条文をよく見て欲しいんだけど、176条後段、177条後段は、『暴行又は脅迫を用いて』という文言がないわよね。 つまり、『暴行又は脅迫』という手段を用いず、かつ、13歳未満の者の同意があってもなお処罰することになっているわけね。 コレは、13歳未満の者については、性的自己決定能力がないから、と説明されるわね。 また、同意殺・自殺関与罪についても、被害者の同意があっても同罪は成立することとなるわ。 コレは、本人の意思に反してでも生命という尊い法益を保護しようとするパターナリズムの見地からね。 |
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パターナリズムってナニ? | ||
竹中さんへの援護射撃ですか? 藤さんは、いつもお優しいですよね。 パターナリズムっていうのは、父権主義って訳されますよね。 まぁ、国をいわば「親」、国民を「子」として捉えて、国民(子)の利益を保護するために、国家(親)が個人(子)の生活や、その自由・権利に制限を加えることを正当化する原理のことですね。 |
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・・・・・・。 (だったらそう言やええんだお。 ナニ、気取って横文字つかってんだお! パターナリズムなんて言われてワカるわけがないだろ、常識的に考えて。) |
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なぁ〜んか文句言いたそうな顔してくれているわねぇ。 言っておくけれど、この「パターナリズム」という言葉は、憲法においても散見される言葉だから、知っておいた方が便利よ? さて。 この被害者の同意があるときに犯罪の成立が否定される根拠については、行為結果無価値論、結果無価値論、それぞれ違うから注意してね。 行為無価値論は、社会的相当性を、その根拠とするわ。 これに対して、結果無価値論は、法益性の欠如をその根拠とするわね。 |
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行為無価値論に、結果無価値論? ソレはなんだったっけ? |
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藤さん、藤さん。 ソレは、いくらなんでも竹中さんも御存知ですよ? |
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・・・サル。 あんた、どんだけやったことを忘れてくれちゃってんのよ・・・。 この上なく大事なことなんだから、しっかり復習しておいてよね! 言っとくけど、今のあんたの質問は刑法の勉強会の一番最初にやったことなんだからね! |
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・・・ってことは、実に10ヶ月ぶりの話じゃないの。 そりゃ、忘れても当たり前だろ。 常識的に考えて。 |
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メタはダメですぅぅぅっ! | ||
はい。そんな言葉はスルーしちゃいまぁーす。 次に、被害者の有効な同意が認められる要件ね。 主体 同意能力 同意の対象 同意の存在 が要件として挙げられるわね。 同意の認識・表明・・・については、要否に争いがあるところね。 |
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それぞれの要件の内容については、もう少し説明が必要じゃないでしょうか? | ||
そうね。 主体は、法益主体になるわよね。 一般に、被害者は自然人であることが多いんだけれど、例えば放火罪なんかは、保護法益は社会法益なのよね。 つまり、放火罪は法益主体が社会法益ってことになることから、同意はできないってことになるわよね。 次に同意能力。 この同意能力というのは、法益侵害の意義を理解するに足る精神能力ということになるわね。 だから例えば、5歳児の同意は、被害者の同意とは言えないということになるわよね。 次に同意の対象。 これは、結果を含む構成要件該当事実ってことになるわね。 但し、この同意の対象である結果を含む構成要件事実については、危険の引受という論点のあるところだから、それは次回の勉強会でってことにするわね。 そして、同意の存在。 この同意の存在については、推定的同意という論点もあるのだけれど、これも次回の勉強会でってことにするわね。 |
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こくこく(相槌) | ||
ここで問題になるのが、錯誤に基づく同意よね。 以前の勉強会で例に出した事案なんだけど・・・。 付き合っている女性が邪魔になった男が、自分も死ぬから心中しようって女性に持ち掛けて、毒を渡したところ、その女性が、その毒を飲んで死亡してしまった・・・という事案を話したことがあったわよね? (最高裁昭和33年11月21日判決) この事案の女性は、相手も一緒に死んでくれるっていう錯誤に基づく同意の下に死んでいるわけよね。 このような錯誤に基づく同意は、有効な同意とは言えないわよね。 この事実下において、いかなる罪が成立するのかは、以前の勉強会で検討したから、復習がてら確認しておくといいと思うわ。 |
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・・・私、その勉強会には参加していないんですけれどね。 | ||
・・・私もです。 | ||
あたしも記憶にないから参加してない可能性が微レ存・・・。 | ||
つかさちゃんは勉強会に参加しなくても理解しているでしょ? ナカちゃんは、後から聞いてくれれば教えるから安心してね。 サル・・・。あんた、なんなら覚えているのよ・・・。 この錯誤に基づく同意を、どう扱うのか、という問題について、通説・判例は条件関係的錯誤説(重大な錯誤説)という考え方をとっているわね。 少数説としては、法益関係的錯誤説という考え方もあるわね。 まぁ、説明自体は以前の勉強会と重複するから割愛ってことにするわね。 |
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・・・何故だろう。 なんか全然思い出せない話ばかりだお。一体刑法の勉強会なんて、いつやったんだろう・・・。 気のせいかなぁ。半年以上のブランクがあるように感じるんだけど、この違和感はどっから来るんだろ? |
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じゃあ、今日の勉強会は、ここで終わりにしてあげるから、あんた、しっかり復習しておきなさいよね! | ||
わかった? チビっ子? |
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木下さん? あなたに話しているのよ? |