刑法 検討会 | ||
お嬢様! 皆様は、いなくなってしまいましたが、正直途中から事案を聞いていて、私も、この事案を、どのように考えるのか気になりました。 御送りがてらお聞かせ頂けないでしょうか? |
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あ、柴田さん。 ソレなら近所にいい洋菓子店があるんですよ。 一緒にお茶して行きません? |
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よろしいのでしょうか? | ||
うんうん。 最近ちょっと御無沙汰だったしね。 |
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でしたら是非にもっ! |
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ハイ! というわけで、やって来ました「ネージュ・ブロンシュ」! |
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ここが、いつもお嬢様の御話によく挙がるお店なんですね。 雰囲気のいい素敵なお店です。 一緒に来られて光栄です! |
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固い、固い、柴田さん。 お茶を飲みに来てるんだし、リラックスしてくれていいから! |
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は、はい! | ||
えーっとソレじゃ、柴田さんから先ずはザックリと! 本件事例においてサルに成立すると思われる罪はなんだと思います? |
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事案の藤さん(=サル)は、お嬢様を殺しているわけですから、殺人罪(刑法199条)が成立するのではないでしょうか? | ||
そうですよね。 『人を殺した者は』 と殺人罪(刑法199条)は規定しているわけなんだから、先ずは殺人罪が頭に浮かびますよね。 ただ、ここで重要なのは、犯罪とは、構成要件に該当して違法で有責な行為をいうんですよね。 そして、その構成要件とは 客観的構成要件(行為と結果、その間の因果関係) と 主観的構成要件(通常は、故意) の2つから構成されています。 |
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は・・・はい・・・。 | ||
サルは、私を殺しているわけなんだから 『人を殺した者』 と客観的にはいえるわけですよね。 客観的構成要件とは、行為と結果、そしてその間の因果関係から構成されることになります。 私の頭部を洗面器で殴打し港に放置(行為)したことによって(因果関係)私を死に至らしめた(結果)・・・ ということなんだから、客観的構成要件は充足するといえます。 でも、主観的構成要件(故意)はどうかってことですよね? |
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言われてみますと、藤さんには「殺意」(故意)がなかったですね・・・。 | ||
そうですよね。 本件のサルは 『普段から恨みを抱く光ちゃんを痛めつけようと思い』 とあることから、暴行ないし傷害の故意こそあれ、殺人の故意(殺意)までは、この文言からはちょっと汲み取れないわけです。 勿論、「未必の故意」(刑法総論勉強会参照)を事案の事実から認定して、故意を認める・・・ということも考えられますけどね。 |
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「未必の故意」・・・。 もしかしたら死ぬかも・・・という気持ちでいたってことですよね? |
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流石、刑事経験のある柴田さん。 その通りですね。 「未必の故意」も故意に含まれるんだから、事案のサルに、このような認識があるのであれば、殺意を認定しての殺人罪成立・・・ということも考えられます。 ですが、本件では、特にそのような事情はないんだから、ちょっと殺人罪の成立までは認められないってことになるかと。 |
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成程・・・言われてみれば、殺意の有無は、裁判においてもよく争点になりますよね。 | ||
そうですね。 殺意の有無は、非常に大きな分岐点になるところだから、安直な認定は好ましくないものです。 厳罰に処するべき! という気持ちはワカりますが、事例の事実から離れた認定は避けるべきですよね。 |
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そう考えると、藤さんは、傷害(刑法204条)によって、結果的に、お嬢様を死に至らしめているわけですから、傷害致死罪(刑法205条)が成立するということになるのでしょうか? | ||
客観的構成要件・主観的構成要件を考えると、そのルートでの検討が妥当と思いますね。 ただ、客観的構成要件を構成する行為と結果、その間の因果関係・・・ と一口には言えるものの、実際の事例において、その構成要件該当性の判断を的確にすることは、なかなか難しい問題ですよね。 特に、ピックアップする行為(実行行為)はナニか? というのは、なかなかの難問といえます。 |
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と言いますと? | ||
刑法は、行為を処罰するものなんだけれど、具体的に サルの行った行為のうち、どの行為を問題にするべきなのか? どこまで細かく分けて検討するべきなのか? そして「結果」との関係において、どの「行為」が問題となっているのか? そして、その「行為」と「結果」との間の「因果関係」は? という視点が必要になるんですよね。 |
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む、難しい問題なんですね・・・。 | ||
そうですね。 でも、柴田さんは最初に、傷害致死罪の検討から入ったじゃないですか。 コレは、実は簡単そうに見えて、なかなか難しいことなんですよね。 刑法の罪責を考える上において、検討漏れは往々にして起こりえることです。 前回のチイちゃん達の起案でもありましたしね。 ソコで、検討漏れを防ぐ意味でも、先ずはより重い罪から検討すべきってことになります。 ただ、その理屈だと殺人罪の検討から思考は辿ることになるわけなんですが、本件においては、殺人の故意がないことは、問題文上、明らかなんですから、傷害致死罪の検討から始めていいってことになるわけですね。 そして、軽い罪については、成立する他の罪との関係において、あえて論じる必要があるのか? ということを考えて欲しいこととなります。 刑法の論文問題では、とかく時間が足りなくなるものだから、その少ない時間を割いてまで、その行為をわざわざ取り上げて検討すべきなのか? という視点ですね。 |
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と言いますと・・・。 | ||
例えば、本件事案においてサルは、洗面器で私を多数回殴打していますよね。 となると、洗面器で殴りかかる行為は、暴行罪(刑法208条)、怪我をさせていれば傷害罪(刑法204条)という構成要件に、それぞれ該当するわけだし、実際、サルには、その故意もあるわけなので、それぞれが成立することは間違いないわけですよね。 またその後、サルは港の資材置き場に私を放置した結果、私が死体となって発見されているわけですから、遺棄致死罪(刑法219条)ってことになるわけですよね。 でも、事案のサルに傷害致死罪(刑法205条)が成立するのなら、結局は、その中に評価されてしまうわけです。 そうであるならば、わざわざソレらを個別に分析して検討する必要があるのか? ってことですね。 |
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確かに、そうですね。 私が刑事をやっていたときには、沢山罪名を挙げると仕事が多くなるからだとばっかり思っていました。 |
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・・・ソ、ソレは違うと思いますけど・・・。 えーっと、というわけで、本件事例においては、サルのピックアップする行為は 『サルが私を痛めつけようと思い、頭部を洗面器等で多数回殴打し、その後港の資材置き場に放置した行為』 と全体として一個の行為として捉えて、傷害致死罪(刑法205条)の成立を検討するということがいいと思いますね。 |
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藤さんの行為を2つに分けて検討するというのは、駄目でしょうか? | ||
うーーん・・・。 『サルが私を痛めつけようと思い、頭部を洗面器等で多数回殴打した行為』 と 『サルが私を港の資材置き場に放置した行為』 とに分けて検討してしまうと、 前の行為には、傷害罪(刑法204条)、後ろの行為には、遺棄致死罪(刑法219条)ってことになってしまって、2つの罪を成立させても尚、傷害致死罪(刑法205条)の成立よりも軽い罪を認めることになってしまうわけですよね。 柴田さんは、最初、サルには殺人罪が成立するんじゃないのか? ってくらいに思われていたのに、その結論でいいのか? って思いません? |
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個人的には、お嬢様を殺したような輩がいれば、私が地の果てまで追い詰めて、お嬢様の無念を晴らすという気持ちでいます! | ||
・・・あ、あ、ありがとう。 柴田さん・・・。 気持ちだけ、ホントに気持ち「だけ」受け止めさせてもらうことにしますね。 えーっと、ここまでは大丈夫かしら? |
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大丈夫です! お嬢様に、私の気持ちを受け止めて頂けたのでしたら、それで十分です! |
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・・・会話が噛み合ってないような・・・。 いいのかしら? そうそう、ついでってことで少し脱線しちゃうけれど、遺棄致死傷罪(刑法219条)の扱いについても少し難しい問題がなくはないです。 各論の話になってしまうんですけれど、お茶の席でのおしゃべりってことで。 例えば、殺意を抱いて、行為者が遺棄していった場合・・・どうなるのか? という問題がありますね。 |
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殺すつもりで置き去りにした・・・ということですか? | ||
そういうことですね。 | ||
殺すつもりで置き去り(遺棄)にして行った結果、その置き去りにされた人が死んだのであれば、殺人罪(刑法199条)ってことになりそうにも思えますね。 | ||
そうですね。 通説・判例も、殺意のある遺棄によって人の死という結果が生じた場合には、殺人罪が成立しうるという立場をとっています。 (判例:大判大正4年2月10日) ですら、殺意をもって遺棄し、それと相当因果関係にある致死傷の結果が生じた場合には、殺人罪または殺人未遂罪が成立し、遺棄の罪は、ソコに吸収されることになるといえます。 |
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納得できます。 | ||
でも、そうするとですよ? 例えば、私が、柴田さんを殺すつもりで(殺意をもって)、このお店に置き去りにして行った場合を、考えてみてもらっていいですか? (※ 遺棄罪の客体として、柴田さんは不適当ですが、ここでは柴田さんが同罪の客体である扶助を要する者だとしてお考え下さい) |
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え? お嬢様が、この喫茶店に私を置いて帰られた? その際に、私をお嬢様が殺そうと思われていた、ということですか? |
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例え話ですよ? 例え話。 |
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この喫茶店に置き去りにされたことで、私が死ぬということになるとは到底思えないのですが・・・。 | ||
そうですよね。 でも、先の見解に照らせば、私が柴田さんを殺そうという故意をもって、遺棄(置き去り)していったのだから、その結果、柴田さんが死ななかった場合には、既遂犯ではなく未遂犯・・・つまり殺人未遂罪(刑法203条、199条)ってことになるって思いません? |
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お嬢様の御言葉ですが、ちょっと思えないです。 | ||
そうですよね。 ここでは、行為と結果と因果関係、そして故意が一見、備わっているように見えるけれども、行為の実行行為性が問題となっているわけですね。 確かに、殺意のある遺棄によって死という結果が生じた場合には、殺人罪は成立しうるわけです。 でも、ソレはあくまでも殺人の実行行為の程度に達した行為の場合ってことですよね。 実際に、判例が遺棄致死罪ではなく、殺人罪(不作為の殺人)を認めた事案だと・・・。 自分の車ではねた意識不明の被害者を、自分の車に乗せて、死んでもやむを得ないと考え、救護措置もとらずに車を走らせ続けた結果、死亡させた・・・ というケースにおいて、不作為の殺人罪を成立させていますね。 (判例:東京地判昭和40年9月30日) このケースにおいては、当該不作為が、殺人の実行行為の程度に達しているという判断がなされたからってことになりますね。 まぁ、もっとも本件では、サルには殺意がないって話だったんだから、コレはあくまでも余談なんですけどね。 |
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いえ、興味深いお話でした。 ところで、お嬢様。 私が気になったのは、たしかあの事案では、藤さんはお嬢様を港の資材置き場に放置されたわけですが・・・。 お嬢様は、その後、その港の資材置き場に現れた何者かによって殴打されているわけですよね? そうなりますと、藤さんの洗面器等での殴打と、お嬢様の死という結果には関係がないということにはなりませんか? |
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そうですね。 私の死という「結果」が、サルの「行為」によるものといえるのか? すなわち「行為」と「結果」との間に「因果関係」があるのか? ということが次に問題になってくるわけですよね。 まぁ、この因果関係を、どのように考えるのか? という論点については、実は刑法総論の勉強会で既に重要判例を交えて紹介済みなので・・・その説明は割愛させてもらいますね。 ただ大きく分けて、2つの考え方があると思います。 ソレは @条件関係+相当因果関係(主観説・客観説・折衷説) A条件関係+相当因果関係(危険の現実化) という処理になりますね。 最近は、後者のAの考え方で因果関係を捉える人が多いと思うんですけど、別に@の考え方で因果関係を検討することもいいと思いますね。 チイちゃん達が、ドッチの処理で検討してくるのか、ちょっと楽しみなんですよね。 |
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・・・ちょっと、なんだかオチがないのが気になりますが・・・。 | ||
ソレじゃ、柴田さんも起案の勉強会にも顔を出してくれたら、いいじゃないですか。 きっと、チイちゃん達が柴田さんの聞きたがっている答えを用意してきてくれるはずだと思いますよ? |
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私が行ってもお邪魔にならないでしょうか? | ||
全然っ! みんな、柴田さんのこと大好きですから! 逆に喜んでくれるくらいだと思いますよ! |
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ソレなら是非っ! | ||
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その頃、近所の公園にて。 | ||
アレ? あたしの「ポケモンレーダー」が反応してんお!? なんか次回の勉強会には、とんでもないモンスターが、隠れているような気がすんお!? |
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藤先輩っ! ミニリュウです! ミニリュウが近くに隠れているです!! |
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にゃっ! にゃにっ!? 何処だお、何処だお!! よしっ! クロちゃん、アッチだお! アッチにいるはずだお! ダッシュ、ダッシュっ!! |
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・・・あ・・・あ・・・暑い・・・ですぅ・・・。 | ||
あうあうあう・・・。 ミニリュウは欲しいけど、も・・・もう走れないです・・・。 |
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ナカちゃんっ! チイが代わりに走って来るよぉ! |
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あ・・・あうあうあう・・お、御願いできるですか? | ||
任せてよぉ! | ||
ポケモンGOは、体力のない私には、ちょっと厳しいです・・・。 | ||
藤さんとチイちゃんは元気ですからねぇ。 実は私も、普段からあまり運動しないので、この暑さもあって、ちょっと限界みたいです・・・。 |
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ウヒョヒョヒョヒョっ! ミニリュウ、ゲットだおぉっ!! |
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ああ・・・チイは逃がしちゃったよぉ。 ナカちゃん、ゴメンなさぁ〜いっ! |