事例検討(回答編)
光おねーちゃぁーんっ!
チイとナカちゃんの起案完成したから見てよぉ!
アラ?
サルは一緒じゃなかったの?
 
あぁ、あたしは検討は一緒だったけどね。
嘘だよぉ。
オネーちゃんが来たときには、検討は終わっていたよぉ!
コラっ!
ナニが嘘だお!
検討を一緒にしようとしたら、お前らが終わったって言って、あたしを追い出したんやないかお!!
  追い出してはいないです。
ソレなら起案は一緒にすればよかったじゃないのよ。
サルは、ナニしていたのよ?
・・・。

(ポケモン探しの旅に出とった・・・って言ったら怒るんだろうなぁ。)
  藤先輩は、ポケ・・・
  おっとっとぉ〜。

ゴツンコっ!    
  痛いですぅぅぅっ!!
  あ・・・アカン・・・。
暑さのせいで立ちくらみかな?
  あぁぁああぁぁっ!
ナカちゃん、大丈夫ぅ?
・・・あんまり大丈夫じゃないです。
・・・木下さんは「ポケモン探しに行ってた」っていうナカちゃんの発言を、あろうことか頭突きをされることで、封じ込めようとされたのかしら?
憶測でモノを言うのは、やめてもらおうか!
あたしは、連日の猛暑で立ちくらみを起こしただけだお。
チビッ子1号に、頭がぶつかってしまったのは不幸な結果としか言えないお。
・・・明智先輩、大丈夫です。
私とチイちゃんの起案を見て欲しいです・・・。
ナカちゃん・・・災難だったわね。
・・・サル、これで済むなんて思わないことね(ボソっ)。

さて、ソレじゃ、先ずは起案を見せてもらおうかしら。
  ハイです!
起案    
 つかさちゃんを「」、サルを「」と表記してあります)

第1 甲の罪責
1.甲がAの着ていたシャツの袖口を強く引っ張り、Aを転倒させ、Aに全治一週間の腰部打撲傷の怪我を負わせた行為(以下、「本件行為」)について、傷害罪(204条)が成立するかが問題となる。

(1)ア.実行行為とは、構成要件の予定する法益侵害の現実的危険性を有する行為である。
 甲の本件行為は、シャツの袖口を強く引っ張るものであり、人の身体に対する不法な有形力の行使といえることから、暴行罪(208条)の実行行為にあたる。しかし、かかる行為は、傷害罪の実行行為である生理的機能を害する現実的危険性を有する行為とまではいえない。
 しかし実際、甲の行為によってAは転倒し、その結果、全治一週間の腰部打撲傷を負っていることから、甲の暴行によって、傷害の結果が生じてしまっているといえる。
 この点、傷害罪に暴行の結果的加重犯を含むかが問題となる。

イ.思うに、刑法208条には「傷害するに至らなかったときは」とあり、この文言からは傷害するに至ったときは、傷害罪が成立すると解すべきといえる。

ウ.従って、傷害罪は暴行の結果的加重犯も含むことから、暴行の実行行為によって、傷害の結果が生じた場合には、傷害の実行行為があったと認められる。

エ.よって、甲の本件行為には、傷害罪が成立する。

(2)ア.しかし、甲の本件行為は、Aの甲に対する顔面への平手による攻撃に対する反撃行為としてなされたものであることから、正当防衛(36条1項)により、甲の本件行為の違法性が阻却されないかが問題となる。

イ.正当防衛の成立には、急迫不正の侵害に対し、自己の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為であることが求められる。
 甲の本件行為は、Aからの自身への不正な攻撃を防衛するためにやむを得ずなされた行為とも評価することが出来、一見、正当防衛の成立要件を満たすようにも思える。
 しかし、本件では、Aの甲に対する顔面への攻撃の前に、甲がAの腕を強く掴んで引っ張ったという行為(原因行為)が存在している。
 相手方からの攻撃に先立ち、正当防衛の成立を主張する加害行為をした者が暴行を加えているような場合には、相手方からの攻撃は、自身の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連・一体の事態と評価され、加害者は、不正の行為によって自ら侵害を招いたものとされる。
 従って、相手方からの攻撃が、加害者の暴行の程度を大きく超えるものでない限り、何らかの反撃行為に出ることは正当化されず、正当防衛は成立しない。

ウ.本件では、甲はAに謝罪を求める気持ちからとはいえ、Aの腕を強く掴んで引っ張っている。謝罪もせずに、その場を立ち去ろうとするAを留め置くには、甲にはAの腕を掴む以外にはなかったという事情を考慮してもなお、かかる有形力の行使は正当化しうるものではなく不法な侵害行為といえる。
 そして、その後のAからの甲の顔面に対する攻撃は、同じ駅構内階段という場所的近接性があり、また甲がAの腕を強く掴んだまま離さないでいたことに触発されての侵害行為であるため、一連・一体の行為といえることから、甲自らの不正な侵害行為によって招いた侵害といえる。
 しかし、Aの甲の顔面への平手による攻撃は、甲の腕を強く振りほどこうとするあまり、甲の眼鏡を弾き飛ばし、さらには甲に全治5日の顔面打撲の傷害を負わせるものである。眼鏡をかけている者に対する顔面への攻撃は、眼窩底骨折や失明の危険の伴う非常に危険な行為といえる。甲の腕を振りほどくためであれば、胸あたりを強く押すことも可能であったのに、敢えて顔面を狙っての平手による攻撃方法を選択したことは相当な手段とはいえない。
 そうであれば、甲のAの腕を強く掴み引っ張る程度の暴行に対し、Aの甲に対する突然の顔面への平手攻撃は、一連・一体の行為であるものの行き過ぎといえ、原因行為と不正な侵害との均衡を欠くものといえる。
 従って、Aの甲に対する顔面への突然の平手攻撃は、急迫不正な侵害といえる。

エ.よって、甲が、自身を防衛する意思をもってなされた本件行為は、防衛手段としての相当性を欠く行為とまでは言えず「やむを得ずにした行為」といえる以上、反撃行為によって生じた結果が、たまたま全治一週間の腰部打撲傷であったとしても甲には正当防衛が成立するため、本件行為の違法性を阻却する。

2.甲の本件行為は、傷害罪の客観的構成要件に該当する行為といえるものの、本件行為には、正当防衛が成立することから、甲は何等の罪責を負わない。
                         以上。
アラ・・・。
つかさちゃんの行為は、1つだけにしちゃったの?
  あ・・・。
検討の時には、ちゃんと行為を2つ抜き出していたのに、忘れてしまったです!
あら・・・勿体無い。
そうね、往々にして検討漏れは起こりえるわ。
時間がなかったりすると特にね。
問題文を読んでいるときには、検討しているんだけど、その後の大きな論点とかに気がとられてしまうと、ついウッカリってことはあるわよね。
そっかぁ。
自招防衛の論点に目がいっちゃってたんだぁ。
最初は検討してたんだけどなぁ。
そうね。
確かに、この事例問題において、一番の配点は間違いなく、その論点にあるわ。
でも、暴行罪の検討にも配点は振られているからね。
争いなく成立の認められるところだから短くて構わないけど、触れてはおくべきだったわね。
次からは、同じ失敗をしないためにも、キチンと整理しておくことをお勧めするわ。
  うんうん。
惜しかったですね。
でも、傷害罪の成立は、しっかり検討出来ていると思いますよ。
さぁ、ソレじゃ気をとられたっていう自招防衛のところを見ていくわね・・・って、アラ?
  どうしたの?
成程・・・成程・・・。

そうね。
確かに、事案のつかさちゃんの行為を、一連の行為として捉えて、自招防衛挑発防衛構成で検討するというルートもあるわ。
ただ、なかなか、その構成は難しいところとも言えるわね。
答案戦略上は、一般的な正当防衛の成立を検討することで、正当防衛の成否を考えるっていうのもありだとは思うわね。
そうですね。
正当防衛の検討において、自招防衛という別枠を設けるのではなく、通常の正当防衛の成立要件の中で検討するというのも、ありですよね。
この事案ですと「急迫性」の要件あたりで正当防衛の成立が否定されそうですしね。

ですが、出来るのであれば、チイちゃん達の起案のように、一般的な正当防衛の成立の検討をマクラに置いてからの、自招侵害構成という流れもいいと思いますよ。
いきなり自招侵害に踏み込むのではなく、通常の処理(一般的な正当防衛)を示して、それでは妥当性を欠くのではないのか? という問題提起からの流れですよね。
私は、起案上は、形式的に正当防衛の成立要件を充足すると論証してからの自招侵害構成という、この論証でいいと思いますね。
そうね。
これくらいの内容の論証だったら、つかさちゃんのいう流れも書けていると思うからね。
いずれのルートを経たとしても結論が変わるものでもないしね。

・・・アラ?
正当防衛が成立しているの?
私は、この事案を演じた際に、ちょっと正当防衛の成立は否定されそうな事案だなぁって感じたんですけど・・・。
私も、正当防衛の成立は少し難しいかなぁと思ったんだけどね。
・・・オネーちゃんが怪我したのは、オネーちゃんがいつも謝らないせいだと思ったんだよぉ。
だから、つかさおねーちゃんは悪くないと思ったんだよぉ。
  ・・・私もです。
・・・なんて視点を交えて検討してくれてんだお。
このチビッ子共ときたら。
うーん、そうね。
事例問題において結論は、そんなに重要なものにはならないわ。
ただ、ある程度の相場勘定(相場感覚)はないといけないわね。

例えば、新司法試験では、よく暴力団の組長と、その組員の罪責が問われることがあるわ。
まだ共犯の勉強をしていないから、今の段階では、ちょっと私の言っていることがピンとこないかも知れないけれど、往々にして、組長は命令だけして、実行行為を担うのは組員ってことになるわけよね。
その際に、共謀共同正犯という規範を示しておいて、組長は処罰されない・・・という帰結を導くのは、いくら規範をしっかり示せていても、結論として妥当といえるのか? という視点よね。
このような関係にある者(組長)を処罰する為の共謀共同正犯ではないのか?
って話よね。
だから、結論はさほど重要視されないとはいえ、ある程度の相場勘定(妥当な結論)はもって欲しいと思うわ。
じゃあ、チイ達の、この結論は駄目ってことぉ?
・・・うーん、個人的には、この事例においては正当防衛の成立は、少し無理筋だと思っていたんだけど、規範((2)イ部分)からのあてはめ部分((2)ウ部分)が、随分と充実しているわね。
特に「自招」の認定や、「程度を超えていること」の認定が、事実・評価の面で充実したものとなっているわ。
自分で立ち上げた規範に照らして、十分な論証をしていると思えるわ。
じゃあ、正当防衛の成立を認めて良かったってことだよね!
まぁ、答えがあるわけじゃないから、成立させているから駄目ってことは言えないからね。
論理的な思考手順が示されているならば問題はないと思うわ。

ただ、結論ありきで強引なあてはめをすることは好ましいことではないわ。
事実を、素直に評価して、あてはめることが求められるわけだからね。

今回の事案だと、正当防衛の成立の上で、どうしてもネックになるのはサルからの侵害行為なのよね。
サルの侵害行為(顔面への平手打ち)は、コレで終わっているのよね。
正当防衛の成立を導くのなら、過去の侵害に対しての行為ではダメなんだから、これ以降も侵害行為の継続があることが求められるわけなんだけど、その認定が、この事案だと難しいかなぁ、と思うわね。
そもそもサルは、早くこの場から離れたいと思っているだけで、つかさちゃんが掴んでいる手を放しさえすれば、侵害行為もない・・・という関係にあるわけだからね。
うーん、そっかぁ・・・。
なんか色々とダメだったみたいだよぉ。
ううん、そんなことはないわ。
つかさちゃんの「シャツの袖口を強く引っ張った行為」については、この検討で悪くはないと思うわよ。
正当防衛の成立を認めていることも、規範に対する、当てはめも充実しているし、論証としてはいいと思うもの。
でも、ちょっと私情を交えての検討になったことには反省がいるかしらね。
・・・オネーちゃんが邪魔しに来たせいだよぉ。
な、な、なんと!
お前らの出来の悪い検討を心配して見に行って上げたってのに、まさかの「邪魔」呼ばわりっ!

気分を害したっ!
もう、お前らの顔なんぞ見たくもないお!!
あたしは帰らせてもらうお!!
  あ・・・藤さん・・・。
・・・えらい勢いで帰って行ったわね・・・。
  あっ!
えーっと、私も行きますね。
え?
つかさちゃんも行っちゃうの?
検討会も終わったんだし、みんなで一緒にご飯にでも行きたいなって思っていたんだけど・・・。
・・・藤さん、私のスマホを持って行ってしまわれているんですよね。
学校に居る間は構わないんですけれど、今、藤さんを追いかけていかないと、スマホがいつ戻って来るかワカラナイもので・・・。
・・・自分の携帯がガラケーで、ポケモンのゲームが出来ないからって、他人様のスマホを持ち出して遊ぶとは・・・ますますもって言語道断な真似してくれているじゃないのよ、あのサルは。
・・・。

(・・・言い出しにくいですけど、私も「ポケモンGO」やってるから、一緒に連れてって欲しかったです。)

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