最大判昭和37年11月28日 〜第三者所有物没収事件〜 |
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それじゃ、配役からね。 韓国に向けて、免許を受けずに貨物を密輸しようとした被告人らを、サルと、つかさちゃん。 ソレを取り締まった水上警察を、チイちゃん。 裁判所をナカちゃん。 ナレーターを私が務めるわね。 |
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ナレーター |
北九州門司の沖合い・・・。 一艘の不審な船が航行していました。 |
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密輸人 |
輸出許可もないのに、いいんですかね? これって密輸になるんですよね? |
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密輸人 |
見付かったらな! 見付からなければ大丈夫なんだよ! このあたりで、韓国の漁船と待ち合わせして積んでる荷物を渡す手筈になってんだけどなぁ・・・ちょっと海が荒れているせいで、よくワカラナイなぁ。 |
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密輸人 |
それにしても、随分と荷物載せていますよね。 | |
密輸人 |
まぁな。 色々輸送を頼まれたからな。 ザッと見積もっても、400万円相当の荷物はあるんじゃないのか? |
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密輸人 |
他人様からの荷物を預かっているって思うと、ちょっと緊張しちゃいますね。 | |
密輸人 |
・・・駄目だ。 こうも海が荒れてちゃ、わかりゃしねぇよ。 仕方ない。 今日は諦めて帰るか。 |
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密輸人 |
そうですね。 あっ!! 藤さん、藤さんッ!! あ、あれっ!! |
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密輸人 |
やべっ!! 水上警察じゃないかっ!! |
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ソコの怪しい船舶っ! 航行を停止するんだよぉ! |
水上警察 | |
密輸人 |
うわ・・・オワタ。 | |
ナレーター |
所轄税関の輸出許可を受けずに輸出しようとした行為は密輸にあたるため、2人は旧関税法118条1項違反未遂の有罪判決を受けることになりました。 | |
裁判所 |
関税法(当時)111条1項により、密輸を図った両名には、3年以下の懲役、又は30万円以下の罰金の刑罰が科されるです! また、同法118条1項から、『犯罪が行われることをあらかじめ知らない』第三者が所有している場合を除いて『犯罪に係る貨物、その犯罪行為の用に供した船舶若しくは航空機』の没収が定められているですから、これを付加刑とするです! |
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藤さん・・・密輸を依頼されていた積んでいた荷物も没収されることになりそうですよ・・・。 | 密輸人 |
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いやいや、ソレは不味いでしょ! そんなことになったら、あたし達が、没収された荷物の持主から損害賠償で訴えられる羽目になるじゃないの!! なんとかしないとっ!! |
密輸人 |
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うーん・・・そうだっ! 裁判長っ! 私達の罪については認めますが、積んでいた荷物は私達の物ではなく、第三者の財産です! ソレを、没収される第三者への事前の告知、弁解、防御の機会も与えずに一方的に奪うというのは、第三者の彼らに対する財産権(憲法29条)、法定の手続の保障(憲法31条)に反するものだと思います! |
密輸人 |
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おお、なんかよくワカラナイけど、そうだ、そうだっ! | 密輸人 |
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そこまでで、いいかな。 | ||
久し振りに、沢山台詞のある配役を頂けて楽しかったです。 藤さんと、2人でクルージングなんてロマンチックでしたね。 |
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密輸目的のクルージングが、ロマンチックといえるかは謎だけどね。 | ||
今、事案再現をしてワカッタと思うけれど、被告人となった両名は、自身に適用される法令・処分については争っていないわけよね。 ここで、被告人両名が争っているのは、自身への処分そのものではなく、第三者(=貨物の密輸依頼した依頼人)の憲法上の権利・利益(財産権の侵害、法定手続保障の侵害)ということになるわ。 かかる主張、すなわち、第三者の憲法上の権利を被告人らが主張することが認められるのか? というのが、本件の争点になるわ。 |
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成程、成程。 コレが、第三者の憲法上の権利の援用の@特定の第三者って場面なわけね。 |
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そういうこと。 それじゃ、争点を確認したところで判決文を見ていくわね。 『第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。 けだし、憲法29条1項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同31条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。 そして、このことは、右第三者に、事後においていかなる権利救済の方法が認められるかということとは、別個の問題である。 然るに、旧関税法83条1項は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没収する旨規定しながら、その所有者たる第三者に対し、告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを定めておらず、また刑訴法その他の法令においても、何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。 従つて、前記旧関税法83条1項によつて第三者の所有物を没収することは、憲法31条、29条に違反するものと断ぜざるをえない。 そして、かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは当然である。 のみならず、被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され,またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。』 と、しているわ。 |
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・・・あら、珍しい。 あたしらの主張が認められているんだ、コレ。 ぶっちゃけ、密輸しといてナニ言ってんだ、って怒られるのかとばっか思ってたお。 |
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なんか、毎回視点が違う気がするわね、サルは。 本件で、第三者の憲法上の権利を援用する違憲主張が認められたのは何故か、ってことを理解すべきじゃない? 先ずは、判決文で 『第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならない』 と述べている部分を見て欲しいわ。 本件は、刑事事件なんだけど、刑事事件においては対世的効力というものがあるわ。 |
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・・・クロちゃん。 あっちの死んだ魚の目をしているチビッ子にワカルように対世的効力とやらを説明したげて。 |
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あ、わかりました! 対世的効力という言葉については、民事訴訟法などで学びますが、判決の効力が、当事者だけではなく、第三者にも及ぶことをいいますね。対世効とも言います。 |
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ぐぬぬぬぬ。 また、私をつかって自分の疑問を解決したです・・・。 |
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素直に訊けばいいじゃないのよ、まったく。 つまり、この対世効が働くため、没収物の所有者である特定の第三者には、善意者であることを主張して、没収物の返還を求める有効な救済手段は、本件裁判の前後を問わず、存在しないということが問題になるわけよね。 |
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あ、ソレで、処分の事前に告知、弁解、防御の機会がないって被告人らも主張してたわけね。 | ||
そうね。 そのような機会を設けているのであれば、問題はなかったといえるんだけれど、旧関税法には、そのような手続について定めた規定はなかったし、刑事訴訟法や、その他の法令においても、そのような手続規定はなかったのよね。 だからこそ本判決は、違憲という結論になってるわけよね。 ただ、この違憲が「処分違憲」(=適用違憲)なのか、それとも、そもそも「法令違憲」なのか、という疑問はあるところよね。 第三者への適正な機会を手続として設けていないということをもって法令違憲ということも言えるとは思うわ。 まぁ、一般には、本判決は処分違憲(=適用違憲)の判決と位置づけられているわけだけど、 『本判決は、関税法118条1項に基づき、それを適用することによって行われた第三者所有物の没収という司法処分を違憲とするもので、いわゆる適用違憲の判決とみられるべきであるが、しかし、本判決は、実質的には、第三者の没収手続について憲法31条に適合する手続が法定されていることを要求しており、かかる手続規定の不存在(不備)という意味で法令違憲と捉える見解もある』 (新正幸『憲法訴訟論【第2版】』信山社 2010年 395頁) という指摘もあるところだから、捉え方次第ってことになるかもね。 |
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・・・。 (その前に、適用違憲と法令違憲を、まだやってねぇだろが!) |
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本件で、第三者の憲法上の権利を援用する違憲主張が認められたのは何故かってことについて、その理由としては、もう1点挙げられるわ。 ソレは、被告人自身も、第三者所有物没収という処分について、次の利害関係があったからよね。 『被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され,またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有する』 つまり、 @占有権を奪われ、没収された対象物について使用・収益ができなくなること A没収された対象物の所有者から、賠償請求権等を行使される危険に曝されること という2点の利害関係があったと認められているわ。 つまり、本件において、被告人は、没収物の所有者である第三者の権利侵害を訴えることにより、自己の権利・利益を守っているといえる、という関係にあったといえるわけよね。 |
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ホントだぁ。 | ||
ただ、惜しむらくは、本判決では、どのような場面において、第三者の憲法上の権利の援用が認められるのか、ということについては明らかになっていないのよね。 その点については、判例検討から戻ってから、別途まとめることにするわ。 適用違憲か、法令違憲かは置いておいても、そもそも違憲判決の判例自体が珍しいから、そういう意味でも、この判例は重要判例といえるわ。 しっかり抑えておいてね。 |
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こくこく(相づち)。 | ||
・・・。 (「抑えておいてね!」で抑えられるなら、抑え投手も苦労しねぇんだお! 今季の広島が、どんだけ逆転負けしたと思っとるんだお!! あぁあっぁぁぁぁぁあぁあっ! あのうち一つでも勝てていたならぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁあ!! ) |