最判昭和56年2月26日 〜ストロングライフ事件〜 |
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それじゃ、配役からね。 私はナレーターを。 サルは裁判所。 ナカちゃんは、輸入業者さん。 訴えられた国(厚生大臣)側を、黒田さんでお願いします。 |
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ナレーター |
輸入業を営む原告(ナカちゃん)は、昭和40年頃、護身用の噴霧器を輸入して、日本でストロングライフという名称で販売していました。 | |
このブロムアセトン稀溶液を使用した噴霧器ストロングライフさえあれば、護身対策は完璧です! 木下頭突きのような暴行に怯える日々からはオサラバです! |
輸入業者(原告) |
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ナレーター |
ところが、同じく昭和40年頃、毒物及び劇物指定例(政令)が改正され、同改正によって、ブロムアセトンは劇物指定されたのです。 これにより、ブロムアセトンを取扱う輸入業者は、輸入業の『登録』を、同法の定めによりしなくてはならなくなりました。 |
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ブロムアセトンが劇物指定された以上、登録しないとならないです! 登録するです! まずは申請です! |
輸入業者(原告) |
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国(厚生大臣) |
ブロムアセトンを、護身用噴霧器に使用されているわけですか。 ストロングライフ? 名前は、さておき、そのような劇物を人、又は動物の目に噴射して、その作用によって、永続的なものではないにしても、諸種の機能障害、開眼不能状態にしようとする物なわけですよね? そのような危険な物と分かっている以上、登録申請を認めるわけには参りません。登録申請は拒否させて頂きます。 |
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登録申請を受理していただけないと困るです! 劇物輸入業の登録をしないと、ストロングライフを売ることが出来なくなってしまうです! 木下頭突きに怯える人達を、1人でも守ってあげたいんです! |
輸入業者(原告) |
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国(厚生大臣) |
検討させて頂きましたが、やはり登録は拒否させてもらいます。 ストロングライフが、ブロムアセトンの薬理作用によって、国民の保健衛生に対して危害をもたらす可能性の強いものである以上、登録は拒否せざるを得ないものと思います。 |
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訴えるです! 本件登録拒否処分の取消を求めて訴えるです! |
輸入業者(原告) |
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裁判所(一審) |
請求棄却!!!! はい、ザマァっ!! 『本件処分の適法性につき検討する。 本件処分は、原告がしたストロングライフの輸入業登録申請に対する拒否処分であるので、まず、毒物及び劇物に関する法の規制について見ると、毒物及び劇物は、一方では医療及び化学工業などの分野で有益であると同時に、その薬理作用によつて国民の保健衛生に対して危害をもたらす可能性が強いものであるから、右危害を防止する観点から、法はまず一般的に毒物及び劇物の製造、輸入、販売の各営業を禁止し、一定の要件を具備する場合にのみ右一般的禁止を解除することとしている(法三条、四条、五条)。 (〜中略〜)法規は、一定の人的欠格事由をあげるほか、専ら毒物及び劇物の貯蔵、運搬などの設備が不備であることあるいは管理の体制が不十分であることをもつて登録拒否事由としている。 しかし、右規定の仕方をみると、前記の一般的な禁止を解除するにつき解除要件をかけ、それを充足するときは積極的に登録がされるべきものと規定しているのではなく、いわば消極的な面から登録拒否事由をかかげるという形式をとつている。 従つて、右登録拒否事由に該当すれば、登録が拒否されることになるのは当然であるけれども、毒物及び劇物につき、保健衛生上の見地から必要な取締りを行うことを目的としている法の趣旨に照らし、右登録拒否事由がなければいかなる場合でもそれだけで直ちに当該登録申請を許可すべきものとは必ずしもいえないのである。 思うに、法五条、規則四条の四が専ら設備の不備をもつて登録拒否事由としたのは、毒物及び劇物の社会生活上の通常の取扱方法を想定したうえ、それらが流出あるいは飛散するなどして保健衛生上の危害の発生の可能性が強いと考えられる場合のみをかかげたのであつて、前記法の目的、趣旨にかんがみると、必ずしも登録拒否の場合をそれだけに限定する趣旨のものと解することはできない。 例えば、前記の拒否事由は何ら存しないけれども、その品目の輸入業などの営業を許すときは、右拒否事由が存する場合と同程度あるいはそれ以上に保健衛生上の危害発生の危険性が予測されるような場合などには、法が毒物及び劇物の取締りを行う目的、趣旨に照らし、厚生大臣としては、法五条、規則四条の四を類推適用して当該品目につき輸入業などの登録を拒否することができるものと解するのが相当である。 すなわち、毒物及び劇物につき輸入業などの登録申請がなされた場合、被告厚生大臣は、単に法五条、規則四条の四所定の拒否事由の有無について判断するにとどまらず、右拒否事由がない場合においても、当該登録を許すことによつて保健衛生上の安全を明らかに害すると認めるときは、前記法の目的及び趣旨に照らし、法五条、規則四条の四を類推適用して登録拒否処分をすることができるものと解するのが相当である。』 わかった? チビッ子? |
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チビッ子じゃないです! 納得いかないです! 高裁に控訴するです! 私はめげないです! |
輸入業者(原告) |
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裁判所(二審) |
え? また来たの? 『もともと、毒物又は劇物といえども、本来は、何人も、自由にこれを製造したり、輸入したり、販売したりすることができるはずである。 しかるに、右のような法の規定が設けられるに至つたのは、毒物又は劇物がその薬理作用によつて人畜に被害を与える危険性の大であることに鑑み、その危険を防止するため、法は、その製造、輸入、販売を業として行なうことを一般的に禁止し、一定の要件を具備する申請人に対してのみ営業の登録を認め、適法に毒物又は劇物を取り扱うことができるとしたものである。 したがつて、同法にいう「登録」は、講学上の広い意味における「許可」に相当し、申請人に対し右の一般的禁止を解除して適法に当該行為をなし得る自由を回復せしめるものであり、特許のように新たに権利を設定するものではない、といわなければならない。 ところで、職業選択の自由は、憲法の保障するところであつて、国民は公共の福祉に反しない限り、自由に職業を選択し、それを遂行する権利を有するものであり、右のように法が毒物及び劇物の営業を一般的に禁止し、その解除を登録にかからしめていることは、国民の営業の自由を制限するものであるから、かかる自由の制限は、必要最小限度にとどめるべきである。 また、普通の許可にあつては、許可を与えるべきかどうかについて行政庁に或る程度の裁量の余地が残されている場合もあり得るが、登録にあつては、その性質上、法律の定める要件を具備する申請人に対しては、登録を拒否することができない拘束を行政庁に課する趣旨が含まれているものと考えるべきである。 したがつて、法五条は、登録の申請を拒否し得る場合を、申請に係る営業所等の設備が同法施行規則四条の四所定の基準に適合しないと認められるときだけに限定するとともに、いやしくもその設備が右の基準に適合しないと認められない以上、厚生大臣又は都道府県知事は、営業の登録を行なわなければならない旨を定めた規定である、と解するのが相当である。』 ・・・一審の下した行政の処分が妥当であるという判断は、間違いだって認めるよ・・・コレでいい? |
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はいです! 納得したです! やっぱり私は正しかったです! 行政の処分が間違っていたです! |
輸入業者(原告) |
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そんな判断で、いいわけないじゃないですか! 私たちは、適正な処分をしているのに、間違いであるなんて認定されては納得できません! 最高裁に上告致します! |
国(厚生大臣) |
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なんか、やたらと私情が入り混じっていたみたいだけど・・・。 木下頭突きや、チビッ子なんて判例の事案にはないんだから、入れちゃダメじゃないの。 |
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あうあうあう。 ごめんなさいです。 私、最近、藤先輩によく木下頭突きでイジめられるせいで、つい・・・。 |
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そんなナカたんに朗報があるんだお! | ||
朗報? なんですか? |
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見るがいいっ! ナカたんの動きに対応して開眼した伝家の宝刀・木下頭突きの真の姿をっ! |
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イヤです! イヤです!! |
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ウキャキャっ! 待て、待て、待てぇっ! |
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これでも食らうです! えいっ!! (プシャァァッ!) |
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なっ!? イタっ! イタタっ! な、な、ナニこれ?! 目が痛いおっ! |
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レモンの汁を稀釈した小型カートリッジ型噴霧器です。 ストロングライフ事案を予習してて、思いついたので作ってみました。 |
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手先が器用なんですね。 | ||
小物造りの趣味が、予想外のところで役立ちました。 悪い藤先輩には、お仕置きが必要です! |
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目がぁぁ〜。 目がぁぁぁっ!! |
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ムスカ大佐の真似しても許さないです! | ||
そんな余裕が、あるわけないじゃない! コレ、リアルでアカンやつやでぇ!? |
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藤さん、大丈夫ですか? これ、ハンカチです。 使って下さい。 |
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いつもナカちゃんをイジメてるから、たまには、いい薬よ! それじゃ、サルは放っておいて、事案のポイントをまとめるわね。 一審の争点は、法律に明示されていない登録拒否事由をもって、登録拒否処分が認められるか? というものになると思うんだけど。 この争点に対して、一審では、明文にないものであっても、その法の趣旨を根拠に、登録拒否処分が認められるという判断を示しているわね。 ただ、この判断枠組みは、法治主義の観点から考えるに、ちょっと無理筋に思えるわ。 明文にないものを、法の趣旨のみから根拠付けるというのは、やっぱり厳しいんじゃないかなぁ。 この一審に対して、高裁は、行政の処分が間違いであると認めているわ。 本件登録申請にいう『登録』は、講学上の『許可』にあたるとして、その許可する内容の性質から、自由の制限が必要最小限度のものではなくてはならないとしているのよね。 そうであれば、設備基準を満たしているのであれば、登録(許可)を認めなければならないという判断を下したのよね。 という経緯を経ての最高裁なんだけど。 |
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最高裁の判断は、次のものね。 『毒物及び劇物取締法それ自体は、毒物及び劇物の輸入業等の営業に対する規制は、専ら設備の面から登録を制限することをもつて足りるものとし、毒物及び劇物がどのような目的でどのような用途の製品に使われるかについては、前記特定毒物の場合のほかは、直接規制の対象とせず、他の個々の法律がそれぞれの目的に応じて個別的に取上げて規制するのに委ねている趣旨であると解するのが相当である。 そうすると、本件ストロングライフがその用途に従つて使用されることにより人体に対する危害が生ずるおそれがあることをもつてその輸入業の登録の拒否事由とすることは、毒物及び劇物の輸入業等の登録の許否を専ら設備に関する基準に適合するか否かにかからしめている同法の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。』 結論的には、最高裁は、原審(高裁)の判断を是認するものとなっているのよね。 ただ、一審と最高裁とでは、微妙な違いもあるのよね。 一審は、用途規制に対しても毒物及び劇物取締法を、法の趣旨から適用可能であると判断しているのに対して、最高裁は、規制の対象をあくまでも設備に制限して捉えているのよね。 その観点から、高裁同様、設備基準を満たしているのであれば、登録(許可)を認めなければならないという判断を示しているってことね。 因みに、法律上の文言が『登録』であっても、その性質から講学上(行政法上)の『許可』にあたることが、高裁判断の中で明示されているわね。 このように、特定の行政行為が、どのような行為なのかは、法律上の文言ではなく、その行為内容から判断すべきなのよ。 |
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わーい! 護身用ストロングライフを輸入することがコレで出来るです! 暴漢を撃退するのです! |
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目が、目が、目がぁ〜っ! | ||
・・・ただ、藤さんのお姿を見ていると、地裁の判断も妥当な気がしますね。 危害の発生の危険性という観点から取締りの必要性を、合わせ鑑みれば水際対策も重要に思えますからね。 |
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私のレモン汁は、そこまで強力なものではないはずなのですが・・・。 稀釈率を間違えたのでしょうか? |
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目が見えないよぉ。 イタイよぉぉ。 |
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ちょっと大丈夫? | ||
隙ありっ!! 伝家の宝刀・木下頭突きっ!! ( ゴスンっ! ゴスンっ!) |
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あんたねぇ〜っ!!! | ||
ウキャっ! 目標捕捉失敗だお! |
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ナカちゃん、ソレ貸してくれる? | ||
あうあうあう。 あんまりやり過ぎてはダメです・・・ (と言いつつ噴霧器を渡す) |
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藤さんは、間違えただけなんですから、許してあげてください。 | ||
ダメよ! 私への頭突きは間違いだったとしても、ナカちゃんに頭突きするつもりだったのは、変わらないわけでしょ?! |
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刑法でも、客体の錯誤は、法定的符合説から故意を阻却しないです! だから、藤先輩が悪いのは間違いないです! |
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あたし大ピィ〜ンチっ! 私刑執行待ったなしっ!! |