即時強制 | ||
義務履行確保の手段を前回までの勉強会では見てきたわけだけど、今日の勉強会では、即時強制という制度について学ぶことにするわね。 この即時強制という制度は、義務の存在を前提としていないものだから、これまでの勉強会で学んだ義務履行確保の手段とは違うものになるわ。 |
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なのに、今日の勉強会は、その即時強制ってのを、やるんだ。 | ||
そうね。 義務履行確保の手段とはいえないものだけれど、これまでの勉強会で学んだ直接強制(行政法36回勉強会参照)とは、実際上は大きな違いがない制度だからね。 直接強制と即時強制との大きな違いは、相手方の義務の有無という点にあって、直接強制は、相手方に義務があることを前提としており、即時強制は、相手方に義務がない、という違いがあるって話は、そのときにしたわよね。 |
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あ、なんかそんなこと言ってたね、そう言えば。 | ||
それじゃ、即時強制とは、どのような制度か、ということから話すわね。 即時強制とは、相手方に義務を課すことなく、行政機関が直接に実力を行使して、もって行政目的の実現を図る制度をいうわ。 即時強制は「即時」という言葉を用いているけれど、ここでの「即時」は一般的な時間的意味の「即時」という意味ではなく、相手方に義務を課すことなく行われる、という意味で用いられているのよね。 |
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ふむふむ。 | ||
今日の勉強会では、この即時強制制度の取られている法令には、どのようなものがあるのか、ということ、実際の法令の条文を見て学ぶことにするわ。 | ||
・・・これは、また一杯条文が出てきそうな話だお。 | ||
先ずは、有名な例としては、警察官職務執行法上の職務質問(警察官職務執行法2条)、保護(同3条)、避難等の措置(同4条)、犯罪の予防、制止(同5条)、武器使用(同7条)等が挙げられるわね。 ただ、このあたりの条文は、またいずれ刑事訴訟法の勉強会で学ぶことになるでしょうから、今日の勉強会では条文確認は割愛することにするけれどね。 |
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・・・。 (出たっ! やるやる詐欺っ!! 刑事訴訟法なんて法律タイトルだけで、もう2年以上放置してんのに、ナニがいずれ学ぶだお!! とんでもねぇ大嘘つきだお!!) |
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・・・ナニよ。ナニか言いたそうな顔してるじゃないのよ。 まぁ、ここからは条文を見ていくことにするつもりよ? 即時強制制度が取られている法令としては、道路交通法上の自動車レッカー移動もあるわね。 条文確認しておきましょうか。 道路交通法51条を見てくれる? |
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道路交通法 第51条 (違法駐車に対する措置) 『1項 車両が第44条、第45条第1項若しくは第2項、第47条第2項若しくは第3項、第48条、第49条の3第2項若しくは第3項、第49条の4若しくは第49条の5後段の規定に違反して駐車していると認められるとき、又は第49条第1項のパーキング・チケット発給設備を設置する時間制限駐車区間において駐車している場合において当該車両に当該パーキング・チケット発給設備により発給を受けたパーキング・チケットが掲示されておらず、かつ、第49条の3第4項の規定に違反していると認められるとき(次条第1項及び第51条の4第1項において「違法駐車と認められる場合」と総称する。)は、警察官等は、当該車両の運転者その他当該車両の管理について責任がある者(以下この条において「運転者等」という。)に対し、当該車両の駐車の方法を変更し、若しくは当該車両を当該駐車が禁止されている場所から移動すべきこと又は当該車両を当該時間制限駐車区間の当該車両か駐車している場所から移動すべきことを命ずることができる。 2項 車両の故障その他の理由により当該車両の運転者等が直ちに前項の規定による命令に従うことが困難であると認められるときは、警察官等は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法を変更し、又は当該車両を移動することができる。 3項 第1項の場合において、現場に当該車両の運転者等がいないために、当該運転者等に対して同項の規定による命令をすることができないときは、警察官等は、道路における交通の危険を防止し、又は交通の円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法の変更その他必要な措置をとり、又は当該車両が駐車している場所からの距離が50メートルを超えない道路上の場所に当該車両を移動することができる。』 |
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即時強制との関係で、しっかり見ておいて欲しいのは、この道交法51条3項よね。 他には、感染症予防法上の健康診断、強制入院等もあるわ。 えーっと、感染症予防法の17条と19条3項を見てくれるかしら。 |
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感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 『(健康診断) 第17条 1項 都道府県知事は、一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し当該感染症にかかっているかどうかに関する医師の健康診断を受け、又はその保護者(親権を行う者又は後見人をいう。以下同じ。)に対し当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に健康診断を受けさせるべきことを勧告することができる。 2項 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、当該勧告に係る感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者について、当該職員に健康診断を行わせることができる。』 『(入院) 第19条 1項 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。 3項 都道府県知事は、第一項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、当該勧告に係る患者を特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関(同項ただし書の規定による勧告に従わないときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院又は診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるもの)に入院させることができる。』 |
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後は、以前判例検討もしたから少し馴染みもあると思う銃砲刀剣類所持等取締法上の仮領置もあるわね。 銃砲刀剣類所持等取締法8条7項を見てみましょうか。 |
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銃砲刀剣類所持等取締法 『第8条 7項 都道府県公安委員会は、許可が失効した場合において、人の生命、身体若しくは財産に対する危険を防止するため必要があると認めるとき、又は前項の期間を経過したときは、当該許可を受けていた者(当該許可を受けていた者の所在が不明である場合において、同居の親族又は当該許可に係る銃砲若しくは刀剣類の存する場所を管理する者(以下「同居の親族等」という。)があるときは、当該同居の親族等)又は死亡届出義務者等に対し当該銃砲又は刀剣類の提出を命じ、提出された銃砲又は刀剣類を仮領置するものとする。』 |
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結構色々あるんだねぇ。 |
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そうね。 ただ、即時強制の手続きは概して不十分なものといわれているわ。 その例としては、感染症予防法20条5項などが挙げられるところね。 条文を確認しておきましょうか。 |
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感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 『第20条 5項 都道府県知事は、第一項の規定による勧告又は前項の規定による入院の期間を延長しようとするときは、あらかじめ、当該患者が入院している病院又は診療所の所在地を管轄する保健所について置かれた第二十四条第一項に規定する協議会の意見を聴かなければならない。』 |
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このような即時強制は、人の身体ないし財産に不利益を与える強制執行を図ることもある以上、当然、法律の根拠が求められるわ(侵害留保の原則)。 | ||
そうですよね。 | ||
ただ、即時強制を条例で定めることは可能だわ(行政代執行法1条)。 これは即時強制が、行政代執行と異なり、義務を確保することを目的としていないためよね。 即時強制の条例は一杯あるわけなんだけど、ここでは一つだけ見ておくことにしましょうか。 名古屋市自転車等の放置の防止に関する条例11条を確認するわね。 |
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名古屋市自転車等の放置の防止に関する条例 『(放置自転車等に対する措置) 第11条 1項 市長は、放置禁止区域内において自転車等を放置し、又は放置しようとする利用者等に対し、当該自転車等を自転車駐車場その他の適切な場所に移動するように指導し、又は命ずることができる。 2項 市長は、放置禁止区域内に放置された自転車等を直ちに撤去し、あらかじめ市長が定めた場所(以下「保管場所」という。)において保管することができる。』 |
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なんで名古屋の条例にしたんやろ。 | ||
まぁ、特に理由はないけれど、私達のモデルとなった武将に馴染みの深い自治体だしね(尾張=名古屋)。 | ||
有名どころですと、最近はゴミ屋敷問題なんてよく耳にしますよね。 ですから、そういったゴミ屋敷に対する即時強制を定めた条例なんかもありますね(例:京都市・不良な生活環境を解消するための支援・措置条例)。 |
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ソッチを見たほーが良かったんやないやろか。 | ||
まぁまぁ。 この即時強制については、色々と絡んでくる論点も多いわ。 また行政救済法で学ぶことになる問題だけれど、このような行政の行為を争うためには、どのような方法で争うべきなのか、という問題ね。 事前の救済としての差止訴訟(行政事件訴訟法2条7項、37条の4)、実力行使が継続的なときには事実行為に対する取消訴訟が考えられるわね。 強制健康診断のように目的が即時に完成してしまうような場合には、取消訴訟は機能しないことになるから、国家賠償法での救済を図る・・・ということになるわね。 このあたりの手段について学ぶのが行政救済法なんだけど、いずれの勉強会でってことになるわね。 |
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・・・。 (出たっ! やるやる詐欺っ!! この金満は、今日は嘘ばっかこいとるお!!) |