民法総則も、遂に最終章ね。 この最終章である民法第1編・総則の第7章では、時効について勉強することになるわ。 時効って言葉自体は、日常会話の中でも時折使ったりすることあるんじゃない? 定義を述べると、時効とは、一定の事実状態が、一定の期間、継続することによって、権利の取得、または権利の消滅という効果を生じさせる法律上の制度をいうの。 |
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時効って聞くと、ついつい『誰にも言いませんよカード』が頭を過ぎっちゃうなぁ。 | ||
ナニそれ? | ||
霧山修一朗・・・略して、キリシューの活躍するコメディドラマ『時効警察』に出てくるキーアイテム。 | ||
・・・関係ない話を、のっけから言うのはやめてくれない? | ||
いやいや、関係なくはないでしょ! だって、タイトルからして、おもいっきり『時効』ってフッてんだよ? まさにタイムリーな話じゃないのよ! 時効だけに、二重の意味でタイムリーじゃね? 凄くね? |
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それじゃ、ドラマで時効についても熟知しているんでしょうから、時効に関する質問してあげるから答えてみなさいよ! 質問! 時効制度は、どうして存在するのでしょうか? |
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形而上学の領域での議論か・・・ ・・・なぜ時効制度は存在するのか・・・哲学だね・・・。 |
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ちゃんと考えて答えて下さい! |
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ナニ、無理矢理小難しい問題にして煙に巻こうとしてくれてんのよ! じゃあ、もう少し噛み砕いた質問に変更してあげるわ。 質問の趣旨としては、同じことを聞いていると思ってくれていいからね。 私が小学生のとき、神社の縁日で、サルに、私のお小遣いから200円を貸してあげたわよね? 憶えてる? あの200円を今日返してくれる? って言われたら、どう思う? |
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金持ちのくせに、人間が小さいなぁ・・・って思う。 | ||
藤さん、藤さん。 確かに、その通りだとは思いますけれど、ココは、質問の趣旨を考えて答えられるべきかと。 今日の勉強会は『時効』ですから、時効制度と絡めて答えて欲しいって、光ちゃんは思っていると思いますよ? |
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時効制度と絡めて? ということは、何故時効制度があるのか、という存在理由と絡めてってことですよね? ・・・あっ! 小学生の頃に借りたお金のことなんて、藤先輩はもう憶えていないかも知れないのに、今更返せなんて言われても、「貸した」「借りてない」ってケンカになってしまうです! |
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あ、成程、成程。 そういう風に答えればいいわけね。 じゃあ、あたしは、今更そんなこと言うな! って感じかな。 返して欲しかったなら、その時言わなきゃダメだよね、やっぱ。 |
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・・・なんかエラくフラストレーションを感じちゃうんだけど、概ね正解ってところかしらね。 時効制度の存在理由(=根拠)としては、一番大きな理由としては @継続した事実状態の維持による法律関係の安定 があげられるわね。 コレは、つまり法律という理屈を優先するんじゃなくって、事実のほうに法律関係を合わせていこうということになるわね。 法律的に考えれば、私はサルに200円を貸している以上は、サルに対して債権を有していることになるわ。 したがって、その債権に基づく支払請求権を有しているはずよね。 でも、法律的にあるべき姿を求めるのではなく、継続した事実状態に法律を合わせる・・・例えば、質問の場合だと、貸したお金をずっと返済しないままに一定の時間が過ぎ去ってしまった・・・その返済しないままという事実を尊重しようっていうことなの。 ここでは、消滅時効が成立すれば、私の債権は消滅して、債権に基づく支払請求権が行使しえなくなるわけね。 他の存在理由としては、ナカちゃんが言ってくれたように A時の経過で、証明困難になることからの救済 (=証拠保全の困難さからの救済) サルが言ったように B権利の上に眠る者は、法的保護に値しない といった根拠があるわね。 時効制度の存在理由として、最も大事なのは、@の長期にわたる継続した事実状態の尊重ってことね。 ココは、しっかり抑えておいてね。 |
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ってことは、今、光ちゃんが言った200円は、時効によって、もう返さなくっていいってこと? | ||
別に取り返そうなんて思ってないわよ。 私、初めて行った縁日だったから嬉しくって、色々憶えていたから、あ、そう言えば・・・って思いで、質問で話しただけだもん。 ただ、時効による権利の得喪の効果を、どのように捉えるのか、って論点があるわ。 今、サルが『時効によって、もう返さなくっていい』って言ったけど、果たして、そのように言えるのか、という問題はあるわよね。 ちょっと、六法で民法162条、163条(権利の取得)。 次に、民法167条(権利の消滅)。 最後に、民法145条、146条と確認してみましょうか。 |
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民法第162条。 『(所有権の取得時効) 第162条 1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 2項 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。』 民法第163条。 『(所有権以外の財産権の取得時効) 第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。』 民法第167条。 『(債権等の消滅時効) 第167条 1項 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。 2項 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。』 |
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ちょっと参照条文が多いので、私も読み上げますね。 民法第145条。 『(時効の援用) 第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。』 民法第146条。 『(時効の利益の放棄) 第146条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。』 |
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今挙げた条文を見てワカルように、民法は、一定の事実状態の継続により権利の変動(取得については民法162条、163条、消滅については民法167条)が生じると定めているわよね。 他方、当事者が援用しなければ、裁判所は裁判をすることができない(民法145条)、また、時効の利益についてもあらかじめ放棄することはできない(民法146条)、と定めているわ。 これらの条文の意味をめぐって、時効制度をどう見るのか、換言するならば、時効援用の法的性質が問題になるのよね。 議論のあるところではあるんだけれど、ここは私の理解で説明することにさせてもらうわね。 時効期間が満了したからと言って、当然に時効による権利の取得・消滅が発生するわけではなくって、時効の利益を受けたいと欲する者が、その意思を表明(=援用)することで、初めて、時効による権利の取得・消滅という効果が生じる、と考えるべきといえるわ。 通説・判例(最判昭和61年3月17日 百選T 39事件)は、この考え方をとっているの。 いわゆる、不確定効果説、停止条件説の立場ね。 すなわち、時効の完成によって生じた権利の得喪は、いまだ不確定であって、それが援用または放棄によって確定的になる(不確定効果説)。 そして、援用を停止条件として時効の効果(権利の得喪)が確定的に発生し、また放棄の場合は、時効の効果が発生しないことが確定することになる、と説かれる考え方なの(停止条件説)。 |
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百選Tの39事件では、最高裁は次のように述べていますね。 『民法167条1項は『債権ハ十年間之ヲ行ハサル二因リテ消滅ス』と規定しているが、他方、同法145条及び146条は、時効による権利消滅の効果は当事者の意思をも顧慮して生じさせることとしていることが明らかであるから、時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当』である。 つまり、時効は、時効期間が経過しただけではなく、その利益を受ける者が時効を援用して、はじめて、その効力をもつ、ということを言っているんですよね。 |
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いやぁ、改正前の民法は凄いねぇ。 『債権80年間これを行わざるに因りて消滅す』って・・・時効完成までの期間が80年とは驚くねぇ。 |
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・・・・。 | ||
2005年の民法改正前の条文だから、片仮名、文語体になっているだけです。 内容的には、さっき私が読んだ167条1項と同一ですよ! |
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いつも六法を、ナカちゃんにひかせて自分では条文をろくに読まないからよ! 法律の勉強をするのに六法を見ないなんて言語道断ってことが身に染みてワカッタんじゃない? |
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・・・じょ、じょ、冗談じゃない。 ホ、ホ、ホントはワカッてて言ったんだよ? ナニ、マヂで答えてんの? ぎゃ、逆にヒくわぁ。 |
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ですよね? 藤さんが、そんな間違えをされるわけないじゃないですか。 大体、時効完成までに80年を要するなんて立法として破綻しちゃってますものね。 |
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そ、そ、そうだよね? いやぁ、もうホント常識のない法律バカばかりで困るよねぇ。 冗談さえ通じないとは嘆かわしいこと、この上ないよ、うんうん。 |
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ジトォォ〜。 | ||
ナニナニ? (ちょっ! こっち見んなっ!) |
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あ、でもでも、つまり判例の考え方に則れば、あたしは時効を援用すれば時効消滅の恩恵に預かれるってことだよね? じゃあ、あたし援用するよ! 光ちゃんに借りたお金は返したくないしね! |
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ナ二その言い方は・・・ 借りたものを返すのは社会の常識じゃなくって? まぁ、民法167条1項は『債権は、十年間行使しないときは、消滅する。』と定めているんだから、小学生のときの債権なんて、とうに時効期間の10年間を経過しているんだから、時効自体は完成しているわけなんだけどね。 だから、あんたが言うように援用によって、私の債権は消滅するってことになるわね。 |
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うほほーいっ!! 時効制度って、素晴らしいっ! |
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なんか、あんたが法律を勉強しても、ろくなことしない気がしてきちゃうような発言は控えてよね? さっき、つかさちゃんがまとめてくれたからワカルかと思うけれど、時効の効力が生じるために必要な要件には、@時効が完成し(=一定の事実状態が、一定期間継続すること)、かつ、Aその利益を受ける者が時効を援用することが求められるわけね。 さっき、あんたは『時効によって、もう返さなくっていい』って言ったけれど、それは少し正確性に欠ける表現だったってことがワカルわよね? 時効期間の経過だけでは足りなくって、利益を受ける者である、あんた自身の援用が必要になるわけだからね。 そして、時効には、権利を喪失する消滅時効と、権利を取得する取得時効の2種類があるわ。 今、サルが喜んでいる時効は、前者の消滅時効の話になるわけね。 要件ときたら、次は効果なんだけど。 これもまぁ、説明しなくてもワカルわよね。 時効が完成し、当事者が援用した場合には、消滅時効では権利が消滅し、取得時効では権利を取得する、という効果が生じることとなるわ。 |
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ん? 取得時効? ・・・時効期間が経過して、あたしが援用したら、なんか貰える場合があるってこと? |
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ドコに食い付いてんのよ! | ||
まぁまぁ。 詳しく! ソコんとこ詳しくっ!! |
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明智先輩、教えない方がいい気がします。 | ||
今日は、そこまでやるつもりないから、興味あるのなら自分で予習してきたらいいんじゃないの? 今日は、時効の定義と、要件及び効果までの予定だからね。 |
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時効の定義と、要件及び効果まで、と言うのなら、もう全部話しちゃってませんか? 私は、これで一通りの説明はし終わったと認識していましたが。 |
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つかさちゃんらしくない発言じゃない? 時効の本体的効果については、確かに説明したけれど、時効の効果には、もう一つ重要な効果があるじゃないの。 民法144条を忘れてない? |
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あっ! 遡及効がありましたね! 民法第144条。 『(時効の効力) 第144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。』 つまり、取得時効においては、時効取得した者は、占有の最初から権利者であり、消滅時効においては、権利者であった者は、その権利を起算日から失うことになる、という効果がありましたね。 あ、因みに起算日については、取得時効については占有を開始した時から起算し、消滅時効においては民法166条1項ですよね。 民法166条1項。 『(消滅時効の進行等) 第166条 1項 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。』 |
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そうそう、遡及効があるわよね。 取得時効と、消滅時効の、それぞれの遡及効について、まとめておくと、次のようになるわ。 取得時効では、時効取得者は占有の最初から権利者となるわ。 したがって、時効期間内に生じた果実は、時効取得者が、収得権限をもつこととなるし、時効期間内にした目的物についての「法律上の処分」・・・例えば、売却や、質権設定等の行為は有効なものとなるわ。 他にも、時効期間内の侵害に対する賠償請求権も、取得者が有することとなるわね。 このあたりは、少し物権の勉強をしないと難しいかも知れないけれど、また物権を勉強すればワカルと思うから大丈夫よ。 消滅時効では、元の権利者の権利は遡及的に消滅することになるわ。 せっかくだから、今日の私のサルへの質問を利用して説明すると、例えば、普通貸したお金には、利息がつくじゃない。 でも、元の債権者である私の債権が起算日に遡ってないことになるため、債務者であるサルは、期間内の利息や損害金についても支払う必要はない、ということになるわけ。 但し例外として、時効消滅した債権による相殺は認められているわ(民法508条)。 これは、時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は相殺をすることができる、というものなんだけれど、流石に、この相殺は債権総論の論点だから、またその際に改めて学ぶことにするわね。 |
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うんうん。 でも、いいよねぇ。時効って。 借りたお金を返さなくってよくなったり、なんか貰えちゃったりするわけでしょ? いやぁ、錯誤に続いて、コレはしっかり勉強しておかないとなぁ。 ウフフフ・・・。 |
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あんたの関心のベクトルって、ホント、ズれてるわよね。 | ||
藤先輩は、法律の知識を学ぶ前に、もっと人として大切なモノを学んで下さい! | ||
ウキっ! |