最判昭和54年1月25日
あ・・・この事案も登場人物が5人居るみたいね。
じゃあ、判例検討の配役からね。

問題となった建物に関係して・・・
建物建築依頼人
を、つかさちゃん

最初の建築請負業者を、サル
そのサルの下請け業者をナカちゃん

次に建築を請け負った業者を私


ナカちゃんの相続人をチイちゃん

に、それぞれ御願いするわね。
登場人物多いから事案は複雑かも知れないけれど、頑張って再現しましょ。

建物建築依頼人
そろそろ持ち家が欲しいですね。
信頼できる請負業者の方に、私の家の建築を依頼したいのですけど・・・。 

建物建築依頼人
あ、この業者の方がよさそうです。
えーっと、私の家の建築を622万円で請け負って貰えませんか
請負代金622万円っ!
うん、やるお、やるおっ! なーに、任せておけおっ!
請負契約 代金622万円

建築請負業者A

建築請負業者A
まぁ、とは言え、実際に仕事するのは殆ど、チビッ子なんだおね。
ちょっと、ナカたん、ナカたん。
ちょっとこの建物工事のうち、整地と、基礎工事と、側溝・排水工事と、土間コンクリート打工事と、大工・左官・屋根葺・・・あとついでにタイル工事、金物工事なんかを御願いしちゃっていいかな? 
殆ど全部じゃないですか・・・です!
でも、お仕事は欲しいから請け負うです!
代金は幾ら頂けるですか? です!

建築下請け業者

建築請負業者A
まぁ、最近はドコも景気悪いみたいでさぁ。
代金は380万円で、やって欲しいんだけど、いいよね? 
ワカッタです!
代金のお支払い方法については、かくかくしかじかです!

建築下請け業者

建築請負業者A
ふむふむ、まるまるうまうま。
うん、コレで契約成立だね、あとは任せたからね! 
下請契約 代金380万円
さて、それじゃガンバるです!
引き受けた仕事ですから、立派な建物を作るです!
(トンカン、トンカンっ!!) 

建築下請け業者
あぁー、もしもし。
建物の建築工事に着手したわけなんで、支払代金について幾らか分割で支払ってもらってもいいよね?

建築請負業者A

建物建築依頼人
ええ、もちろんです。
それではお受取下さい
分割支払 合計213万円
 
工事には、色々材料費もかかるです!
でも、そろそろ私に下請けの仕事を廻した建設業の人から代金の振込みがあるはずです!
そのお金をあてて、工事を続けるです!

建築下請け業者 
・・・アレ? です!
あの業者の方から頂いた小切手等は、全て不渡りになっているです!
これでは、お金が受け取れないです!
これで、どうやって工事を続けろって言うです!
工事中止 
 棟上、屋根下地板張り終え完了。屋根瓦、荒壁なし。) 

建築下請け業者 

建物建築依頼人
あのぉ・・・申し訳ないんですけれど、私の家は、いつ完成するのでしょうか?
工事が途中でストップしているようなのですが・・・。 
  あたしもワカンナイ。
下請け業者がサボっているみたいだお。

建築請負業者A

建物建築依頼人
正直、私も早く持ち家が欲しいものですから、このまま工事の再開の目処も立たないというのでは困るんですよね。
それでは、あなたとの請負契約は解除して、いいでしょうか? 
  うん、ワカッタ
合意解除

建築請負業者A 

建物建築依頼人
仕方ないので、他の建築業者の方に、続きを御願いしないといけないですね。
えーっと、他に信用できそうな方は・・・
あ、すみません、ちょっと、よろしいでしょうか? 
え? 家を建てて欲しい?
それなら、最初っから私に任せておけば、よかったのに。
いいわ、立派な家を建ててあげるから任せておいてっ!
請負契約

建築請負業者B
あうあうあうあうです!
仕事の続きをしようというのに、一向に、代金が支払ってもらえないです!
約束したです!
私へのお金を早く支払って欲しいです! 

建築下請け業者 

建築請負業者A
え? お金?
いやぁ、そう言われてもさぁ。
ないものは払えないよね。まぁ、仕方ない話だよねぇ。 
話が違うです!
もういいです!
あなたとの契約は解除するです!
代金不払いを理由に下請契約解除) 

建築下請け業者  
流石、私っ! 見事な建物が完成したわっ!
僅か2ヶ月にも満たない工期で、これだけの家を建てたのは、流石は私の一言に尽きるわね!
こう言ってはなんだけど、私の工事によって、工事途中で放棄されていた建築途中の状態からは、建物の価値も何倍にも跳ね上がったわねっ! 

建築請負業者B

建物建築依頼人
え? 私の家が完成したのですかっ!?
うわぁー、ありがとうございます!
こんな立派な家を・・・本当にありがとうございました! 
いいえ、どういたしまして。
はい、それじゃ、コチラが完成した建物です。
引渡し完了

建築請負業者B
ちょっと待つです!
その建物は、私が途中まで建てた物です!
工事中だったとは言え、既に、その建物は独立した不動産だったはずです!
そうであるならば、その建物の所有権は建築した私にあるです!
そして、その建物に、私の了解なく、勝手に動産を附属したのであれば、その動産の所有権は、私の建物の所有権に吸収242条付合されるから、その建物の所有権は私に帰属してるです! 

もし仮に独立した不動産でなかったとしても、明智先輩の業者が、屋根を葺き、荒壁を作った段階で、独立の不動産となっているはずです!
その場合、その建物の主たる部分は、私の材料動産)で出来ているです!
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する』はずです!(243条動産の付合
だから、その後の明智先輩の工事は、独立した建物(不動産)への動産の付合242条付合)ですから、やっぱり建物の所有権は私に帰属してるです!

建築下請け業者  

建物建築依頼人
えええっ!?
そ、そ、そんな、私にどうしろと言われるのですか? 
建物の所有権は私にあるのですから、あなたは私の家を不法占拠しているです!
だから私に建物を明渡して、出て行くです
そして、完成から、これまでの期間、勝手に私の家に住んでいたですから、その間の賃料についても損害賠償請求するです!
私は、あなたを訴えるです!
本訴提起

建築下請け業者   

建物建築依頼人
これは困ったことになってしまいました・・・。 
あ・・・っと思っていたら、どうやら寿命のよう・・・です!
わ、私の建物の所有権と、あの建物を不法占拠していた人への損害賠償請求権については、妻に全て相続してもらうです!
こ・・・これが遺言です! 
死亡

建築下請け業者   
ワカッタよっ!
ナカちゃんの遺言通り、妻のチイが単独相続するよ!
そして、ナカちゃんの訴訟は、チイが継続するからね! 

建築下請け業者の相続人
   





 
お疲れ様ぁ。
みんな頑張ってくれたわね。
久し振りに、やり甲斐のある役を頂けて、私も楽しかったです。
チイの役・・・最後に一言あっただけだよ・・・。
いらなかったような気がするよ・・・。
でも、チイちゃんが、本件訴訟の原告だからねぇ。
訴える人がいないのなら、そもそも裁判にならないからねぇ。
ちょっと省略しづらかったのよねぇ。
でも、配役は少し失敗だったかも・・・と思うかな。
チイちゃん、人一倍判例検討楽しみにしているものね。ゴメンね。
しかしまぁ、チビッ子1号、2号にも困ったものだお。
まさかクロちゃんの家に、いちゃもんとは・・・恐ろしい、恐ろしい。
この事案では、藤先輩の業者の人が悪いです!
仕事の大部分を私にさせておきながら、頂いたお金も私に支払ってくれないし、工事に費やした材料費は、全部私の持ち出しなんですから、藤先輩がお金を支払ってくれない以上、私としては、あの主張をする他なかったです!、
うひゃぁ。噛み付くねぇ~。
でも、ナカたんの主張は、どうなのかなぁ?

民法総則でも、やったから憶えてるんだけど。
 民法総則23回勉強会参照)

建築中の建物が、独立の不動産となるのは、どの段階か?
って論点があったよね。

たしか判例は、木材を組み立てて、屋根を葺いただけでは建物とはいえない大判大正15年2月22日)が、独立に風雨をしのげる程度、すなわち、まだ床・天井を備えていなくても、屋根を葺き、荒壁をつけた段階をもって、独立の不動産となるとしてるって聴いたよ。
大判昭和10年10月1日 百選Ⅰ 6版12事件 7版11事件)。 

ってことは、ナカたんの工事途中で工事中止した状態は、棟上、屋根下地板張り終えは完了しているけど、屋根瓦、荒壁はなしって状態なんでしょ?
ってことは、まだコレは独立の不動産とは言えないってことになるよね。
1つ目の主張は無理筋だよねぇ。
役柄が、私に迷惑をかけた業者の方の役だっただけに、その正論が無性に許せないですっ!
でも、私の主張は、その1つじゃないですっ!!
チイもナカちゃんに勝たせてあげたいよ・・・
ふえ?
勝たせてあげたい・・・って言うことは・・・。
アレアレアレぇ~。
なんだか雲行きが怪しくなってきましたよぉ?
あんた、ナニ目線で判例検討してんのよ!
えーっと、事案の争点を、まとめるわね。

さっき珍しくサルが、判例を出してくれてまで言ってくれたように、ナカちゃんの下請け業者が工事途中で放棄した建築段階の建物については、独立の不動産としては認められないわ。

だから、ナカちゃんの主張の1つ目は、ちょっと無理筋よね。
では2つ目はどうかしら。

そして、本件では2番目の請負業者である私の工事によって、工事途中で放棄されていた建築途中の状態からは、建物の価値も何倍にも跳ね上がっているんだけれど、この点については、どう考えるべきなのかしら。

これらの点について考えて欲しいわけなんだけど・・・。
争点としては、次のものとなるかしらね。

独立の不動産に至らない段階で、先の請負人が工事を中止し、その後、次の請負人が材料を出して建物工事を完成させた場合、その建物の所有権は、誰に帰属するのか

という問題ね。
・・・。
(結論を知っているだけに、竹中さんの落胆が想像できてしまうのが辛いところですね。
 竹中さんは、この判例については知らなかったみたいだったから、配役を私は代わるべきだったなぁ。)
それじゃ、最高裁の判断を見てみましょうか。
 一部事案再現の中での言葉に置換してあります。)

判決文の中にある(1)(4)は、事実認定の部分だから読み飛ばしてくれても、ソレほど問題はないわ。
長いと思うなら、そうしてくれていいからね。

建物の建築工事請負人が建築途上において未だ独立の不動産に至らない建前を築造したままの状態で放置していたのに、第三者がこれに材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合においての右建物の所有権が何びとに帰属するかは民法243条の規定によるのではなく、むしろ同法246条2項の規定に基づいて決定すべきものと解する。

 けだし、このような場合には、動産に動産を単純に附合させるだけでそこに施される工作の価値を無視してもよい場合とは異なり、右
建物の建築のように、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当であるからである。


 これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、

(1) 上告人の被相続人は、被上告人から本件建物の建築工事を請け負つた建設株式会社から昭和40年6月16日さらに右工事の下請けをして建築に着手し、同年7月15日ごろには棟上げを終え、屋根下地板を張り終えたが、同建設会社が約定の請負報酬を支払わなかつたため、その後は屋根瓦も葺かず、荒壁も塗らず、工事を中止したまま放置した、

(2) そこで、被上告人は、同建設との請負契約を合意解除し、同年10月15日、別の建設工業株式会社に対し、工事進行に伴い建築中の建物の所有権は被上告人の所有に帰する旨の特約を付して、右建築の続行工事を請け負わせた、

(3) その別の建設会社は、右請負契約に従い自らの材料を供して工事を行い、建設に対する仮処分の執行により工事の続行が差し止められた同年11月19日までに、右建前に屋根を葺き、内部荒壁を塗り上げ、外壁もモルタルセメント仕上げに必要な下地板をすべて張り終えたほか、床を張り、電気、ガス、水道の配線、配管工事全部及び廊下の一部コンクリート打ちを済ませ、未完成ながら独立の不動産である建物とした、

(4) 右未完成の建物の価格は少なく見積つても418万円であるのに対し、ナカちゃんが建築した前記建前のそれは多く見積つても90万円を超えるものではなかつたというのである。


 右事実によれば、別の建設会社が行つた工事は、単なる修繕というべきものではなく、ナカちゃんが建築した建前に工作を加えて新たな不動産である本件建物を製造したものということができる。

 ところで、右の場合において
民法246条2項の規定に基づき所有権の帰属を決定するにあたつては、前記別の建設会社の工事によりナカちゃんが建築した建前が法律上独立の不動産である建物としての要件を具備するにいたつた時点における状態に基づいてではなく、前記昭和40年11月19日までに仕上げられた状態に基づいて、別の建設会社が施した工事及び材料の価格と、ナカちゃんが建築した建前のそれとを比較してこれをすべきものと解されるところ、右両者を比較すると前記のように前者が後者を遥かに超えるのであるから、本件建物の所有権は、ナカちゃんにではなく、加工者である別の建設会社に帰属するものというべきである。

 そして、別の建設会社と被上告人との間には、前記のように所有権の帰属に関する特約が存するのであるから、右特約により、本件建物の所有権は、結局被上告人に帰属するものといわなければならない。


と、しているわね。
なんということでしょう!!
匠の粋な計らい』で建築途中で請負人が代わった建物の所有権の帰属は、チビッ子の主張する付合の理論ではなく、加工の理論によって決すべき問題のようです!
ぐぬぬぬぬぬぬぬっ!!
ナニ『大改造!! 劇的ビフォーアフター』を真似してくれているですか!
すっごく許せないですっ!!
あんた、いいまとめをしてくれているのに、そんな言い方したら台無しじゃないのよっ!

ナカちゃんの2つ目の主張は、ソレなりに説得力があると思うわ。

でも建物の建築工事においては、未完成の建物では意味がないわけよね。
独立した建物と言えて、初めて建物としての用をなす物となるわけよね。
そうであるならば、完成までの行程を全体として捉えるべきと言えるわ。

判例が述べている
建物の建築のように、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当
という考え方は、建築工事の実態に則したものといえるわ。

加工については、前々回の勉強会で勉強したから、ここでの説明は割愛するわね。
ナカちゃん、残念だったね・・・。
チイも、ナカちゃんの相続人として訴訟に携わった役だったから、ナカちゃんの気持ちも少しはワカルよ。
なんだか、実際に藤先輩にやられたような気分です・・・。
まぁまぁ。
それだけ印象深い判例検討になったんだったら、あたしが敢えてイヤな奴の振りをした甲斐もあったってもんだよね。
ふ、藤さんっ!!
実は私も、ちょっと今日の藤さんは竹中さんに意地悪じゃないかしら・・・なんて思ってしまっていました。
でも、やっぱり、そうだったんですねっ!!
藤さんには、そういった深いお考えがあったんですよね!!
・・・絶対ナイと思う・・・。
・・・私は、もう断言してもいいと思います。明智先輩。
ウキッ!

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