今日からの勉強会では、根抵当(ネテイトウ)について学ぶことにするわね。 | ||
あ、きたね。 コンテイトウ! (※ 担保物権総論④勉強会参照) |
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しつこいっ! 根抵当(ネテイトウ)って読むって言ってんでしょ! 担保物権総論の勉強会で軽く紹介した根抵当を、この勉強会では、しっかり学ぶことにするわ。 今回の勉強会では、根抵当の沿革について学ぶことにするわ。 先ずは、根抵当について規定した条文の確認からね。 ナカちゃん、民法398条の2を読んでくれる? |
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民法第398条の2。 『根抵当権) 第398条の2 1項 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。 2項 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。 3項 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。』 |
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イントロでの紹介と重なるところはあるけれど、気持ちを新たに、しっかり聞いてね。 根抵当とは 『一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するため』に設定される抵当権をいうわ(398条の2第1項)。 例えば、銀行とその取引先や、卸商と小売商のように、継続的な取引を行う当事者間では、日々債権(貸付や、売掛金)が発生し、また弁済されていくわけよね。 当然、その残高が増減するものであるため、時には0(ゼロ)になることもあるわけよね。 このような不特定の債権について、いちいち抵当権を設定する、なんてことは、事実上不可能といえるし、何より煩雑に過ぎる話よね。 |
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だったら、抵当権の設定なんかせんかったら、ええだけじゃないの? | ||
それじゃ、債権が担保されないってことになるだけなんだから、債権者にとっては美味しくないじゃないのよ! だから、明治時代から、このような不特定の債権を一定の限度額で包括的に担保する抵当権が行われ、根抵当権と呼ばれてきたのよね。 そして、事実、裁判所もこのような根抵当の有効性を認めて、その特徴を理解した判決を出してきたし、登記実務においても「根抵当」という登記を許していたわ。 |
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じゃあ、なんの問題もないじゃないの。 | ||
ただ、抵当権の付従性という点からみたとき、この根抵当権は、普通の抵当権では説明しきれないものになってしまうのよね。 ・・・付従性については、今更説明は不要だと思うけれど、確認のために、一応訊いておくべきかしらね・・・木下さん? |
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そんな当たり前過ぎる質問には、答える口さえ持たねぇお。 おい、そこの学部生。 このトロい質問に答えんしゃい。 |
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は、ハイです! 付従性というのは、担保物権が、債権を担保するためのものであるということから、担保物権は債権の存在を前提とするという担保物権の性質の一つです。 (※ 担保物権総論⑤勉強会参照) |
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・・・よかろう。 (だったっけ? ・・・そんなもん、いちいち憶えてねぇお。) |
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ナカちゃん、ちゃんと復習してくれているみたいね。 木下さんは、ホントに大丈夫だったのかしらね。 まぁ、いいわ。 さて。 根抵当というのは、基本的な継続的取引契約に基づいて設定されることが多いものなんだけれど、その基本的な継続的取引契約が締結されたからといって、直ちに融資が行われるとは限らないわよね。 となると、具体的な債権が発生していなくても、根抵当権は、契約締結段階で有効に成立しているってことになるわけよね。 すると・・・ |
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あ、ホントです! 根抵当権という担保物権はあるのに、債権は、まだ発生していないです! |
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そうよね。 コレは、成立における付従性の否定ということになるわ。 逆の場合もあるわ。 最初にも言ったけれど、取引の途中で、一旦債権額が0(ゼロ)になることもあるわけよね。 でも、その場合も根抵当権は消滅せず存続し、また新たに融資が行われたときに、その債権を担保していく・・・ってことになるわけ。 コレは、消滅における付従性の否定といえるわけよね。 |
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別に、そんなもん(=付従性)否定されたからって問題ない気がすんだけどなぁ。 | ||
ところが、日本の民法では、およそ付従性のない抵当権というのは認められていないのよね。 じゃあ、根抵当権は、ナニに付従するのか? ってことになるわけよね。 この点、かつては根抵当権は、基本となる継続的取引契約(基本契約)に付従すると考えられてきたわ。 ただ、根抵当権が便利なものであるため、戦後になってくると主に金融機関によって、取引先となる債務者と、その銀行の間に生ずる一切の債権を担保する根抵当というのが行われるようになってきたのよね。 これは、基本契約を前提としない根抵当といえるわ。 こうなると、基本契約に不従する・・・という解釈も苦しくなってきちゃうわけよね。 |
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現実に利用されてるってのに、なんか面倒な理屈で否定するってのは、どうなんだろうか・・・と小一時間問い詰めたくなる話だね・・・。 | ||
実際にあるんだから、問題はないっていうのは、おかしいわ。 法の不備があれば見直されるべきだし、法の趣旨にそぐわないものであるならば是正されるべきだと思うもの。 まぁ、そんなわけで、1955年に法務省は、基本契約を前提としない根抵当権は付従性に反するため、そのような根抵当権の登記は受理すべきではない、という見解を示し、全国の登記所に通達したのよね。 |
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うわっ!! えらいことしよった!! |
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この通達によって、法務省と根抵当権を利用していた金融機関との間に深刻な対立が生じることとなったわけ。 まぁ、結局、この対立は、立法をもって解決する他ない問題だったことから、1971年の民法改正による『根抵当権』(民法第4節 398条の2から398条の22まで)の追加という決着をみるわけね。 この法改正によって、根抵当権は、民法上に明文の根拠をもつものとなったわけね。 |
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なんか法律の勉強ってより、歴史の勉強会みたいだお。 あたし眠くなってきたんだけど・・・。 |
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藤さんには今更の話ですしね。 | ||
だおだお。 | ||
嘘おっしゃいよ! でもせっかくの勉強会だし、もう少しだけ続けるわね。 根抵当権の立法に際して最も問題となったのは、この根抵当権による被担保債権の範囲だったといわれているわ。 というのも、金融機関(債権者側)としては、例えば、当事者間において将来生ずる一切の債権を担保する、といったような被担保債権の包括的な定め方ができることを求めたわけなんだけど、法務省側は、さっきも触れた付従性の見地から、これを否定する・・・といった対立があったわけね。 |
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補足になりますが、今、光ちゃんが述べられた、将来当事者間において生ずる一切の債権を担保するといったような包括的な定めをした根抵当を、包括根抵当っていいますね。 | ||
つかさちゃん、補足ありがとうね。 まぁ結局、このような包括根抵当は許されない、ってことで決着したわけなんだけど・・・。 実際は、かなり広い範囲で被担保債権の範囲を定めることができるようにされているわ。 ここで、条文を再確認しておきましょうか。 |
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民法第398条の2。 『根抵当権) 第398条の2 1項 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。 2項 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。 3項 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。』 |
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398条の2は 『一定の範囲に属する不特定の債権』 に限って、根抵当権が設定できることを定めているわよね(398条の2第1項)。 コレは、裏返せば包括根抵当を認めないってことを意味しているわ。 ただし、その範囲については 『債権者との特定の継続的取引契約によって生ずるもの』 の他 『その他債権者との一定の種類の取引によって生ずるもの』 でも、よいことにされているわね(398条の2第2項)。 この結果、例えば「銀行取引」と定めるだけでも根抵当権は設定できるってことになったわけね。 また、取引によらない債権でも 『特定の原因に基づいて債権者との間に継続して生ずる債権』 および 『手形上若しくは小切手上の請求権』 は 『前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる』 とされているわ(398条の2第3項)。 |
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この398条の2第3項によって、手形小切手債権が、根抵当権の被担保債権の範囲に含められたことは金融機関にとっては重要な意味をもつとされていますよね。 いわゆる回り手形を含むからだと言えますが。 |
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回り手形って、なんですか? | ||
回り手形というのは、債務者が根抵当権者である金融機関とは別のところで振り出したり、裏書きして、手形上の債務を負担している手形が、流通の結果、根抵当権者である金融機関の手に入った手形をいいますね。 この398条の2第3項は、金融機関が、その手形債権をも根抵当権の被担保債権として扱うことを認めているわけです。 少し細かい補足になりますが、ただし、この場合は、債務者の支払停止など、債務者が倒産状態に陥った後に根抵当権者が取得した回り手形を、根抵当権の被担保債権として組み入れることはできない、とされていますね(398条の3第2項)。 これを認めてしまうと、倒産状態に陥った債務者の手形等を安く買い集めて、根抵当権者が被担保債権に入れてしまうことを許すことになってしまうからでしょうね。 |
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随分、細かい説明をしてくれたわね。 そうね。 でも、今、つかさちゃんが説明してくれた回り手形を含めて、被担保債権の範囲を広く認めたことによって、実質的には、金融機関にとっては、彼らが求めていた包括根抵当が認められたのと、ほぼ同じ結果になったといえるわけよね。 |
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じゃあ、根抵当を巡る対立は、実質的には金融機関側の勝ちってことかぁ。 『やるな、ロンド・ベル!』 |
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一般には、法務省は付従性という名を取り、金融機関は包括根抵当という実を取った、なんて言われるわね。 | ||
『勝てばよかろうなのだァァァッ!!』 | ||
ソレはナニに対しての発言なのか、ちょっとワカラナイんだけど、結果的には、双方の要請に叶った立法だったってことになるんじゃないのかしらね。 そうそう。 根抵当権の被担保債権の範囲だけれど、根抵当権の設定に際して定められるものではあるけれど、後に、その範囲を変更することもできるわね(398条の4)。 まぁ、このあたりは次回の勉強会に回して、今日はここまでってことにしましょうか。 |
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終わればよかろうなのだァァァッ!! | ||
だから、ここまでって言ってるじゃないのよ。 さっきから話聞いててくれているの? なんか会話が成立していないわよ? |
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オネーちゃん、きっと言いたいだけだと思うから、相手しなくっていいよぉ。 家でも、時々同じようなことばっかり繰り返して止まらない時あるもん。 |
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コラ!! ちゃんと姉の言うことを聞かなきゃ駄目だろうが! 常識的に考えてっ! |
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どうせ関係ないこと言ってるんだもん。 チイも、いちいち相手してられないよぉ。 |
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・・・。 (考えたらチイちゃんは、この藤先輩と帰宅後も、ずっと一緒です。 私は、チイちゃんよりお姉さんなのに、いつも藤先輩にイジめられたからって泣き言を言ってて恥ずかしいです。 私は、もっと強くならないといけないです! ) |