行政法の一般原則・法治主義
今日は、行政法の一般原則としての、法治主義について勉強しましょう。
法治主義については、憲法でも勉強しているから、関連付けて理解するといいですよね。
あのぉ・・・
私は、憲法は一緒に勉強していないのですけれど、今の明智さんの御発言は、私も憲法の勉強会に参加してもいいという意味で解釈してもよろしいのでしょうか?
ウキっ!?

(なにゅ?
 この暴走メガネ娘が、憲法にまで進出っ!?
 ヤ、ヤ、ヤバスっ!!
 光ちゃん! 断固阻止だお!)
黒田さんさえ宜しければ、私は構いませんよ。
ちょっと進行が遅いので、黒田さんには退屈かも知れませんけど、それでよければ是非。
それでしたら機会があれば是非。

(・・・学年トップの人が、進行が遅いなんて・・・
 私が退屈するなんて、嫌味な言い方されるなぁ・・・)
・・・・。

(ヤバス・・・あたしのオアシスが汚染されていく。
 くぅぅぅ。光ちゃん、防波堤機能皆無だなぁ・・・。)
(黒田さんには申し訳ないけど、私と2人だと、サルがどうも怠けちゃっているからなぁ。
 いい意味で黒田さんが刺激になってくれるといいんだけどなぁ。)  
・・・。

(なんか様々な思惑が交錯している空気を感じるのですが・・・
 気のせいでしょうか・・・)
あ、法治主義の説明の途中でしたね。

行政法にいう法治主義とは、行政はに従って、行わなければならないという基本原則ですよね。

そして、ここにいうとは、内容にも着目しなければならないわけですよね(実質的法治主義からの要請)。
着目すべき法の内容としては、憲法に適合しているか、法律の人権保障が具体化されたものであるかどうか、裁判所による権利保護の仕組みが整えられているかどうか、といったこと等が挙げられます。

このような内容面を無視して、とにかく法律に基づいていればいい! って考えてしまう法律による行政の原理は、形式的法治主義と言われます。
とにかく法律に根拠があれば、なんでもいいとするのは、まさに、「形式的」法治主義ですよね。 
実質的法治主義こそが、行政法の一般原則にいう法治主義ってことですね。
実質的法治主義のことを、狭義の法治主義ともいうんですよ。
  コクコク(相槌)
国民主権憲法構造の下では、国民及び国民代表機関による信託以前に、行政の存在や、その固有の活動が認められているわけではなく、あくまでも国会制定の法律による「授権」と、裁判所による「統制」が図られる必要があるということが、法治主義からは求められるという、まとめになりますね。
 
そして、そのとは、内容にも着目しなければならない、ということになるわけね。このあたりは、憲法での「法の支配」ともリンクするところですよね。
うんうん。
そういうことだよね。

(・・・あたし既にギリギリだよ・・・みんな勉強してるなぁ〜)
この法治主義にいう、行政はに従って行わなければならないという基本原則は、「法律による行政の原理」という言葉でも表現されますよね。

この「法律による行政の原理」(法治主義)の内容には

@ 法律の法規創造力
A 法律の優先
B 法律の留保


があげられます。
それでは、それぞれ見ていきましょう。
あ、すみません。
今、明智先輩が言われた@の法律の法規創造力についてなんですけど、「法規」ってなんですか
法規」というのは、国民の権利義務の変動を及ぼす法規範のことをいうものと定義されるわ。
この、国民の権利義務の変動を及ぼすものかどうか、というのは前回、明智さんが、行政の行為を見るときに重要な視点のひとつとして例示をもって教えて下さったところね。
あ〜ぁ。
先にクロちゃんに説明されちゃったよぉ。

(「法規」って、そういう意味なんだ、へぇ。)
  あ、黒田先輩、ありがとうございます。
え? え?
私に御礼っ!?
ううん。全然いいの。
解らないことを、そのままにしとくのはよくないからね。

(わわわっ! 嬉しっ!)
(サルぅ〜。あんた、嘘ついてんじゃないわよ!)

@の法律の法規創造力というのは、国民の権利義務に変動を及ぼす法規範については、法律のみが、それを作り出すことができるということですよね。
つまり、行政が規範を定める場合には、法規の性質、すなわち国民の権利義務に変動を及ぼすような法規範を制定されることは禁止されるということです。
憲法41条に、その根拠が求められるものですよね。
憲法41条
【国会の地位・立法権】第41条
 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
 
そうですよね。

次はA 法律の優先について、まとめますね。
これは、行政は、法律に違反する活動をすることができない、という原則です。
至極当たり前のことを述べているものなのですが、実際の具体的問題においては、この法律の優先が問題となる事案が多いので、要注意ですね。
新司の論述でも、この論点が扱われることは多いですね。
  こくこく(相槌)
もともとは、「国王の命令」に対する「議会制定法の優位」からきているものですよね。
黒田さんの御指摘のとおりです。

それじゃ、最後に B 法律の留保について、まとめますね。

これは、行政が活動をする際に、一定範囲の活動については、事前に法律で、その根拠が示されていなければならないととする原則ですね。

一定範囲の活動」って範囲を限定しているところがポイントですよね。
どうして、行政の全ての活動に、事前に法律の根拠を示すように求めてはいけないんですか
「全ての活動」について、全て事前に法律の根拠を・・・なんてことしていたら、実際問題として、行政が機能不全に陥るからですね。
  なるほど。
ありがとうございます。
  そういうこと、そういうこと。
(サルぅ〜。あんた、知ったかしてんじゃないわよ!

この「一定範囲の活動」にいう「一定範囲」とは、どこまでの範囲の活動なのか? ということが問題になるわけですよね。

また、事前に「法律」で、その根拠がしめされていなければならない、とする「法律」についても、その意味が問題となるのですが・・・。

この点については、議論があるところで、法律の留保論争と呼ばれる対立があります。

少し丁寧に、まとめますね。
法律の留保論争
 法律の留保論争における法律」の意味
組織規範(組織法)
 ・・・行政機関の設置、名称、任務、所掌事務の範囲などを定めたもの
根拠規範(作用法)
 ・・・ある行政機関が一定の行政活動をするにあたって必要とされる根拠規定
規制規範
 ・・・行政活動の適正さを保障するため、行政活動を規律する規範
・・・よ、よ、よくワカラナイ・・・

(ダメだぁ。流石に、もうワカッテル振り限界だおぉぉ。)
少し明智さんの御説明に問題があるのではないでしょうか?
私は、組織規範根拠規範との2分類で、まとめているので、規制規範をあげられるならば、違う理解をされてみえる方に、一言断っておくところではないでしょうか?
事実、藤さんは、そのせいで混乱してみえるようですし。
(サルは、そんなレベルで困惑しているわけじゃないと思うんだけどなぁ・・・)

そうですよね。

今、私の説明した3分類をとる考え方もありますが、黒田さんの御指摘されたように2分類をとる考え方もあります

規制規範という考え方自体が新しいことや、 実際、根拠規範規制規範の違いは微妙なところといえ、両者の見極めの評価が難しいことを考えると、もう少し丁寧に伝えるべきでしたね。

規制規範とされるものは、手続き的な規制内容を定めているものを、そのように分類する傾向があるというくらいに私も抑えているところです。
明智先輩・・・
定義だけですと、少しどのようなものか把握し辛いので、それぞれに該当する法律を教えて頂けませんか?
そうね。
例えば、組織規範(組織法)の定義は、行政機関の設置、名称、任務、所掌事務の範囲などを定めたものとされているわよね。
この組織法として挙げられるものとしては、警察法2条、環境省設置法3条、4条等があるわ。

実際に、条文にあたってみましょう。

警察法 第2条
 『警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。

一緒に、環境省設置法3条もみましょうか。

環境省設置法 第3条
 『環境省は、地球環境保全、公害の防止、自然環境の保護及び整備その他の環境の保全(良好な環境の創出を含む。)以下単に「環境の保全」という。)を図ることを任務とする。

条文を読んでもらえると、ワカルと思うんだけど。
この2つの条文をザックリ言っちゃうと、いずれも、警察という組織、あるいは、環境省という組織は、こうこうこういうことをするんだよぉって条文だよね。

また、要件・効果については、この条文からは読み取れないわよね。
ここにいう要件・効果というのは、国民との関係において、このようなことを要件として、かくかくしかじかな効果を発生させることができる、といったものなんだけど。

ということから、このような法律を、組織法に分類できるといえるわけなんだけど、ワカルかな?
よく解りました。
ありがとうございます。
同じように、根拠規範(作用法)についても例示して頂けないでしょうか?
私はワカッテルけど、ここはナカたんのお願いだから、光ちゃん聞いてやんなよ!

(ナカたんナイスっ!)
(サルっ! あんたナカちゃんに便乗してんじゃないわよ!)

じゃあ、根拠規範(作用法)についても同じように例示で説明するね。根拠規範(作用法)の定義は、ある行政機関が一定の行政活動をするにあたって必要とされる根拠規定とされるものよね。

じゃあ、実際どのような法律が、この分類に該当するのか、ってことなんだけど。根拠規範(作用法)としては、警察官職務執行法2条や、大気汚染防止法14条が挙げられるの。

まずは条文にあたってみましょうか。

警察官職務執行法 2条1項
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

環境汚染防止法 14条1項
都道府県知事は、ばい煙排出者が、そのばい煙量又はばい煙濃度が排出口において排出基準に適合しないばい煙を継続して排出するおそれがあると認めるときは、その者に対し、期限を定めて当該ばい煙発生施設の構造若しくは使用の方法若しくは当該ばい煙発生施設に係るばい煙の処理の方法の改善を命じ、又は当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。

どうかな?
条文を読んでもらえるとワカルと思うんだけど、この条文は、国民との関係において行政が、どのような要件の下、どのような効果を有する活動を行うことができるかを定めているわ。

例えば環境汚染防止法14条1項は、『〜排出するおそれがあるときは』として要件を示し、『その者に対し』として、国民との関係において適用されることを示しているわよね。そして、『〜の改善を命じ、又は当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。』とする効果も定めているわよね。

ということから、当該条文根拠規範(作用法)に分類されるのよ。
どうかな? ナカちゃん。
・・・。

行政法は、行政法っていう名前の法律がないから法律の勉強少なくって済むんじゃね?
 って思っていたけど、滅茶苦茶イロイロな法律条文が出てくる分だけキッツいんだ・・・どうしよ、逃げたひ)
・・・・。

(藤さん、説明が丁寧過ぎて、少し退屈してそうな感じだわ・・・。
 でも、竹中さんに合わせると、こうなるってことには藤さんも納得されてるんだから、仕方ないのよね)
規制規範については、黒田さんの御指摘もあったので、ここは、どのような法律が、規制規範に分類されるのか、という説明に留めますね。

例えば、補助金適正化法6条1項、行政手続法等が挙げられます。
これらは、手続き的観点から、規制規範に分類されますね。
こくこく(相槌)

(家に帰ったら、規制規範についても復習します。)
じゃあ、「一定範囲の活動」にいう「一定範囲」とは、どこまでの範囲の活動なのか? ということが問題となる法律の留保論について、まとめますね。
コレは、先に説明した作用法上の根拠が、どの範囲まで求められるのか? という問題ですね。

ここで、大事になる視点は2つあるんです。

1つは、その行政の行為が、権力的なものか、非権力的なものか、という視点。
もう1つは、その行政の行為が、侵害的なものか、受益的なものか、という視点です。

この視点からの分類を、どのように考えるのか、ということなんです。
んみゅ?
も少し解りやすく!
(藤さん、いつも竹中さんの視点を大事にされてみえる。
 ホント優しい人っ!)
具体的な事案を考えると、解りやすいと思います。

例えば、警察官が酔っ払いを保護すること・・・

これは、上の2つの視点権力的 or 非権力的)(侵害的 or 受益的で考えると、どんな行政行為といえますか?
警察官がやってんだから権力的だけど・・・酔っ払いとしては放置されたら、風邪ひいたり、荷物持ってかれたりしちゃうから嬉しいから、受益的
そうね。

行政が主体となって行っている行為を、一律に定義することは出来ないわ。その行為の内容に着目して、どのような性質のものなのかを、今の2つの視点をもって判断することが大事なの。

その視点を前提として、次のように、まとめられるわ。
  侵害留保説  権力作用留保説  完全全部留保説 
権力行政 侵害的行為
受益的行為 ×
非権力行政 侵害的行為 × ×
受益的行為 × ×
 その他、社会留保説、重要事項留保説もあり。
上の表の見てみて。

は、当該行為を行政が行う場合、作用法上の根拠が求められることを示しているの。×は、その反対で、作用法上の根拠を必要としない行為を示しているわ。

例えば、さっきの質問の「お巡りさんが酔っ払いを保護する行為」。
権力的行為だけど、受益的行為よね。

侵害留保説の立場からは、権力行政であっても、受益的行為であれば、作用法上の根拠は求められないこととなるから、お巡りさんは、特に、法律の根拠がなくとも、酔っ払いを保護することができることとなるわ。

でも、権力作用留保説や、完全全部留保説の立場からは、そのような行為であっても、作用法上の根拠を欠くことは認められないこととなるから、お巡りさんは、法律の授権なくしては、そんなことは出来ないってこととなるわ。

まぁ、流石に完全全部留保説は、さっき黒田さんが指摘したように、行政の機能不全の懸念があるだけに、あまり支持されていないわ。
実務は、「お巡りさんが酔っ払いを保護してもいい」とされる侵害留保説の立場をとっているわ。

この法律の留保論に関しては、諸説あるところだけど、実務は侵害留保説の立場をとっていること、そして、権力作用留保説くらいは、しっかり押さえておいてね。
内容的には、よく解りました。
それぞれの考え方についても、簡単に説明してもらってもいいですか?
あ、それぞれの考え方についての説明はしてなかったわね。
それじゃ、簡潔に。

侵害留保説(実務)
 ・・・国民の権利自由を権力的に侵害する行為についてのみ法律の授権を要するとする説

権力行政留保説
 ・・・行政活動のうち権力的なものについて法律の授権を必要とする説

完全全部留保説
 ・・・非権力行政についても法律の授権を必要とする説

って感じにまとめられるわね。
作用法上の授権の要否が、説によって異なる
という理解ですよね。

具体的には、補助金の交付や、行政指導で問題となる論点ですよね。
そうですね。
次回は判例をつかって、今日の考えが、具体的にどのような観点から検討されるのかを学ぶことにしましょう。 
やっぱり具体的に判例見ないと解りにくいしね!
そうよね。
特に、サルがどれぐらい理解しているのか、ちょっとワカラナイし・・・ 
藤さんなら、なんの問題もないですよ。
このあたりの基礎的な話は、もう十分把握されてみえますものね?
  ま、ま、まぁね。

(そんなわけないじゃない!)
(あんた、いつまで、その知ったかキャラでいくつもりなのよ?
 後から泣きついて来ても知らないからねっ!)  

新着情報