司法権の意味 | ||
随分と久し振りになってしまいましたね、憲法の勉強会も。 | ||
ん? ん? なんの話? むぅぁ〜ったく意味がワカラナイ話は、やめとこうか。 |
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さて。 今日の勉強会からは、心機一転、日本国憲法第6章、司法について学ぶことにするわね。 |
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よっ! 相変わらずの面の皮の厚さっ! 何事もなかったかのように始めるところが、今日も超クールっ!! |
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えへへへへ。 憲法の勉強会なんだ、楽しみだね。 |
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・・・そして、さも当然かのように憲法の勉強会にまで顔を出している小動物が、ここにいるわけで。 | ||
まぁまぁ、いいじゃないの。 「この子、誰?」って方は、コッチを見ておいてくれれば、って話よね。 |
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メ、メ、メタは駄目ですぅ! |
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はーい、脱線は、そこまでで。 今日から学ぶ司法についての勉強会を始めるからね。 司法について学ぶ以上、勉強会では、憲法訴訟についても言及するつもりではいるけれど、憲法訴訟について細かく学ぶのは、人権のところにする予定だわ。 ただ、前提知識としての理解は必要になるから、しっかり抑えておいてね。 それじゃまずは、第6章司法の、一番最初にある条文を見ることから始めましょうか。 六法で、憲法76条1項を見てくれる? |
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日本国憲法第76条1項。 『第76条 【司法権・裁判所】 1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。』 |
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そうね。 この条文にいう『司法権』の『司法』の意味について説明するわ。 司法とは『具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用』と定義されるわ。 |
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清宮四郎先生の定義ですね。 (『憲法T 第3版』有斐閣 1979年) |
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あまりにも有名な定義で、多くの先生が、この定義を使ってみえるくらいだからね。 では、実際の判例では、この『司法権』を、どう捉えているのかってことよね。 この点について、見ておくべき判例として、警察予備隊訴訟があるわ。 (最大判昭和27年10月8日 百選U 193事件) |
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警察予備隊ってナニ? | ||
警察予備隊というのは、朝鮮戦争の際に、当時の日本政府が警察予備隊令に基づいて設置した自衛隊の前身ね。 | ||
へぇ〜、そうなんだ。 | ||
この警察予備隊の設置に対して、当時の日本社会党の党首が、その設置・維持に関する一切の行為の無効確認を求めて訴えを提起したのよね。 この訴えに対して、最高裁は全員一致で、次のような判断を示したの。 『わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。 我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。 けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異るところはないのである』 としているわ。 最高裁の違憲審査権が、どのような性格を有するものか、という論点で取り扱われる判例ではあるけれど、ここでは、その論点は置いておいて、あくまでも『司法権』の概念を、判例はどう捉えているのか、ということを知る上での紹介ってことだから、その視点で見てね。 |
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同様の趣旨の判例として、教育勅語事件の判決文も見ておくといいのではないでしょうか。 (最判昭和28年11月17日) この判例では 『わが国現行の裁判制度は、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができる趣旨であることは当裁判所大法廷のすでに判示するところである』 と、まず述べています。 この判決文にいう『当裁判所大法廷のすでに判示するところ』というのが、今、光ちゃんが紹介してくれた警察予備隊訴訟なわけですね。 |
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そうね。 ここで、裁判所法3条を見て欲しいわ。 ナカちゃん、御願いできる? |
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裁判所法3条。 『(裁判所の権限) 第3条 1項 裁判所は、日本国憲法 に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。 2項 前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。 3項 この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。』 |
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この裁判所法3条1項によれば『法律上の争訟』であれば、裁判所は一切の裁判をする権限を有すると、しているわけよね。 逆に言えば、裁判所は『法律上の争訟』でなければ扱えない、と言っていることになるわ。 そうなると、『法律上の争訟』ってナニ? ってことになるわけよね。 |
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その定義については、今、紹介した教育勅語事件の判決文の中で述べられていますよね。 『法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、且つそれが法律の適用によって終局的に解決し得べきものであることを要する』 と定義されていますね。 |
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この『法律上の争訟』の2要件は、絶対的に暗記が求められるところだから、しっかり抑えておいて欲しいわ。 憲法だけではなく、民事訴訟法においても有用だから、この機会に憶えるようにして欲しいわね。 『法律上の争訟』とは @当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり かつ A法律の適用によって終局的に解決し得べきもの って2要件ね。 |
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う〜ん。 なんかワカルような、ワカラナイような要件だね。 |
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じゃあ、実際の判例を見て、果たして、この原告の訴えが『法律上の争訟』(裁判所法3条)にあたるか否かを見てみるってことにしましょうか。 技術士国家試験事件を検討判例にするわね。 (最判昭和41年2月8日) ある国家試験(技術士鉱業部門本試験)を受験された方が原告なんだけれど。 この方は、同試験を不合格となってしまったの。 ただ、自身の合格を信じていた原告は、自分の解答は正しかった、よって、不合格判定は誤りであるとして、不合格判定を合格判定に改めるか、誤った判定を被った受験に要した費用(受験料・旅費等)の損害賠償を求めて科学技術庁を相手に訴えたという事件なのよね。 |
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おお、ソレは実に興味深い判例じゃないの! あたし達が、いずれ受験する新司法試験も国家試験っ! ってことは、この訴えが認められれば、不合格の際には、あたしは間違いなく受かっていた! って主張して、合格にしてもらえるか、最悪でも受験料等を返してもらえるって寸法なわけだね。 いいねぇ、いいねぇ。あたしは原告の人を、ぶち応援しちゃうよ! |
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あんたが新司落ちても、ある意味当然なんだから、ソレで訴えたら、ただのクレーマーじゃないのよ・・・。 | ||
むぅぅぅ。 でも、新司法試験の受験料28,000円もするらしいしなぁ。 しかも、受験料払っても、択一で足きりだと論文採点してもらえないし。 受験会場だって結構少ないせいで、ホテルとかに宿泊滞在して受験しなきゃいけなかったりで、諸々お金がかかるって聞いたよ? |
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藤さんなら、一発合格間違いなしですから大丈夫ですよ。 もし仮に、藤さんのような優秀な方が評価されない試験だとしたら、ソレは、そもそも試験自体に問題がある気がしますね。 その場合は、私も訴えられるべきだと強く思いますよ! |
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・・・まぁ、訴えるのは構わないけれど、この判決文は、つかさちゃんも知っているんじゃなくって? | ||
え? その振りは、まさかして? | ||
最高裁は、この事件において次のような判断を示しているわ。 『司法権の固有の内容として裁判所が審判しうる対象は、裁判所法3条にいう『法律上の争訟』に限られ、いわゆる法律上の争訟とは『法令を適用することによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいう』ものと解される。 従って、法令の適用によって解決するに適さない単なる政治的または経済的問題や技術上または学術上に関する争は、裁判所の裁判を受けうべき事柄ではないのである。 国家試験における合格、不合格の判定も学問または技術上の知識、能力、意見等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、その試験実施機関の最終判断に委せられるべきものであって、その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して、その争を解決調整できるものとはいえない。 この点についての原判決の判断は正当であって、上告人は裁判所の審査できない事項について救済を求めるものにほかならない。 従って、この点に目を蔽つて、一途に上告人の答案が正解であり、不合格判定を維持することが放任されるのでは憲法の趣旨に反するものと主張する所論は、正鵠を失するものであって、採用することができない』 とね。 |
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えぇーーーっ!! ナニ、そのオチはぁっ!! なんのための裁判所サマだよぉ!! |
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違うわよ。 あくまでも、裁判所は『法律上の争訟』でなければ扱えない、としているわけなんだから『法律上の争訟』であるか否かが重要ってことをワカって欲しかったのよ! さっき示した『法律上の争訟』の2要件は、そういう意味でも重要よね。 しっかり憶えておいてね! |
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そっか・・・。 国家試験の合否判定は、司法審査の対象外ってことになるわけか・・・。 むむむ・・・審査して欲しかった気もするけどなぁ。 うーん、でも裁判所の裁判官が、合否判定するっていうのも、なんか違う気がするしなぁ。ふむふむ。 |
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そうですね・・・確かに、合否判定は、司法審査の対象外とされます。 ただ、下級審判決ではありますが、実際に、司法試験の不合格判定の取消を求めて争われた裁判があるんですよね。 その判決文では 司法試験における合否判定は 『学識・応用能力の有無の判断を内容とする行為であって、その性質上』 『裁判所が具体的に法令を適用してその判断の当否を審査しこれに関する紛争を解決するのに親しまない事項である』 としていますが、その合否判定にあたり 『原告主張のように年齢、性別、社会的身分、出身大学、出身地、受験回数等によって差別が行われたとするならば、それは司法試験第2次試験の目的である』 『学識・応用能力の有無とは直接関係のない事柄によって合否の判定が左右されたということになり(いわゆる他事考慮)、そのような他事考慮がなされたかどうか、なされたとして他事考慮が許されるものであるかどうかの問題は、試験実施機関の最終判断に委ねる必要のない、裁判所による審査に親しむ事項である』 (東京地判昭和49年9月26日) としていますから、合否の判断の過程に、行政の他事考慮や、事実誤認があったという争い方をすれば、司法審査が及ぶことになる、と言えますよね。 |
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そういった事実があれば・・・っていう話だけれどね。 サルの場合は、今の勉強じゃ落ちて当然だって言うのに、そんな主張したら、もう難癖なんてレベルじゃないじゃないのよ! えーっと、ここで再度、裁判所法3条を見て欲しいんだけれど。 お願いできるかしら、ナカちゃん。 |
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裁判所法3条。 『(裁判所の権限) 第3条 1項 裁判所は、日本国憲法 に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。 2項 前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。 3項 この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。』 |
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裁判所法3条1項にいう『その他法律において特に定める権限を有する』とする一文は重要な意味を有しているわ。 今、見てきたように『法律上の争訟』にあたらなければ、そもそも司法審査の対象とはならないわけよね。 ただし、『その他法律において特に定める権限』によって、本来は『法律上の争訟』にはあたらない訴訟であっても、立法政策上、裁判所の権限によって例外的に、客観訴訟は認めていると解されているわ(通説的理解)。 |
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客観訴訟? なんか随分以前に、その言葉だけは聞いたような気がするんだけど・・・。 ソレ、なんだったっけ? |
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そうね、客観訴訟については、随分以前の行政法の勉強会の判例検討において少し紹介したくらいだから、そういう認識でも仕方ないと思うわ。 憶えているかしら。 浦安ヨット係留施設撤去事件なんだけど、あの訴訟は客観訴訟だったわよね。 法律用語辞典によれば、 客観訴訟とは『個別の法的主体に属する権利義務関係を目的とする通常の訴訟と異なり、法規の適用の適正を保障し、一般公共の利益を保護するために特別に認められる訴訟』をいうわ。 この定義からもワカルように、一般的な訴訟は、殆どは『個別の法的主体に属する権利義務関係を目的とする通常訴訟』である主観訴訟になるわ。 そして、客観訴訟とは『一般公共の利益』保護の観点から『特別に認められる訴訟』という位置づけの訴訟になるわけ。 |
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行政法の検討判例だった浦安ヨット係留施設撤去事件が客観訴訟だったっていうのはワカッたんだけど、他にも客観訴訟は、あるわけ? | ||
客観訴訟には、民衆訴訟や機関訴訟があるよね。 | ||
そうね。 民衆訴訟については、行政事件訴訟法5条をみてくれる? |
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行政事件訴訟法第5条。 『(民衆訴訟) 第5条 この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。』 |
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ありがとうね。 この民衆訴訟の例としては、選挙訴訟(公職選挙法203条、204条)、当選訴訟(公職選挙法207条、208条)、住民訴訟(地方自治法242条の2)等が挙げられるわね。 憲法の勉強会で、これまでに学んだ判例だと、一票の格差問題についての争った訴訟や、日本新党繰上当選事件(最判平成7年5月25日 百選U 160事件)なんかは、まさに、この民衆訴訟(=選挙訴訟・当選訴訟)ね。 行政法の勉強会で検討した判例である浦安ヨット係留施設撤去事件も、この民衆訴訟(=住民訴訟)にあたるわ。 |
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成る程、成る程。 『自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起』する訴訟だもんね。 確かに、一票の格差があろうが、誰が当選しようが、あたし個人は困らないもんね。 |
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そういう納得の仕方は、どうかと思うけれど、まぁそういうことよね。 機関訴訟についても、ここで見ておきましょうか。 行政事件訴訟法6条を見てくれる? |
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行政事件訴訟法第6条。 『(機関訴訟) 第6条 この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。』 |
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この機関訴訟の例としては、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与に関する訴訟(地方自治法251条の5、252条)、地方公共団体の議会の議決又は選挙に関する訴訟(地方自治法176条7項)等があるわね。 | ||
成程ねぇ。 今までやった判例が、どういう訴訟類型なのかってことが、ようやくココにきてワカッタわけかぁ。 |
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チイも、ヨットの事件一緒に勉強したかったよ! オネーちゃんだけやっているなんてズルいよ! |
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まったくあたし自身が喜べないところで、ズルいなんて非難されるのは、はなはだ遺憾なんだけどね! | ||
ズルぅーいっ! ズルぅぅぅぅいっ!! オネーちゃん、ズルぅぅぅぅぅっいっ!! |
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・・・。 (いつも散々ズルしている藤先輩のすることを、なんだかんだで許しているチイちゃんには珍しい反応です・・・。 チイちゃんは、ホントに勉強が大好きなんですね・・・。 ・・・その気持ちを藤先輩に、少しでいいから分けて上げて欲しいです。) |