行政上の強制執行制度 | ||
ソレじゃ、今日の勉強会でも引き続き行政上の強制執行制度の内容を見ていくことにするわね。 前回の勉強会では、行政代執行について学んだわよね。 今回の勉強会では @行政上の強制徴収とA直接強制、そしてB執行罰 という3つの制度を見ていくことにするわ。 |
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うげげげげっ!! 前回は行政代執行だけやったのに、今回は3つもやるってか!! |
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前回は、見極めも重要な代替、非代替という義務の分類についての説明も必要だったからね。 でも、今日の勉強会で学ぶ3つの制度は、それぞれのボリュームもあんまりないから、いわばオムニバス的な感じで、3つまとめて・・・って感じだから、そんなに騒ぐことでもないわよ。 |
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ボリュームがあろうが、なかろうが、とにかく騒ぐ! ソレが、あたしイズムっ!! |
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・・・。 (・・・ダメだ、こいつ。 早くなんとかしないと・・・です。) |
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ソレじゃ、本日の1本目。 行政上の強制徴収からね。 先ず国税の徴収については、国税徴収法、国税通則法があるわ。 この徴収手続については、 納税の告知(国税通則法36条) ↓ 督促(国税通則法37条) ↓ 差押え(国税徴収法47条以下) ↓ 財産の換価(国税徴収法89条以下) ↓ 換価代金の配当(国税徴収法128条以下) という手続きを経ることになるわ。 この徴収手続は、国税以外の金銭債権の徴収手続きにおいても利用されることが多いわね。 例えば、国民年金がそうね。 条文を見ておきましょうか。 国税年金法95条を確認してくれる? |
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国民年金法 第95条 (徴収) 『保険料その他この法律(第十章を除く。以下この章から第八章までにおいて同じ。)の規定による徴収金は、この法律に別段の規定があるものを除くほか、国税徴収の例によつて徴収する。』 |
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ソレじゃ、次は2本目。 直接強制について話すわね。 行政上の義務の履行確保手段としての直接強制は、義務者の身体又は財産に直接力を行使して、義務の履行があった状態を実現するものをいうわ。 この直接強制は、作為義務(代替的・非代替的)・不作為義務を問わないところに特徴があるわね。 |
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うわ・・・ソレは強力そうだお・・・。 | ||
そうね。 直接強制は、人権に多大な影響を与えるものといえるわ。 だから、この直接強制を授権する法律も、実際問題殆ど存在しないのよね。 ただ、殆ど存在しないってことは皆無ではないってことよね。 その一つに、成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条1項、6項、8項があるわね。 珍しい条文だから見ておきましょうか。 |
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成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法 『第3条 (工作物の使用の禁止等) 1項 国土交通大臣は、規制区域内に所在する建築物その他の工作物について、その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者、管理者又は占有者に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができる。 1号 多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用 2号 暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用 3号 成田国際空港又はその周辺における航空機の航行に対する暴力主義的破壊活動者による妨害の用 6項 国土交通大臣は、第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されていると認めるときは、当該工作物について封鎖その他その用に供させないために必要な措置を講ずることができる。 8項 国土交通大臣は、第一項の禁止命令に係る工作物が当該命令に違反して同項各号に掲げる用に供されている場合においては、当該工作物の現在又は既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断して、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められ、かつ、他の手段によつては同項の禁止命令の履行を確保することができないと認められるときであつて、第一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときに限り、当該工作物を除去することができる。』 |
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1項は 『当該工作物をその用に供することを禁止することを命ずることができる』 として、「使うな!」という命令ができると定めているわね。 そして、その内容は非代替的な不作為義務といえるわ。 ここに、代替的作為義務にしか適用されない代執行との違いが見てとれるわよね。 また、8項では 『第一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときに限り、当該工作物を除去することができる。』 として、強制執行(直接強制)を予定しているわけね。 |
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そうですね。 このような義務の履行確保手段は、光ちゃんが言ってくれたように人権への多大な影響も懸念されるものです。 ですから、間接強制や、裁判所という手法を使うことで、人権への侵害の危険性のより低い手法によるべき、と言えますよね。 |
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ただ現実問題として、同様の方法が、即時強制では行われているわけなんだけどね。 | ||
即時強制って、なんですか? |
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即時強制はまた、この後の勉強会で学ぶ予定でいるわ。 予習になってしまうけれど、今日学んだ、この直接強制と即時強制との大きな違いは、相手方の義務の有無という点にあるわ。 直接強制は、相手方に義務があることを前提としており、即時強制は、相手方に義務がない、という違いがあるわ。 まぁ、即時強制についての勉強会で、また改めて言うつもりではいるけれどね。 |
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なんか、まだまだ来るわけね・・・。 | ||
制度の内容を一通り見ていくのも意外に時間がかかるものよね。 ソレじゃ、本日3本目。 執行罰について説明するわ。 執行罰・・・いわゆる過料(カリョウ)ね。 執行罰とは、義務の不履行に対して、一定額の過料を課すことを通告して、間接的に義務の履行を促し、なお義務を履行しないときに、これを強制的に徴収する手法をいうわ。 この執行罰も、作為義務(代替的・非代替的)・不作為義務を問わないわね。 |
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あ、過料は刑法の勉強会で出てきたよね! うちの父ちゃんが路上喫煙してて、罰金とられたヤツやないの? (刑法第1回勉強会参照) |
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よく憶えていてくれたじゃない。 嬉しいわ。 ・・・ただ、今サルが言ってくれた路上喫煙による過料と、この執行罰による過料とは、別物なのよね。 |
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ん? どういうこと? |
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路上喫煙を理由とする過料は、行政罰なのよ。 行政罰とは、過去における行政上の義務違反に対する制裁として課されるものであって、執行罰とは、その性質が異なるものなのよ。 執行罰というのは、義務の不履行に対して過料を課すことを通告して、間接的に義務の履行を促し、それでもなお義務を履行しないときに、これを強制的に徴収するものって、さっき言ったわよね。 これに対して、行政上の義務の懈怠に対し制裁を行うことを目的として課せられるのが、行政罰なのよね。 |
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行政上の強制執行とは、「過去の行為に対する制裁」という点で異なるものですね。 | ||
そうね。 ちょっと今日の勉強会の話の中で、ここで行政罰について伝えてしまうのは、少し混乱を招いてしまうかも知れないんだけれど・・・。 まぁ、せっかく話題に上がったことだし言っちゃうことにするわね。 |
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うわっ!! とんでもない薮蛇(ヤブヘビ)じゃまいかっ!! |
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まぁまぁ。 えーっと、さっきも言ったように、行政罰とは、行政上の義務の懈怠に対し制裁を行うことを目的とするものだったわよね。 この行政罰には、次の2種類があるわ。 @行政刑罰 と A行政上の秩序罰 の2つね。 @行政刑罰というのは、行政法規違反に対して科される刑法上の刑罰をいうわ(刑法9条)。 刑法上の刑罰であることから、原則として刑事訴訟法上の手続きに服するわね。 この行政刑罰の具体例としては、交通反則金制度(道路交通法125条以下)、国税犯則取締法上の通告処分(国税犯則取締法14条以下)が挙げられるわね。 |
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行政刑罰は、刑法犯と異なり行政上の義務違反に対して科されるものであることから、一般的には刑法犯よりも軽微な犯罪に対して科せられるものと言えますね。 | ||
こくこく(相槌) | ||
補足ありがとうね、つかさちゃん。 次にA行政上の秩序罰ね。 これは、行政上の秩序に障害を与える危険がある義務違反に対して科される罰(過料)をいうわ。 サルが言ってくれた、路上喫煙の過料は、このA行政上の秩序罰にあたるわ。 路上喫煙ということからもワカルように、比較的軽微な義務違反を想定しているわけね。 過料は刑罰ではなく、行政処分なので、行政手続の整備が必要とされるわ。 つまり、条例または規則に基づいて地方公共団体は過料(5万円以下)を科すことができるってことね。 一応、条文も確認しておきましょうか。 地方自治法14条3項、15条2項・・・それから283条1項を見てくれる? |
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地方自治法 第14条 『 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。 2項 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。 3項 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。』 第15条 『 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。 2項 普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。』 第283条 『1項 この法律又は政令で特別の定めをするものを除くほか、第二編及び第四編中市に関する規定は、特別区にこれを適用する。』 |
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ナカちゃん、今日は見るべき条文が多くて大変よね。お疲れ様。 えーっと、まとめると、過料には、行政罰による過料と執行罰による過料とがあるってことね。 両者は、性質において全く異なるものだってことを抑えておいて欲しいわ。 そして、行政罰には、@行政刑罰とA行政上の秩序罰の2種類があるってことよね。 サルが、例示として挙げてくれた路上喫煙に対する過料は、今日の勉強会の論点だった執行罰による過料ではなく、行政罰による過料(A行政上の秩序罰)ってことになるわけね。 |
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な、な、なんという紛らわしさっ!! | ||
父ちゃんは、何処でも煙草吸うからチイは嫌だよぉ。 ご飯のときでも平気で煙草吸ってるんだもん。 |
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・・・。 (アレは、父ちゃんの分まで、よくお前が食べちまうから、父ちゃんは食べるもんがなくって、仕方なく煙草吸って紛らわせていたんやで? 怒りもせんと黙って紫煙くゆらせている姿に、父の愛を、あたしは垣間見た思いがしたお・・・。) |
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まぁ、でも行政罰の過料と、執行罰の過料の見極めなんて、ほとんど考える必要はないから大丈夫よ。 だって、行政上の執行罰としての過料を定めている法律なんて、砂防法くらいしかないんだからね。 条文を確認しておきましょうか。 砂防法36条を見てくれる? |
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砂防法 第36条 『 私人ニ於テ此ノ法律若ハ此ノ法律ニ基キテ発スル命令ニ依ル義務ヲ怠ルトキハ国土交通大臣若ハ都道府県知事ハ一定ノ期限ヲ示シ若シ期限内ニ履行セサルトキ若ハ之ヲ履行スルモ不充分ナルトキハ五百円以内ニ於テ指定シタル過料ニ処スルコトヲ予告シテ其ノ履行ヲ命スルコトヲ得』 |
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ふむふむ・・・。 って、たった500円かいっ!! やっすっ!! |
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500円じゃ金額が低過ぎるようにも思えるです。 正直、藤先輩みたいな人だったら開き直るような気がしてしまうです。 |
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・・・「藤先輩みたい」って一言は余計やけどね。 | ||
確かに、そういうことは言えるかもね。 ただ執行罰は、義務の履行を図るという目的を達成するために、何回でも課すことができるわ。 |
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へぇ〜。 | ||
そうそう。 執行罰は、義務の履行確保の手段であることから、条例では定めることができないわ(行政代執行法1条)。 さっき伝えそびれちゃったけれど、直接強制も同じ理由から、条例では定めることができないわね。 |
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こくこく(相槌) | ||
最初の勉強会で学んだ義務の性質と絡めて整理すると、 代替的作為義務のみに適用されるのが代執行。 代替的作為義務、非代替的作為義務・不作為義務を問わない直接強制、執行罰。 と、いうことになるわね。 |
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検討会をしてくれたお陰で、代替的作為義務も今はワカッタです! もう大丈夫です! |
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・・・代替的・・・作為義務ぅ? | ||
藤さん、藤さん。 みんなワカッていますから、お得意の知らない振りなんて、されなくっていいですよ。 |
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あーらら。 大事な検討会をサボるからぁ。 ツケがまわってきてるみたいじゃない? |
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藤先輩、藤先輩。 コレ、この前の検討会のノートです。 お貸しするから、ちゃんと見ておいて下さいです。 |
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よかったね。 オネーちゃん。 |
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どれ。 ソレじゃ、学部生のとったノートとやらを見てやるとするか。 |
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良かったですね、竹中さん。 厳しい藤さんのチェックがなされれば、ノートの精度も上がりますよ? |
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・・・。 (ジトォ〜) |
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こ、コラっ! コッチ見んなっ!! |