さぁ、じゃあ今日は詐欺・強迫のうち詐欺について勉強するわね。 予定としては、今回で詐欺を終わらせて、次回で強迫を終わらせるって感じにしたいわね。 それじゃ、まずはお世話になる条文の確認からいくわね。 前回確認した条文ではあるんだけれど、今回は、96条3項だけじゃなくって、96条そのものを学ぶんだから改めてね。 六法で民法96条を確認してくれる? |
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民法第96条 『(詐欺又は強迫) 第96条 1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。』 |
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これまた、民法に似つかわしくない物騒な文言だね。 詐欺に、強迫って・・・。 |
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でも、ドッチも藤先輩はやりかねないだけに怖いです。 | ||
ソレわかる気がする。 私もたまに、サルにこんな余計な知恵を与えちゃっていいのかなぁ、って思うときあるもの。 まぁ、それはそれとして。 まずは、詐欺による意思表示の定義からね。 コレはいるのかな? って思わなくはないけど、一応ね。 詐欺による意思表示とは、相手方(又は第三者)の欺罔(ギモウ)行為のために表意者が錯誤に陥り、その結果としてなした意思表示をいうのね。 ザックリ言うなら、騙されて契約しちゃいました、ってことね。 この詐欺による意思表示は、欺罔された表意者、要は騙された人ね。 この表意者が取り消すことができるの(96条1項)。 錯誤(95条)の場合は、無効だったけれど、詐欺(96条1項)の場合は、取消だからね。 まぁ、簡単に憶えるならセットにしちゃって憶えた方がいいわね。 錯誤無効、詐欺取消って感じでね。 効果としては、無効>取消、って関係なの。詐欺の場合は、錯誤程の強い効果は認められていないって理解でいいわ。 但し、表意者の詐欺を理由とする取消が認められるためには、次の要件を充足する必要があるわ。 その要件としては、次の4つね。 @欺罔行為の存在 A欺罔による意思表示(因果関係) B欺罔者の故意(俗に「二段の故意」と呼ばれる) C欺罔行為の違法性 の4要件ね。 |
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ギモーヴ、ギモーヴって、やたら連呼してたね。 あ、そだ。 ギモーヴって、あたし食べたことないから食べてみたいっ! |
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ギモーヴ? どっから出てきたの? フランス菓子だし、いつも行くネージュ・ブロンシュに置いてあるんじゃないの? |
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光ちゃん。 ギモーヴ知ってるんだ・・・ 食い物のことは、ホント詳しいよね。 |
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ナニよ、その言い方はっ! ギモーヴくらい誰でも知ってるわよ! |
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私はアニメ(『BLOOD−C』)でしか知りません・・・ | ||
私なんて、今、藤さんから初めて、その名前聞きました。 フランスのお菓子なんですね。 |
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ホラホラっ! やっぱり食い意地張ってる光ちゃんだけじゃないの! 知ってるのっ!! |
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あんただけには、食い意地張ってるなんて言われたくないわよ! ちょっと、チャチャ入れないでくれる? 今日は、詐欺を終わらせるつもりって最初に予定を伝えたの聞いてなかったの!? |
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なんだお・・・ 自分から、ギモーヴの話題振ったくせに! |
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ギモーヴじゃなくって「欺罔」よっ! 食べ物のことばっかり考えてるから、聞き間違えるのよ! 要件については、特に説明いらないと思うけれど、B欺罔者の故意(俗に「二段の故意」と呼ばれる)についてだけ、少し説明しておくわね。 このBの要件である欺罔者の故意なんだけど。 コレは、詐欺をした人(=欺罔者)に、騙す意思(=相手方を欺罔によって錯誤に陥れようとする故意)と、さらに、それによって意思表示させようとする故意の2つの故意が求められるの。 この2つの故意が求められることから、「二段の故意」って呼ばれているわけね。 |
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・・・恋の「こ」の字も知らないくせに、何が二段の恋だお(ボソッ) | ||
恋じゃなくって、故意です。 故意。 |
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つかさちゃん、相手にしなくっていいからっ! 勉強会に関係ないこと言ってたら、全部スルーしちゃっていいから! ただ、二段の故意の証明は、容易なことではないのよね。 そこで、特別法である消費者契約法は、消費者救済を図るため、事業者の不適切な一定の行為(不実告知、断定的判断、不利益事実の不告知等)を類型化して、そのような勧誘行為によって契約が締結された場合には、消費者に取消権を認めているわね。 二段の故意の証明が難しいことから、このような立法措置が図られているってわけなの。 あ、これは民法の論点とは関係ない話になるんだけれどね。 |
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クロちゃん! 勉強会に関係ないこと言っとるからスルーしちゃっていいお!! |
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確かに、消費者契約法自体は、試験には出ませんけれど、民法という法律を理解する上では、大事な話をして下さっていますよ? | ||
いいから、いいから、つかさちゃん! 聞いている人だけが聞いててくれればいいんだから! さ、要件ときたら、次は効果ね。 詐欺による意思表示は、取り消すことができるわ(96条1項)。 そして、取消があると、法律行為は、初めから無効であったものとみなされるわね(遡及効 民法121条本文)。 次は、96条2項にいう第三者による詐欺ね。 説明の前に、もう一度条文確認しておく? |
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はい。したいです。 民法第96条第2項 『(詐欺又は強迫) 第96条 2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。』 |
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ここは、条文のまんまかな。 簡単な事例で説明しちゃうと・・・ 私が、サルに騙されて、私の持っている家を、ナカちゃんに安く売ってしまったというような場合がそうね。 この場合、ナカちゃんが悪意(=私がサルに騙されて取引に及んでいるという事実について知っていること)なら、私は詐欺による意思表示を理由に取り消すことが出来るってことね(96条2項)。 ここはコレくらいでいいかな? |
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流石に、今日だけで終わらせようっていう論点だけあって、大して難しい話がないね。 楽勝、楽勝ぉ〜。 |
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・・・言っとくけど、96条の論点は、次の96条3項に集中してんのよ? 大体ここまでは、詐欺取消制度の説明みたいなものだから、論点と言える話自体してないじゃないのよ。 詐欺で、一番問題となるのは、第三者の保護についてなの。 ここからが、今日の勉強会の本題よ? さぁ、それじゃ、今から何度も見る条文を、再度見ておきましょう。 六法で96条3項を見てくれる? |
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民法第96条第3項 『(詐欺又は強迫) 第96条 3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。』 |
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おおう。 前回やった96条3項だお。 そだそだ。 善意の第三者には、詐欺で騙されたって言っても駄目ってことだったお。 |
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あれ? ちょっと待ってください。 96条は、詐欺又は強迫って、2つのことを定めているのに、善意の第三者に対抗することができないのは、詐欺による意思表示だけなんですか? |
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ナカちゃん、いいところに気付いたわね。 それじゃ、その答えを言う前に、96条3項の制度趣旨について説明するわね。 96条3項の制度趣旨は、以前勉強した94条2項と同様の考慮によるものなの。 つまり、詐欺による意思表示を信頼した善意の第三者を保護して、取引の安全を図ろうとするものなの。 そのため、第三者保護の観点から、詐欺による意思表示は善意の第三者に対抗できない、として、取消の効果を制限しているわけね。 じゃあ、どうして、強迫の場合は制限されていないのか、ってことになるけれど、強迫の場合は、表意者は詐欺の場合と比較して、その意思の形成過程における抑圧の度合いが高いと言えるわよね? それなのに、詐欺と同様に扱われるというのは、表意者にとっても酷と言えるわ。 だから、強迫の場合は、表意者保護を厚くして、取消の効果を制限していないわけ。 つまり、詐欺に対しては動的安全の保護の要請が高く、強迫に対しては、表意者(=被害者)保護・・・すなわち静的安全の保護の要請が高いと言えるわね。 |
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「騙される方が悪いんだよ」って、トンパさんも言ってるからね! | ||
騙された人だって、取消の効果を制限されるのは酷だと思います。 | ||
確かに、それは思わなくはないところですけど。 でも例えば、こんな事案を比べて考えたらどうかしら? 竹中さんが、光ちゃんに包丁を突き付けられて、「契約書にサインをしなければ殺すわよ!」って強迫されて、サインしたという場合と。 竹中さんが、光ちゃんに「今なら安く買えるから買ったほうがいいわよ!」って騙されて、買ってしまったという場合。 強迫と詐欺とでは、その意思表示までの竹中さんの自由の抑圧は比較にならないものがあるんじゃない? |
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ほ、ほ、包丁・・・ |
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いやいやいや、あの犯罪者顔の金満女に、そこまでやられちゃったら誰でもサインしちゃうでしょ・・・ そこまで脅されて契約書にサインしちゃったというのは、最早、ナカたんの意思じゃないって! 完全に無理矢理じゃないの。 |
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ちょっとっ! 誰が犯罪者顔なのよ!! でも、今のサルの指摘はそうよね・・・ そこまで強度の強迫であるならば、到底本人の意思によるものとして評価することは出来ないとも考えられるわね。 そうであれば、ナカちゃんの意思は存在しない・・・つまり意思無能力者として無効主張が認められると言えるんじゃないかしら。 |
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・・・流石、藤さんです。 私の不適切な例示を、的確に御指摘下さって、ありがとうございます。 |
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いやいや、勉強だからね。 教えて、教えられてだよね。 (え? マヂ? いや、適当な相槌入れただけなんだけどなぁ・・・) |
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それよりもあんた!! 事あるごとに、私の顔を犯罪者顔って言うの、やめなさいよね! 今度言ったら、タダじゃおかないからね! ゴホンっ! 96条3項の制度趣旨が、取引安全から、詐欺による意思表示を信頼した第三者保護ということはワカッタと思うんだけれど。 ここから、この96条3項にいう「第三者」とは、詐欺の事実を知らずに、詐欺による法律行為に基づいて取得された権利について、新たな独立の法律上の利害関係に入った者をいう、と定義づけられることになるわね。 96条3項が、94条2項と同様の考慮に基づくものであることからもワカルかと思うんだけれど、つまり、96条3項にいう「第三者」とは、94条2項にいう「第三者」と同一の要件が必要となるのよね。 憶えてる? 94条2項にいう「第三者」に求められた3要件。 ホラホラ、あの定義から導かれる3要件よ? はい、じゃあ、ソコの木下さん、答えてください! |
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・・・知らねぇっての。 | ||
94条2項にいう『第三者』とは、『虚偽表示の当事者およびその包括承継人以外の者であって、虚偽表示の外形について新たな独立の法律上の利害関係を有するに至った者』を言います。 (大判大正9年7月23日) ・・・でも、この定義については、勉強会で教えて頂きましたが、要件は、聞いていませんよね? |
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おおっ! ナカたん、ナイスっ!! その定義聞けば、要件ワカルよ! つまり、96条3項にいう「第三者」に求められる要件は。 @新たに A独立の B法律上の利害関係 をもった「第三者」ってことだよね? |
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な、な、なんでですか? 藤先輩は、要件を知っていたのですか? |
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ううん。 でも、光ちゃんが、その定義はやたら憶えろ、憶えろって2回も言っていたじゃない? だから大事な定義なんだろうなぁって思ったし・・・ んで、今、96条3項と、94条2項は同じ要件が求められるって言ってたから、96条3項にいう「第三者」の定義と被っている部分を、3つ要件挙げろって言うから、3つ抜き出しただけ。 |
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あんた、ホントそういう要領だけはいいわよね・・・ でもそうね。 94条2項と、96条3項が同様の考慮に基づくものであるという理解があれば、制度趣旨だけじゃなくって、両条文にいう「第三者」の定義、要件についても、パラレルに捉えることができるわけよね。 それだけじゃないのよ。 両者は、同様の考慮に基づくものである以上、96条3項の「第三者」に無過失まで求められるのか? という論点も、94条2項と同じく「不要」ということになるし、あと、コッチはサラっと説明したところだから、あまり記憶に残っていないかも知れないけれど、登記の要否についても、判例は不要(最判昭和49年9月26日 百選T 23事件)としているところも同じなのよね。 94条2項の「第三者」は大事な論点だから抑えておくのは勿論なんだけれど、その際に、せっかくなんだから96条3項の「第三者」と関連づけて憶えておくようにするといいわね。 |
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2回も憶えろって言われた、そんな大事な定義も憶えていない藤先輩が言えた要件を、言えなかったなんて・・・ 悔しいです! |
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ナカたん、ナカたん? | ||
なんでしょう? | ||
頑張ってね! | ||
ありがとうございます。 | ||
(ウキっ! ムスっとしてる、ムスっとしてるぅ。 ナカたんはイジり甲斐があるなぁ。二シシシシ。) |
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あんた、その言葉、鏡見て言いなさいよ! 誰に向かって言ってんのよ! それじゃ、次の論点ね。 96条3項にいう「第三者」は、いつまでに利害関係に入ることが求められるのか? っていう論点があるわ。 つまり、第三者の登場と、詐欺によって意思表示をした表意者の取消の時期との関係の問題ね。 この点について、判例は、96条3項にいう「第三者」とは、取消前に、利害関係に入った者をいうとしているわ。 詐欺取消は、善意の第三者に対抗できない、とされているけれど、騙された人だって、本来であれば保護されてもいいはずよね。だからこそ、騙された人にも、取消権が認められているわけ。 ただし、96条3項は、取引安全の見地から、その取消権を制限して、善意の第三者を保護しようという趣旨のものなのだから、 その保護される「第三者」は、詐欺取消の意思表示の前に登場しておかないと、いけないって理解になるわよね。 |
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こくこく(相槌) | ||
じゃあ、今の理解を前提として、ここで質問ね。 質問! 96条3項にいう「第三者」とは、判例によれば、詐欺取消前に、利害関係に入った者をいうということですが・・・。 それでは、詐欺取消後に、利害関係に入った第三者は、どうなるのでしょうか? あ、どうなる、っていうのは表現が妥当じゃないわね。 保護されるのでしょうか? そして、保護されるとするなら、どのように保護されるのでしょうか? あるいは、保護されないということになるのでしょうか? 考えてみて、考えてみて。 |
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・・・うえぇぇ。 どうなんだろ・・・ (詐欺取消された後に、利害関係に入っているってことなんだから、それはもう96条3項にいう「第三者」ではないよね・・・。 だったら、騙された表意者が、対抗できる・・・つまり第三者は保護されないって言えそうなんだけど、そんな当たり前のことを、わざわざ質問で聞くかなぁ? いやいや、あの性格ひん曲がった金満女は、しないよね・・・) |
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保護される・・・ え、でも、騙された人だって取消した後に来た人との関係なら、取り消したんだから、対抗できる・・・って言えそうな気もするです・・・ |
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光ちゃん、光ちゃん・・・ 確かに、この問題は、96条一番の論点と言ってもいい大論点ですけれど、肝心の適用される条文を、まだやっていないんじゃないでしょうか? 不動産の場合における177条。 動産の場合における192条、または、178条。 いずれもまだ勉強していないですよね? |
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ちょっとちょっと。 ソレ、マヂ? |
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あ・・・・。 そうだったわね。 それじゃ、保護されるとして、どのように・・・なんて言われても答えが出るわけなかったわね・・・ でも、この論点は、すっごく大事な論点なの。 いわゆる原則修正パターンにおいても、ド典型とされるくらいのね。 ただ、つかさちゃんが言うように、ちょっとまだ前提の知識がないんだから、今言ってもワカラナイかもね。 そうね、この論点については、しっかりやりたいから、また、それぞれの適用条文を抑えてから、改めて・・・ってことにしましょ。 |
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ああああぁ。 じゃあ、答えだけでも聞かせて下さい。 気になってしまうです。 |
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考え方を知らずに答えだけ、というのは、あまり好ましいとは思えないのですけどね。 でも、それじゃ、簡潔に答えだけ・・・。 不動産の場合なら、判例は対抗問題として構成していますね。 あ、ここでいう対抗問題とは、177条の対抗問題として捉えているということです。 ですから、対抗要件としての登記を先に備えた方が勝つことになります。 質問に則して言うのであれば、第三者が、詐欺取消の表意者よりも、先に登記を備えれば保護されるという結論になりますね。 (177条適用説 大判昭和17年9月30日 百選T 51事件) ただ、この法的構成に対しては、94条2項類推適用という有力説もあるところですね。 動産の場合なら、192条適用説、178条適用説などがあります。 つまり、取消後に登場した第三者であっても、一定の要件を満たしている場合には、保護されることとなる、というのが結論です。 今は、これくらいでいいでしょうか? |
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クロちゃん、クロちゃん。 この論点は、定期試験に出ると思う? |
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私が出題するわけではないので、確約は出来ませんが、総則の範囲から外れる内容も多いので、出しにくいのではないでしょうか。 | ||
じゃあ、今はいらね! | ||
ふ、ふ、藤さんは、即物的な物の見方をされるんですね。 | ||
つかさちゃん、つかさちゃん。 濁点が抜けてるわよ? 俗物的な物の見方をしてんのよ、サルは! |
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私は、まだまだ勉強しないといけないです。 最近は体調もいいから、夏休みにはパワーアップ、レベルアップを図るです!! |
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ナカちゃん、十分頑張っているんだから、そんなに自分を追い込まなくってもいいと思うわよ? ちょっと、私も今日は96条3項の論点をメインに考えていたから、なんか中途半端な勉強会になっちゃったわね。 ゴメンね。 |
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あ、じゃあ時間あるんだし、ネージュ・ブロンシュに、ギモーヴ食べに行こうよ! ね? ね? |
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私は、食い意地張ってる、あんたとは違うから別にいらない。 | ||
・・・すぐ根に持つんだよなぁ。 |