占有の態様B

占有権の基礎となる占有の態様についての勉強会は、今日が最終回になるわ。
占有の態様とされるもにには、どのようなものがあるのか
また、それはどのような問題に関連してあらわれるのか、ということだけれど、その態様としては、

@自主占有と他主占有
A善意占有と悪意占有
B過失ある占有と無過失の占有
C瑕疵ある占有と瑕疵のない占有
D自己占有(直接占有)と代理占有(間接占有)


つの占有態様があるってことだったわよね。

今日は、最後に残したC瑕疵ある占有と瑕疵のない占有について学ぶことにするわね。

それじゃ、今日勉強する条文である187条を、そして、その前提となる条文である162条を、順番を逆にして確認してくれる?
民法第162条
『(所有権の取得時効) 第162条
1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2項 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。



民法第187条
『(占有の承継) 第187条
1項 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。

2項 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
むむむむっ!?
今日の勉強会は、あたしの心の砦、取得時効の話なの!?
こ、こ、コレは超重要な話だね・・・ゴクリ・・・。
サルは、ホント取得時効の話が大好きだよね。
まぁ、私もサルが関心をもっていると思えばこそ、わざわざ勉強会を1回分割いて説明しようって思ったんだけど。

というわけで、今日は質問重視で勉強会を進行していこうって思っているわ。
その方が色々考えて理解できると思うしね。

ただ質問の前に、今日勉強する条文については、抑えておくわね。

162条1項、2項については民法総則勉強済みだけれど、一応簡単にね。
取得時効を主張するには、一定の期間の一定の状態での占有が要件だったわよね。

今日の勉強会でのC瑕疵ある占有と瑕疵のない占有というのは、そのことを言っているわけ。

平穏・公然・善意・無過失で継続する占有が瑕疵のない占有であり、平穏・公然・善意・無過失・継続のいずれかが欠ける占有が瑕疵ある占有ってことになるわ。
  こくこく(相槌)
えーっと、つまり、平穏でなくって強暴だったり、公然でなくって隠微だったり、悪意だったり、過失があったり、占有が継続していない占有が瑕疵ある占有ってことだよね?
そういうこと、そういうこと。

で・・・っ!
取得時効を主張するには、一定の期間の一定の状態での占有が要件だったわけなんだけど、この場合の占有者は、自分の前の占有者、さらにその前の占有者の占有期間をも合わせて時効の基礎となる占有として主張することができるの(187条1項)。
な、な、な、なんとっ!!!
ちょい、ちょい、光ちゃぁーーんっ!
なんで、そんな素晴らしいことを今まで教えてくれなかったわけ!?

ってことは、つまり、こういうことでしょ?

例えば、あたしがナカたんから土地を譲渡されて占有を開始したとして。
2年しか経っていなかったとしても、あたしの前にナカたんが8年占有していたとするなら、あたしは、ナカたんの8年を、あたしの占有期間の2年に足して、時効取得を主張できる
ってことなんでしょ!?

スバラっ!! マヂでスバラじゃないのっ!!
呑み込みが早いじゃないの。そういうことっ!

サルは、自己の占有期間だけでは時効取得は主張できないわけよね。
仮に善意取得162条2項)だとしても、少なくとも10年が必要になるものね。
でも、サルはナカちゃんの占有期間をあわせれば10年以上になるから、時効取得を主張できる可能性があると言えるわけ。
ちょっとちょっと・・・っ!
ナニ、最後のその微妙な言い回しは・・・。
なんで「主張できる」って言ってくんないわけ?
「主張できる可能性がある」じゃ、あたしも困るんですけどっ!!
前占有者の占有期間を合算するときは、その占有者は、前占有者の占有の性質を、そのまま引き継ぐんだよ!(民法187条2項
だから、もし、オネーちゃんがナカちゃんの占有を合算して、善意取得による取得時効の成立を主張するのなら、ナカちゃんが、占有開始当時、善意無過失であったことが要件として必要になるんだよ!
流石、チイちゃん!

民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
としているからね。

ナカちゃんが悪意で占有を始めていた場合には、サルが、ナカちゃんの占有期間を合算するのであればその瑕疵をも承継するわけなんだから、時効期間には20年を要することになるからね。
ったくぅ。
チビっ子はつかえないなぁ。
ちゃんと善意・無過失占有開始しとけってのっ!
ど、どうして私が非難されるんですかっ!
しかも、チビっ子呼ばわりまでするなんて、許せないですっ!
ナカちゃんが嫌がっているんだから「チビっ子」ってあだ名はやめなさいよ!

それじゃ、ここまでの理解を前提に、次の問題を考えてみてくれる?

質問

ある不動産について・・・。
つかさちゃんが悪意で占有を開始して8年間占有したの。
その後、この不動産を、ナカちゃんが占有開始当時善意無過失で承継して、5年間占有したの。
その後、さらにサル悪意で、ナカちゃんから、この不動産を承継して、6年間占有したの。

さて、この場合、サルは、ナカちゃんの占有開始から10年の経過をもって時効取得を主張することができるでしょうか?

っていう問題ね。
さぁ、考えてみて。
あ、ちょっとワカリにくいから下に図を用意したわ。
 
ふむふむ・・・実に興味深い・・・。
あたしは、悪意なんだから、占有開始から20年を経過しないと時効取得を主張できないわけだよね・・・。
でも、ナカたんは善意なんだから10年の経過で時効取得を主張できるんだけど、そのナカたんは5年しか経過していない・・・っと。
うーん、ナカたんの5年と、あたしの6年を合算すれば、善意取得の10年という要件は満たすけれど、そんなムシのいいことしてもいいのかな?
そもそも、あたし自身は悪意だしなぁ・・・いや、コレ出来るのなら、めっさ嬉しいんだけどさぁ・・・どうなんだろ・・・。
真面目に考えてくれるじゃないっ!

そうね。この質問にはつの問題があるといえるわね。

つは、つかさちゃんの占有開始からは20年を経過しないから、本来、時効取得の主張はできないが、中間者であるナカちゃんの占有開始からの時効期間を選択できるのか? という問題。

もうつは、サル自身は悪意であるのに、ナカちゃんが善意無過失で占有を開始したということをもって、サルが10年の時効取得の主張ができるのか? という問題よね。

サルは出来ると思う?
正直、出来るって信じたいっ!!
というわけで、ここは『サマーウォーズ』ばりに頼むおっ!!
なんなら鼻血出して頼み込みたいくらいの気持ちで・・・
よろしくおねがいしまあああす!
頼まれても、ちょっと困るんだけど・・・。
少し質問のケースとは異なるんだけれど、判例があるのよね。
百選T 7版からは削除されてしまったんだけど、6版65事件が、この質問の事案についての回答を与えているわ。
最判昭和53年3月6日 百選T 6版65事件

この判例については、実は民法総則勉強会でも紹介済みなんだけどね。
でも、物権の勉強会なんだし、ここは改めて丁寧に紹介することにするわね。

判例の事案は、下の図のものになるんだけれど。
 
判例の事案は、
つかさちゃんが善意無過失で占有を始めて4年間占有。
ついで、サル悪意または有過失3年間占有。
それを、ナカちゃんが善意無過失4年間占有を承継。
っていうケースだったのね。

このケースにおいて、ナカちゃんが、つかさちゃんとサルと自分自身の占有期間を合算(4+3+4年間)して、10年の経過による取得時効の成立を主張したという事案なの。 

二審は、10年の取得時効を認めなかったわ。
でも、この事案を最高裁は次のように判断したの。

10年の取得時効の要件としての占有者の善意・無過失の存否については占有開始の時点においてこれを判定すべきものとする民法162条2項の規定は、時効期間を通じて占有主体に変更がなく同一人により継続された占有が主張される場合について適用されるだけではなく、占有主体に変更があって承継された2個以上の占有が併せて主張される場合についてもまた適用されるものであり、後の場合にはその主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点においてこれを判定すれば足りるものと解するのが相当である。

としたわ。
おおおおおおぉぉぉぉっ!
ひ、ひ、光ちゃん、早く判例の言っていることを、まとめてっ!!
早く、早くっ!! 
つまり、この判例では、次のことが述べられているわけよね。

占有の承継があったときは、そのいずれの時点を時効の起算点として選択するも自由であるということ。

そして、10年の時効のための善意無過失は、占有開始の時にそうであればよく、後に悪意に転じても10年の時効を妨げるものではないということ。

この点を、しっかり抑えて欲しいわ。
おひょひょひょひょひょひょひょひょっ!!!!
そうだった、そうだったっ!!
確かに、この感動は以前にも味わったことのあるものだったおっ!
スバラっ!! マヂで、スバラっ!! 
・・・ということは・・・ということはだよ?
さっきの質問の場合なら、あたしは、時効の起算点を、ナカたんにすることで、占有開始時点においては善意無過失ってことで、10年の時効取得の主張をすることができるってことだよね!
しかも、あたしの悪意は、時効期間の妨げには、ならないって、そういうことなんでしょ? 
うめぇーーーっ!! マヂでうめぇーーーっ!!!
民法総則のときよりも改めて深く理解することで、沖縄別荘計画が、さらに現実味を帯びてきちゃったよっ!!
藤さんの法律学習の理解が、より一層深まったことで、目指される法曹、そして藤さんの将来設計の実現が、より近付いたということですよね。 
だおだお。
(・・・むぅぁぁぁったく違うが、敢えて訂正はしないおっ!
 ソレが、あたしのジャスティスだおっ! )
サルは、やたらと時効取得だけはノリ気なのよねぇ。

えーっと、ついでに言っておくんだけど。
他主占有の相続の場合に、相続人の占有開始をもって自主占有として取得時効の基礎としうるか、という問題もあるんだけれど。

この問題については、前々回の勉強会での、相続人の占有が新しい権原をもって、さらに占有を始めたといえる場合を除いて、相続人が自己の占有のみを取得時効の基礎に据えることはできないって話よね。
民法185条の問題 前々回勉強会参照) 
いやぁ、何時になく素晴らしい勉強会だったお。
法律を学ぶ楽しさというものが、あたしにも実感出来てきた気がするお。 
チイは、ずっと楽しいよ!
みんなと一緒に勉強できるから、今はもっともぉーーっと楽しいよ!
嬉しいこと言ってくれるじゃない。
それじゃ、占有の態様についての勉強会も、これでひとまず終わったことだし、今日はみんなで一緒に、以前約束していた焼肉屋さんに行っちゃう?
  お、お、お肉ぅっ!?
オネーちゃんっ!
お肉だよ! 
お肉が食べられるよっ!!
ちょっ! チイっ!!
あたしの服を引っ張るんじゃないっ!
・・・ただでさえ、最近洗濯傷みが気になりつつあるってのに!
  だってだってお肉だよ?!
お肉が食べられるんだよ!! 
ワカッタ、ワカッタ・・・
ワカッタから、御願いだから、それ以上引っ張らないでくれる? 

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