行政行為の撤回 | ||
それじゃ、始めるわね。 今日は、行政行為の無効、取消、撤回のオオトリ。 行政行為の撤回について学ぶことにするわね。 |
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撤回ってアレだよね? 運転免許証の取消しってヤツだよね? |
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そうね。 ちゃんと憶えていてくれているじゃないの。 そうやって、実際の行政行為と結びつけて抑えておいてくれると、撤回とはどのようなものかっていうのがワカリやすいと思うわよ? |
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藤さんには、そんなこと必要ないですよね? 定義も、意義も、学説も判例も全部理解されてみえるんですものね。 |
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だおだお。 (なわきゃあるかお。) |
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アラ、凄いこと・・・。 でもまぁ一応、今日の勉強会を始める前に、行政行為の撤回の意義から、再度まとめておくことにするわね。 行政行為の撤回における撤回とは、瑕疵なく成立した行政行為について、それが発せられた後に生じた事情(後発的事情)を理由として、行政庁が、将来に向かって、その効力を消滅させるもの、と定義されるものよね。 その具体例としては、さっきサルが思い出してくれた、運転免許証の取消し処分等が、そうよね。 |
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だおだお。 | ||
さて。 この行政行為の撤回だけど、行政庁が、自らなした行政行為を撤回する(将来に向かって、その効力を消滅させる) に際して、法律の根拠が必要か、不要かで、学説は分かれているのよね。 撤回をするには、法律の根拠が要る! という考え方が、撤回不自由説。 そして、撤回するのに、法律の根拠がなくてもできる! という考え方が、撤回自由説なの。 ところで、学説についても精通している木下さんは、ドッチの考え方をとってみえるのかしら? |
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厭味な聞き方だねぇ〜。 えぇ〜と・・・。 あたしは、根拠は要るって思うね。 うんうん。 |
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撤回するのに、法律の根拠が必要・・・ ということは、撤回不自由説ですか。 撤回不自由説は、行政庁の独自の公益判断により撤回する権限は当然には持たず、特別の法律の根拠を必要とする、とされますよね。 学者の杉村先生は、この立場ですよね。 これに対して、法律の根拠は不要であるとする撤回自由説は、公益に適合しなくなった場合には、当然に撤回する権限を有する、としていますよね。 この考えの学者には田中先生がみえますよね。 因みに私は、撤回については、この撤回自由説で抑えているんですけどね。 |
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私も、黒田先輩と同じように、撤回自由説で理解しています。 | ||
まぁ、撤回についての法律の根拠の要否は、使っている教科書によって理解が違うところだからね。 私も、つかさちゃんやナカちゃんと同じ撤回自由説で理解しているんだけど、多分、使っている教科書が、みんなサクハシだからなんじゃない? (※ イントロの『行政法の勉強を始めるにあたって』で紹介した『行政法 第4版』櫻井敬子 橋本博之 弘文堂の略=『サクハシ』) 撤回自由説の立場の田中二郎先生を塩野先生が御師匠にされてみえて、その塩野先生を桜井先生は御師匠さんにしてみえるし、最初に紹介した、もう一冊の本の先生である芝池読本の芝池先生は、撤回不自由説の立場の杉村敏正先生の御弟子さんだからね。 それぞれ、御師匠の考え方を引き継いでみえるんじゃないかしら。 あ、ということはサルは、芝池読本を教科書にしているのね? |
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ううん。 | ||
あれ? それじゃ、サクハシなの? サクハシなら、撤回自由説の立場で書いてなかった? |
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・・・こんなこと言ったら、藤先輩に怒られるかも知れないですけれど、勉強会の前に予習をしてみえないのではないですか? | ||
予習もナニも、そもそも教科書ないもん。 | ||
はっ!? 今、なんて? |
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いやぁ、確かに、あの日は購買に見に行ったんだけどね。 教科書高いんだよねぇ。 あたし、ビックリしちゃったよ。 |
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・・・・買いなさい。 問答無用で買いなさい。 |
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ふ、ふ、藤さん・・・。 サクハシで、よろしければ私、3版を持っていますので、お譲り致しますよ? (※ サクハシの最新刊は4版) |
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うほほぉぉーい! 儲け、儲けっ!! 貰う、貰うぅ〜。 |
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つかさちゃん、そんなことしなくっていいわよ。 あんた、今日帰りに買って帰りなさい! |
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まぁまぁ。 学説の話や、教科書の話題は、そのへんにしておいて。 ぶっちゃけ、判例は、撤回に法律の根拠はいるって言ってるの? 要らないって言ってるの? |
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ナニ、話題をそらそうとしているのよ・・・。 まぁ、でも確かに、ちょっと横道それちゃっていたわね。 それじゃ、実際に判例を見てみることにしましょうか。 百選T 93事件の菊田医師赤ちゃん斡旋事件ね。 (最判昭和63年6月17日) |
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なんか、さっきもう一つ判例検討するって言ってなかった? | ||
行政庁の撤回権限の行使について、菊田医師赤ちゃん斡旋事件よりも、もう一歩踏み込んだ内容となっている判例があるのよね。 せっかくだから、この判例も見ておくべきかな、と思って。 百選掲載判例じゃないし、軽い説明にしておくつもりだから、そんなに嫌な顔しないでよ。 福岡スモン訴訟事件っていう事件なんだけどね。 (福岡地判昭和53年11月14日) |
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スモン? | ||
当初は原因不明とされていた病気みたいね。 1970年に、キノホルムの副作用によるものであることが判明するんだけど。 まぁ私も詳しいわけじゃないから、質問されても正確な答えを返せるわけじゃないんで、スモン病については、コッチを読んで、ってことにさせて欲しいわね。 |
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治療困難な疾患で、厚生労働省が指定する特定疾患の一つなんだ。 へぇ〜。 |
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『厚生労働省が指定する特定疾患』ってフレーズ聞くと、つい、今季限りで巨人を戦力外通告で去ることになった越智選手のことを、どうしても思い出しちゃうわね・・・。 越智選手も、この『厚生労働省が指定する特定疾患』である難病の黄色靭帯骨化症にかかってしまって故障・・・その後、1軍マウンドに戻ることのないまま巨人のユニフォームを脱ぐことになっちゃったのよね。 私、「風神・雷神コンビ」(越智と山口の中継ぎコンビの公募による愛称)でも、雷神の越智選手のファンだったから、凄く悲しいわ。 巨人からの球団職員の誘いを断って、現役続行の意思って報道を見た限りで、越智選手の続報がないから毎日心配で、心配で。 (2014.12月 更新)。 でも、私のこの悲しみは今ここに居る皆も同じ気持ちだと思うわ。 そうね・・・ この機会に、越智選手が、いかに素晴らしい投手だったかということについて、当時の巨人中継ぎ陣において、どれだけ素晴らしい活躍を残した選手なのかということについて・・・。 あの2008年の西武と巨人の日本シリーズまでの軌跡、そして、その日本シリーズでの跨ぎ回で越智選手の力投が報われなかった悲劇を一緒に見ていくことにしましょうか。 |
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・・・・・。 | ||
・・・・・。 | ||
・・・・・。 | ||
思い出すのは、あの越智選手の力強い速球、雷電フォークと呼ばれた落差のあるフォーク、そして、なによりも、周囲の人まで明るくさせるような笑顔だったわよね・・・。 確かに、当初は制球が定まらないという課題を抱えてはいたけれ・・ |
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オイ! いつまで続けるつもりだお? みんな帰るぞ? |
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ナニよ! 聞きたくないのなら、あんただけ帰りなさいよ! みんなは私と一緒に越智選手についての思い出話をしたいんだから! |
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すみません。 私も、巨人の選手の話を続けられるのなら申し訳ないですが、帰らせて欲しいです。 |
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わ、私は、光ちゃんがどうしてもって言うのなら、御付き合いするのは、やぶさかではないですけど、出来れば・・・って思っています。 | ||
アラ!? | ||
はいはい。 福岡スモン訴訟事件を検討するんでしょ? 間抜け面晒してないで、早くやった、やった! |
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・・・えーっとね。 えーっと・・・福岡スモン訴訟事件は、整腸剤キノホルムを主成分とする薬品を製造販売した製薬会社に対して、このキノホルムの副作用によりスモン病となった患者や、その遺族らが、国と、この製薬会社を相手どって損害賠償請求を提起したという事件なの。 この製薬会社は、旧薬事法に基づく厚生大臣の許可等を得て、医薬品の製造販売をしていたのよね。 そこで、被害者側は、国に対して、こんな危険な医薬品を製造販売する製薬会社に対する許可を撤回しなければならなかった、と主張したわけ。 この被害者側の主張に対して国は、そのような許可の撤回は、法的に義務付けられていなかった、と反論したわ。 この両者の主張に対して、どのような判断が下されたのか・・・。 見ることにしましょうか・・・。 |
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あうあうあうあう。 明智先輩、ごめんなさいです。 巨人の話題以外でしたら、私は御付き合いしたかったです、ホントです。 元気出して下さい! |
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大丈夫よ・・・? 私はホラ・・・元気じゃないの。 ね? ね? あ、それじゃ、福岡地裁の判断を読み上げるわね。 『確かに、被告国が主張するように、右のような医薬品安全性確保のための積極的、具体的規定が見られないのはその通りであるが、それは旧薬事法が、医薬品の安全性を確保する見地からすれば、不十分としかいえないような規定しか用意していなかったことを意味するに過ぎず、従って規定の整備こそが政治的・行政的に要請されこそすれ、そのことをもって法律上の医薬品安全性確保義務を否定するのは、気を見て森を見ず、とのそしりさあえ受けかねない。 逆に、審査基準や審査方法、追跡調査制度等が定めてなかったことは、医薬品安全性確保基準や方法も、科学の発達に伴い進歩発展するものであるから、それらを限定することなく、その時々に応じたあらゆる知見を駆使して、それこそ便宜にかなった適切な行政措置でその任務を遂行することに委ねたものと解することもできるし、許可後の撤回の制度が定められていないとしても、有害な医薬品が誤って許可され、又は許可後に有害であることが判明した場合、被告国がその事態を放任、黙認すべきでないことは、有害医薬品によって侵害される生命・健康という非代替的な絶対的価値と医薬品関係業者の経済上の利益という代替的な相対的価値という対比からも容易に理解できるところであるし、医薬品関係業者も国民の生命・健康の保全に貢献すべきことがその営利活動においても内在的に要求されていることに思いを致すと、右の理に反対できる筋合ではない。 医薬品がそもそも国民の生命・健康の保全に貢献しうること、即ち有効、かつ、安全であることを存在理由としている以上、被告国の医薬品製造等の許可は、右の存在理由を内在的な条件にしているとさえ解されるのであるから、当該医薬品の安全性に疑惑がもたらされた場合、許可権者たる厚生大臣は安全性確保の見地から、適切、かつ、迅速な行政措置を講じ(これこそ自由裁量行為に属するものとして、あらゆる要素を考慮してなされなければならない。)、それでも安全性の確保を積極的に認定できないときは、旧薬事法26条3項を根拠に当該医薬品につき付与した許可を撤回することができるし、それをしなければならないと解される。』 としているわね・・・。 |
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ふむふむ。 つまり・・・・・。 どういうことなの? クロちゃん? |
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この福岡スモン訴訟事件では、生命・身体・健康という非常に重たい法益保護の観点から、製薬会社の被る不利益を考慮しても尚、特別の法律の根拠がなくとも、撤回はできるし、また、撤回しなければならない義務がある、と述べていますね。 これは、さっきの判例検討の際に、私が言い掛けたことなんですけど、撤回権には一定の制限がかかる場合があるんです。 学説の撤回自由説は、公益に適合しなくなった場合には、法律の根拠が無くても、当然に撤回する権限を行政庁は有する、としているのですが、確かに、不利益的行為については原則自由とされています。 ただし、利益行為の場合。 例えば、今回のこの福岡スモン訴訟事件のような認可みたいな場合ですよね。 この場合は、「利益行為で得られた相手方の利益の性質・内容」と「利益行為によって侵害されることとなるに至った公益および第三者の利益の性質と侵害の程度・態様」との比較考量が求められるということになります。 この場合において、後者が前者を上回る場合には、撤回が可能となる、という制限があるというところを、この判例から、光ちゃんは学んで欲しかったのだと思いますね。 |
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こくこく(相槌) | ||
それと、職権取消と、撤回とは、検討すべき論点が、よく似通っているということが言えると思います。 但し、取消の場合は、違法又は不当な瑕疵が、その行政行為にはあります。 これに対して、撤回の場合は、瑕疵なく成立した行政行為が前提です。 つまり、取消は瑕疵論。 撤回は、その後に生じた問題によって、将来に向かってその効力を失わせるものであるという違いがあるんです。 ですから、似ているけれど、処分の性質が違うわけですから、その違いは自ずと答案に表す必要がある、ということを気をつけて貰えればと思いますね。 |
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こくこく(相槌) | ||
あうあうあうあう。 明智先輩、シッカリして下さい! |
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・・・じゃあ、聞いてくれる? 越智選手の話に付き合ってくれる? |
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え!? | ||
まぁ、そうなるんじゃないの? あたしとクロちゃんは、勉強会終わったから、これで帰るけど、ナカたんは、光ちゃんに付き合ってあげなよ。 |
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いいのでしょうか? 私は、一緒に御付き合いしても構いませんよ? 勉強会も終わったことですし。 |
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いいよ、いいよ。 クロちゃんには、今季広島を引退した広島一筋の中継ぎの柱だった横山竜士投手の活躍を、あたしがバッチリ伝えてあげるからさぁ。 |
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あ、それなら御一緒に帰りましょうか。 (わーい! 藤さんと2人で帰るの久し振りぃ!) |
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・・・ドッチもドッチです。 |