さぁ、今日は前回に引き続き、民法の認める先取特権の内容を見ていくわね。 民法の認める先取特権には、その目的となる債務者の財産の種類に応じて、 @債務者の総財産を目的とする一般の先取特権 A債務者の特定の動産を目的とする動産の先取特権 B債務者の特定の不動産を目的とする不動産の先取特権 の3種があるわ。 前回は、このうち@について見たわけね。 今日は、その続きでA債務者の特定の動産を目的とする動産の先取特権について見ることにするわね。 それじゃ、早速条文の確認からね。 あ、先にナカちゃんに伝えておくわね。 今日は、私と二人三脚のつもりで頑張りましょうね! それじゃ、六法で民法311条を見てくれる? |
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民法第311条 『(動産の先取特権) 第311条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。 1号 不動産の賃貸借 2号 旅館の宿泊 3号 旅客又は荷物の運輸 4号 動産の保存 5号 動産の売買 6号 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給 7号 農業の労務 8号 工業の労務』 |
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うわっ!! めっちゃあるっ!! |
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そうね。 動産の先取特権は8種類あるわ。 この動産の先取特権は、民法311条に規定される8種の債権につき、これらの債権と特別の関係を有する債務者の特定動産の上に成立するものなのね。 今回と次回の2回の勉強会を通じて、動産の先取特権とは、どのような債権が、どのような債務者の動産について先取特権を有することになるのか、という点について見ていくことにするわ。 それじゃ、まずは不動産の賃貸の先取特権(311条1号)からね。 六法で、民法312条、あと一緒に、民法313条も見てくれる? |
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民法第312条。 『(不動産賃貸の先取特権) 第312条 不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。』 民法第313条。 『(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲) 第313条 1項 土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。 2項 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。』 |
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不動産賃貸の先取特権の目的物は、土地の賃貸借にあたっては、その土地(借地)または『その利用のために建物に備え付けられた動産』、『その土地の利用に供された動産』および『その土地の』天然果実となるわ(313条1項)。 また、建物の賃貸借の場合は、その建物に備え付けた動産が、目的物になるわね(313条2項)。 どうして、このような先取特権が認められるのかという理由だけれど、賃貸人は、賃借人が賃貸人の貸している賃貸不動産に持ち込んだ動産については、賃料その他、賃借人に対する債権について、優先権を与えられることを期待しているのが常といえるわ。 また、賃借人も、賃借している建物なり、土地なりがあればこそ、それらの動産を保管することができたわけよね。 つまり、不動産賃貸の先取特権については、当事者の意思の推測に基づくものとされているわ。 |
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え? マヂで? いや例えば、今、あたしとチイの借りている部屋って賃貸だけど、大家さんは、あたし達の持ち込んでいる物は、家賃滞納とかあったら持って行ってお金にしちゃおうっていう魂胆ってこと? |
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サルの借りている部屋の大家さんの魂胆は知らないけれど、313条2項は 『建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。』 と規定しているのよね。 そして、この条文にいう 『賃借人がその建物に備え付けた動産』 について判例は、ある一定期間継続して建物に持ち込まれて存置された物は、全て含むと捉えているのよね。 (判例:大判大正3年7月4日) つまり建物の賃貸借については、その建物内の賃借人の現金はもちろんのこと、有価証券、宝石類などにも、この先取特権は及ぶってことになるわね。 因みに、この先取特権は、その賃借人だけではなく、その家族の動産についても及ぶとされているわ。 |
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どうしよ、どうしよっ! チイっ!! あたしが実家から持って来ている横山竜士のサインボールも持ってかれてまうおっ!! |
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チイがご飯のときに使う先割れスプーンも持ってかれちゃうよ! | ||
やり過ぎだおっ! そこまでは、いくらなんでもやり過ぎだと思うおっ! |
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そうですよね。 判例は、313条2項にいう『賃借人がその建物に備え付けた動産』を非常に広く捉えていますよね。 ただ、光ちゃんが言ったように、不動産賃貸の先取特権の趣旨は、当事者の意思の推測に基づくものですよね。 この趣旨に鑑みて、果たして、そこまで広く先取特権の目的物の範囲に含めることを当事者は、そもそも意図していたのだろうか、という批判はありえるところです。 こうした批判から、学説の通説的理解は、313条2項にいう『賃借人がその建物に備え付けた動産』は、建物の利用に関して常置された物をいう、としていますよね。 |
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おお、あたしは断然ソッチがいいと思うお! | ||
確かに、その学説の理解に立てば、賃借人の個人的な所持品には、不動産の賃貸借の先取特権は及ばないってことになるわよね。 | ||
おおおおっ、横山竜士のサインボールが助かるってことだね! | ||
チイの先割れスプーンも安心だねっ! | ||
・・・そもそも、その2点は、財産的価値が乏しいから大丈夫だとは思うんだけどね。 大体、家賃を滞納しなかったら、いいだけの話じゃないのよ。 サルが学説の理解を妥当と思うのはいいけれど、仮に論証する際には、判例がある以上は、判例の規範を述べてからの、批判、学説っていう論旨展開は忘れないでね。 因みにだけど、私は判例の立場に賛成なのよね。 |
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そうなんですか? 私は、てっきり光ちゃんも学説と同じような考え方をされてみえるものとばかり思っていました。 |
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うーん。 コレは、あくまでも私の考えなんだけど、家賃滞納で賃借人が行方をくらましてしまった場合を考えてみたのね。 その場合に、家の中の賃借人の個人的な所持品には、先取特権が及ばないってことになると、それは全ての債権者のための責任財産ってことになるわけよね・・・。 でも、置いていかれた動産が、価値のある動産ばかりじゃないじゃない。 サルが言うような広島の選手のサインボールとか、チイちゃんの先割れスプーンなんて、当事者にとっては、思い入れがあるかも知れないけれど、財産的価値としては二束三文もいいところよ? でも、ソレが処分できないってことになると、ソレを預かるのは誰なんだろうなぁって思ってね。 恐らく、その場合、部屋を貸した賃貸人が、その動産を管理することになるんじゃないのかなって思うの。 家賃を滞納された上に、さして価値のない動産の処分も出来ずに管理させられるって言うんじゃ、踏んだり蹴ったりもいいとこじゃない。 私なら、家賃滞納で行方もわからない賃借人の置いていった動産については、処分させてもらって、幾らかでも滞納している家賃に充当したいって思うかなってね。 |
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・・・あ、あ、明智財閥は、血の最後の一滴まで搾取する腹積もりだお。 恐ろしや、恐ろしや。 |
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違うわよ。 今の場面は、賃借人が家賃滞納して行方をくらませてしまった場合の話じゃないのよ。 ソレに、行方をくらませている賃借人にだって悪いことばかりじゃないわ。 だって、動産を管理し続けたと仮にするのなら、その保存管理に要した費用も、滞納家賃に上乗せされて賃借人に請求されるわけよ? でも、処分されてしまえば、その分の滞納家賃も減額されるわけだし、保存管理料だって発生しないじゃないのよ。 |
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「ああ言えば上祐、そう言えば村山」・・・って言葉を思い出したお。 自分にいいように解釈しおってからに・・・金満め。 |
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どんだけ古い言葉を持ち出してくれてるのよっ! バランスを考慮しただけじゃないのよ! あ、そうそう。 ナカちゃん、ココで、ついでに民法314条を見てくれるかしら? |
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民法第314条。 『(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲) 第314条 賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。』 |
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ちょっと、まだ転貸借については勉強していないんだけれど、賃借権の譲渡・転貸があった場合には、賃貸人の先取特権は、この賃借権の譲受人や転借人の動産にまで及ぶのよね(314条)。 ただ、このような譲受人や転借人が、新たにその不動産に備え付けた動産の上に、譲受人や転借人が必ずしも関知しない、元の賃借人の賃貸人に対する債務についてまで、先取特権の効力が及ぶのはどうなのか、という疑問もあるところなんだけどね。 賃貸借については、債権各論でまた学ぶことになるから、その際に、また、この話が想起できるようにするつもりよ。 後は、ちょっと細かいところだけれど、一応見ておきましょうか。 民法315条、316条を見てくれる? |
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民法第315条。 『(不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲) 第315条 賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。』 民法第316条。 『第316条 賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。』 |
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ここは、条文を読んで整理しておいてくれればいいわ。 一応、簡単に説明を加えておくわね。 被担保債権は、賃料その他賃貸人の賃借人に対する賃貸借契約上の債権全額になるんだけれど、破産や、相続の限定承認があったときなど、債務者の財産の総清算の場合には、その総清算の時を基準として、前期・当期・次期の借賃、および、前期・当期に生じた損害の賠償に限り、この先取特権が認められるってことを315条は規定しているわ。 また、敷金が入れられているときは、賃貸人は、その資金から弁済を受けられない部分に限って、先取特権を有するということね(316条)。 これらは、いずれも他の債権者との間の均衡を図るための規定といえるわね。 |
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土地の賃貸借については、借地借家法12条もありますよね。 ここで紹介しておきますと・・・。 『(借地権設定者の先取特権) 第12条 1項 借地権設定者は、弁済期の到来した最後の二年分の地代等について、借地権者がその土地において所有する建物の上に先取特権を有する。 2項 前項の先取特権は、地上権又は土地の賃貸借の登記をすることによって、その効力を保存する。 3項 第1項の先取特権は、他の権利に対して優先する効力を有する。ただし、共益費用、不動産保存及び不動産工事の先取特権並びに地上権又は土地の賃貸借の登記より前に登記された質権及び抵当権には後れる。 4項 前三項の規定は、転借地権者がその土地において所有する建物について準用する。』 と規定されていますよね。 つまり、借地借家法の適用がある土地賃貸借の場合には『弁済期の到来した最後の2年分の地代等について、借地権者がその土地において所有する建物の上に先取特権を有する』とされているわけです(借地借家法12条1項)。 |
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不動産の賃貸の先取特権については、これくらいかな。 じゃあ、次は民法311条2号に規定される旅館宿泊の先取特権についてね。 六法で、317条を見てくれる? |
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民法第317条。 『(旅館宿泊の先取特権) 第317条 旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。』 |
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この規定も、さっき学んだ不動産の賃貸の先取特権と同じく、当事者の意思の推測に基づくものになるわ。 旅館やホテルで、宿泊客の方が、その代金を支払えないような場合が生じた際には、その宿泊客の手荷物に、宿泊料や飲食代債権の先取特権が成立するってことね。 旅館の主人や、ホテルのレセプションが、予約受付のない宿泊客を泊める際に、そのお客の手荷物を見て、受け入れを決めるっていうのは、この先取特権があるからね。 この先取特権については、実は即時取得の勉強会で少し紹介したわよね。 関連付けて抑えておいて欲しいから、また即時取得の勉強会のノートを確認して、理解を整理しておいてね。 |
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あらあら。 明智財閥のリゾート部門では、そんなお客様の品定めがコッソリ行われているわけか・・・。 |
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別にウチに限った話ではないわよ。 317条に規定される先取特権があるから、当然の話じゃなくって? じゃあ、最後に運輸の先取特権(311条3号)を見て、今日の勉強会は終わりにするわね。 六法で、318条を見てくれる? |
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民法第318条。 『(運輸の先取特権) 第318条 運輸の先取特権は、旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し、運送人の占有する荷物について存在する。』 |
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この規定も、また当事者の意思の推測に基づくものとされているわ。 今日の勉強会で学んだ3種の先取特権(不動産の賃貸借、旅館の宿泊、運輸)については、趣旨が共通なのね。 まぁ、だからこそ、今日の勉強会で、まとめて伝えたわけなんだけど。 |
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あ、光ちゃん。 319条の話も伝えておきませんと。 |
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あ、そうね。 ナカちゃん、それじゃ最後に六法で319条を見てくれる? |
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民法第319条。 『(即時取得の規定の準用) 第319条 第192条から第195条までの規定は、第312条から前条までの規定による先取特権について準用する。』 |
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今日の勉強会で学んだ3種の先取特権(312条から318条まで)については、即時取得の規定が適用されるわ(319条)。 つまり、即時取得の適用される限りにおいて、債務者以外の者の所有物の上にも先取特権が及ぶことがあるということになるわね。 だからこそ、さっき即時取得の勉強会の復習をしておいて欲しいって言ったわけなんだけどね。 ちょっと条文を見ることをウッカリしていたわね。 |
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それって例えば、どんな場合? | ||
例えば、そうね・・・。 最初の、不動産の賃貸借の場合だと、賃借人の方が、他人から預かった動産を借りている建物に備えつけた場合に、家を貸している大家さんが、善意・無過失で、その動産を賃借人の物だって信じたときには、その物の上にも先取特権の効力が及ぶってことになるってことね。 |
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判例の立場だと313条2項の『建物に備え付けた動産』の範囲は、すっごく広いから、部屋に持ち込んだ物は全部先取特権の目的物になっちゃうってことになるよね・・・。 | ||
まぁ、そうなるわね。 ただ、即時取得の要件には、善意・無過失が挙げられているわけだから、いくら法律上の推定が働くとは言っても、立証によって覆せるようなものであればダメだけれどね。 |
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うんうん、ワカルよっ! | ||
それじゃ、8種は流石に多いから今日の勉強会では、ここまでにするわ。 次回は、残った動産先取特権について紹介することにするからね。 |
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・・・。 (錯誤や時効取得と違って、動産先取特権は、あまり御世話になることのなさそうな話だなぁ。 それなのに8種って、めっちゃあるんだもん。 イヤんなっちゃうお。) |
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藤先輩、終わったですよ? | ||
ん? あ・・・そうなの? |
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藤さん、なにか元気がなさそうですけれど、どうかされましたか? | ||
ん? 別に、そんなこともないと思うけど・・・。 あ、久し振りにアレいっとくかな? |
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『掲示板に書き込みちょうだいっ!! あたしに元気を分けてちょうだいっ!!』 |
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メ、メ、メタはダメですぅぅぅ。 |