それじゃ、今日の勉強会からは回を跨いで、占有権の基礎となる占有の態様について抑えていこうと思うわ。 占有の態様とされるもにには、どのようなものがあるのか。 また、それはどのような問題に関連してあらわれるのか、ということを勉強するわね。 まずは、六法で条文の確認からね。 180条を見てくれる? |
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民法第180条 『(占有権の取得) 第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。』 |
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占有の態様とされるものには、次の5つが挙げられるわ。 @自主占有と他主占有 A善意占有と悪意占有 B過失ある占有と無過失の占有 C瑕疵ある占有と瑕疵のない占有 D自己占有(直接占有)と代理占有(間接占有) の5つの占有態様ね。 今日は、これらのうち@自主占有と他主占有について学ぶわね。 |
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こくこく(相槌) |
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自主占有と他主占有については、以前の勉強会でも少し触れたと思うけれど、ここでしっかり抑えておくわね。 『所有の意思』をもってする占有が「自主占有」、そうでない占有が「他主占有」ということだったわよね。 この『所有の意思』をもってする占有であるかどうかは、占有取得原因(権原)の性質によって客観的に決まるわ。 売買や贈与のように所有権を取得すべき原因に基づいて、占有を取得した場合は自主占有といえるわね。 |
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ふむふむ、まぁ、当たり前のことだよね。 | ||
そうね。 ただ、売買や贈与が有効なものであるならば、買主や受贈主は所有権自体を取得しているわけなんだから、自主占有があるなんてことを敢えて言う必要もないわよね。 でも、これらの契約が無効であったり、後に取り消された結果、初めから無効だったことになった場合は、どうかしら。 |
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その場合でも、売買や贈与によって取得した占有が自主占有であることには変わりはないよ! | ||
そうね。 無効な契約によっては所有権は取得できないわ。でも、自主占有は取得するのよね。 占有取得原因(権原)の性質によって客観的に決まる、というのは、そういうことを言っているの。 この自主占有であるということが、最も意味をもつのは、所有権の取得時効ね。 もっとザックリ言ってしまえば、自主占有か他主占有かの違いは、時効取得の基礎となるか、ならないかだけの違い、ということになるわ。 |
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ほほーっ! 超大事じゃないの! 自主占有っ!! そかそか。 自主占有か、他主占有かは、占有をどうやって始めたかが大事になるわけね。 よしよし。コレはしっかり抑えておかんとね! |
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相変わらず、サルは取得時効の絡む話になると俄然やる気をみせるわね。 そうね。 じゃあ、サルのために、もう少し丁寧に話しておくと、所有権の取得時効は、所有の意思をもってする占有から生ずることになるわ(民法162条)。 そしてソレは、無効な売買契約や贈与契約に基づいて取得した占有であっても、取得時効の基礎となるということよね。 この点において、動産の即時取得とは異なることになるから注意しておいてね。 |
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メモメモっ! ココは大事だかんね。 チビッ子になんかメモは任せておけないお! |
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じゃあ、他主占有についても説明するわね。 他主占有とは、条文上の文言を使うのなら『権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合』(民法185条)という場合になるわ。 具体的に言うと、占有取得原因が「借りた」とか「預かった」という場合よね。 借りたり、預かったりするのは、『所有の意思』をもって始める占有とはいえないわ。 だって、借りたり預かったりして占有を開始したという場合は、はじめから他人に所有権が属するものとして占有を開始しているわけだからね。 でも、このような他主占有であっても、占有者は占有権を有していて、占有権の保護を受けることになるわ。 但し、その占有を基礎として所有権を時効取得することはできないということになるわけね。 |
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ふむふむ。 借りたり預かったりした物は、何年持っていても時効取得できないって話だよね。 OKOK、憶えているお。ウキっ! |
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自主占有か他主占有かは、占有の始めに決まるわけなんだけど、一旦、他主占有で始まった占有が、自主占有に変わることはないのか、という問題はあるわよね。 ちょっと、六法で185条を見てくれる? |
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民法第185条 『(占有の性質の変更) 第185条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。』 |
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この問題について定めたのが185条なのよね。 185条は、次の2つの場合に、そして、その場合にのみ、他主占有が自主占有に変わりうる、と定めているわ。 今から、私とつかさちゃんとで、その場面を再現してみるから見ていてくれるかしら。 あ、つかさちゃんお願いね。 |
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はいっ! 喜んで。 背景色をピンクで再現場面を演出しますね。 |
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うんうん、任せるわ。 それじゃ、1つ目の場面を今から、私とつかさちゃんとで実演してみるわね。 1つ目の場面、それは 『その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し』た場合になるわ。 じゃあ、始めるわね。 |
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つかさちゃん、つかさちゃん。 このペンを預かっていてくれないかしら。 |
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はい、喜んで。 | ||
つかさちゃんに預けたペンを、そろそろ返してもらおうかな。 あ、つかさちゃん、ちょっといい? |
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あ、預かっているペンですが、今から私の物にしますね(=今から自分のものとして占有することにしますね)。 | ||
と、今の私から光ちゃんへの意思表示、コレが1つ目の場面。 つまり、 『その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し』た場合になるわけです。 |
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え? わざわざ実演してもらっておいてアレなんだけど、ソレ、ただの「借りパク」だよね。 そんなこと言われたら、普通「ちょ、おま、ナニ言い出すの? わけわからんこと言ってないで、はよ返せ」って話になるんじゃない? |
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そうね。 つかさちゃんから、そんなこと言われた私は、普通、即座に、相手方に対して「それならペンは返してよ!」って言うわよね。 つかさちゃんが、私に「コレ、私の物にするから!」って幾ら言ったところで、所有権を取得できるわけではないわ。 でも、この意思表示によって、つかさちゃんの他主占有は、自主占有へと変わったの。ココが重要なとこになるわ。 自主占有に変わったということは、自主占有に変わった時点から、取得時効に必要な期間(悪意なので20年間)、つかさちゃんは占有を継続すれば、ペンの所有権はつかさちゃんの元に帰することになり、私はペンの所有権を失うことになるわ。 最も、私はそんなことにはならないようにペンを返すよう求めることで、つかさちゃんのもとで進行を始めた時効を中断させて、所有権を失わないようにするだろうけどね。 あ、じゃあ、また使うから、ペンは返してくれるかしら。 |
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はい、どうぞ。 | ||
じゃ次は、2つ目の場面を、私とつかさちゃんとで実演するわね。 2つ目の場面、それは 占有者が『新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める』場合になるわ。 それじゃ、始めるわね。 |
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つかさちゃん、つかさちゃん。 このペンを預かっていてくれないかしら。 |
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はい。喜んで。 | ||
つかさちゃんに預けたペンを、そろそろ返してもらおうかな。 あ、つかさちゃん、ちょっといい? |
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あ、預かっているペンですが、すごく書き心地がいいので買わせていただけないでしょうか? | ||
ええ、わかったわ。 それじゃ、中古ってことだし少し割り引いて、2000円でどうかしら。 |
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はい、わかりました。 それじゃ、2000円お支払いしますね。 |
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と、今のが2つ目の場面。 つまり、 占有者が『新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める』場合になります。 私と光ちゃんとの間で、ペンの「売買」という新たな原因があり、この「売買」によって、私がペンの占有を始めているわけです。 実体としては、占有は継続ということになりますが、私は「売買」という『新たな権原』によって『所有の意思』をもっての占有、すなわち自主占有を取得していることになるわけです。 ですから、後に、この「売買」が無効となったとしても、この「売買」によって始まった私の占有は自主占有であることには変わりはありません。 「売買」が無効になったとしても、自主占有である以上、この「売買」の時点から、取得時効に必要な期間、占有を継続すれば、私はペンの所有権を時効取得できるわけですね。 |
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事案の再現とは言え、光ちゃんの金銭感覚の無さにはヒくわ・・・。 ナニが悲しくて、中古のボールペンに2000円も払わないといけないのやら。 |
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私のボールペン、オロビアンコだもの。 コレ、4月に入って買ったばかりだし、適正価格だと思うけど・・・。 |
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え? そのボールペン、3000円くらいしちゃうわけ? |
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替え芯やケースも一緒に買ったから、あんまり憶えていないけれど、4、5000円はしたと思うけどなぁ。 | ||
す、すごい、すごぉーーいっ!! そのボールペンには、匂いのすっごい美味しそうな消しゴムとか、5色くらい書ける機能とか、ライトがついてたりしそうだね!! |
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そ・・そ、そういうオプションはない・・・かな。 なんだか期待はずれでゴメンね。 |
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へぇ〜。光ちゃんのボールペーン、すっごくいいヤツなんだねぇ。 (『狙った獲物は逃がさねぇ そう神出鬼没の大泥棒 』・・・ってか! ゲヘへへ! ) |
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・・・。 (また藤先輩が、よからぬことを考えている顔をされているです。 困ったものです。 ) |
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ペンの話で、ちょっと脱線しちゃったわね。 それじゃ、今日の大事な論点について説明するわね。 185条では『新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める』ことで、自主占有となることを規定しているんだけれど、ここにいう『新たな権原』が問題となってくるのよね。 私とつかさちゃんとで再現した事案のような「売買」が『新たな権原』となることは当然なんだけれど、問題になるのは「相続」なのね。 「相続」が『新たな権原』(=新権原)となるか? ということが、ここでは大きな問題となってくるわ。 |
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大事な判例があるよねっ!! 最近全然やっていないし、ココはナニがなんでも判例検討だよね! 相続は新権原となるか、この問題を検討するなら、百選掲載判例の64事件だよねっ!! |
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最近ちょっと御無沙汰だったし、判例検討しとくべきよね。 久し振りだし、少し気合入れてガンバっちゃう? 検討判例は、最判平成8年11月12日(百選T 6版・7版 64事件)ね。 |
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いやいやいや、なかなかにハードな判例だったねぇ。 | ||
でも、サルも真面目に聴いていてくれたみたいだし、検討してよかったなって思えたわ。 それじゃ、今日の占有の態様における@自主占有と他主占有については、これくらいにしようかな。 |
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あとまだ4つも残っとるんだよねぇ。 ウワァ、面倒この上ないわぁ。 |
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あんた、そういうネガティブな発言は、心の中だけにしなさいよ。 みんなのやる気に水差すことないでしょうに。 |
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・・・。 (うるせぇーおっ!! この金満豚がっ!! ボールペン1本に5000円も使う金あんなら、あたしに飯でもゴチれってんだおっ! コラっ! 聞いてんのかおっ!! 返事はどうした!! お!? お!?) |
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・・・・。 (心の中の声まで、とんでもないです・・・。 いつも散々お世話になっているのに、感謝の気持ちはないのでしょうか? ・・・でも、どうして私には藤先輩の心の声が、いつも聴こえてしまうんでしょうか? 正直私も聞こえない方がいいのですが。) |