一般の先取特権

それじゃ、今日から回を跨いで、先取特権の内容について条文確認をしながら、見ていくことにしましょうか。

まず、前回のネージュ・ブロンシュでのお食事の際に、軽く紹介したわけだけど、民法の認める先取特権は、その目的となる債務者の財産の種類に応じて、大きく種に分けられるわ。

①債務者の総財産を目的とする一般の先取特権
②債務者の特定の動産を目的とする動産の先取特権
③債務者の特定の不動産を目的とする不動産の先取特権


種ね。

①に対して、②と③を合せて特別の先取特権という呼び方もされるわね。

その内訳だけど、

一般の先取特権種。
動産の先取特権種。
不動産の先取特権種。

の計15種の債権民法上の先取特権によって担保されることになるわ。

また民法以外の法律によって先取特権ないし、これに準ずる優先権の認められる債権もあるってことだったわよね。

今日は、このうち一般の先取特権について見ることにするわね。
  ん?
この話は、初耳じゃね?
違うよ、オネーちゃん。
この前行ったネージュ・ブロンシュで、光おねーちゃんが話してくれてたよ。
オネーちゃん、食べてばっかりいたから聞き逃しちゃったんだよ、きっと。 
・・・食べてばっかり・・・って。
・・・お、お、お前が言うな・・・。
大丈夫よ。
内容については話していないもの。
ソレは今日からの勉強会で、しっかり聴いてくれればいい話だからね。
それじゃ、早速始めましょうか。

まずは、一般の先取特権について定めた民法306条を見てくれる? 
民法第306条

『(一般の先取特権) 第306条
 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
1号 共益の費用
2号 雇用関係
3号 葬式の費用
4号 日用品の供給
一般の先取特権によって担保される債権は、306条に規定される1号から4号種の債権になるわ。

この一般の先取特権は、債務者の総財産を目的とするものであり、それは、この後に学ぶ債務者の動産、不動産はもちろんのこと、全ての財産権に及ぶものであるため、その被担保債権については、一般債権者の利益との調和をも考慮し、特に保護の必要性の大きい、通常、零細な債権に限定されているわ。

ちょっと、ここで民法336条を見てくれるかしら。
民法第336条

『(一般の先取特権の対抗力) 第336条
 一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。
一般先取特権の効力については、不動産につき、登記なくして一般債権者に優先しうるものとされているわ。
ただし、様々な制限も受けるものであることには注意しておいてね。

民法335条が、その制限について規定しているわ。
ちょっと確認しておきましょうか。
民法第335条

『(一般の先取特権の効力) 第335条
1項 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。

2項 一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。

3項 一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。

4項 前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。
それじゃ、306条1号から4号に規定される一般の先取特権の内容について見ていくわね。

まずは、共益の費用の先取特権306条1号)についてね。
民法307条を見てくれる?
民法第307条

『(共益費用の先取特権) 第307条
1項 共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。

2項 前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。』
まず307条1項についてね。
ここにいう『共益の費用』とは、例えば、債務者の財産の保存のために行使された詐害行為取消権の行使424条)や、債務者の有する債権の消滅時効の中断147条)、債務者の死亡や破産、あるいは法人の解散に際して行われた財産関係の整理清算)、強制執行配当に要した費用等がこれにあたるわ。

こうした費用は、全ての債権者の共同の利益になるものであるから、その費用を支出した者に、優先権を認めることが公平といえるからよね。
また、この優先権が認められることで、債権者がこれらの手続きをとることが容易になるという作用もあるわけよね。

但し、307条2項の規定があることにも注意して欲しいわ。

この規定は、これらの手続きによって利益を受けない債権者がいる場合は、この優先権の主張は、利益を受けた債権者との間でだけ認められるってことをいっているわけね。

じゃあ、次は雇用関係の先取特権306条2号)についてね。
六法で、民法308条を見てくれる? 
民法第308条

『(雇用関係の先取特権) 第308条
 雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。』
ここにいう『債務者』とは給与等を支払う者を指すわ。
まぁ、このような給料債権についての保護の必要性については、イントロや、前回のネージュ・ブロンシュなどでも話したと思うから、ここでは割愛するわね。

このような賃金債権について先取特権が認められているのは、社会政策的考慮に基づくものよね。

それじゃ、次は葬式の費用の先取特権306条3号)についてね。
六法で、民法309条を見てくれるかしら。 
民法第309条

『葬式費用の先取特権) 第309条
1項 葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。

2項 前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。』
御葬式は、国民道徳上も、衛生上も必要な儀式として認知されているわ。
そのため、これを容易にするため先取特権として保護しているわけね。

この先取特権の債権者としては、葬儀社(葬儀屋)だけではなく、葬式費用を立替払いした者も含まれるわ。

それじゃ、最後に日用品の供給の先取特権306条4号)についてね。
次は、民法310条を見てくれる? 
民法第310条

『(日用品供給の先取特権) 第310条
 日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。』
 
この日用品供給の先取特権は、債務者が日用必需品の供給を断たれないようにするための社会的政策考慮に基づくものといえるわ。

ただし、この日用品の供給の先取特権は、あくまでも債務者個人の生活を保護しようとする考慮からのものであるため、ここにいう『債務者』は自然人に限られることになるわ。
だから、いわゆる個人企業であったとしても、法人には適用されない判例はしているわね。
最判昭和46年10月21日) 
  ん?
もう終わりなの?
そうね。
動産の先取特権は、8種だから、この続きで・・・ってことになると、少しボリュームが多くなっちゃうしね。
まぁ、今日はここまでにしておこうかしら。 
・・・。
(ぶっちゃけ殆ど条文読んだだけじゃねぇかお。) 
うーん・・・流石に、ちょっと短か過ぎるって気持ちにもなるから、最後に今日の勉強会の理解を質問で訊いて確認させてもらおうかしら。

質問

『労働者は、その有する報酬債権の担保として、使用者の総財産について先取特権を有する。』
さぁ、答えは○か×か?
(平成20年新司法試験択一問題から)
  は?
いやいや、簡単過ぎじゃね?
でしょ。
そうね。正解

雇用関係の先取特権は、一般の先取特権だからね(306条2号)。
雇用によって生じた債権である以上、一般の先取特権として、使用者の総財産について先取特権を有するということになるわね。
チイも答えたい、答えたいっ!!
それじゃ、もう1問ね。

質問

『雇用関係の先取特権は、定期に支払われる給料を担保するが、使用人が退職する際に支払われるべき退職金を担保しない。』
さぁ、答えは○か×か?
(平成19年新司法試験択一問題から) 
・・・。
退職金かぁ・・・。
 賃金債権は、その金額も零細ってことだったけど、退職金ともなると、結構まとまったお金だよねぇ。
 うーん、でも退職金だって、従業員にしてみれば生活を支えるお金には違いないわけだよねぇ。
 むむむ、ドッチだろ・・・先取特権として保護していいのかな? 額も大きいし、退職金は給料ではないってことになるのかなぁ? ) 
  ×だよ!
正解っ!
流石、チイちゃん。
・・・理由は?
○か×かだけでいいってことで、適当言ってるかも知れないかんね!
違うよ!
チイは、適当に答えたわけじゃないよ!
確か、この問題については判例があるんだよ!
だよね? だよね?
そうですね。

給料その他、債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権については、先取特権が認められるわけですよね(306条1号308条)。

定期に支払われる給料が、この雇用関係の先取特権として保護されることは問題ないとして、問題は、退職金が、その債権の中に含まれるのか? ってことですよね。
この問題については、チイちゃんが言ってくれたように判例があるんですよね。

判例は、退職金は給料の後払いの性格を有するものであるから、退職金債権も、雇用関係の先取特権として保護されるとしています。
最判昭和44年9月2日

ですから、質問では『退職金は担保されない』としているので、正解は×ということになりますよね。 
チイは、ちゃんと、この判例を知っていたもん!
あ、あ、あたしだって、もちろん知っていたよ!
今のは、チイの理解が本物か確認の意味でしたんだよっ!!
  ジトォ~。
  こ、コラっ!
コッチ見んなっ!!
じゃあ、今日はこれくらいでいいかしらね。
サル?
ちゃんと予習して勉強会に参加すれば、そんな変な汗かかないで済むんじゃなくって? 
い、いや、この汗は最近とみに暑いからだよね。
ひゃぁ~、あたし、汗っかきだかんねぇ~。
暑い、暑い。
  ジトォ~。
  ちょっ!!
だからコッチ見んなってっ!!

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