最判昭和63年6月17日 〜菊田医師赤ちゃん斡旋事件〜 |
||
この事件は、世間でも比較的有名な事件だったのよね。 法律とは別の次元で、色々考えさせられてしまう事件なんだけど・・・まぁ頑張ってみましょう。 私はナレーターを。 サルは中絶手術を望む妊婦。 ナカちゃんは、産婦人科医師。 宮城県医師会を、つかさちゃんで、いくわね。 |
||
ナレーター |
産婦人科の菊田医師は、優生保護法(現行の母体保護法)14条にもとづき、妊娠中絶手術のできる医師として指定され、2年ごとに、その更新を受けてきました。 | |
私の行っている中絶という行為は、生まれてくる命を奪う行為だと思うです! 小さな命を守ることこそが医者としての義務だと思うです! |
産婦人科医師 |
|
中絶希望者 |
あのぉ。 あたしのお腹の子を堕ろして欲しいんですけど。 |
|
産まれて来る子供の命を、なんだと思っているです! 世の中には、子供が欲しくっても、子宝に恵まれない方もみえるんです! ・・・アレ? です! |
産婦人科医師 |
|
そうです! 子供を欲しがる方に、中絶を希望される方の子供を斡旋すればいいです! 産まれて来る子供の命も守れるし、子供を欲しい方も子供をもつことができるです! |
産婦人科医師 |
|
中絶希望者 |
えーっと、あたしは子供を産むってことになるんでしょうか? | |
そうです、そうです! 貴方の赤ちゃんは、私が子供を欲しいと思っている方に斡旋するです! これで、赤ちゃんの命が守れるです! |
産婦人科医師 |
|
ナレーター |
産婦人科医師は、中絶手術を望む妊婦を説得して出産させ、産まれた子供を、赤ちゃんの出来ない別の夫婦に斡旋し、時には、戸籍上の実子として届出のできるよう偽りの出生証明書を作成することもしていました。 この実子斡旋行為は、その後、何度も繰り返されたのです。 しかし、産婦人科医師の行為は、赤ちゃんの命を守りたいという思いからのもので、斡旋行為は無報酬で行われていました。 |
|
自分の子供として育てたい、という気持ちもワカルです! 私は、そのためなら協力は惜しまないです! これで、小さな命を守ることができるです! |
産婦人科医師 |
|
ナレーター |
しかし、この一連の行為によって、産婦人科医師は医師法違反等で告発され、有罪とされてしまいました。 | |
宮城県医師会 |
有罪が裁判で確定した以上、当医師会としては、あなたの妊娠中絶のできる医師としての指定は、取消さざるを得ませんね。 指定医師の指定を取消させて頂きますね。 |
|
そ、そ、そんなです! 私は、信念に基づいて行動したです! 救える命を、黙って見殺しにするなんて出来なかったです! |
産婦人科医師 |
|
ナレーター |
産婦人科医師は、指定取消処分や(取消を受けて、その後、再度指定の申請をしているため)申請却下処分の取消を求めて出訴しました。 | |
|
||
・・・という事案なわけ。 | ||
この産婦人科のお医者さんは、自分に出来ることを精一杯考えて行動されたんだと思うです! 私は、素晴らしいお医者さんだと思いました。 |
||
正規の手続きを踏んで、養子にされるという方法も取り得たように思うのですが。 | ||
いやいや、それが出来ない事情があったわけでしょ。 中絶する理由だって、人それぞれあるわけなんだし、戸籍に出生の記載自体残したくないっていう人もおったと思うよ? |
||
そうです、そうです! それでも、産まれて来る命を守ろうとされたんです! こんなお医者さんの指定を取消すなんて許されないです! |
||
うんうん。まぁ、色々言いたい気持ちはワカルわ。 でも、この判例から学ぶポイントは、ソコじゃないわよね。 この産婦人科の先生に対する指定医師の指定の取消。 これは「取消」となっているけれど、講学上の「撤回」よね。 この点については、大丈夫よね? 当初の指定医師の指定自体には、特に瑕疵がなく、その後の、産婦人科医師の医師法違反という後発的事情があっての取消・・・ということだから、講学上の「撤回」にあたる、という理解になるわよね。 そして、本件で学んで欲しいのは、 撤回をなすにあたって、法律の根拠が必要なのか、不要なのか、という点について判例は、いずれの立場を示しているのか、ということね。 えーっと・・・判例見ちゃいましょうか。 |
||
最高裁の判断は、次のものね。 『上告人が行った実子あっせん行為のもつ法的問題について考察するに、実子あっせん行為は、医師の作成する出生証明書の信用を損ない、戸籍制度の秩序を乱し、実子の親子関係の形成により、子の法的地位を不安定にし、未成年の子を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならない旨定めた民法798条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、近親婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、将来子にとって親子関係の真否が問題となる場合についての考慮がされておらず、子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。 したがって、実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的でなされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反するものというべきであり、本件取消処分の直接の理由となった当該実子あっせん行為についても、それが緊急避難ないしこれに準ずる行為に当たるとするべき事情は窺うことはできない。 しかも、上告人は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、それによる弊害、その社会的影響を不当に軽視し、これを反復継続したものであって、その動機、目的が嬰児等の生命を守ろうとするにあったこと等を考慮しても、上告人の行った実子あっせん行為に対する少なからぬ非難は免れないものといわなければならない。 そうすると、被上告人医師会が昭和51年11月1日付の指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるというべきである。』 |
||
あうあうあう。 お医者さんの信念に基づいた行動は認められなかったのですね。 |
||
竹中さん、竹中さん。 ソコじゃないですよ。 判例は、『指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができる』として、法律の根拠なく、撤回をすることができる、としていることを抑えて下さい。 ただし・・・ |
||
あ、つかさちゃん。ストップ、ストップ! 今日はもう1つ判例検討するつもりだから、2つの判例を見た後で、まとめようと思っているから、この判例では、そこまででいいわ。 |
||
あ、そうなんですか? では、ここまでで。 |
||
なんだか、やりきれない事件です。 | ||
でも、この事件を契機に、人工妊娠中絶の可能期間が短縮されたり、その後の1987年には養子を戸籍に実子と同様に記載するよう配慮した特別養子縁組制度が新設されているのよ。 菊田医師のとった行為は、社会に一石を投じるものだったと言えるわ。 特別養子縁組制度については、民法の親族・相続でまた学ぶことになるわね。 |
||
そっかぁ。 それを聞くと、ちょっと報われる気持ちになるねぇ。 |
||
そうですね。 少し救われました。 |
||
感情移入するのは、いいんだけれど、ちゃんと、判例の争点は抑えておいてね。 | ||
そうですね。 | ||
だおだお。 あくまでも判例検討だかんね! いい? チビっ子! |
||
あ・・・藤先輩。 いつの間に、ソッチ側に。 ズルいです・・・。 |