今日の勉強会は、前回の続きになるわ。 抵当権の侵害があった場合の、抵当権者のとりうる手段 という問題を考えることにするわね。 この図を見てくれる? |
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これ、前回見たよね。 |
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そうね。 今日の勉強会では、この無権限の第三者の行為を、もう少し追ってみることにするわね。 つかさちゃんの山林の土地の立木を勝手に伐採したサルがいたわけよね。 |
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はいはい、そうそう。 | ||
そのサルが伐採した立木・・・まぁ、伐採した立木だから伐木になっているわけだけど、この伐木が、どのような状況にあるか、という点で、どのように考えるべきか、という考え方の違いから結論が変わることになるわ。 今日は、この点について、どう考えるか、ということを学ぼうと思うわ。 |
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なんか、やたらワカリニクイ・・・。 | ||
図で、状況を整理することにしましょうか。 抵当目的物の山林の立木を伐採した伐木の状況については、次の3パターンが考えられるところになるわ。 |
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図は、上の3パターンがあるわ。 ①切り出した伐木が、土地上にある場合 ②切り出した伐木が、土地から持ち出されて、外にある場合 ③切り出した伐木が、土地から持ち出されて、第三者に売却された場合 先ずは①の場合からね。 ①の場合とは、伐採されてしまった伐木が、抵当不動産(山林)上にある場合よね。 このような伐採された伐木についても、抵当権の効力が及ぶのか、ということが問題となるわけよね。 |
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ソレは普通に抵当権の効力が及ぶんじゃね? | ||
今ならそう考えるのが普通かもね。 ただ、古い判例では、抵当権の実行において、伐採された木材(伐木)については 『不動産たる性質を失い動産となるが故に』 抵当権者は直接には、その木材の上に抵当権の効力が及んでいることを主張できない、とされていたのよね。 (大判明治36年11月13日) でも、この判例の立場は、後に改められるわ。 抵当不動産の一部が分離されたという一事をもって、抵当権の効力がその物の上から当然に消え去るわけではない、として、伐採されて動産となった山林上(抵当目的物上)の木材に対して、抵当権の効力が及ぶことを認めているのね。 (大判昭和7年4月20日) |
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この判例の考え方は、民法370条を根拠条文としていますね。 つまり、370条にいう『付加して一体となっている物』として、山林上にある木材には、抵当権の効力が及ぶとしているわけですよね。 |
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成程、成程。 確かに、抵当権の効力は、不動産の従物にも及ぶわけだもんね。 ってことは、もともと土地の構成部分として、当然に抵当権の効力が及んでいた立木が、伐採されて木材になったとしても、その伐木が、まだ抵当目的物上にあるっていうなら、この伐木に対しても、抵当権の効力が及ぶってことは、ある意味当然だよね。 常識的に考えて。 |
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なんかサルの言い回しに、そこはかとない不安を覚えるところだけれど、まぁ、そういうことよね。 そして、そのように考えれば、抵当権者は伐木が搬出されようとするときには、被担保債権の弁済期の到来を待たずに、それを阻止することが出来るわけだし、抵当権実行の段階に至れば、伐木に対しても、その実行が出来る、ということがいえるわけよね。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
ここまでが①の場合になるわ。 じゃあ、次は②の場合を考えてみましょうか。 ②の場合は、下の図のような場合よね。 そうね、ここでは、③の場合も併せて考えることにしちゃいましょうか。 ③の場合の図も一緒に見てね。 |
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②と③の場合は、いずれも伐採された伐木が、既に搬出されている、という場合よね。 これは、抵当権の追及力が、どこまで及ぶのか、という問題になるわ。 ここで我妻先生が説かれた「公示の衣」という考え方を紹介させてもらうわね。 この考え方は、抵当権が一般に登記によって公示される担保物権であることから説明される考え方なのね。 登記という公示を備えている抵当権は、登記という公示の衣を纏った存在である、と観念するわけ。そうであれば、この衣(=「公示の衣」)をまとっている限り、抵当権の効力を第三者に対して主張することが出来る、と考えるのね。 |
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この考え方に従えば、先の①のような場合には、伐採された伐木が、抵当目的物上にあるわけなんだから、ソレは、公示の衣に包まれているといえることから、抵当権の効力を第三者に主張することができる、という結論になるわよね。 でも、②や③の場合には、衣の外に搬出されてしまっているわけなんだから、最早、公示の衣に包まれていないことから、抵当権の効力を第三者に主張することはできない、という帰結になるわ。 |
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面白い言い方するんだね。 公示の衣かぁ。天麩羅の衣みたいだね。 包まれていれば天麩羅だけど、衣から出てまったら、ソレはもう天麩羅ではないってことだね。 や、ヤバイっ!! なんか急激に天麩羅が食べたくなったおっ!! |
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はいはい。 ただ、この考え方をとる場合には、一つ注意が必要になるわ。 今回の説明のような第三者(=サル)が搬出した事案であれば、この第三者の善意・悪意を問わず、搬出された伐木に対しては、公示の衣の外に搬出された物である以上、抵当権の効力を主張することはできないんだけれど・・・。 搬出したのが、第三者ではなくって、抵当権設定者(=事案でいうなら、つかさちゃん)の場合は、その搬出された物を第三者が取得する前であれば、抵当権の効力を主張して、その抵当権の実行ができることになるのよね。 何故、このような結論になるのかと言うと、この公示の衣という考え方は、あくまでも第三者の取引の安全の保護を趣旨としているからなのね。 だから、抵当権設定者が自ら搬出したような場合には、取引の安全を保護する必要性がないことから、その抵当権設定者の搬出した伐木については、抵当権の効力を主張することができるわけね。 |
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でも、勝手に私の抵当権の設定された山林から木を切り出して持ち出した藤先輩に、私が抵当権を主張することが出来ない、というのは、おかしい気がするです・・・。 | ||
そうね。 判例は、この問題について述べたものがないわけなんだけど、工場抵当法に関するものでは、次のように述べられているわね。 同判決によれば 『工場抵当法2条により工場に属する土地または建物とともに抵当権の目的とされた動産が、抵当権者の同意を得ないで工場から搬出された場合には、第三者において即時取得しないかぎり、抵当権者は目的動産を元の備え付け場所である工場に戻すことを求めることができる。』 (最判昭和57年3月12日) この判例を、民法の抵当権とパラレルに捉えることが出来るのであれば、今回の事案のような無権限の第三者であるサルが伐木を搬出したような場合には、伐木の所有権を伐採や、搬出の時点で、サルが取得したとはいえないわけなんだから、抵当権者であるナカちゃんは、伐木が搬出されてもなお、転得者が即時取得(民法192条)するまでは、抵当権の追及力は失われず、その伐木に対して抵当権の効力を主張することができる、と考えるべきでしょうね。 そして、そのように考えるのであれば、その一環として、搬出された伐木についても、元の抵当地上に戻すよう請求することも出来る、と考えられるといえるわ。 |
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納得いくです! 抵当権者である私だって保護されるべきだと思うです! 即時取得されてしまったのであれば・・・と諦めもつきますが、そうでないのなら、取り戻すことができるって言えないと、おかしいと思うです! |
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まぁ、もっとも抵当権の効力が及ばない・・・ということになったとしても、前回の勉強会で学んだように、藤さんの伐木の搬出によって、被担保債権額を下回るような事態が生じた場合には『損害』があり、といえるわけですから、不法行為に基づく損害賠償請求ができるわけですけどね。 | ||
あ、そうでした。 | ||
・・・ドッチにしても、あたしは逃げられないってことかぁ。 | ||
ソレはそうでしょうよ。 だって、事案のサルは、無権限に他人様の山から、勝手に木を切り出して持ち出しているわけでしょ? ソレで、誰からもなんの請求もないって話にはなるわけないじゃないのよ。 |
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ま、そだよね。 うんうん。 ん? 今日はコレでお終いなの? |
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そうね。 | ||
うひゃひゃひゃひゃひゃっ! ソレじゃ、衣、衣ってやたら出てきたし、今日は、衣のサックサクな天麩羅でも食べに行こうじゃまいかっ! |
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わわわわっ!! 衣がサックサクぅ? チイも食べたい、食べたいっ!! |
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アラ、チイちゃんも天麩羅食べたいの? そうね、それじゃ今日は、みんなで天麩羅を食べに行きましょうか。 私の知っているお店で、とても美味しい天麩羅を出してくれるお店があるのよね。 |
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うひょひょひょひょひょひょっ!! とても美味しい天麩羅となっ!? コレは期待せざるを得ないじゃまいかっ!! よし! これより天麩羅ナイト団は、聖地・天麩羅屋に赴くおっ!! 志を同じくせん者は、この旗の下に集うんだお!! |
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チイも、天麩羅ナイト団に入るよぉ! 一緒に、聖地に行きたいもん!! |
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よしよし。 栄誉ある天麩羅ナイトには、タレではなく、塩で天麩羅を食す名誉を与えようぞ! |
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チイは、いつも天麩羅はタレで食べてるから、塩で天麩羅なんて大人みたいだね、なんか格好いいよね! 天麩羅ナイト団に入って良かったよぉ。 |
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・・・。 (天麩羅ナイトじゃなくって、テンプルナイトです。 藤先輩は、ワカッて言っているっぽいですけど、チイちゃんは、また間違えて憶えてしまいそうです・・・。) |