適用違憲 
さて。
それじゃ、今日の勉強会からは適用違憲について学ぶことにするわね。

適用違憲とは、法令の規定に対する合憲性の審査において、その規定を文面上違憲と判断することはしないで、当該訴訟・事件における法令の規定の適用の仕方が違憲であると裁判することをいうものだったわよね。
  こくこく(相づち)。
そして、この適用違憲類型には、芦部先生によればつの類型があるって話だったわよね。

もっとも、この類型については、論者によって異なる捉え方もされれているものだから絶対的な類型というわけではないわ。
誤解を招くといけないから、芦部先生の適用違憲の類型について引用して紹介するわね。

適用違憲3類型について
第一は、法令の合憲限定解釈が不可能である場合、すなわち合憲的に適用できる部分と違憲的に適用される可能性のある部分とが解釈上不可分の関係にある場合に、違憲的適用を含むような広い解釈を行って法令の当該事件に適用するのが違憲である、という論理構造である。


合憲限定解釈不可能型適用違憲
第二は、第一とは反対に、法令の合憲限定解釈が可能であるにもかかわらず、法令の執行者が合憲的適用の場合に限定する解釈を行わないで、広い解釈のもとに違憲的に適用した、その適用行為が意見である、という論理構造の判決である。


合憲限定解釈可能型適用違憲
第三は、法令そのものは合憲でも、その執行者がそれを憲法で保障された権利・自由を侵害するような形で適用した場合に、その解釈適用行為が違憲である、という論理構造の判決である。
芦部信喜『人権と憲法訴訟』有斐閣 1994年 310頁)
と、説かれるわね。


処分違憲型
まぁ、図については、あくまでもザックリとしたイメージを握むためのものだから、そのつもりでね。

今日は、これらの3類型判例を見ていくことで、適用違憲とは、どのようなものがあるのか、ということを理解したいと思うわ。
3類型を一挙に見ようってか・・・。
こりゃまたタフな話だお。
たっぽいたっぽいっ♪
  ・・・。

(あ、『北斗の拳』のOPです。)
ナニ語よ、「たっぽいたっぽい」って?

それじゃ、先ずは第一の類型である合憲限定解釈不可能型適用違憲判例からね。


合憲限定解釈不可能型適用違憲
典型例として見るべき判例は、猿払(サルフツ)事件第一審判決になるわ。
旭川地判昭和43年3月25日 百選U200事件

この判例は、4版以降もずっと憲法判例百選にも掲載されているんだけれど、解説はずっと芦部先生のものなのよね。
その意味についても考えてみてみるといいかもね。
既に亡くなっとるのに、掲載されたまんまの意味・・・。
差し替えんのマンドくせ・・・という理由だな、間違いない!
はいはい、そうそう。

この事案は、郵政事務官で、労働組合協議会事務局長を勤めていた被告人が、衆議院議員選挙に際し、日本社会党の公認候補者の選挙用ポスターを公営掲示場に掲示したり、有権者らに掲示を依頼して郵送配布するなどした行為が、国家公務員法110条1項19号の政治的行為の禁止違反であるとして起訴された事案なのね。
  郵政事務官って?
名前だけ聞くと、なんかスゴそうな印象を受けるかも知れないけれど、郵便配達員のことね。

質問されたついでに、もう少し、この事件で被告人となった方について述べておくと、この郵便配達員の方は、管理職に就いているわけではなかったし、問題となった行為も、勤務時間外に行われたものだったのよね。
今は郵政民営化されているけれど、当時の郵便配達員は公務員だったことから、国会公務員法が適用されたわけね。
時間外に応援する候補者のポスターとかを貼ったくらい、いんじゃね?
一審判決文は、次のように述べているわ。

非管理職である現業公務員で、その職務内容が機械的労務の提供に止まるものが、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し、若しくはその公正を害する意図なしで行つた人事院規則14-7、6項13号の行為で且つ労働組合活動の一環として行われたと認められる所為に刑事罰を加えることをその適用の範囲内に予定している国公法110条1項19号は、このような行為に適用される限度において、行為に対する制裁としては、合理的にして必要最小限の域を超えたものと断ぜざるを得ない。
 
 
同号同法102条1項に規定する政治的行為の制限に違反した者という文字を使つており、制限解釈を加える余地は全く存しないのみならず、同法102条1項をうけている人事院規則14-7は、全ての一般職に属する職員にこの規定の適用があることを明示している以上、当裁判所としては、本件被告人の所為に、国公法110条1項19号が適用される限度において、同号憲法21条および31条に違反するもので、これを被告人に適用することができないと云わざるを得ない。

 よつて本件被告事件は罪とならないから
刑事訴訟法336条前段により無罪の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。

とね。

この判決文から理解して欲しいのは、先ず問題となった行為が、どのような行為であるのかを丁寧に認定していることよね。

今、サルは「時間外に応援する候補者のポスターとかを貼った」行為って認定をしていたけれど、一審では
非管理職である現業公務員で、その職務内容が機械的労務の提供に止まるものが、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し、若しくはその公正を害する意図なしで行つた人事院規則14-7、6項13号の行為で且つ労働組合活動の一環として行われたと認められる所為
認定しているわけよね。

そして、このような行為に対して適用される国会公務員法110条1項19号
このような行為に適用される限度において、行為に対する制裁としては、合理的にして必要最小限の域を超えたもの
であるとして、
同号同法102条1項に規定する政治的行為の制限に違反した者という文字を使つており、制限解釈を加える余地は全く存しない
ものであるため、合憲限定解釈によって合憲であると結論づけることが不可能なものである以上
国公法110条1項19号が適用される限度において、同号憲法21条および31条に違反するもので、これを被告人に適用することができない
という結論(適用違憲)になっているわけね。
合憲限定解釈と、適用違憲とは、ドチラも法令違憲という結論を避けようとするものである点で似通っていますよね。

ただ、本判決では、合憲限定解釈というルートを通ろうにも、解釈する規定の文面
制限解釈を加える余地は全く存しない
ものであるという不可分性をもつものであることから、適用違憲という結論となっているわけです。
それじゃ、次は第二の類型である合憲限定解釈可能型適用違憲判例を見ましょうか。


合憲限定解釈可能型適用違憲
この第二の類型の判例としては
全逓(ゼンテイ)プラカード事件第一審判決がいいと思うわ。
東京地判昭和46年11月1日

この一審判決は、あまり検討する機会がないと思うんだけど、最高裁判決の方は、有名判例ね。

事案を、かいつまんで話すわね。
コチラも原告は郵便集配を職務とする国家公務員なのよね。
この原告の方が、勤務時間外に、メーデーに参加して、「ベトナム侵略に加担する佐藤内閣打破」と記載された横断幕を掲げて行進した行為を理由に、郵便局長から戒告処分を受けたのよね。
この戒告処分は、横断幕の文言が人事院規則14−7第5項4号に、行進した行為が、同規則14−7第6項13号に、それぞれ該当するという国家公務員法102条1項違反を理由とするものだったのね。
この処分を不服とした原告は、処分を下した郵便局長を被告として、当該処分は憲法21条1項に反するものであるとして、処分の取消を求めて訴えた、という事案になるわ。
  ふむふむ。
判決文を見てみることにしましょうか。
一審は事実審であることから判決文も長いから、少し間、間をはしょっての引用にするわね。

国公法102条1項人事院規則14−7をその規定どおり文理解釈するならば、右規定は、一般職国家公務員の地位、職務権限、職務内容のいかんを問わず、またはその地位を利用する政治的行為かどうか、職務執行と関連性があるかどうかを問うことなく、すべての一般職国家公務員に対し、一律に、選挙権の行使以外の一切の政治的行為を禁止しているものと解さなければならない。
 
 しかし、一般職国家公務員の政治的行為を合憲的に制限するためには、必要最小限の基準に服さなればならないことは前述のとおりである。したがつて、右
各規定を文言どおり解釈するならば、それは必要最小限の基準をこえるものとして違憲のそしりを免れないであろう。

 〜中略〜(間を、かなりすっ飛ばして)

(3) 合理的解釈
 しかしながら、法律を文理的にのみ解釈してみだりに違憲と断ずることは相当ではない
 規定の文言にとらわれることなく、
憲法に調和するよう合目的的に解釈することによつて、規定に合理的な限界を付することができるならば、このような合理的解釈を施して、法律を合憲的に適用すべきである

当裁判所は、合理的解釈によつて、国公法102条1項、人事院規則14−7は、辛うじて合憲性を保持できるものと解する。
 そうすると右
各規定は、その文言にもかかわらず、前述したような合憲性判断の基準にのつとり適用の範囲を限定すべきなのである。
 すなわち、右
各規定により禁止される一般職国家公務員の政治行為は、

(1)主体の側から見れば、政策または法律の立案等に参画し、あるいは行政裁量権をもつて政策または法律の施行を担当する職務権限を有する公務員の行為に限り、
(2)行為の状況から見れば、公務員がその地位を利用し、またはその職務執行行為と関連して行なつた政治的行為に限るものと解するのである。

 したがつて、公務員の行為が文理上は右
各規定に該当する場合であつても、右の基準に該当しない行為にこれを適用することは、本来憲法上政治的自由を制限できない場合に、これを制限するものとして、法律の適用において違憲となるのである。

むしろ本件行為は、憲法21条1項の保障する正当な表現の自由というべきものである


そうすると、形式的文理上は、本件横断幕の文言は、人事院規則14−7第5項4号に、これを掲げて行進した行為は、同規則14−7第6項13号に該当し、原告の本件行為は、国公法102条1項に違反するけれども、右各規定を合憲的に限定解釈すれば、本件行為は、右各規定に該当または違反するものではない
 したがつて、
本件行為が右各規定に該当または違反するものとして、これに右各規定を適用した被告の行為は、その適用上憲法21条1項に違反するものといわなければならない。

として、そうである以上、

原告に対する本件懲戒処分は違憲違法のものとして取り消すべきものである。

と述べているわ。
この判決文が、合憲限定解釈可能型適用違憲という類型に該当するわけね。
なんか今日の判例は、下級審判決ばっかだね。
あ、でも第三の類型(処分違憲型)は、最高裁判決のものよ?


処分違憲型
例えば最高裁判決である愛媛玉串料事件も、この類型に該当するんだけれど、事案説明が必要な事案をわざわざ見ずとも、この類型にあたる事件については、実は既に検討済みなのよね。

第三者の憲法上の権利の援用勉強会で見た
第三者所有物没収事件
最大判昭和37年11月28日 百選U 112、194事件
が、この類型にあたるわ。

検討済みの判例だし、事案の説明等は省略するわね。
判決文のみ再度見ることにしましょうか。

第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。

 けだし、
憲法29条1項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同31条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。

 そして、このことは、右第三者に、事後においていかなる権利救済の方法が認められるかということとは、別個の問題である。

 然るに、
旧関税法83条1項は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没収する旨規定しながら、その所有者たる第三者に対し、告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを定めておらず、また刑訴法その他の法令においても、何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。

 従つて、
前記旧関税法83条1項によつて第三者の所有物を没収することは、憲法31条、29条に違反するものと断ぜざるをえない

と述べられているわね。

もちろん本判決を、法令違憲と位置づけることも可能だと思うってことについては、以前の判例検討の際にも述べたと思うわ。
ただ、ここでは処分違憲の類型の紹介として挙げさせてもらうことにしたわけね。
法令違憲適用違憲の議論は、まだ固まっていないところですし、実際、論者によって捉え方や解釈も異なるものですからね。
そうよね。

少し乱暴な言い方になっちゃうかも知れないけれど、学者の先生方の議論さえ固まっていない問題なんだから、スッキリ整理して理解できなくっても当たり前! という気持ちで私はいるんだけれどね。

とは言え、新司の論文では問われるわけなんだから、理論を詳しく知ることよりも、現場で使えるようにすることが大事、って気持ちでもいるわけなんだけどね。
むぅぅぅぅぅ。
すこぶる難しい話が、ここ最近続いているなぁ。
そうね。
憲法統治機構では、このあたりの議論が一番の山場であり、本丸になるところだからね。
難しくって当たり前って気持ちで学ぶ姿勢が大事って気持ちでいいんじゃないかしら?
難し(いんだからワカラな)くって当たり前!
学ぶ(振りする)姿勢が大事って気持ちだね。
うんうん。
そうだね、ホントそうだよね!
ですよね!
私も、頑張って理解できるようにしたいです!
  チイも負けないよぉ!!
・・・。

(藤先輩が、また、とんでもないことを考えているです・・・。)

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