譲渡担保とは

ソレじゃ、今日の勉強会からは、いよいよ民法物権法、最後の砦。
譲渡担保について学ぶことにするわね。
すっごく質のいい担保のことだおね。
え? 急に何の話?  
  上等担保(譲渡担保)。
・・・。  
アハハハハハ。
流石、藤さんです!
今日も冴え渡っていますね!
・・・。

(口に出して言うことさえ、一般の人なら躊躇うレベルの洒落です。)
はいはい。
ノッケから脱線しないでよね!

譲渡担保というのは、法的には所有権移転の形式をとりながら、実質において、債権担保の効果を持たせようとする非典型担保をいうわ。

何度も話しているけれど、一応、ここでも例を挙げて説明することにするわね。
例えば、チイちゃんが工場を経営する経営者だったとして・・・。
工場の運転資金として、ナカちゃんから1000万円の融資を受けるにあたり、チイちゃんの工場にある時価1000万円相当の機械の所有権を、一旦、ナカちゃんに移して・・・。
チイちゃんが、期限までに融資された1000万円を返還すれば、その機械の所有権を、ナカちゃんから戻してもらえるけれど、弁済できないときには、チイちゃんはナカちゃんから、その機械を最早返してもらえない(=その機械の所有権を確定的に失う)というような契約が、譲渡担保契約になるわ。
大事なことは、この場合において、機械の占有は必ずしも現実に、ナカちゃんに移転する必要はないってことよね。

占有改定 動産物権変動①勉強会参照)の方法による引渡しでもいいし、形式的には、ナカちゃんに所有権の移転した機械を、チイちゃんがもう一度、ナカちゃんから借りる、という形にすることもできるわ。

このような方法をとることで、チイちゃんは、引き続き、機械の使用を継続でき、工場を操業し続けることができるわけね。
うんうん。
質権だと、必ず質物の占有を債権者に移転しなければならないから、こうは、いかないもんね(344条、345条参照 質権①勉強会参照)。
ソレに、機械は動産だから、抵当権を設定することもできないしね(369条)。
さらに付け加えるなら、質権ですと、お金を借りた債務者
事案でいうところのチイちゃんが弁済をしないときは、債権者の竹中さんは、機械を競売にかけなければならないことになりますよね。
競売に代えて、竹中さんが機械の所有権を得る、といった特約も許されないですからね(流質の禁止349条)。

ただ、競売手続は煩雑なものですから、竹中さんとしても出来れば、これは避けたいと思われるところですよね。
その点、譲渡担保なら、このような制約もないんですよね。
流石、上等担保。
その名に恥じない便利さだお!!
はい! ソコは変な名前をつけないのっ!!
間違って憶えたら、どうするのよ!

今は利点ばかりを挙げてくれたわけだけど、一方、譲渡担保には問題もあるわ。

その最大のものとしては、法形式としての所有権移転と、実質としての債権担保ということのズレになるわ。
今日の勉強会では、この譲渡担保の問題について学ぶことにするわね。
  こくこく(相づち)。
さっきの事案の金額を、少し変えて考えてみることにしましょうか。

例えば、チイちゃんの担保にした機械の時価が1500万円だったとしたら・・・ってことにしてみるわね。

この場合、1000万円の債権のために、チイちゃんが1500万円の機械を丸ごと取られてしまう、というのでは、チイちゃんにとっても酷な話になるわよね。
もっとも、債権者であるナカちゃんにしてみれば、コレは好都合といえるわけよね。
多少、ウマ味がなくっちゃやってられないお!
コッチも慈善事業でやってんじゃないんだお!
あたしが債権者なら、ソレが嫌ならお金を貸さないって言ってやんお!
・・・サルは、ホントに・・・。

でもまぁ、サルの言い分はともかくとして、通常、金銭貸借においては貸す方が、借りる方より強い立場をもっていることが多いわけよね。

だから、1500万円の機械を担保とした1000万円の融資といった譲渡担保を野放しで認めてしまうと、弱い立場にある債務者を甚だしく害する契約が横行しかねないことになってしまうわよね。
そうだよねぇ。
だって、事案のチイもお金を貸して欲しいって思っているんだから、多少不利な契約内容でも、弁済さえ出来れば問題ないって思って、お金が借りれるのなら契約しちゃいそうだもんねぇ。
そうよね。
ただ、譲渡担保においては、次のような問題も起こりえるわ。

今、チイちゃんが言ってくれたように、本来であれば、期限までに借りたお金を返せば、チイちゃんの機械は、チイちゃんの元に戻るはずなんだけれど、チイちゃんが弁済するまでの間に、ナカちゃんが、その機械を第三者(例えば、サル)に売却してしまっていたら、どうなるのか・・・って問題よね。

このような問題を、どう考えるべきか、ということから、譲渡担保の法的性質が問題になるわけね。
譲渡担保というのは、法的には所有権移転の形式をとりながら、実質において、債権担保の効果を持たせようとする非典型担保でしたよね。

法的には、所有権移転の形式があるという形式面を重視するのか、それとも、債権担保の効果を持たせる目的という実質面を重視するのか、で譲渡担保の法的性質の捉え方が異なってくるんです。
そうね。

譲渡担保の法的性質の考え方としては、大きく次のつになるわ。

①所有権的構成
②担保権的構成
③折衷的構成


説ね。

それぞれの考え方を概説しておくわね。

①所有権的構成とは、譲渡担保設定契約時に、所有権が譲渡担保権者に移転するという考え方ね。
この所有権的構成は、さっき、つかさちゃんが言ってくれたように、譲渡担保契約では、契約成立時に債権者に所有権が移転するという形式面を重視しているわけね。
因みに、判例は、この所有権的構成をとっていると解されているわね(大連判大正13年12月24日)。

この考え方に対して、債権担保を目的とする実質面を重視するのが②担保権的構成になるわ。
この説によれば、所有権は設定者に存し、債権者は担保権を有するに過ぎない、と説かれるわ。
この考え方に立てば、譲渡担保設定契約時には、譲渡担保権者には所有権は移転せず、私的実行によって初めて、所有権が譲渡担保権者に移転するってことになるわね。

そして、③折衷的構成というのは、所有権移転という形式面と、担保目的という実質面の双方を考慮する考え方になるわ。
この考え方に立てば、譲渡担保設定契約時に、目的物の所有権は設定者から譲渡担保権者に移転するものの、この所有権移転は、譲渡担保権者の有する被担保債権を担保することを目的としてなされるものであるから、譲渡担保権者の所有権は担保的な制約を受けることになるわ。
この考え方からは、設定者の元に、何らかの物権的地位が留保されている、とされるわね。
この考え方に立つものかは不明なものの、譲渡担保設定者は、被担保債権の弁済をすれば目的物の完全な所有権を回復することができることから、目的物の不法占拠者に対して、その返還請求を認めた判例もあるわね(最判昭和57年9月28日)。
この譲渡担保の法的性質を、どのように考えるか、ということは、対第三者との関係においては、結論が大きく変わってくるものですから重要ですよね。
因みに私は、所有権的構成で抑えているんですけれどね。
私も所有権的構成かなぁ。
説明が簡便って理由が大きいんだけれどね。
・・・なんか説明ばっかで、よくワカラんかった。
まぁ、も少し勉強すればワカルようなるよね、多分。

 譲渡担保の法的性質については、需要が多ければ補講の形で踏み込んでの検討を設けたいと思います。)
そうね。

譲渡担保の法的性質を、どのように考えるべきか、っていうのは、実際に事案や、判例を見る中で、自分なりの考え方を持つようにすればいいと思うわ。
一応、ここで概説したけれど、いずれの考え方が妥当なんてことは言わないから、サルやナカちゃんが納得できる考え方をとってくれればいいって思うわね。
藤さんは、もう自説をお持ちだと思いますよ?
あ、是非、藤さんがいずれの説をとってみえるのか参考までに訊かせて頂きたいんですけれど、よろしいでしょうか?
い、い、いやぁ、クロちゃんの、その訊き方だと、あたしの考えを伝えちゃうと、せっかくの今のクロちゃんの理解を変に迷わせちゃいそうだからなぁ。
じ、自重しとくお。うん・・・うん。
  あぁ・・・残念です・・・。
・・・。

(自重すべきは、その藤先輩の知ったかされるとこだと思うです!)
そうそう。
清算義務についても、ここで述べておくわね。

さっき、1500万円の機械を担保とした1000万円の融資といった譲渡担保を野放しで認めていいのか、って問題について話したわよね。

このような目的物の価格が、債権額を上回るようなときには、債務者の債務不履行により、債権者が目的物を確定的に取得するとしても、債権者は、その差額清算金目的物価格-債権額を、債務者に返還すべき義務清算義務を負うわ。
かつては、処分清算型と帰属清算型とで結論が異なる問題だったんですけれど、今は、いずれのパターンであっても債権者には清算義務が課せられていますからね。
処分清算型帰属清算型って、なんですか?
あ、すみません。

処分清算型というのは、債務不履行が生じたときに目的物を売却して、その売却代金から優先弁済を受けるという方法をいいます。

これに対して、帰属清算型というのは、債務不履行が生じたときに、担保目的物を直接、譲渡担保権者が自分の所有物にすることで優先弁済を受けたことにするという方法をいうんですね。

さっきのチイちゃんと竹中さんの事案に則して言いますと、竹中さんが、チイちゃんから譲渡担保契約の目的物として所有権移転を受けた機械を処分して、その処分した代価から優先弁済を受けることで債権の満足を受けようとされた場合は、処分清算型ということになるわけです。

かつての判例は、この処分清算型の場合には、譲渡担保権者の清算義務を認めていた大判大正10年11月24日)のですが、帰属清算型には、債権者の清算義務が認められていなかったんです。
そのため、帰属清算型による債権額より過大な担保物の丸取りといった行為も横行してしまったわけです。

ですが、今は、帰属清算型であれ、処分清算型であれ、譲渡担保権の実行においては、被担保債権額と目的物の価額との差がある場合には、債権者には清算義務が課せられているんですよね。
  納得です!
うんうん。
やっぱり、ナカちゃんなら、そう思ってくれるって思っていたよぉ。

この清算義務が課せられている場合には、事案のチイ(債務者にもメリットがあるんだよぉ。

事案のチイは、ナカちゃんから借りたお金を弁済できなかったから、この清算義務って話になっちゃっているわけなんだけど・・・。
弁済期が過ぎていても、ナカちゃんが清算金(事案でいうと、機械の時価が1500万円で、ナカちゃんからチイへの融資が1000万円なので、清算金は約500万円)チイに支払うまでは、譲渡担保実行の手続が終わっていないってことになるんだよね。
だから、チイが、その間にナカちゃんに借りたお金を弁済すれば、目的物であるチイの機械を取り戻すことができるんだよね!
私は、そもそもチイちゃんに貸したお金を担保するために、チイちゃんの機械を譲渡担保の目的にしたわけですから、その結論には何の問題もないです!
  だよね、だよね!
・・・なんか面白くねぇお。
チイが機械を分捕られて、泣き喚くところが見たかったお。
・・・あんた、どんなイヤなお姉さんなのよ。
じゃあ、もう少しだけ続けるわね。

譲渡担保は、形式上は、売買や買戻し民法579条以下参照)の形式がとられることが多いのよね。
特に、不動産譲渡担保では、登記に際して、登記原因として売買や買戻しと記載する場合が多いって聞くわ。

でも、登記上、このように書かれているからといって、これを直ちに真正の売買や買戻しとみるべきではなく、その実質を見ると譲渡担保である、という場合には、ソレは譲渡担保という認定をすべき、とされているわ。
いわゆる譲渡担保契約の認定という問題ですよね。
当事者間で交わされた契約の性質から、当該契約が、いかなる契約なのか、という判断をすべき、ということですね。

百選掲載判例の、最判平成18年2月7日百選Ⅰ 6版・7版95事件)が、この問題を扱った判例になりますね。

判決文では
真正な買戻特約付売買契約においては、売主は、買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ、目的不動産を取り戻すことができなくなり、目的不動産の価額が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も、買主は、譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務を負わない。

 このような効果は、当該契約が譲渡担保の目的を有する場合には認めることができず、買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は、譲渡担保契約と解するのが相当である。

 そして、真正な買戻特約付売買契約であれば、売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり、
民法も、これを前提に、売主が売買契約を解除した場合、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。

 そうすると、買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的不動産の占有の移転を伴わない契約は、特段の事情のない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され、その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である

と述べていますね。

判決文にあるように
買戻特約付売買契約の形式が採られていても、目的不動産の占有の移転を伴わない契約は、特段の事情のない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認され、その性質は譲渡担保契約と解する
と、されているわけですから、目的不動産の占有の移転を伴わない契約は特段の事情のない限り債権担保の目的で締結されたものとの推認を受けるわけですから、そうではないというのであれば特段の事情を主張・立証しなければならないってことになりますよね。
判例まで紹介してくれて、ありがとうね。

そう言えば、ちょっと憲法勉強会の影響か、民法勉強会での判例検討が随分と御無沙汰になっていたわね。
ソレじゃ、次回は久し振りに、しっかり判例検討することにしちゃいましょうか。
  わーい、わーい!!
何一つ喜ばしくない発言に、この、はしゃぎよう。
姉としては、妹の脳味噌に重大な疾病があるのではないのかと一抹の不安さえ感じてしまうのであった、まる
私も、あんたの一向に改善されない勉強姿勢には、一抹どころではない不安を感じているんだけれどね!
ソレを言うんでしたら、私なんて不安しか感じていないです!
いやいや、あたしってば、めっさ人気者じゃないの!
え?
どうして、そう思うんですか? です?
ファン(不安)が一杯だから。
ウキっ!!
アハハハハハ。
流石、藤さんです!
今日も冴え渡っていますね!
・・・。

(口に出して言うことさえ、一般の人なら躊躇うレベルの洒落です。)

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