前回は、所有権の取得時効について学んだわ。 今回は、所有権以外の財産権の取得時効について学ぶことにするわね。 まずは、条文から見ましょうか。 民法163条を確認してくれる? |
||
民法第163条 『(所有権以外の財産権の取得時効) 第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。』 |
||
所有権以外の財産権も、取得時効の対象となり得るわ(163条)。 その要件について、まずまとめるわね。 @その権利(財産権)を行使すること A『自己のためにする意思』をもってなすこと B平穏・公然に行うこと C一定期間の継続 の4要件ね。 前回学んだ所有権の取得時効と重なる部分もあるけれど、そうじゃない要件については、少し説明するわね。 |
||
ナカたんは、前回、どっかの金満勘違い女のせいで勉強会に出れなかったんだから、おさらい方々再度全部説明したほうが、よくね? | ||
あ、その点については心配御無用ですよ。 私、毎回勉強会はボイスレコーダーで録音してますから、先日は、そのレコーダーを竹中さんにお貸ししましたので。 |
||
です、です。 お陰で助かったです。 黒田先輩、ありがとうです。 |
||
つかさちゃんのボイスレコーダー、便利よね。 よかったね、ナカちゃん。 じゃあ、要件についての説明をしてもいいかな? まずは@その権利(財産権)を行使すること、についてね。 ある権利行使を一定期間継続することによって、取得時効の基礎が形成されることになるわ。 その行使の内容については、占有を伴う財産権と、占有を伴わない財産権とに区別する必要があるわね。 占有を伴う財産権・・・例えば、地上権、永小作権、質権などは、その財産権の権利行使とは、占有を意味することになるわ。 他方、占有を伴わない財産権・・・例えば、著作権などは、その財産権の権利行使の内容は、準占有を意味するわけね。 |
||
準占有って? |
||
物権でやるから・・・って言いたいところだけど、流石に、ちょっと説明しておいた方がいいかもね。 占有については、前回の勉強会で条文と一緒に説明したわよね。 一応、復習しといた方がいい? 民法第180条 『(占有権の取得) 第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。』 占有は、有体物に対する行為であるから、有体物でない権利(例えば、著作権など)は、占有することはできないといえるわ。 だから、このような権利については準占有として把握しているの。 ただし、準占有については、占有に関する規定が全面的に準用されるから、効力などは同一と考えられるんだけどね。 準占有の条文は、今言ったように占有に関する規定が全面的に準用されるから、その準用を示す準用規定があるだけね。 一応、見ておく? 民法205条ね。 |
||
民法第205条 『(準占有) 第205条 この章の規定は、自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。』 |
||
A『自己のためにする意思』をもってなすこととは、その権利について、権利者として権利を行使する意思をいうわ。 これは、『所有の意思』(民法162条)と内容的には同じね。 B平穏・公然に行うことは、所有権の時効取得と説明が重複するから省略するわね。 最後にC一定期間の継続ね。 これは条文から、原則として20年間。善意・無過失の場合には10年間となっているわね。 その起算点については、『自己のためにする意思』をもって占有を開始したときになるわ。 財産権の一定期間の行使の継続(=占有・準占有の継続)が要件である以上、継続しなかった場合には、自然中断となるわね。 条文を、見ておきましょうか。 民法164条、そして、準用規定である165条ね。 |
||
民法第164条 『(占有の中止等による取得時効の中断) 第164条 第162条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。』 民法第165条 『(占有の中止等による取得時効の中断) 第165条 前条の規定は、第163条の場合について準用する。』 |
||
それじゃ、所有権以外の財産権として、取得時効の対象となる権利について説明するわね。 ただ、この権利の内容については、物権や、債権を勉強しないと、その権利の内容についての知識がないと思うところだから、個別の権利の内容については、また改めてってことに、なっちゃうんだけどね。 取得時効の対象となる権利としては。 @用益物権 (地役権・・・283条 『地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。』 他に、地上権、永小作権) A質権 B準物権 (鉱業権、漁業権など) C知的財産権 これに対し、取得時効の対象とならない権利としては、 @直接、法律の規定によって成立する権利 (法定担保物件である留置権、先取特権など) A抵当権 (但し、債務者および抵当権設定者以外の者との関係では、独自に消滅時効にかかる・・・396条 『抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。』) B一定の身分を前提とする権利 (扶養を受ける権利(877条)など) C1回の行使により消滅する権利 (解除権、取消権、買戻権など) D一般的には債権・・・もなんだけど、このうち賃借権については、ここでの大きな論点になるから、別途説明するわね。 |
||
うん、なるほど、まったくわからん。 | ||
まぁ、確かに、権利の内容も知らないのに名前だけ羅列されてもねぇ・・・って気持ちはワカルわ。 ただ、それぞれの権利の内容について、ここで説明し始めると、終わらないからね。 というわけで、それぞれの権利の内容については、また後日勉強するってことで、ここでの大論点にいくわね。 ここでの大きな論点として。 賃借権は、時効取得できるか? という問題があるの。 さっき説明したように、取得時効の対象とならない権利の中には、一般的には債権が挙げられているわ。 となると、賃借権は、賃貸借契約に基づき目的物を賃借する権利なんだけど、この賃借権という権利は債権なのよね。 そうであるならば、賃借権は債権である以上、時効取得はできない、とする考え方もあるわ(否定説)。 逆に、肯定する考え方(肯定説)もあるんだけれど、通説・判例は、限定肯定説という考え方なの。 この考えは、不動産賃借権についてのみ、取得時効の対象とする、という立場なのよね。 最判昭和43年10月8日の最高裁は、次のように述べているわ。 『土地賃借権の時効取得については、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、民法163条に従い、土地賃借権の時効取得が可能であると解するのが相当である。』 ってね。 ここにいう『賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき』というのは、具体的には、賃料・地代の支払い、という事実を意味しているわね。 通説・判例の「限定肯定説」の立場からは、賃借権は債権ではあるものの、通常1回的給付を目的とする債権の性格を考えると、不動産賃借権は、継続的給付を目的とする点で異なること、そして、占有を不可欠の要素とすること、また、その機能において地上権と同様の性質をもつものであること等が、賃借権の取得時効を認める理由として挙げられるわね。 そして、不動産賃借権の時効取得の要件は、判旨の中で述べられているように @『土地の継続的な用益という外形的事実が存在』し、 かつ A『それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき』 ということになるわね。 |
||
え? 家を借りてるだけなのに、その家がもらえちゃう場合があるってこと? |
||
ナニ聞いてるのよ!! 時効取得できるのは賃借権であって、所有権じゃないわよ! 賃借権っていうのは、さっき説明したように、賃貸借契約に基づいて目的物を賃貸する権利でしょ! どっから、賃借権が、所有権だなんて勘違いしてたのよ? |
||
・・・じゃあ、別に、賃借権なんて権利が時効取得できても大して嬉しくないような気がすゆ・・・。 借りれる権利なんて、あたし、いらないよ? それなら、家がもらえちゃう権利の方が嬉しいもん。 |
||
ちょっと、藤さんのおっしゃってみえることが、よく分からないのですが、賃借権の時効取得が問題となる場面を具体的に想定してもらえれば、少しイメージがわくのではないでしょうか? この問題となる場面としては、大きく3類型(所有者賃貸型、第三者賃貸型、無断転貸借型)があるのですが、まぁ、全部説明するのも難ですので、ここでは、百選にも掲載されている第三者転貸型を例にとって説明しますね。 百選T 44事件 最判昭和62年6月5日の事案なんですが、事案を、私達をつかって簡単に概説しますと・・・。 藤さんが所有してみえる不動産を、なんの権限も有しない第三者である光ちゃんが、無権限で、竹中さんに賃貸してしまったのです。 何も知らない竹中さんは、賃借人として、その不動産を占有して、当該不動産の賃料については、光ちゃんに支払っていました。 このことを知った、土地の所有者の藤さんは、竹中さんに対して、あなたに私は不動産を貸した憶えはないので立ち退いて欲しいってことで訴えたんですね。 このような事案に対して、最高裁は次のような判断を示しました。 『他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときには、民法163条により、土地の賃借権を時効取得するものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(※ 上記最判昭和43年10月8日)、他人の土地の所有者と称する者との間で締結された賃貸借契約に基づいて、賃借人が、平穏公然に土地の継続的な用益をし、かつ、賃料の支払を継続しているときには、前記の要件を満たすものとして、賃借人は、民法163条所定の時効期間の経過により、土地の所有者に対する関係において右土地の賃借権を時効取得するに至るものと解するのが相当である。』 としていますね。 つまり、概説の事案ですと、不動産の所有者である藤さんにしてみれば、賃料も受け取っていないのに、自分の所有する不動産に、賃借権の時効取得が成立してしまっているわけです。 正直、たまったものではない、という気持ちもあるところかとは思いますが、別の見方をすれば、所有権の時効取得ではなくって助かったな、ってことも言えますよね。 他方、竹中さんの立場にしてみれば、賃借権が時効取得できるお陰で、そのまま賃貸し続けることができるわけですから、それは助かりますよね。 因みに、この賃借権の時効取得が成立することで、この不動産の賃貸借は、不動産の本来の所有者である藤さんと、賃借人である竹中さんとの間で効力が生じることとなります。 また、時効の効果である遡及効によって、その賃貸借契約は、はじめから藤さんと竹中さんとの間でなされたものとなることも注意してください。 |
||
いやぁ、他人の不動産を勝手に貸すなんて、とんでもない光ちゃんだよねぇ。 | ||
あくまでも、事案説明の中の私ね! | ||
ちなみに、今の事案ですと、藤さんは他人の不動産を無断で貸していた光ちゃんに対しては、光ちゃんが竹中さんから受け取っていた賃料について、不当利得として返還請求をすることができますよね(民法703条、704条)。 | ||
できます、なんて言いきるのは、どうかなぁ? 事案の私が、善意(=他人物賃貸とは知らなかった)だったら189条1項で保護される可能性があるからねぇ。 (※ 189条1項 『善意の占有者は、占有物から生じる果実を取得する。』 ※ 賃料は法定果実なので、同条同項が適用される。) |
||
ちょいちょい。 どこまで議論を脱線させるつもりだお。 ついてけねぇお。 |
||
変な例えに私を使うのは、やめて欲しいなぁ。 つい反論したくなっちゃうもの。 |
||
光ちゃん、いつも、あたしを変な例えにしか使っていないのに、よく、そんなこと言えるよね。 | ||
あんたの場合は適材適所じゃないの! 私はバランス感覚あるから、ちゃんと考えて配役しているつもりよ? |
||
よく言うよ・・・。 |