権利能力の始期と終期について学んだから、次は、行為能力について勉強しましょ。 権利能力は、民法3条1項から、自然人であれば生まれさえすれば有するものだってことは理解できたわよね。 そこで、次に今回学ぶ「行為能力」(民法第2章)の話に入るわけ。 ただし、行為能力とはどのようなものかを把握する上で、その行為能力の前提となる「意思能力」について知る必要があるわ。 意思能力については、民法上の明文規定はないんだけど、すごく大事なところだから、ちゃんと理解してね。 なんだか、一杯色々な能力の名前でてきて混乱しちゃいそうって思ってる? ひとつずつ丁寧に抑えていけば大丈夫だから、心配しなくっていいわよ。 |
||
はい。 頑張ります。 |
||
意思能力の定義について、まず言うわね。 意思能力とは、自己の行為の結果を理解できる程度の判断能力(精神能力)をいうのよ。 一般には、意思能力は7歳〜10歳程度で有するとされるわね。 ただ、もちろん行う、行われる行為の種類によって違ってくるから、そこは要注意ね。 |
||
することによって、意思能力があるか、どうかは違うってことかぁ。 確かに、7歳でも、ブランコをド派手にこいだら怪我しちゃうかも・・・っていうのは、当然に理解できそうだけど、重要な書類に印鑑押したら、どうなるのか? なんてことはワカラナサそうだよね。 うんうん、ワカル、ワカル。 |
||
そうそう。そういうことね。 さて。 ここが大事なんだけど、意思能力のない者の行った法律行為は無効になるの(大判明治38年5月11日 百選T 5事件)。 民法の基本原則のひとつに私的自治の原則があることは学んだわよね。私的自治の原則からは自由な活動が認められるという反面として、自己の自由な活動によって他人に不当な損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければならないとする過失責任の原則(過失責任主義、自己責任の原則)があるって言ったよね。 でも、自己の行為の結果を理解できる程度の判断能力がない人に責任を負わせることはできないってことよね。 |
||
刑法で勉強した、未成年者には責任がなしって言うのと似てるね。 | ||
じゃあ、質問しちゃおっかな。 グデングデンに酔っぱらったサルが、私にPSP(プレイステーションポータブル)を譲ってくれたの。 PSPを私に譲ることは贈与契約という法律行為にあたるのよね。 この法律行為の無効を主張できるのは誰か? って質問よ。 |
||
ちょ、ちょ、絶対あげないよ! 返してよ、返してよ!! |
||
質問の中の話でしょ? 私、ゲームやらないからPSPなんていらないもん。 そんなこと言ってるんじゃなくって、無効の主張を出来るのは誰かを考えてよね! |
||
酔っぱらっていた藤先輩は、あの時は酔っぱらっていたんだから、あの譲渡は無効だよって言えないというのでは可哀相です。 | ||
なんか、みんな変な感情移入しちゃってる気がするから、反対の場合も考えてみてくれない? グデングデンに酔っぱらったサルに、私がPSP(プレイステーションポータブル)を100円で売ってあげたの。 PSPを売ることは売買契約という法律行為にあたるのよね。 この法律行為の無効を主張できるのは誰か? って質問を、今度は考えてみて? この場合、あたしが後から「あのとき、サル酔っぱらっていたんだから、あの法律行為は無効だよね?」ってPSPの売買契約の無効主張ができると思う? |
||
ダメ、ダメっ! そんなの認めないよ! 2台あったら、夢の通信対戦も出来るんだし、絶対返さないよ! |
||
うーん・・・ なにか藤先輩にだけ都合のいいようにも聞こえますが、だからと言って、酔っぱらってもいない明智先輩が、無効主張できるというのも違う気がします。 |
||
まぁ、そう考えるのが普通じゃないかな? サル、あんたも少しはナカちゃん見習って、真面目に考えてよね! この誰が無効を主張できるのか? という問題に対しては、 @絶対無効説 ・・・誰でも無効を主張できる A相対無効説 ・・・意思無能力者の側だけが、無効を主張できる という2説があるのよ。 Aの考えは、ナカちゃんが言ってたように弱者保護の思想からくるものなのよね。 相対無効説によれば、表意者保護(意思表示を行った者)の見地から、利益を受ける者だけが、この権利を有していれば足りるといえることから、意思無能力者の側だけが、無効主張できる、って考えるのよね。 現在の通説は、この相対無効説ね。 |
||
やったぁ! PSP2台目ゲットぉぉっ! ナカたん、一緒にモンハンで遊ぼっ! |
||
ないから! PSPは質問の中の話でしょ? ないから!! |
||
無効主張は弱者保護の思想からのものなんでしょ? それなら、表意者である、あたしにしか無効主張は認められないって考えるべきなんじゃないの? 言っておくけど、あたしは今の話、無効になんてしないよ? |
||
意思能力のない者が行った法律行為だったらね! って言うか、そもそも法律行為自体がないのに、なんの無効主張があるって言うのよ! いつまでも変な妄想にとりつかれてないで、次の論点の勉強をするわよ! 意思能力について理解できたと思うから、次は行為能力ね。 民法は、行為能力については、行為能力者制度として明文規定を定めているわ。 まず行為能力の定義を言うわね。 行為能力とは、1人で、確定的に有効な法律行為を行うことのできる能力をいうの。 この「確定的」ってところがポイントよ。 つまり、「一応」ではなくって「全く問題ではない」ってことなの。 そして、この行為能力をもたない者を、制限行為能力者というの。 でも、先に説明した意思能力があるならば、その他に行為能力なんて設ける必要はないようにも思えるわよね? だって、意思無能力だったら法律行為についても無効主張できるんだから、わざわざ民法に行為能力者制度なんて置かなくてもいいんじゃないの? って気がしちゃうわよね。 ただ、意思能力の有無は、外観からだけでは判断しづらいわ。また、逆に自分が意思無能力者であるということの証明も難しいわ。 例えば、さっきの質問で考えてみて。 サルの方からすれば、自分が酔っぱらっているかどうかの証明をすること・・・ また、私の方からすれば、相手が呑んでいるからといって、それがホロ酔いなのか、グデングデンの酩酊なのかの判定は、し難いわよね。 このような場面を想定して、意思無能力の保護、相手方の保護、この両者の観点からの要請の下、行為能力者制度は民法に置かれているのよ。 |
||
確かに。 契約したと思ったら、後から無効って話が、しょっちゅうあったら困るもんね。 |
||
それに、意思能力があるからと言って、そのことが直ちに様々な法律行為が行えることを意味するわけではないわよね。 サルが大学生1回生(18歳)だった頃を思い出してみて? 18歳なら、意思能力はもう十分にあったはずよね。 でも、まだまだ確定的な法律行為、例えば、大学合格後の下宿先との契約等をなすに、その判断を自分だけで出来たかしら? そういった場合に、高度な判断能力をもたない者を保護する制度も必要だと思わない? |
||
あぁ・・・懐かしい。 そう言えば、あたしが大学合格した時は、父ちゃん、母ちゃんが実家から出て来てくれて、色々助けてくれたなぁ。 もう4年も経つんだ・・・ |
||
この1人で、確定的に有効な法律行為を行うことのできる能力(行為能力)をもたない者を、制限行為能力者というって言ったよね。 意思無能力者の行った法律行為について、その無効を主張できるのは誰か? っていう問題に対しては、相対無効説が現在の通説だって説明したよね。 では、制限行為能力者の行った法律行為について、その法律行為が有効でないことを主張できるのは誰か? っていう問題も当然ありえるよね。 この点については、制限行為能力者本人と、その保護者が、その法律行為を取り消すことができるの。 ここで、意思無能力者の法律行為と、制限行為能力者の法律行為とでは、有効でない法律行為を、前者は無効とすることが、後者は取り消すことができるという違いがあるわ。 無効と取消の違いについては、また改めて説明するわね。 でも一応ここで、簡単にザックリ言っちゃうと、無効は、その法律行為が初めからなかったことにするってことで、取消は、一応有効に成立している法律行為を、後から初めに遡ってなかったことにすることよ。 |
||
こくこく(相槌) | ||
次に、制限行為能力者の法律行為が有効でないことを主張できるのは、いつまでか? って問題もあるわよね。 意思無能力者の場合は、いつまででも主張できる、とされているんだけど、制限行為能力者の場合は、追認できるときから5年、あるいは行為時から20年と、民法上の明文規定があるわ。 六法で、民法126条を見てくれる? |
||
民法第126条は・・・。 『(取消権の期間の制限) 第126条 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。』 |
||
この5年間というのは時効期間。 そして、後段にある20年という期間は除斥期間なの。 時効には、中断・停止があるけれど、除斥にはないからね。 その違いについては、抑えておいてね。 「追認」っていうのは、ある行為を事後的に認めることね。 |
||
あ、でも明智先輩。 意思無能力者であり、かつ制限行為能力者である場合もあると思うんです・・・ |
||
ん? それって、どんな場合? |
||
例えば、5歳ぐらいの子供とか・・・ (※ 意思能力は一般に7歳とされるから欠いており、1人で確定的に有効な法律行為をする行為能力も持たないため制限行為能力者) あと、最初の明智先輩の質問にあった酔っぱらった藤先輩が、大学1回生だったら、そうなるんじゃないですか? (※ 泥酔による酩酊状態なので意思能力を欠き、18歳の大学1回生は未成年なので、行為能力を有さない制限行為能力者といえる) |
||
未成年者の飲酒は、未成年者飲酒禁止法があるから、そもそもダメなんだけどね・・・ただ、想定される場面ではあるといえるわよね。 ん? ナカちゃんの質問は、それでナニ? |
||
あ、すみません。 私が聞きたかったのは、意思無能力者であり、かつ制限行為能力者である場合、無効も取消も主張できることとなるじゃないですか。 この場合、ドッチが主張できるんですか? |
||
無効と取消の二重効の問題ね。 この論点は、詐欺と錯誤のところでも同じような議論があるわ。 いい質問よ、ナカちゃん! 通説は、二重効肯定説ね。 つまり、無効と取消の両方の主張ができるという場合には、いずれを主張してもよく、そのいずれにするかは当事者の選択に委ねてよい、と考えるの(二重効肯定説による結論)。 いずれの要件も充たしているんだから、当事者に、その選択を認めるべきと言えるし、取消と無効とでは、先の説明で見たように、いつまででも出来る無効の方が有利という違いもあるために、取消の主張しか出来ないとしてしまうことは、制限行為能力者にとっては不利だからね。 そして、この無効の主張も、相対無効説の立場に立って、意思無能力の側だけしか主張できないと考えれば、制限能力者の保護という制限行為能力者制度の趣旨にも反しないものといえるわ。 |
||
PSPが2台あるんだから、好きな方使えばいいじゃん! ってことだよね? |
||
全然違います!! 同じ物が2つあるわけじゃないでしょ!? 取消と無効とでは違うって説明したじゃないの! ナニ、その全く意味のない例えは? っていうか、あんたいつまでPSPを引き摺ってるのよ!! |
||
アレ? 結構うまいこと例えたつもりだったのに・・・ |
||
そんな例えが出てくる時点で、あんたが全く理解出来ていないのが丸わかりよ! サル! あんた、明日PSP学校に持ってきなさいよ! 暫く、私が預かってあげるから! |
||
ヤダよ・・・ そう言って、光ちゃん、あたしのPSPで遊ぶつもりなんでしょ? |
||
私はゲームはしないって言ってるじゃないの! あんたが家に帰ったら復習するようにPSPを私が取り上げるって意味よ! |
||
・・・もう1台貰えるどころか、あたしの唯一の娯楽の1台さえ奪われようとしている・・・ 実家に帰省したときに、地元商店街の福引で当てた宝物なのに・・・ |
||
私も別に取り上げることが目的ではないから、サルが一生懸命頑張るなら、そんなことはしたくないのよ? | ||
じゃあじゃあ。 今日のところは、しっかり復習して、次回はちゃんと理解できるようにするから、それまで待っててよ! |
||
そうねぇ。 それならサルにも、名誉挽回・・・違うわね、PSP奪還のチャンスを上げなくはないわよ。 |
||
ありがと、光ちゃん! あたしガンバルからね! |
||
(まぁ、どうせ、こんなやり取り、覚えちゃいねぇーと思うし。 適当に合わせとけば大丈夫、大丈夫。) |
||
・・・・。 (おかしいです・・・ 藤先輩から、全然やる気のオーラが感じられないです・・・) |