最決平成20年5月20日
事案が少し長いけれど、配役の人の頑張りに期待させてもらうわね。
それじゃ、配役は・・・。

私がナレーター。
自転車に乗った人を、サル。
(男・51歳)
被告人を、つかさちゃん。
(男・41歳)

って配役でいくわね。
私は今回もナレーターだけど、見逃してね。
年齢や性別を付したのは、行為の相当性の判断材料ってことで。

ナレーター
事件の舞台は、よくある歩道上に設置された、ゴミ集積所でした。
時刻は、午後7時30分
ゴミ集積所に、自転車にまたがったまま男が訪れます・・・。

自転車の男
ほいほい。
ゴミを捨てさせてもらうよぉ〜っと。
ポイポイポォ〜イっと。
やれやれ・・・。
今日も帰宅が遅くなってしまったよ。
ん?

被告人
誰だろう・・・あのゴミを捨てている人は・・・。
この近所では見かけない人だなぁ。 

被告人
もしもし?
私は、この近所に住んでいる者なんだけど、あなたはどなたですか?
このゴミ集積所は、近隣住民のゴミ捨て場なんで、部外者の方には御遠慮して欲しいんですけどね。

被告人

自転車の男
なんだよ、うるさいなぁ。
ゴミ捨てるくらいで、ガタガタ言うなや。
ガタガタ言うな、って、じゃあ、やっぱり、あなたは部外者なんですか?
だったら、その今捨てていたゴミは持ち帰って下さい。

被告人

自転車の男
だから、ソレが余計な御世話やっちゅーとんのや!
なんや、お前はっ!
うっさいわっ!!! 
なんですか、その物言いはっ!
コッチが穏便に話をしているのに、うるさいとは何事です! 

被告人

自転車の男
ゴミ捨てたくらいでゴチャゴチャ言うからやないか。
もうお前いらんわ・・・さっさと帰れや。
  パチィーンっ!
被告人

ナレーター
2人の言い争いがしばらく続いた後、被告人となった男は、いきなり自転車の男の左ほほを手拳で1回殴打し、その場を走り去りました
第1行為

自転車の男
なっ!!
ナニしやがるっ!!
てめっ! コラ、待ちやがれっ!
 
  待つもんですかっ!!
逃走中)

被告人

自転車の男
あの野郎ぉ〜。
コッチは自転車なんだよ・・・逃がすかってぇーのっ!
自転車で、相手の男を追跡) 

ナレーター
ゴミ集積所から約25m先を左折、約60m進んだ歩道上で、自転車の男は、自分を殴った男に追いつきました。

自転車の男
っしゃぁっ! 追いついたぁっ!!
よくも殴って逃げやがったなぁ?
タダで済ませると思うなよぉ? 

自転車の男
うぉりゃぁっ!  
  うわぁぁぁっ!!  被告人

ナレーター
自転車に乗った男は、自分を殴った男に対して、自転車に乗ったまま、水平に伸ばした右腕で、後方から男の首付近(または背中あたり)を強く殴打しました(いわゆるラリアット)。
後方から殴打された男は、前方に倒れました。
第2行為
  よくもやったなっ!!
被告人

自転車の男
先に手ぇ出したのは、お前だろ!  
  スチャッ!
被告人

自転車の男
はっ!?
お、おま・・・なんやソレは?
 

ナレーター
前方に倒れた男は、起き上がり様、護身用に所持していた特殊警棒を衣服から取り出したのでした。

自転車の男
ソレは卑怯やないかっ!
なんで、そんなもん持ち歩いとるんや!!
やめ、やめろやっ!! 
うるさいっ! うるさいっ!!
これでもかっ! これでもかっ!! 
えいえいえいえいえいえいっ!!! 

被告人

自転車の男
痛い、痛い、痛いっ!!
って言うか、マヂで痛いっ!!
ストップっ! 
ストォォォップっ!! 
  えいえいえいえいええいっ!
被告人

自転車の男
ちょ、ちょっ!!
光ちゃん、止めて、止めてっ! 
 

ナレーター
あ、そうね。

被告人の男は、自転車の男の顔面や、防御しようとした左手を数回殴打する暴行を加えました。
この暴行によって自転車の男は、顔面挫創、左手小指骨折の傷害を負いました。
第3行為) 
   






つかさちゃん、ナイス!!  
  ・・・・・。 
藤さん直伝の黒澤流のリアリティーを追求してみましたっ!
・・・・。

(このメガネ、ガチでヤバいお・・・。
 ぶっちゃけ、アレは演技でもなんでもねぇお。
 加減ってもんを知らねぇのかお。
 まさか小道具にラッピングペーパーの芯まで持ち出すとは。)
・・・黒田先輩はリアルで怖かったです。
わ・・・私は、判例再現を一生懸命努めただけなんですけれど。
藤さんは、きっとワカッテ下さるものと思いますけれど・・・。
・・・わ、わ、ワカルお。
クロちゃんの熱意は、(リアルに)痛いくらいよくワカッタお。

(・・・合わせておかんと、とんでもねぇことになりそぉだお。)
ですよね!

それじゃ、事案の整理と争点の確認をしましょうか。

本件では、第1行為、第2行為、第3行為と、カッコ書きがなされていましたよね。整理すると・・・。

第1行為 被告人(手拳) → 被害者 
第2行為 被告人     ← 被害者(ラリアット)
第3行為 被告人(警棒) → 被害者

という流れですよね。

さて、本件の争点ですが、本件の被告人は、相手方の第2行為に先立ち、第1行為による暴行を加えています
つまり、この第2行為という不正の侵害は、行為者(被告人)自らが招いた侵害(=自招侵害)だということになりますよね。
このような場合の第3行為に正当防衛の成立が認められるかが、本件の争点になるわけです。
特殊警棒でしょ?
G3ーXガードアクセラーみたいなもんなわけでしょ?
それで結構一方的に殴ってるしなぁ。
そんで結果的に、あたし(自転車の男)は、骨折でしょ?
いやぁ、コレで正当防衛はないと思うけどなぁ。
でも、藤さんも自転車で走行しながらの背後からのラリアットですからねぇ。
しかも、逃げる私を追いかけてまで攻撃を加えているわけですからねぇ。
確かに、ラリアットと言えば、ネプチューンマンの得意技だからねぇ。
ソレを、後ろから自転車の加速込みで喰らわせているわけだよねぇ。
それに、追いかけてまで殴っているってことは、特殊警棒なければ、この後壮絶な喧嘩になった可能性もあるかもねぇ。
でも、藤先輩の素手での攻撃に対して、黒田先輩は特殊警棒を持ち出しています。
藤先輩の自転車の方は51歳。黒田先輩の役の方は41歳です。
双方の年齢を考慮しても、黒田先輩の役の方の方が10歳も若いです。
それなのに、素手 対 特殊警棒 では武器対等の原則に照らしても、相当性を欠いていると思うです。
あたしは自転車に乗っているわけだけど、コレは不利だよね。
ケンシロウなら、すかさず「馬上の不利を知れ」って言って「北斗七死騎兵斬」をかましてくる状況だからね!
すみません・・・。
私は、ちょっと先程から藤さんの言われてみえることが幾つか分からないのですけれど、私にも分かるように話して頂ければ嬉しいです。
いえ、私が不勉強で至らないことは、重々反省しています。
つかさちゃん、聞かなくっていいから。
真面目な検討に、サルがいらないこと言ってるだけだから。

なかなかいい議論がなされているみたいだけど、続きは判決文を見てからにしましょうか。
 被害者を「自転車の男」に改めています。)

前記の事実関係によれば、被告人は、自転車の男から攻撃されるに先立ち、自転車の男に対して暴行を加えているのであって、自転車の男の攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、自転車の男の攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。

 そうすると、正当防衛の成立を否定した原判断は、結論において正当である。


として、正当防衛の成立を否定しているのよね。
納得だお。
ぶっちゃけ、あんだけ特殊警棒で殴られて、骨折までさせられて、正当防衛では納得いかんお。
結論はさておき、判例が考慮している要件が重要ですよね。

原因行為としての不正な暴行との、時間的・場所的な一連性近接性)。
そして、原因行為と不正な侵害との均衡ですよね。

前者は
自転車の男の攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態
後者は
自転車の男の攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでない
判決文において述べられている部分ですよね。
この判例の検討の前にも言ったと思うけれど、判例自招侵害だから正当防衛は成立しない、とはしていないわ。
自招侵害であっても、正当防衛の成立を認めている判例はあるわけだからね。

ただ、成立しないわけではないけれど、成立のための要件は厳しいものであることも、また事実なのね。

じゃあ、逆に、この判決文から判例射程を検討してみましょうか。
今検討した事案において、事実にどのような違いがあれば、正当防衛が成立したといえるか、ということを考えてみましょ?
  ソレは面白いですね。
判決文では
自転車の男の攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態
だと認定しているです。
時間的・場所的な近接性・一連性要件にあるのならば、その要件を欠けばいいと思うです。
はいはい、成程、成程。
つまり、クロちゃんがまんまと、あたしの追跡から逃げおおせて・・・。
んで、その後探し回っていた、あたしが、まぁ6時間くらい後に、深夜のコンビ二でバッタリ・・・みたいな状況だったら、正当防衛が認められる余地もでてくるってことね?
流石、藤さんです!
6時間も時間の隔たりがあれば、ちょっと時間的にも一連とはいえないですよね。
事件現場が、ゴミ集積所、その後の場所もゴミ集積所から約60mということですから、その場所が全く関係のないコンビ二だとすれば、場所的な近接性もないといえますよね。
御指摘の通りだと思います。
  あうあうあう。
あたしの考えを横取りされたです。
サルは、ナカちゃんの考えに当てはめをしただけだから。
ナカちゃん、いい検討できていたわよ。
もう1つの要件は、どうかしら?  
頑張るです!
もう1つの要件では、
自転車の男の攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでない
として、武器対等の原則からの相当性の検討がなされているです。
えーっと、ですから・・・
ふむふむ・・・。
つまりアレじゃね?
あたしのクロちゃんへの第2攻撃が、ラリアットじゃなくって、日本刀みたいな場合だったら、クロちゃんの特殊警棒での第3攻撃にも、正当防衛を認める余地が出てくるってことじゃない?
私もそう考えますね。
流石、藤さんです。
判例射程も、バッチリ捉えてみえるんですね。
まねっ!(ドヤっ! 
あうあうあうあうあうあう。
刑法は苦手だから答えたかったのに、全部持ってかれてしまったです。
大丈夫よ。
ナカちゃん、考え方の筋道はしっかりしてたもの。
自信もっていいと思うわ。
そ、そうですか?
明智先輩にそう言ってもらえると、嬉しいです!
なんか、この検討面白かったお。
そっか・・・。
コレが判例射程を考えるってことなのか。
いつも誰かさんが、もう少し真面目に判例検討していれば、こういう勉強会もできるってことよね。 
ただでさえ長い勉強会の拘束時間が、さらに増えるじゃまいか。
イラね、イラね。 
なんてこと言うのかしら。
定期試験でイタい目見ればいいのに! 
 
  ウキっ!

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