抵当権に基づく妨害排除③

美味しかったねぇ~。
チイ、天麩羅があんなに美味しいなんて知らなかったよぉ。
アレは、マヂで幾らでも食べれてまうって奴だったよね。
熱々でサクサクの天麩羅の美味しいことっ!!
いやぁ、かの徳川家康の好物ってのも、むべなるかな、って感じあるよねぇ。
穴子の天麩羅なんて、何本でも食べたくなっちゃうくらいだったもんね~。
チイは、御野菜の天麩羅の方が美味しかったよぉ。
ウチでも、天麩羅しようよ、天麩羅っ!!
天麩羅は、油を大量に消費するからなぁ。
ソレに、肝心の具材だって、沢山ないと天麩羅一杯食べることが出来ないわけだから・・・ん?

そう言えば去年は、美味しい天麩羅を食べる機会があったよなぁ・・・アレは、なんでだったっけ?
思い出してっ!
オネーちゃん、頑張って思い出してっ!!
・・・思い出せない・・・。
去年かと思っていたけれど、コレは前世の記憶の可能性が微レ存・・・。
そっかぁ。
前世の記憶じゃ仕方ないよねぇ。
なにやら壮大な話題をしているわねぇ。
前世の記憶が、どうしたの?
あ、丁度いいとこに。
光ちゃんに、去年(2014年)あたし、天麩羅を御馳走してもらったことってあったっけ?
サルと天麩羅を食事した機会?
・・・うーん、私の記憶ではないわねぇ。

先日のお店だって、一緒に行ったのは初めてだったものね。
私が天麩羅を御馳走するなら、あのお店を選ぶと思うから、あのお店が初めてってことは、私がサルと一緒に天麩羅を食べたのは、この前のお店がロー入学以降は初めてってことになると思うけれど。
そっか・・・となると、やっぱり前世の記憶だったってことか。
オネーちゃん、前世の記憶を、薄っすらとでも憶えているんだね。
やっぱりオネーちゃんは、凄いなぁ。
  まぁまぁ。
あ、つかさちゃん達も来たみたいね。
それじゃ、今日の勉強会を始めちゃいましょうか。

抵当権侵害のあった場合の救済手段
というテーマの第3回になるわね。

前回までの勉強会では、抵当権の設定された目的物が、山林という不動産という前提での勉強をしたわけだけど、今日の勉強会では、抵当権の設定された目的物が、建物という不動産という前提で勉強することにするわね。

今日考える問題は、抵当権設定後に、抵当権設定者から抵当目的物たる建物を賃借したり、事実上その建物に入り込んで占拠している第三者と、抵当権者の問題になるわ。
なんか山林よりも、問題になる場面が現実にも多そうな話だね。
そうね。
実際、最近まで大きな問題とされてきたくらいだからね。

先ず前提の理解から話すことにするわね。

抵当権設定当時、抵当目的物を賃借人として占有していた者が、抵当権者ひいては最終的には競売の結果あらわれる買受人に、その占有の根拠となる賃借権を対抗できるのか、という問題は、その賃借権について対抗要件を有するか否かにかかっているわ(民法605条借地借家法10条同31条)。

これに対して、抵当権設定「」の賃貸借は、抵当権者に対抗できないわ。
もちろん、不法占拠者も抵当権者に、その占有を対抗できない、ということは言うまでもないことよね。

2003年の法改正によって大きく変わった民法395条を、ここで確認しておきましょうか。
民法第395条

『(抵当権建物使用者の引渡しの猶予) 第395条
1項 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当権使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
1号 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
2号 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者

2項 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
で!
今日の勉強会のテーマなんだけれど・・・

このような抵当権者に対抗できない抵当不動産の占有者に対して、抵当権者が抵当権に基づいて、その明渡しを求めることができるのか
換言するならば、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使が出来るのか、否か

ということを学びたいと思うわ。
抵当不動産の占有者って?
勝手に居座っている人が居たりするわけ?
そうね・・・少し前提となる知識を知っておくことも必要かもね。

新聞を見ていると、新聞広告に裁判所の競売広告を見ることがあったりすると思うわ。
これは民事執行法の下で、競売実務を合理化し、競売物件をより高価に売却することで、債権者・債務者双方の利益を図ろうとする裁判所の働きによるものなんだけれど、その広告において、時々『第三者占有あり』という表記があることがあるわ。
この表記の意味するところは、競売される当該物件には占有者がいて、この物件を買い受けた人は、すぐには、その物件を自ら利用することができないかも知れませんよ・・・ということを示しているものなのね。

この競売が、抵当権に基づく競売であるとした場合、抵当物件上の占有者には、様々なものがあるわ。
抵当権が設定される前から、その物件が賃借されていて、さらに対抗要件も備えている占有者がいる場合には、はじめから賃借人付きの物件として被担保債権額を評価して、抵当権を設定することになるだろうから、抵当権者にとっても問題は少ないといえるわ。

ただ、そうじゃなかったとしたら・・・ということは考えるべき問題よね。

事実、2003年の法改正の前には、395条のいわゆる短期賃貸借保護制度が悪用されたり、まったくの不法占拠者が、その物件を占有したりして、その物件の利用を困難にしたりすることも横行していたのよね。
あ、ソレ、映画で見たことあるよ!

 映画のネタバレになってしまうので、映画名は避けておきます。
 160分にも及ぶ長編なので、見る際には御気をつけ下さい。)
サルは、ホント映画ばっかり見てるのね・・・。
まぁ、ソレはさておき。

このような第三者占有のある物件は、競売を通じて売却するのが困難になるわけよね。
そりゃ誰だって、多少一般流通市場より安いとは言っても、わざわざ面倒くさい物件なんか欲しくないからね。
え?
だって不法占有だったら出てって! って言えばいいんじゃないの?
第三者占有あり』とあるだけだから、その第三者の占有が抵当権者に対抗できるものの場合もあるわけでしょ?
その場合は、買受人は自ら買い受けた物件を自ら利用することは出来ないということになってしまうわ。

それに、チイちゃんが言うように、不法占有者・・・つまり、抵当権者に対抗できない占有であったとしても、現実に、その占有者を排除するには裁判などが必要になるため、かなりの労力が求められてしまうわけなのよね。

そのような事情があるから、結局、競売代価は押し下げられてしまうわけよね・・・。

そして、2003年法改正前には、その事情を知った上で、敢えて短期賃借保護制度を悪用して、競売妨害を目的として、債務者が短期賃借権を設定するなどして、第三者に占有させるというケースもあったのよね。いわゆる占有屋と呼ばれる悪質な行為を生業とする人達の存在があったわけね。
  占有屋ってナァ二?
競売物件を落札した人に対して、当該競売物件に居座り続けて欲しくないのなら・・・と(法外な)立ち退き料の支払いを求めることで利益を得ようとする人のことをいうのよね。
実際に、競売物件に、このような人がいると、かかる労力は大変なものになったようですね。

判例検討する機会はないでしょうが、練馬一家5人殺害事件なども、このような占有屋まがいの行為によって引き起こされた悲劇だったことを考えると、ちょっと素人が手を出せない物件だったということになりますから、競売代価は、相当押し下げられてしまうことになったのでしょうね。

 練馬一家5人殺害事件では、競売物件を買い受けたのは、けして素人ではなく、不動産鑑定士だったのですが、それでも、居座り続ける占有者の退去は一筋縄ではなかったようです。)
そっかぁ・・・占有屋っていうのはヒドいねぇ。
藤先輩みたいな人がいたわけですね・・・。
  ・・・。
・・・あ、わ、私はナニも言ってないです!!
別に、訂正しなくっていいじゃない。
ナカちゃんの言うとおりなんだもの。

ただ、抵当権者にしてみれば、そんな面倒な占有者を排除した上で、競売にかけた方が、より高く売れる可能性があるわけだし、好都合なわけよね。

そこで、抵当権者に対抗できない占有者を、抵当権者自らが排除する権限を認めるべきではないか、という問題が生じたわけね。

ところが、最高裁は、抵当権は占有を伴わない権利であるから、抵当権者は抵当不動産の占有関係に干渉しうる立場にない、ということを理由に、抵当権に基づく明渡請求を否定したのよね。
最判平成3年3月22日
  マヂでかっ!? 最高裁っ!?
この最高裁判決に対しては、学説からの批判も特に強かったですね。

裁判所は、抵当権に基づく競売の実態を理解していない、とか、抵当権が非占有担保であるという形式論理に拘泥するものであるといった批判でしたね。
そうね。

その結果、最高裁は1999年に、大法廷判決をもって、この平成3年判決判例変更することとなるわ。

判決文を一部紹介すると
第三者が抵当不動産を不法占拠することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価すること

ができるとして
そして、このような場合には、抵当権者は

民法423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができ

また
抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許される

という判断を示したのよね。
最大判平成11年11月24日
この大法廷判決は、不法占拠者に対する事案だったのですが、抵当権設定者である抵当目的物所有者は、本来、不法占拠者に対して、明け渡しを求め得る地位にあることから、抵当権者が、その設定者の権利を債権者代位権民法423条によって代位行使することができる、という法律構成をとっているんですよね。
  債権者代位権
あ、民法債権総論で学ぶものですね。
一応、条文だけ見ておきますか。
六法で、民法423条を見て頂けますか?
民法第423条

『(債権者代位権) 第423条
1項 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。

2項 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
ただ、この考え方には、一つ問題があるのよね。

占有者が、抵当権設定者から、賃借している・・・というような場合には、抵当権設定者は、賃貸人ということになるわけだから、賃借人である占有者に対して、明け渡しを求め得る地位にはないことから、当然、抵当権者は、抵当権設定者の権利に代位するものである以上、権利がないところには代位行使も出来ない、ということになっちゃうわけなのよね。
あらま・・・。

それじゃ、債務者が競売を妨害しようとして、第三者に建物を貸してまったような場合には、お手上げってことになっちゃうね。
そういうことね。
・・・サルは、この手の事案だと、やたら理解がいいわよね。
いつも、どんな視線で法律を学んでいるのかしら。
いやいやいや、変な勘繰りはやめてくれないかな!
真面目に勉強会に参加していればこそ、の理解でしょ、ソレは!

(いや、しかしカラクリは、よくワカッタお。
 あたしの家に抵当権が設定されて、実行されそうになったとしたら、この手で、抵当権の実行を邪魔することが出来るってな!
 うぇっへっへっへっへっへ!! )
そうそう。
大事な判例を紹介し忘れていたわね。
百選掲載判例なんだし、この判例を見ずには終われないわよね。

最判平成17年3月10日百選Ⅰ 6版88事件 7版86事件)ね。
  ん?
判決文は、次のように述べているわ。

所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる

として、先ず先の最大判平成11年11月24日判決文引用しているわね。
そして、ここからが本判決の肝になるんだけれど。

そして、抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるものというべきである。

 なぜなら、抵当不動産の所有者は、抵当不動産を使用又は収益するに当たり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。

 また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。


本判決では、抵当権設定後の賃借人に対しても、抵当権者は、直接に抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することが認められるとされたわけね。
また抵当権の実行による競売手続の妨害目的で賃貸借契約を締結するような債務者は、最早信用できないことから、そのような場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができることさえ認めているのよね。

この判決からもワカルように、いわゆる占有屋的な行為は認められないってことよね。
よく御理解頂けたかしら、ソコの怪しい雰囲気を醸し出してみえた木下さんは?
  マヂでかっ!? 最高裁っ!?
藤先輩の反応は、おかしいですっ!
すっごくいい判決だと思うです!
い、いや・・・あ、あたしも、いい判決だなぁ、って意味での、このリアクションだよ?
ホントかしら?
今のリアクションは、さっきの最判平成3年3月22日のときと一緒じゃないのよ。
そ、ソレはアレだよ・・・。
あたし、語彙が乏しいからさぁ。
似たような反応しちゃうんだよねぇ。
いやぁ、ボキャブラリーが少ないっていうのは悲しいことだなぁ。
  ジトォ~。
  コ、コラっ!!
コッチ見んなっ!!

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