検討会(事例検討編) | ||
じゃあ、一緒に事例検討をして起案しようかぁ。 | ||
ですです! |
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えーっと、刑法の原則的な思考手順は 1.「行為」を抜き出す 2.検討する「罪名」を「条文」を挙げて明示 3.構成要件を検討 (1)必ず、客観的構成要件⇒主観的構成要件⇒修正的構成要件 の順序で (※ 主観的構成要件・修正的構成要件は特に問題なければ省略可) 4.違法性阻却事由・責任阻却事由を検討 5.科刑段階の検討 6.罪数処理 だったよねぇ。 ということは、先ずはピックアップする「行為」を抜き出さないといけないよねぇ。 |
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私は、まだ刑法各論の勉強をしていないから、ちょっと検討する「罪名」は怪しいです・・・。 でも、問題になる「行為」は一緒に考えたいです! |
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一番問題になる、つかさおねーちゃんの「行為」は、間違いなく、オネーちゃんに怪我をさせたシャツの袖口を強く引っ張って転倒させた「行為」だよね。 | ||
ですです! ソレは私も思ったです。 黒田先輩は、藤先輩に全治一週間の怪我を負わせているんですから、ソレは傷害罪(刑法204条)になると思うです! |
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だよねぇ。 ということは、この最後の「行為」については、チイもナカちゃんも同じ意見ってことだねぇ。 |
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他の「行為」は、どうなるです? 黒田先輩は、藤先輩の手を強く掴んでいるです。 |
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そうだよねぇ。 暴行罪(刑法208条)にいう「暴行」は、人の身体に対する不法な物理力の行使をいうんだから、つかさおねーちゃんがオネーちゃんの手を強く掴むことは「暴行」といえるよねぇ。 だから、暴行罪の構成要件に該当する行為っていえるよねぇ。 |
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ペラペラ・・・(六法をめくるナカちゃん) 逮捕罪には、あたらないでしょうか? 刑法第220条 (逮捕及び監禁) 『不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。』 |
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逮捕罪かぁ。 逮捕罪にいう「逮捕」というのは、人の身体を直接的に拘束して、その身体活動の自由を奪うことをいうんだよねぇ。 ただし、ここにいう「逮捕」とは、その行為によって身体活動の自由を確実に奪うものであることが求められるんだよねぇ。 例えば、縄で両足を縛ったけど、直ちにコレを解き放ったというような場合や、身体に抱きついたけど、すぐに解放したっていうような場合には、暴行罪にとどまるはずだよぉ。 手を掴んだだけでは、身体活動の自由を確実に奪うものとは少し言い難いし、事例では、ちょっと時間までは定かじゃないけれど、階段での押し問答をしている時間ってことだと、ちょっと逮捕としては時間的継続が短いように思えるなぁ。 |
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成程、成程です。 じゃあ、黒田先輩の「藤先輩の腕を強く掴む行為」は、「暴行罪」にあたるってことですね。 |
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チイは、そう思うけどなぁ。 | ||
私も納得したです。 他の「行為」は、検討しなくっていいですかです? 黒田先輩は、藤先輩の腕を、その後、さらに強く掴んでいるです。 |
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チイは、腕の掴む強さが変わったからといって、同じ「行為」だと思うんだよぉ。 ドッチの「行為」も、オネーちゃんに謝ってもらうって目的も同じだしね。 だから、つかさおねーちゃんの「行為」としては、「腕を強く掴んだ行為」(暴行罪)と、オネーちゃんを引き倒した「シャツの袖口を強く引っ張り引き倒した行為」(傷害罪)の2つの行為を抜き出せば足りると思うよぉ。 |
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成程です。 私も、ソレでいいと思うです。 |
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ホント? ソレじゃ抜き出す「行為」と、検討する罪名と条文はチェックできたってことになるよね。 |
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ですです。 じゃあ次は、構成要件の検討です! 私は、黒田先輩が、藤先輩の手を強く掴んだ行為は、人の身体に対する不法な物理力の行使である以上、「暴行罪」の構成要件に該当するっていうのは納得できるです。 でも、藤先輩のシャツの袖口を強く引っ張って転倒させた行為については、疑問があるです。 黒田先輩は、藤先輩に怪我をさせるつもりはなかったと思うです。 あくまでも、黒田先輩は、藤先輩に謝って欲しかっただけで、怪我をさせるつもりはなかったです。 ソレなのに、藤先輩のシャツの袖口を強く引っ張った結果、藤先輩が怪我をしてしまったからといって「傷害罪」というのは、厳しいように思うです。 |
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あ、そっか。 ナカちゃんは、まだ各論の勉強はしていなかったもんねぇ。 うんとね・・・「傷害罪」は、人の身体の安全を保護法益とするんだよぉ。 そして、つかさおねーちゃんの、オネーちゃんのシャツの袖口を強く引っ張る行為が、傷害罪の実行行為といえるかは、構成要件の予定する法益侵害の現実的危険性を有する行為といえるか、ということが問題になるんだよねぇ。 この「傷害」の意義には、幾つか考え方があるんだけど、ここではチイのとっている考え方の「人の生理的機能に対して障害を加え、並びに、人の外形に対して重要な変更を加えることをいうもの(折衷説)」って立場で検討したいんだけど。 (※ 生理的機能障害説、身体完全性侵害説でも本問では帰結は変わりませんが、便宜上、チイの立場を明らかにしておきます。) |
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こくこく(相槌)。 | ||
確かに、ナカちゃんが言うように、シャツの袖口を強く引っ張る程度の行為が、人の生理的機能を害する現実的危険性があるのか・・・って言われると、ちょっとないかもって思うよねぇ。 | ||
ですです。 黒田先輩には、藤先輩を怪我させるつもりはなかった(傷害の故意がない)です。 ということは、傷害罪は成立しないってことですか? でも、藤先輩は全治一週間の怪我を負っているです・・・むぅぅ、黒田先輩は過失傷害罪(刑法209条)ってことになるですか? |
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えーっとねぇ。傷害罪は、もちろん故意犯ではあるんだけれど、暴行罪との関係では、結果的加重犯(刑法総論勉強会構成要件要素B結果参照)になるんだよぉ。 どういうことかって言うと、傷害罪の故意は、暴行につき認識があれば足り、傷害については認識がなくてもいいって考えるんだよぉ(結果的加重犯説・判例)。 |
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ど、どうして、そうなるですか? | ||
うんとね・・・。 傷害罪に、必ず傷害の故意が必要であるって考えると、暴行の意思で傷害を与えたときは、暴行の故意がないんだから暴行罪でも処罰できないし、傷害の故意がないんだから傷害罪でも処罰できないってことになっちゃうわけだよねぇ。 そうなると、過失傷害罪(刑法209条1項)で処罰するってことになっちゃうんだけど、過失傷害罪の法定刑は、暴行罪よりも軽いんだよねぇ。 |
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なんだかおかしい気がするです。 | ||
そうなんだよねぇ。 暴行の故意で、暴行行為をして傷害の結果に至らなかったのなら、暴行罪で処罰(2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金)されるのに、暴行の故意で暴行行為をして傷害の結果に至ったのなら過失傷害罪(30万円以下の罰金又は科料)で、暴行罪よりも軽く罰せられるっていうのは、刑の均衡がとれていないってことになっちゃうよねぇ。 |
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ですです! | ||
あとは、条文の作りから、そう読むべきだってことになるよぉ。 えーっとね、刑法208条を読んで欲しいよぉ。 |
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刑法第208条 (暴行) 『暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。』 |
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この文言から『暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは』は暴行罪だけど、傷害の結果が発生した場合には、当然に傷害罪が適用されるべきってことなんだよぉ。 | ||
成程です。 となると、黒田先輩には、藤先輩のシャツの袖口を強く引っ張るという、人の身体に対する不法な有形力行使があり、その意思(暴行の故意)も、あったわけですから、暴行罪の実行行為が認められて・・・。 その行為によって、藤先輩に全治一週間の怪我を負わせているわけですから、暴行による傷害罪が成立するといえるです(結果的加重犯)。 |
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うんうん、チイはそう考えるよぉ。 | ||
じゃあ、黒田先輩の行為には、暴行罪と傷害罪とが成立するってことになるです! 検討はコレで、おしまいってことになるですか? |
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違うよ、違うよぉ。 ここまでは、まだ入り口だよぉ。 この問題のポイントは、つかさおねーちゃんが、オネーちゃんに怪我を負わせた行為を、傷害罪として処罰できるのか? ってところだと思うよぉ。 |
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ふえ!? どういうことですかです? |
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うんとね、つかさおねーちゃんは、オネーちゃんに平手打ちをされたことに対して、オネーちゃんのシャツの袖口を強く引っ張ったわけでしょ・・・ | ||
あ、正当防衛があったです!! | ||
そう、そう。 つまり、つかさおねーちゃんの行為には、正当防衛が成立するのか? ってことを検討しないといけないよぉ。 |
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条文を確認するです! えーっと、正当防衛は・・・。 刑法第36条 (正当防衛) 『第1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。』 とあるです。 黒田先輩は、藤先輩が、いきなり平手打ちをしてきたから、自分の身を守る為に、シャツの袖口を強く引っ張ったわけですから、正当防衛が成立するように思えるです! |
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うーん、確かに、その部分(サルが平手打ちをしてきた ⇒ つかさちゃんがシャツの袖口を引っ張った)だけ抜き出して考えると、正当防衛が成立するように見えるよぉ。 でも、そもそも、つかさおねーちゃんには、オネーちゃんの手を強く掴んでいるっていう行為(暴行罪にあたる行為)が、その前にあるんだよねぇ。 |
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でも、その前には、藤先輩が、黒田先輩にぶつかっているです。 | ||
うんうん。 チイだって、オネーちゃんがいきなり階段でぶつかっているんだから、そのことは悪いとは思うよぉ。 だから、つかさおねーちゃんが、オネーちゃんに「謝って」っていうことは当然だと思うんだよぉ。 でも、いくらそうだからって言って、他人の腕を強く掴んでいいって話にはならないよぉ。 例えば、強要罪(刑法223条)って刑罰があるんだけど、ここにいう『義務のないことを行わせ』にいう、義務とは、法律上のものをいうんだよねぇ。 だから、謝罪をすることが、それこそ社会倫理上当然のことであったとしても、暴行を用いてこれを強要しちゃうと『義務のないことを行わせ』たこととして、強要罪にあたっちゃうんだよねぇ(※ 反対説もあります)。 |
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謝るのが人一倍嫌いな藤先輩が喜びそうな話です・・・。 | ||
オネーちゃん、謝るの大嫌いだもんねぇ。 でも、そう考えると、オネーちゃんの平手打ちの前には、つかさおねーちゃんの違法性を有する行為(挑発行為と評価される行為)があることになるよねぇ。 ということは、つかさおねーちゃんは、自ら、この状況を招いているとも言えるよねぇ。 |
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あ・・・勉強会でやったです! (刑法総論勉強会正当防衛C参照) ソレは、挑発防衛・自招防衛ってことですね? |
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うんうん。 多分、この事例問題の一番のポイントは、ソコだと思うんだよぉ。 (学説の対立については、上記勉強会参照) |
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判例検討もしているから、私にも検討出来そうです! (判例:最決平成20年5月20日) |
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えぇ〜。 ナカちゃん、ズルいよぉ。 チイは、その勉強を一緒にしてないよぉ〜。 |
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あうあうあうあう。 あの判例の検討の時には、まだチイちゃんは来ていなかったから、ズルをしたわけではないと思うです。 |
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むぅぅぅ。 チイは、ナカちゃんと一緒に検討したかったよぉ。 でも、既に判例検討しているのなら、この問題にも対応できそうだよねぇ。 |
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ですです! ・・・でも、どうやって答案にすればいいのかが難しいです・・・。 |
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うーん、まだチイ達は、あんまり答案書くことに慣れてないし、判例を見ながら・・・ってことにしちゃおうよぉ。 | ||
ですね。 (※ 自招防衛についての説明、判例の検討は勉強会での説明に委ねます。) |
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ソレじゃ、早速起案しちゃおうよぉ。 | ||
頑張るです! | ||
おいおい。 チビッ子共。 ちゃんと勉強しとるかや? |
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あ、藤先輩。 | ||
『ポケモンGO』やりたくって、クロちゃんのスマホに勝手にゲームをダウンロードして遊んでいたら、あの金満が、遊んでるなら、一緒に検討して来いって言ってきてさぁ。 検討どこまで行ってんの? |
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もう大方終わってしまったです。 | ||
マヂで? ナニナニ、チビッ子共にしては上出来じゃないの! ふむふむ。 まぁ、検討したかったけど終わってしまったのなら仕方ないなぁ。 ソレじゃ、あたしは、またポケモン探しの旅に行くお! ウキキキっ!! じゃな、チビッ子共っ!! |
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・・・「チビッ子」「チビッ子」って。 | ||
・・・一度も名前を呼ばれなかったです。 | ||
・・・なんか、あんなオネーちゃんは、つかさおねーちゃんに怪我させられて当然だって思えてきたよぉ。 | ||
私も同感です。 | ||
ソレじゃ、早速起案しちゃおうよぉ。 | ||
頑張るです! |