今日の勉強会からは、債務不履行に基づく損害賠償請求権について学ぶことにするわね。 債務不履行に基づく損害賠償請求権については、民法415条が規定しているわ。 早速見てみましょうか。 |
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民法第415条 (債務不履行による損害賠償) 『債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。』 |
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損害賠償請求権の要件は、次の2要件ね。 @『債務の本旨に従った履行』がされないこと A『債務者の責めに帰すべき事由』(=帰責事由)があること 先ずは、この2要件を、しっかり押えておいてね。 |
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こくこく(相づち)。 |
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次に、この損害賠償請求権の主張・立証責任についてだけれど 要件@『債務の本旨に従った履行』がされないこと についての主張・立証責任は、債権者が負うわ。 要件A『債務者の責めに帰すべき事由』(=帰責事由)が「ない」こと(=免責事由があること) についての主張・立証責任は、債務者が負うわ。 まだ勉強していないことではあるけれど、もともと関係のなかった人に対して、損害賠償請求をする不法行為(例えば、交通事故。参照債権総論第4回勉強会)においては、加害者の故意・過失の立証責任は被害者にあるわ(民法709条)。 これに対して、債務不履行においては、契約に基づく債権債務関係があり、債務者は履行しなければならない立場にあるため、債権者が不履行の事実を証明すると、責任を免れるためには、債務者の方で、自分に帰責事由が「ない」ことを証明しなければならなくなるわけね。 |
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要件事実論で学ぶ法律要件分類説という考え方があります。 えーっと、法律要件分類説とは、自己に有利な法律効果の発生を主張する者は、その要件に該当する事実についての証明責任を負う、という考え方なのですが・・・。 この考え方に従えば、そもそも債務者は契約に基づく義務を負っているわけですから、契約の目的物を渡していないのに損害賠償義務を免れる、という利益を受ける債務者には挙証責任がある、ということになるわけですね。 |
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そういうことになるわね。 もう少し、この点を詳細に述べると・・・。 債務不履行に基づく損害賠償請求権が認められるための要件と、主張・立証責任の分配は、次のように整理されるわ。 @債権の発生原因(債務が成立していること) A債務不履行の事実(本旨不履行。履行不能を含む) B損害の発生 C債務不履行と損害との間の因果関係 以上、@〜Cの4つの事実については、債権者が、主張・立証責任を負うわ。 そして D債務を履行しないことにつき、債務者に帰責事由が存在すること というDの事実については、帰責事由の存しないこと(=免責事由のあること)について、債務者が、主張・立証責任を負うわね。 |
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責任能力が必要かどうか・・・については争いがありますね。 この点、通説は、債務不履行の要件の一つとして、債務者の責任能力を要求しますね(必要説)。 |
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成程、成程。 ザックリ言ってまえば、 「お前、債務果たしてないやないか!」 ってことを債権者が主張・立証したら 「違うもん! 債務果たさなかったのには理由があるんだもん!」 ってことを債務者が主張・立証しないとダメってことだね。 |
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まぁ、そういうことね。 債権は、履行遅滞・履行不能になっても、その債権自体の価値は変わらないわ。 これを「履行債権の損害賠償債権への(価値的同一性を保った)転化」と呼ぶわね。 「転化」という言葉については、既に説明したはずだから、ここでの説明は割愛するけどね。 |
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今の光ちゃんの説明を図で示しますと、下の図のようになりますね。 損害賠償請求権と言われますと、つい填補賠償を思いがちなんですが、遅延賠償であっても同じことが言えます。 つまり、遅延賠償においても、「遅延」自体が本来的債務の価値を減じること(=損害)であるため、遅延履行(遅れた履行)と合体することによって、本来的債権と「価値的同一性」を保つことになるからですね。 |
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ふむふむ。 遅延履行によって価値が減少した部分については、遅延賠償することで、元々の履行債権との価値的同一性が保たれるってことだね。 |
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そういうことですね。 | ||
さて。 ソレじゃ、ここからは損害賠償請求権の2要件の中身を見ていくわね。 @『債務の本旨に従った履行』がされないこと A『債務者の責めに帰すべき事由』(=帰責事由)があること という2要件があったわよね。 要件@『債務の本旨に従った履行』がされないこと つまりは、本旨不履行(民法415条)だけれど、この中身である履行遅滞・履行不能・不完全履行の3つの類型は既に勉強したから、ここでは説明は要らないわよね。 |
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・・・いつ、やったんだお。 | ||
木下さんは無視して・・・。 要件A『債務者の責めに帰すべき事由』(=帰責事由)があること (あるいは免責事由のないこと) については、ジックリ学ぶ必要があるわね。 先ず、ここに「債務者の帰責事由」とは「債務者の故意・過失および信義則上これと同視すべき事由」をいうわ。 「故意」とは、債務不履行となることを知っていること。 「過失」とは、一般に要求される注意を欠いたために、債務不履行となることを認識しないこと(結果回避の行為義務違反)をいうわ。 |
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この債務者の帰責事由である「故意・過失」の問われ方は、債務の種類によって異なりますね。 | ||
そうなのよね。 例えば、結果債務の場合なら明確だけれど、手段債務の場合だと不明確と言えるわ。 |
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どうして、そうなるですか? | ||
それぞれの債務の内容を考えてみれば、自ずと答えは出ると思うわ。 | ||
ふえっ? ・・・えーっと、結果債務は、特定の結果の実現に向けられた債務(=例えば、一定の期日に特定物を引き渡す債務)だったですよね? ・・・ソレで、ソレで、手段債務は・・・ |
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あ、手段債務って、例のクロちゃんがお医者さんで、あたしが患者さんだったって話の債務か! はいはいはい!! 結果債務には、結果実現保証があったけど、手段債務は、債務者として合理的な注意を尽くすことが債務の内容であって、結果実現保証まではないんだったよね。 だから・・・だから・・・だからナニ? |
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あうあうあうあう。 せっかくまとまりそうだったのに、藤先輩が横から色々言ってきたから、全部どこかに行ってしまったです!! |
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サルは、横からチャチャ入れるなら最後まで、まとめてからにしなさいよ。 うーん、でも2人の考えは、ほぼ答えに近かったと思うわ。 結果債務は、ナカちゃんのいうような債務をいうわけなんだから、結果が不達成なら、即、帰責事由(=故意・過失)が、事実上推定されることとなるわ。 つまり、債務者が、債務不履行責任を免れるためには、自身の無過失を主張・立証する必要があるって話になるわけね。 これに対して、サルが言ってくれた、つかさちゃんがお医者さんだった事案における、医師つかさちゃんの患者サルに負う債務は、手段債務だったわよね。 手段債務とは、結果の実現そのものではなく、それに至るまで注意深く最善を尽くして行為することを内容とする債務をいうわ。 だから、医師としての最善を尽くしたと言えるのであれば、風邪が治らなかったとしても債務不履行にはならないって話だったわけよね。 |
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だおだお。 そういう話だったお。 |
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極端な話をすれば、医者の診療債務においては、治療にもかかわらず、患者の病気が回復せずに死亡という結果になったとしても、それが当然に債務不履行になるわけではないわけ。 | ||
成程ねぇ。 医者としての最善を尽くしたのであれば、たとえ死亡したとしても債務不履行にはならないわけね・・・。 |
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そうね。 まぁ、手段債務一般の話に戻ると、手段債務においては、債務の内容(=ナニが債務であるか)は、当然には明らかではなく、契約の解釈により「債務者のなすべきこと」が、まず認定されなければならないわ。 つまり、債務者は、いかなる内容の債務を負っているのか、そして、どの程度の行為をすれば要求された債務を履行したことになるのか(「債務者のなすべきこと」=「債務の内容」)を特定し、それと、債務者の現実の行為との間に食い違いがある場合に、帰責事由がある、ということになるわけ。 |
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成程、成程。 非常に勉強になるねぇ。 メモメモ。 |
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・・・。 (ふ、ふ、藤先輩が自分からメモを取っている姿を初めて目の当たりにしたです! こ、こ、これは天変地異の前触れかも知れないです!) |
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「故意・過失」の問われ方は、債務の種類によって異なるわけですが、債務者の免責事由となるものを押さえておけばいいと思いますよ。 債務者の免責事由、つまり、債務者の「故意・過失」が認められない場合は、次の3つとされています。 1)債務者の無過失(過失がなかったこと) 2)不可抗力 3)債権者に帰責性があること(債権者の圧倒的な過失) |
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債権者の圧倒的な過失って、どういうことかなぁ? | ||
まぁ、簡単な事例を挙げるなら・・・。 私がチイちゃんに、このボールペンを売りますって契約があったとして。 私が引き渡すために、ボールペンの箱を用意している間に、チイちゃん(債権者)が、勝手にボールペンを触って真っ二つに折ってしまったとしたら・・・って話を考えてみて欲しいわね。 この場合に、チイちゃんは、私に対して、損害賠償請求が出来るのか? ってことよね。 |
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折れたボールペンじゃ、もうボールペンとは言えないよねぇ。 つまり、履行不能だよねぇ。 でも、この履行不能になったのは、チイ(債権者)のせいだよねぇ。 そう考えると、チイが自分で履行できなくしておいて、履行不能に基づく損害賠償請求をすることは出来ない・・・よねぇ。 |
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債務不履行について、債権者の側に、圧倒的な過失があるときは、損害賠償責任の成立そのものが否定されるんですよね。 今の光ちゃんの事例ですと、債権者のチイちゃんの責めに帰すべき事由(過失)によって、結果債務の履行が不能になっているわけですから、光ちゃん(債務者)には、損害賠償責任は生じないという帰結になるかと。 |
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そうね。 ちょっと民法418条を見てもらっていいかしら? |
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民法第418条 (過失相殺) 『債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。』 |
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過失相殺について規定する民法418条は、その文言からして、今の事例のような場合において、賠償責任そのものが否定される場合があることを想定しているといえるわ。 ちょっと極端な事例だったけれど、債務者の免責事由となる、債権者の帰責性って話になると、こんな事例になっちゃうわよね。 |
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ま、まぁ、そうですよね。 | ||
債権者をチイにするんだったら、ボールペンをカジって食べてまった・・・とかにすれば、えがったんやないの? | ||
やめてよぉ、オネーちゃんっ! チイも最近は、カジってないよぉ! |
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奨学金生活のあたしの脛はカジっているけどね(どやっ!)。 | ||
そっかぁ。 言われてみれば、サルは、奨学金でチイちゃんと暮らしているんだもんね。 よーし、ソレじゃ今日は、みんなでお食事に行きましょうか。 食べたい物があるなら言ってくれれば、極力リクエストに応えるつもりよ? |
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え? え? ホントに、ホントに? ソレじゃぁね、チイは、お寿司と焼肉と、ラーメンと、ケーキと、ハンバーグと、ピザと焼きそばと、トンカツと、お刺身と、アイスクリームとポテトフライと、うどんと餃子とスパゲッティ―のミートソース・・・ |
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・・・そ、そんなに食べれるわけが・・・ | ||
あるのよね・・・チイちゃんは食べれちゃうのよね。 | ||
あ・・そうでしたよね。 チイちゃんは・・・。 |
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はらぺこモンスターだからね。 | ||
・・・いやいやいや、今、チイが列挙した程度のメニューだったら、あたしだって食べれっから!! | ||
・・・なんて無意味な対抗意識を見せているですか。 |